概要
1931年5月10日生まれ、大阪府池田市出身。京都大学文学部仏文科卒の元電通マンでもある。
所属事務所は、劇団三期会→東京俳優生活協同組合→同人舎プロダクション→東京アーチストプロを経て、死去するまでは青二プロダクションに所属していた。
数々の作品に出演していた日本声優界の重鎮の1人であった。
キャリア初期から、しゃがれた声質のため、中高年の男性を演じる機会が多く、アニメのみならず映画の吹き替え・特撮作品など幅広い分野で活躍しており、生前は声優と言う職業の地位向上の為の啓蒙活動も積極的に行っていた。手塚治虫とは小学校の先輩後輩の関係である。
口髭をたくわえており、レポーターとして取材に向かったよゐこの濱口優から『町田先生にそっくり』と言われたこともあった。
多くのベテラン声優と同様「声優の前に俳優」という持論を持っており、アニメ専門の声優、所謂アイドル声優に対して「舞台で演技を磨け」と苦言を呈したこともある。一方で声の芝居という仕事自体には誇りを持っている。かの有名な東野英治郎を始めとした名優がアテレコ業についての危険性を説いた際、後々になってそれらを引用したうえで反論を展開した話は有名。
なお、東野が「アテレコ業は自分の尺で芝居ができない、外道の所業(仕事)」と称したという逸話が残っているが、実際はこの意見を曲解したデタラメである。
後輩達からも尊敬されており、ある番組で尊敬する声優をアンケートした際、永井に寄せられたコメントの中には「声を変えずにキャラクターを変える演技力」と評されていた。実際、永井が変声で役作りをすることは極稀であった。
交友関係・後進育成
重鎮なだけに若手から中堅まで交友関係が幅広い。井上和彦とは家族ぐるみで付き合いがあり、井上の息子から父の女性関係のだらしなさについて相談される程だった。青二の分裂騒動の際、井上が離脱側に付いた際は長年口を利かなかったが、生前の時点で和解している。
三ツ矢雄二に声優としての道を開かせたエピソードも有名。が、よく覚えていたのは三ツ矢だけで、永井自身は泥酔していたことから覚えていなかった。このことをテレビ番組のインタビューで聞かれると「え?全然覚えてないですね。そんなことがあったんですか、へぇ……」と他人事のように話していた。
このように酒を好んでいたが、元々は下戸であったため、飲むとすぐベロベロになっていた。あらゆる病に侵されてからは医者から酒を控えるよう注意を受けるが、なぜか芋焼酎だけは持病の検査に引っかからなかったため、終生愛したという。
突然の死去
2014年1月27日、滞在中の広島県広島市で死去。82歳没。所属事務所より、死因は虚血性心疾患と発表された。
永井は死去の前日より、知的エンターテインメント番組『世界が知りたいニッポンの技〜美と食の匠たち…ひろしま篇』(TBS系列で同年2月2日 14時30分〜15時54分放送)のナレーションを製作局の中国放送で収録するため、広島市を訪問している最中であった。
収録の作業が一通り終わり、スタッフと食事をした後、ホテルに戻って風呂場で心臓発作を発症。収録翌日(死去当日)の正午にはホテルのチェックアウトを済ませる予定だったが、なかなかフロントにやって来ないのを不審に思ったホテルマンたちにより、宿泊していた部屋の浴槽で意識を失っているところを発見、搬送先の病院で間もなく死亡が確認された。発見時は熱いシャワーを浴びたまま湯船に浸っていたため損傷が激しかったという。皮肉にも、そのナレーション業が生前最後の仕事となってしまったが、生涯現役を貫き通した(※)。
なお、同番組のエンディングにて「永井一郎さんは、この番組を収録した翌日、1月27日(月)に亡くなられました。永井さんのご冥福をお祈りいたします」と追悼テロップが流れた。
通夜・葬儀の喪主は永井の妻が務め、会場には生前の共演者や出演作のスタッフが数多く参列、告別式の会場には沢山の関係者・ファンにより献花がなされ、世田谷区にある波平の銅像にも、数え切れないほどの花束が添えられるほどであった。出棺の際には、実弟からの呼びかけで「バッカモーン!」という波平が怒ったときの口癖で送り出された。
ちなみに、永井が磯野波平を演じていた『サザエさん』は同年1月23日のアテレコ収録が最後となり、2月9日放送分までの収録ストックがあった。
フジテレビは永井の後任について「未定」としてきたが、永井の収録分の放送が終わった2月10日に、後任が茶風林に決定したことを発表した(2014年2月16日放送分以降)。
『HUNTER×HUNTER』に関しても、永井が演じていたアイザック=ネテロは、収録ストックがあった116話まで永井が演じ、122話以降は後任として銀河万丈が担当した。
また第3次スーパーロボット大戦Zでは、中断メッセージで神勝平がナレーションのように語った後に「爺ちゃん、俺立派になっただろう?」と語るものがあった。
「名探偵コナン」では鈴木次郎吉役を担当していたが永井が死去する10日前に同作品で松本清長を担当していた加藤精三も死去しており、同年2月8日の放送では「名探偵コナンで警視庁・松本管理官役の加藤精三さん、園子の叔父・鈴木次郎吉役の永井一郎さんが1月にお亡くなりになりました。心からご冥福をお祈り申し上げます。」という追悼テロップが流れた。同作品のHPにも期間限定でこのメッセージが掲載されていた。
因みに「クレヨンしんちゃん」で演じていたマスターヨダは永井の死去後一切登場しなくなってしまった。
「クレヨンしんちゃん」では永井の死去同日に同作品で大原四十郎を担当していた塚田正昭が、「宇宙戦艦ヤマト」シリーズでは佐渡酒造と徳川彦左衛門の二役を担当していたが永井の死後6ヶ月後の7月30日に同作品で島大介を担当していた仲村秀生が亡くなるなど、声優界の訃報が相次いだ。
※参考資料
波平役・永井一郎、「サザエさん」毎週収録を不満に思っていた 妻語る(全文) _ デイリー新潮(参照元・『週刊新潮』2016年12月22日号「特集「デスパレートな妻たち Season5」」)
主な出演作
アニメ
磯野波平《初代》@サザエさん*1 | 磯野海平《初代》@サザエさん*1 | 張々湖/006@サイボーグ009(1968年版) |
ミト爺@風の谷のナウシカ | ダイス船長@未来少年コナン | 長靴を履いた猫@グリム名作劇場 |
津川秀治@名探偵コナン | 鈴木次郎吉《初代》@名探偵コナン*2 | マスターヨダ@クレヨンしんちゃん |
陣内万助(口ヒゲの男性)@サマーウォーズ | 錯乱坊@うる星やつら | 八宝斎@らんま1/2 |
小鉄@じゃりン子チエ | モウロ将軍@天空の城ラピュタ | ジョドー@ルパン三世カリオストロの城 |
猪熊滋悟郎@YAWARA! | カリン様@ドラゴンボール*3 | 鶴仙人@ドラゴンボール |
ガキオヤジ@ろぼっ子ビートン | 児泣き爺@ゲゲゲの鬼太郎(第3期) | シャーマンカーン@ビックリマン |
猫田銀八《初代》@はじめの一歩*4 | 霞の目博士@バオー来訪者(OVA) | ギガゾンビ@ドラえもんのび太の日本誕生 |
デギン・ソド・ザビ@機動戦士ガンダム(テレビ版) | マッシュ@機動戦士ガンダム(テレビ版) | アカハナ@機動戦士ガンダム(テレビ版) |
コンスコン@機動戦士ガンダム(テレビ版) | ドレン@機動戦士ガンダム(テレビ版・劇場版Ⅰ) | サイアム・ビスト@機動戦士ガンダムUC |
神北兵左衛門@無敵超人ザンボット3 | イーサン・ライヤー@機動戦士ガンダム第08MS小隊 | ハムエッグ@鉄腕アトム(1980年版) |
佐渡酒造@宇宙戦艦ヤマト | 徳川彦左衛門@宇宙戦艦ヤマト | ネテロ《初代》@HUNTER×HUNTER(日テレ版)*5 |
天野博士@太陽の勇者ファイバード | 人面瘡※@吸血鬼ハンターD | 町田先生@ど根性ガエル |
悪霊将軍ハーディアス@グレートマジンガー | ナンバ博士@ポケットモンスター | |
※左手の顔
イラストが無いもの
磯野藻屑源素太皆《初代》*1@サザエさん
柿小路梅麻呂@無敵ロボトライダーG7
ハーゴン@ドラゴンクエスト勇者アベル伝説
×五郎@もーれつア太郎※第1作
陳老師@闘将!!拉麺男
フィル@ヘラクレス
ゲーム
シド・ポレンディーナ@ファイナルファンタジー4(DS版) | おこりんぼ(7人の小人)@白雪姫(キングダムハーツ) |
イラストが無いもの
- カントクくん(パワーショベルに乗ろう!!)
- ジイジ/ゼンライ(テイルズオブゼスティリア)※平成27年に発売されたゲーム。ライブラリー出演を除く、ナレーション以外の出演作では、この作品が最後となった。*6
吹き替え・海外アニメ
アルバス・ダンブルドア@ハリー・ポッター | ヨーダ@スターウォーズ(新3部作)*7 | スリンキー・ドック@トイ・ストーリー*10 |
ヨセミテ・サム@ルーニー・テューンズ | フォジー@マペッツ*8 | ノルバーグ(左の人物)@ウルトラマンG |
特撮
おまじない博士@美少女仮面ポワトリン
ナレーション
- 無敵超人ザンボット3
- 機動戦士ガンダム
- 無敵ロボトライダーG7
- はいからさんが通る
- 闘将!!拉麺男
- 仮面ライダーG
- イクシオンサーガDT
- 情報7days ニュースキャスター ※没後は、生前のアーカイブを使用したコーナータイトルコールが2014年3月まで使用されていた。
- 悪夢ちゃん*9
…他多数。
その他
- 不思議屋シリーズ(FMラジオ「青春アドベンチャー」)
*1 3役とも後任は茶風林。
*2 後任は富田耕生(第746話以降)。富田も永井の6年半後に死去。その後の後任は佐藤正治。
*3 後任は魚建(没後に放送された新シリーズ『ドラゴンボール超』以降より担当)。
*4 後任は山寺宏一(『はじめの一歩 Rising』第22話以降)。
*5 後任は銀河万丈(第122話以降)。
*6 没後に放映されたSPテレビアニメ作品『テイルズ オブ ゼスティリア 〜導師の夜明け〜』、アニメ『テイルズオブゼスティリアザクロス』では緒方賢一が担当。
*7 没後に放映されたテレビアニメシリーズ『スター・ウォーズ 反乱者たち』での吹き替えは、多田野曜平が担当。
*9 没後に制作された劇場版の宣伝番組では松本大督が担当。