ラピート
らぴーと
ラピート(rapi:t)とは、南海電気鉄道の有料特急列車の一つである。南海本線系統で運行されており、全列車が難波~関西空港間を結ぶ。
天下茶屋~泉佐野間はノンストップとなる「ラピートα」と、堺・岸和田に停まる「ラピートβ」がある。全席指定席で、乗車には乗車券のほかに特急券が必要。指定された座席の番号は特急券に書いてある。「ラピート」の停車駅には、ホーム内に特急券券売機が置かれている。特急料金は原則的に一律500円だが、泉佐野~関西空港間に限り、レギュラーシートのみ100円で購入ができる。5・6号車は「スーパーシート」となっており、通常よりも料金が高い。
列車名はドイツ語で「速い」の意味。
なんば-新今宮-天下茶屋-(堺)-(岸和田)-泉佐野-りんくうタウン-関西空港
※「ラピート」自体は昼間を除き30分間隔で運行している。括弧内の駅は「ラピートβ」のみ停車。「ラピートα」は関西空港行きが平日朝に、難波行きが平日および土・休日の夜に運行。
関空の開港とラピートの誕生
特急「ラピート」は1994年(平成6年)9月4日、関西国際空港(関空)の開港と同時に誕生した。南海空港線のりんくうタウン~関西空港間はJR西日本の関西空港線と線路を共有し合っており、両方とも鉄道会社の違いなどで使うホームが異なる。JRと私鉄が同一の経路を使う路線は、空港アクセスでは、成田国際空港(JR東日本と京成電鉄)があるが、成田では乗り入れてくる路線の線路のゲージが異なる(JRは狭軌の1,067mm、京成は標準軌の1,435mm)ため、旧・成田新幹線の下りをJR、上りを京成が使うという特殊な使用方法が用いられたが、JR西日本と南海はゲージが同じ狭軌であるため、複線で連絡橋を建設することになった。
最大のライバル
京成「スカイライナー」のライバルにJR東日本の「成田エクスプレス」があるように、「ラピート」にもライバルがいた。JR西日本の関空アクセス特急「はるか」である。
「はるか」は30往復という高頻度に加えて、新大阪駅・京都駅などの新幹線との乗り換え駅へ乗り換えなしで行ける便利さを兼ね備えていた。そんな「はるか」に負けじとスピードで挑む姿勢を示し、なんば~関西空港間をノンストップ・最速29分で結ぶ「ラピートα」と、同じく最速34分で結び途中4駅に停まる「ラピートβ」の二つを設定することで対抗した。
運行開始当初、「ラピート」は「はるか」に対し話題性・快適性ともに勝り、利用状況も好調だったが、ブームの終焉に伴い「はるか」やリムジンバスに押されるようになった。リムジンバスは並行する都市高速道路として阪神高速4号湾岸線(大阪湾岸道路)が開港時から整備されたことにより遅延が少なかったことと、難波や心斎橋・本町などの大阪市中心部や南海本線沿線以外の地域(特に梅田など大阪キタ地域)とのアクセスも良好であり、「ラピート」は所要時間や運賃面、アクセス性でリムジンバスに対する優位性が発揮できなかった。ちなみにリムジンバスの中心的存在である関西空港交通は南海の完全子会社であり、いわば身内同士で利用者を奪い合っている…ってこの話どこかで聞いたような…
ノンストップの弱点
ノンストップは確かに速い。近鉄の名阪ノンストップ特急(当時)は近鉄名古屋~大阪難波間を最速2時間5分で結ぶ(現在は名阪特急も全ての列車が津駅に停車している)。しかし、ノンストップが本領を発揮するのは長距離であって、「ラピート」のような短距離の特急では逆効果であった。21世紀に入り、「ラピート」は深刻な乗客減に悩まされていた。かつての「スカイライナー」のように。最速達の「ラピートα」は難波を出ると終点の関西空港以外、どの駅でも乗り降りができない。そのため、「ラピート」の乗客がだんだんと減っていったのであった。
南海の決断
南海は、遂に「ラピート」の停車駅を増やすことを決め、「ラピートα」で行われていた完全なノンストップ運転に別れを告げた。最初に「ラピートβ」のなんば~泉佐野間の停車駅(当時)を「サザン」と同一にした。当時のβの停車駅は
なんば-新今宮-堺-岸和田-泉佐野-関西空港
である。その後、南海電鉄のすべての特急列車が天下茶屋に停まるように設定し、2005年のダイヤ改正で「全列車りんくうタウンに停車、「『ラピートα』を新今宮・天下茶屋・泉佐野に停車させる」という一発逆転の作戦を出した。その甲斐があってか、「ラピート」の乗客は若干であるが回復した。そして空港線の間に限り、100円でレギュラーシートに乗れるというトンデモ作戦を施行。しかし空港線内は全駅停車するため100円高くつk…うわおいなにをするやm
増える「ラピートβ」と姿を消してゆく「ラピートα」
需要が安定してくる中で、「ラピート」はまた変化を起こし始めていた。速達形の「ラピートα」の本数が減り始め、代わりに「ラピートβ」が増えたのだ。現在のなんば-関西空港間の所要時間は最速で「ラピートα」が34分、「ラピートβ」が37分と、設定当初よりもそれぞれ3-5分後退している。このためか、同区間を47分で結び、特急料金(座席指定料金)510円が不要となる空港急行にも客を奪われるという、皮肉な結果も生まれている。
LCCと爆買いブームの追い風・ダイヤ改正と復活の「ラピートα」
そんなこんなで低迷を続けていたとき、関空ではLCCが続々と参入。加えて来日旅行客による「爆買い」ブームが起きる。空港連絡鉄道である南海は日中の空港急行は中々の乗車率を記録。「ラピート」も登場時までいかないものの、レギュラーシートは満席近くになることが常態化した。
2014年秋に行われた南海線・空港線でのダイヤ改正では、空港アクセスに特化させるため上り「ラピートα」の復活が決まる。夜20時以降の「ラピートβ」を置き換えたものだが、これは空港利用者へのなんばアクセスを見込んでのもの。ともかく約9年ぶりに上り「ラピートα」が復活したことになる。また、2017年1月のダイヤ改正では夜間に1往復を増発。「ラピート」の最終便が難波21時30分発から22時発になった。
…一方、スーパーシートは相変わらずの空席状態であった。だがこちらは、2016年8月より開始された、特急チケットレスサービス(ネット特急券)か特急定期券の利用者を対象に、レギュラーシート価格で利用できるサービスにより、着席率が向上している。
そのような努力に加え、来日客も絶えないため、現在は曜日や便によってはスーパーシート含め満席になることが起こっている。
COVID-19による影響
元号が令和に変わっても好調続きだったが、空港と都心および各地を結ぶ空港連絡列車はその全てがCOVID-19の影響により利用者減少の煽りをおもむろに受けてしまった。
2020年4月、南海は同24日より「ラピート」の昼間時間帯の定期列車運休を決定。2021年5月のダイヤ改正では昼間時間帯の定期列車を毎時2本から毎時1本へ削減した(全面再開は2022年5月から)。
今後
「ラピート」の弱点であるネットワークの狭さを解消するため、計画中のなにわ筋線への乗り入れが構想されている。しかし、現在使用中の50000系は地下線区間への乗り入れが不可能であるため、なにわ筋線に対応した新たな車両を計画中である。
専用車両として50000系が用いられている。6両固定編成が6本在籍する。
在来線タイプの特急形車両にしては珍しく、新幹線車両のように窓が座席一列分のサイズとなり、分離している。形状は楕円形。50000系はデザイン面で非常に注力がなされている車両で、コンセプトは「レトロフューチャー」。先頭部は鉄人28号のようなロボット型で、目に当たる部分に窓がある。塗装は濃紺一色だが、光沢を持たせたメタリック塗装としている。1994年デビューの翌年には鉄道友の会からブルーリボン賞を獲得した。
- デザイン重視のためか、車体は鋼製。扉は外側式プラグドアを採用。座席は(JR在来線特急の)普通車に相当する「レギュラーシート」と、グリーン車に相当する「スーパーシート」が用意されている。前者は2+2、後者は2+1の座席配置となっており、スーパーシートのほうがレギュラーシートよりも座席が広い。
- 制御方式は南海の特急車で初のVVVF制御で、先に登場した1000系がベースのため制御装置から出る音が1000系とほぼ同じとなっていたが、デビューから20年経過したため2014年から2018年にかけてリニューアル工事が行われた(制御装置をGTO素子からIGBT素子へ変更したほか、車外・車内ディスプレイも新品へ取り替え)。
- 運行開始から4編成運用・1編成車両交換用の予備・1編成定期検査という運用体制。予備車に比較的余裕があるため、たまに南海本線和歌山市方面・南海高野線橋本方面へのイベント列車(団体列車)に使われる時もある。
- 昼間時間帯の毎時2本→1本化後は4編成運用のみで事足りるように。2022年5月下旬、「こうや」「りんかん」用の30000系30001編成が車庫の構内で脱線事故を起こし長期離脱。車両不足解消のため、50000系が2022年11月から2023年9月30日までの間「泉北ライナー」用に貸し出される事もあった。第3編成を専用編成として充当し、側面に泉北ライナーのステッカーが貼られていた。同列車への充当は完全に想定外の為、種別及び行先は「特急」で固定、更に車内の案内装置は何故か「特急和歌山市行き」と表示されるバグも発生(後に「Lapit」表示で固定へ修正)していた。俗称で「泉北ラピート」と呼ばれる事も多い。
2014年、運行開始20周年および『機動戦士ガンダムUC episode7「虹の彼方に」』の公開を記念して、ガンダムUCとのコラボ企画を実施。車体全体を真紅に彩りネオ・ジオン公用車両となった。先頭車の形状も相まってどう見てもシャア専用です本当にありがとうございました…でも作品的にこっちな気がしなくもないけど。
「ラピート」初の全面的な外装変更でもあった。また外装のみならず、内装も一部手を加えており、特に5号車はフル・フロンタル、アンジェロ・ザウパー、ミネバ・ラオ・ザビ3名の専用席が設けられていた。当然記念撮影専用で、(前後1列の席を含め)これらの席の特急券販売はされていなかった。ちなみに近くにはアナハイム・エレクトロニクスのロゴも存在していた。
アニメファン、鉄道ファン双方の大きな注目を集め、これに味を占めたか(?)、以降はほぼ毎年1編成が特別仕様になっている。
- 機動戦士ガンダムUC:別名“赤いラピート”、または“赤ラピート”。2014年4月~6月。第2編成。
- ピーチアビエーション:ピーチアビエーションの航空機カラーの「ラピート」。前面は白で、別名“白ラピート”。2014年9月~2015年8月。第5編成。
- スター・ウォーズエピソード7 フォースの覚醒:EP7の主要キャラも車体側面や車内に描かれているが、メインカラーはシスの暗黒卿を意識したのか真っ黒け。別名“黒ラピート”。TVCMのテーマソングも“例のテーマ”と、完全に暗黒面に墜ちている。なお、6号車のカウンターにはR2-D2の模型が設置されていた。2015年2015年11月~2016年5月。第5編成。
- キン肉マン:以前の例とは異なり「ラッピング広告」にとどまっている。関西空港の地元・泉佐野市のゆるキャラ「イヌナキン」がゆでたまご先生デザインであるという縁があり、泉佐野市の市制70周年とキン肉マン(シリーズ)連載40周年を記念して装飾が行われた。2019年3月~2020年3月。第6編成。
- すみっコぐらし:「ラッピング広告」にとどまっている。大きなめでたいお魚をさがしに、海へいくすみっコたちのストーリーを表現した列車になっており、車両側面の左から右に向かって、大きなめでたいお魚を探すストーリーになっている。 2021年8月~2021年12月。第5編成。
- SEVENTEEN:「ラッピング広告」にとどまっている。韓国のアイドルグループ「SEVENTEEN」のワールドツアーに関するコラボ企画で、側面がオレンジ一色に染まった。2022年10月〜2023年3月。第5編成。
- モントルー・オーベルラン・ベルノワ鉄道:「ラッピング広告」にとどまっている。南海高野線が姉妹鉄道協定を締結しているスイスのモントルー・オーベルラン・ベルノワ鉄道とのコラボ企画で、側面がモントルー・オーベルラン・ベルノワ鉄道の展望列車であるゴールデンパス・エクスプレスのデザインとなっている。2024年3月〜。第4編成。
- 2025年大阪・関西万博:「ラッピング広告」にとどまっている。大阪・関西万博デザインシステム「Umi」のラッピングを社会全体に施しており、車体前面も従来の編成よりも明るい青色にラッピングされている。車体前面・側面の各所にはミャクミャクがデザインされている。2024年4月〜。第1編成。
難波駅では、「ラピート」は一番海寄りの線路に入線する。その線路を、8番乗り場と9番乗り場が挟んでいる。
乗る時
9番のりば(8番のりば降車ホーム)が「ラピート」専用のりばとなっており、そこから乗車する。入口には有人改札があり、かつてはそこにいる駅係員に特急券を見せなければならなかった。現在は見るだけなら入ることができる。その有人改札にいる駅係員は、日本語と英語を両方ともペラペラ話せるバイリンガルである。
9番のりばには難波駅で唯一待合室がある。これは、「ラピート」が30分ヘッドのため。難波駅は、南海線、高野線はともに1~7番のりばにおいて常に何らかの列車がどこかの乗り場に停まっているが、8・9番のりばは「ラピート」と普通車(一部時間帯)、そして一部の住ノ江行きの回送列車が来ない限り電車は入線しない。「ラピート」が来てもすぐには乗車できない。ホームに入線してきて、着いたらまずは9番のりば側の扉が開き、乗客を全員下ろしてから車内清掃を始める。しばらくの車内清掃が終わればいよいよ乗車可能となる。
南海の特急券は、購入した駅を起点として、区間を決めて購入することができる。難波~泉佐野間なら、「サザン」の指定席車よりも、「ラピートβ」に乗るほうが断然よいだろう。りんくうタウン・泉佐野・岸和田・堺で南海線に乗る人なら、通勤ライナーとして使うこともできる。
また、特急チケットレスサービス(ネット特急券)と特急定期券を利用していれば、前述の通りスーパーシートを安く利用できるため、喧噪なレギュラーシート車内を避けることもできる。