聖地巡礼やご当地化に厳しい作品一覧
せいちじゅんれいやごとうちかにきびしいさくひんいちらん
テレビドラマやアニメ、漫画、ゲームなどにおいて舞台地を訪れる聖地巡礼やご当地化が各地で盛んに行なわれているが、一方で聖地巡礼やご当地化が厳しい状況になってしまっている作品や地域も発生している。
タイトル的に「権利やマナーの問題で聖地巡礼やご当地化を行なうことが厳しくなっている作品」「受け入れ側の対応に問題があって厳しい評価を受けている作品」の2つの意味合いがあるため、大見出しで分けたうえで取り上げるものとする。
ここでは
といった権利やマナーの問題で厳しくなった例をここで取り上げる。
※()内の数字は上記の該当理由を表します。
作品(権利者)サイドが厳しい例
- 苺ましまろ(2)
- 銀の匙(3)
- ぼっち・ざ・ろっく!(2)
- 舞台は東京都世田谷区下北沢で、これまでにも小説『魔法遣いに大切なこと』や漫画『ホーリーランド』などの舞台となってきた、サブカルチャーの街として知られる。しかし同作が2022年冬アニメとして放送されて以降、「公道を塞いで騒ぐ」や「無断撮影をする」などの迷惑行為があったとして、ライブハウスや近隣住民などから苦情が出てしまう。
- 2023年1月、2月と注意喚起がなされたが、共に効果は乏しかったようで、5月に入ってついに「個人・団体問わず週末・連休でのご来場および撮影は避けていただきまうようよろしくお願いします。」と休日限定ながら事実上の巡礼禁止が言い渡されてしまった(参照)。
- もっとも、複数作品の聖地になっている関係で「他作品の巡礼」という名目であれば休日でも訪れてしまえるため、有名無実化していると言われる。同作は他に神奈川県の金沢八景(横浜市)や江の島(藤沢市)なども舞台としており、それらも自粛の対象であるが同じような状況である。
- このことが影響しているとは明言されていないが、当該地域でのイベント等は行われておらず、何かを催す際は舞台とは別の場所が指定されている。
- ヨスガノソラ(3)
- スタジオジブリ作品全般(1)
- 『となりのトトロ』(埼玉県所沢市)や『おもひでぽろぽろ』(山形県山形市)など特定の地域を舞台にしている作品も多いが、ジブリはそれらに関連付けたイベント等を一切行っていない。理由として映像等の原盤権管理が確りしており、作品ごとのスポンサー以外とはコラボレーションを行なわない方針であるからという(ファン等による同人作品は至る場所で行われているが)。
- ただし全く余地が無いわけでもなく、『耳をすませば』の舞台である東京都多摩市をご当地化しようと有志がジブリに問い合わせたところ、「そのまま使うのは許可できないが、○○風という表現にすれば黙認する」とのフォローがあったそうで、現地では「耳すまクッキー」など「耳をすませば風の何かの作品」などの提供がある。
- 『崖の上のポニョ』の広島県福山市(鞆の浦)も放映以来折に触れて聖地アピールをしてきているが、止められる様子は無い。もっとも大手メディアに取り上げられる際は「モデルになったとされる」などとぼかしたアナウンスが入れられることが多く、微妙な距離感が感じられる。
- なお、ジブリは東京都三鷹市に「三鷹の森ジブリ美術館」、愛知県長久手市に「ジブリパーク」を保有しており、公式にはこれらへの来場を案内している。
ご当地サイドが厳しい例
- 神奈川県鎌倉市(2)
- 古都として知られ、創作物でも『スラムダンク』や『スクールランブル』など様々な作品が舞台としてきた、日本を代表する観光地。特に江ノ島電鉄の鎌倉高校前駅付近の一帯はメッカと言えるレベルである。
- それだけに飽和した観光客で住民の生活が圧迫されるオーバーツーリズム問題に悩まされており、自治体として大々的にPRしたり、巡礼者を積極的に呼ぶ行為ができない。もちろんマナー問題もあり、以下の動画のように全国ニュースでも度々取り上げられるほどである。よって公的なイベントは一切開催されていない。
- これを象徴する例として『TARITARI』の舞台は鎌倉市と藤沢市にかかっているが、「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」に登録されているのは藤沢市だけとなっている。
- ただし、ふるさと納税の返礼品として『かくしごと』の書き下ろしグッズを用意したり、『鎌倉ものがたり』の看板設置のためクラウドファンディングを主催するなど、関係が悪いというわけではない。
ここでは
- 受け入れ側の認知不足などで見境がない対応をした。
- 作品内容が地域にそぐわない、または制作サイドが受け入れ側に配慮しすぎた。
- 受け入れ側がやる気をなくしてしまったため、盛り上がらなくなってしまった。
- 都道府県知事や市区町村の首長が「受け入れない」と表明した。
といった巡礼やご当地化の対応のまずさでファンから厳い評価を受けている例をここで取り上げる。なお、「巡礼の活性化やご当地化に失敗した」とは一概に言えない作品もあるので、注意してほしい。
※()内の数字は上記の該当理由を表します。
- かんなぎ(1)
- 原作では特定の舞台地の設定がなかったが、アニメ化の際より忠実さを求めるため宮城県仙台市が舞台地という設定が追加された。一部ファンによる騒動はあったもののアニメ自体の評価は良好で、DVD売り上げも1万枚を超えるなどヒットといえる状況であった。
- しかし聖地巡礼の際の整備に関してファンからの反発を招いてしまう。まず七ヶ浜町の七ヶ浜国際村にて神薙神社を再現したセットを建てたが、その出来栄えがビスで留められたハリボテっぽいもので、とても再現といえる代物ではなかった。
- また聖地巡礼にあたってのコンテンツ不足や作品展は別料金など巡礼者をないがしろにする対応があったと捉えられてしまい、これらがインターネットで拡散された結果、神薙神社に飾られた絵馬が1桁などアニメはヒットしたのに聖地巡礼者がまったくいないという惨状になってしまった。その影響なのか、2期製作も可能な状況になりながらも結局は製作されず、原作もひっそりと終了するという誰も得しない結果となってしまった。
- 『かんなぎ』が放送されたのは2008年で『らき☆すた』による聖地巡礼が一般化して間もない頃であったが、この事例はいくら作品が良くても受け入れ方を間違えると厳しい結果になることを体現しており、以降の聖地巡礼やご当地化の教訓になっている。
- 夏色キセキ(3)
- 静岡県下田市が舞台で、アニメ放送中は伊豆急行がリゾート21を使用したラッピング列車を走らせたり、伊豆急下田駅前ではご当地をPRするイベントが行われたりと活況に満ち溢れていた。しかしアニメ放送が終了した途端嘘のように静まり返り、そのあまりの変貌に「ひと夏のキセキ」と揶揄されることがある。
- こうなった一番の理由は下田市は幕末時に外国との交流拠点として栄えた由緒ある港湾都市で、また市内外各所にある景勝地をウリに観光客を集めてきた経緯があり、そんな中「夏色キセキ」のPRが大々的に行われたことに対し「下田のイメージや景観が崩れる」といったクレームが市役所に殺到したことによる。これに東日本大震災以来低迷していた観光事業のテコ入れを図るためご当地化を推進していた市の担当者が参ってしまい、アニメ放送終了後はパネル撤去やイベント縮小などが足早に実施され、放送3年後の2015年には関連SNSの更新停止や閉鎖が相次いだ。
- さらに舞台の中心でもあった「ハリスの足湯」が老朽化を理由に解体される話が出て、ファンが存続を求めて署名活動を行ない、一部市議も同調して存続条例案が提案された。しかし市議会は先述のクレームの件もあり解体ありきで話が進み、存続条例案は反対多数で否決。代わりに解体の予算案は可決され、2017年初めにハリスの足湯は解体された。
- このように自治体から厳しい対応をされているが、現在もファンによる交流が引き続き行われている。
- のうりん(2)
- 岐阜県美濃加茂市が舞台で、当初は市長が積極的にPRを行ない、地元住民向けにアニメの試写会まで実施するほどだった。しかしオタクから見ても上級者向けな内容に対して、やって来たのはアニメ自体を見ない高齢者が中心であったため、唖然とさせてしまう。
- 加えて市中で開催したスタンプラリーがよりにもよって作品随一のお色気キャラを前面に押し出したものであったことから一層厳しい目が向けられるようになり、市外のメディアやフェミニストなどの間にも拡散されて本格的な炎上に至ってしまった(尤もそれ以上に前面に押してはいけないキャラがいるが)。
- 結果ポスターの撤去や差し替えなどの混乱が生じ、以後公的な関係は急速に冷え込んでいった。もっとも、モデルとなった農業高校、あるいは地元資本のFC岐阜や岐阜バス(いずれも本社は岐阜市)といった企業とはアニメ化以前から信頼関係を築いていたこともまた事実であり、炎上後も各々でコラボレーションを行っている例は多く見られる。
- また、モデルとなった農業高校は放送後の新入生募集で定員オーバーになるなど相乗効果も発生している。そう考えると町おこし的な部分は成功しているともいえる。
- メガネブ!(1)
- 福井県鯖江市が舞台で、メガネを題材にしたアニメオリジナル作品を作成する際、メガネフレーム生産量第一位の同市に話を持ち掛けたところ市側も新たな観光資源になると乗り気となり、良好な関係を築いたとされている。
- 実際アニメ発表後、鯖江市では等身大パネルやグッズなどを制作し、さらに聖地巡礼で訪れた人に対しての接客強化を図ため勉強会が実施されるなど売り出す気満々で、わざわざ福井テレビでの放送も行われるなど市民を巻き込んで準備が行われた。
- しかしこちらも地元住民向けにアニメの試写会を実施したが、オタクから見ても好き嫌いがはっきり分かれるジャンルで、やってきた市民はこれが本当に町おこしになるのかと不安を隠せない状況となる。
- そしてこのジャンルが好きな方々ですら「眼鏡要素いる?」とお察しの評価となり、聖地巡礼を行なうものは殆どいなかった。この惨状に鯖江市民も困惑し、聖地巡礼に詳しい記者が「(鯖江市を)助けてあげてほしい」と窮状を訴えていた。
- さらに鯖江市自体が『メガネブ!』に触れなくなったどころか、放送終了から1ヶ月足らずで『電脳コイル』とコラボレーション(本作の舞台が「金沢市に近い日本海側のメガネで有名な都市」という設定を通してのコラボだが、ぶっちゃけメガネと言う点のみでのコラボである。ちなみに電脳コイル自体は舞台である石川県での町おこしは実施されていない(そもそも放送時期が2007年でアニメの町おこしと言う概念がなかった時代である))を実施する鞍替えっぷりを披露。これではアニメファンから見境がないとされて批判を受けるのも無理はない。
- 輪廻のラグランジェ(2)
- 千葉県鴨川市が舞台で、準備段階で公式と地元の関係も良好だった。しかし2012年冬アニメでは、制作サイドが気を利かせすぎたのか各話のタイトル全てに「鴨川」を入れたり、作中でも不自然なまでに鴨川描写が多かったことでSNSでは「オタ舐めるな」「あざとい」などの批判的反応が見られた。
- ここまでなら他作品でもなくはない話だが、2012年3月7日放送のNHK「クローズアップ現代」にてアニメの聖地巡礼がテーマになった際、この批判的反応を強調する形で取り上げられたために、(視聴者が)ご当地化に厳しい作品のようになってしまった。当然「火に油を注ぐ」状態となり、以降批判派からは「ご当地の失敗例の象徴」として挙げられることが多い。
- ただしイベント等は継続して開催されており、同年7月からはアニメ第二期も放送、後に映像特典としてだがOVAも製作された。2018年には「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」に選定されるなど、実際は「劇的な成功とは言えないが言われるほど失敗はしていない」と評価されている。
巡礼者の問題
巡礼者側で注意したいのは巡礼者のマナーの悪さによって巡礼ができなくなったり、よくないイメージが付けられてクレームがついてしまうことが挙げられる。取り上げた作品や自治体以外でも一部施設や舞台地で巡礼行為を断られたり、制作サイドがホームページやニュースサイトを通じ巡礼マナーの悪さによる注意喚起が行われるなど、今後住民や自治体からのクレームや申し出により巡礼の自粛要請が発生する可能性がある。
元々観光地として整備されていたり、ご当地に積極的で受け入れ態勢が整っている場所ならともかく、住宅地や学校など日常生活の影響が強いところは巡礼を受け入れる態勢を整えているとはいえず、逆に住民でない者が押し寄せて治安が悪化するとなっては「来ないでほしい」となるのは当然である。そうならないためにも巡礼場所がどういったところかやご当地アピールに積極的かどうかを事前に調べ、せめて最低限のマナーを守ったうえで行動してほしい。
受け入れ側の問題
受け入れ側で注意したいのはアニメで町おこしは様々なリスクを伴うことである。成功例として『ガールズ&パンツァー』や『ラブライブ!サンシャイン!!』、『ゆるキャン△』などがあるが、これらは受け入れ側が作品を理解してそれに見合った対応を行なっている。逆に受け入れ側の対応の問題が発生する原因は作品を理解せずに売り出そうとしてしまったことである。アニメファンはそういったところに敏感で、「本当に作品理解してる?」と思わせる対応をしてしまったら来なくなるケースが多い。
また、アニメの経済波及効果は思ったより高くない。
たとえば『ラブライブ!サンシャイン!!』の経済波及効果は50億円と言われているが、舞台地の沼津市の経済規模は年間7000億円で、アニメの波及効果は全体の1%にも満たない。つまり空前の経済波及効果がある作品ですら地域全体の規模からすれば些細なもので、アニメ巡礼が基幹産業になることはない。とは言え桁が桁なので無視出来る金額でも無いが。
ちなみに、ドラマでの町おこしでは若干状況が異なるが全体の経済波及効果はアニメ同様そこまで高くない。バラエティ番組でも同様だが、放送形態がアニメ・ドラマと異なり現地でのふれあいの機会が多いため、若干だが高くなっている。
そもそも巡礼者の問題でも取り上げたが、例外こそあるが成功しているところはアニメで盛り上がる前から観光地や巡礼地としてそれなりに整備されているところばかりである。受け入れ態勢が整っていない地域で急に活性化をさせようとしても宿泊や食事はおろか土産を売る所すらなく、巡礼者をがっかりさせることがある。受け入れにも資金が必要で、それに見合った効果が出るかはよくコンサルティングを行なったほうがよい。
むしろ宿や食事、物販が揃っているのにコンテンツが無かった、あるいは衰退した場所において効果を発揮するものである。