怪獣映画
かいじゅうえいが
概要
このジャンルの定義には諸説ある。
そもそも「怪獣の定義」自体が曖昧であるが、広義の意味では物語の中で怪獣をメイン(ないしタイトル)として据えた特撮系の映画作品が怪獣映画と呼ばれている(流石に恐竜とか動物とはそのまんまだとほとんどそう言われないが)。
映像内に出てくる怪獣の表現についてはジャンル誕生当初はストップモーションや着ぐるみなどを用いて行われていたが、映像技術が進むに連れると主にCGを使って怪獣の存在を表現する作品も増えてきている。
一重に怪獣映画と言ってもただ怪獣が出てくるだけでは話になり難いため、その怪獣に向き合う人間達の視点もまた物語の中で相応に必要な要素となっており、基本がファンタジックなディザスターパニックであろうとそれに加えてアクション、ホラー、ミリタリー、ポリティカル、ジュブナイル、コメディ、そして社会的な問題や話題を含めたヒューマンドラマといった人間側で見るテーマこそ怪獣映画のもう一つのコンセプトであると言える。
中には怪獣とはあくまで舞台設定に過ぎず、物語の主軸はそれに立ち向かう人間達という逆説的な作品も少なくはないが、怪獣映画というジャンルにおいて作品の中心をどこに置くかという部分を気にする怪獣ファンも居り、怪獣の描写よりも人間のドラマに尺を割いた作品だとそんな怪獣ファンから「これじゃ怪獣映画である意味がない」みたいな批判的評価を受けやすい傾向がある。もっとも、怪獣ばかりを映しても今度は人間側の状況が分かり難くなって全体的な話が見えて来ないなんて批判が出たりすることもあるため、同時にその構成バランスも重要だとされている。
もう一つの怪獣映画の傾向として「怪獣プロレス」という概念も存在しており、もっと具体的に言えば“一つの作品の中で2体以上の怪獣が登場し、その怪獣同士が争い合う展開”を指す(語源としては1962年の『キングコング対ゴジラ』におけるプロレス風の演出だとされる)。
出てくる怪獣が一体だけだと話の盛り上がりに欠ける、何らかの作品の続編の場合はその前作に登場した旧怪獣に新怪獣をぶつけることで新しい展開を作る、といった理由からこの“怪獣vs怪獣”の構図を主軸にした作品も怪獣映画の流行に伴って数多く作られるようになり、現在ではこの「怪獣プロレス」という要素もまたファンの間では怪獣映画の大きな醍醐味として認識されている。
一方、日本ではこの“怪獣映画=怪獣バトルもの”という印象が強いファンもそれなりに多く、怪獣が一体しか出てこない作品や怪獣が複数出てきてもほとんど戦わないような作品に対してはそれを物足りないと感じる者もいるという。
日本においてこの怪獣映画で培われた技術や概念は後に『ウルトラシリーズ』などのTVの特撮作品にも受け継がれている。
怪獣映画とモンスター映画の違い
怪獣映画の走りは外国の映画であるが、現在において日本人の考える怪獣の概念と外国人の考える怪獣の概念は異なるとされており、それにより劇中での扱いや顛末に関しての温度差があることが多いと言われている。
象徴的なのが1998年に公開された『GODZILLA』。これは日本の『ゴジラ』(1954年)のハリウッドリメイクという触れ込みで封切られた作品だが、内容がオリジナルから大きく改変されており、日本のみならず海外のゴジラファンからも落胆の声が漏れた――いわく、これは怪獣映画ではなく、モンスターパニック映画であると。
そのような物言いがされるということは、怪獣映画とモンスター映画の間に、あいまいながらもどこかに境界線があると考えられているということである。
怪獣とモンスターの印象的な違いとは、主に以下のことである。
- 怪獣はモンスターに比べて大きい。初代ゴジラの身長が50mであったため、これが一つの基準となっている。なお初代ゴジラが50mの設定になったのは、スタジオの面積の都合による。その巨大な体躯に人間社会が蹂躙される様は怪獣映画の醍醐味のひとつ。
- 怪獣は生物学的には考えられないような超能力(火を吐くなど)を有している。ただ既存の生物を巨大化したようなものではない。それゆえ人間サイドでは研究者枠の登場人物が暴れることも。
- 個体数は少ない、あるいは滅多に見られない。しかし一体だけで人類の生存を脅かしかねないほどに強大なので、人類はいつもひどい目に遭う。
- あまりグロテスクではない。この点はウルトラ怪獣のデザインを多く担当した成田亨も常に気をつけていた。そのため人類に危害を加える存在でありながら、ファンに愛される怪獣は多い。
- 怪獣は通常兵器で倒されない。『キングコング』(1933年)のコングは戦闘機によって撃墜され、『原子怪獣現わる』(1953年)のリドサウルスもアイソトープ弾で倒される。これに対して、ゴジラはオキシジェンデストロイヤーがなければ倒せなかった。このことから自衛隊がかませ犬になるのは一種のお約束になっている。
- 総じて、モンスターはクリーチャー、怪獣は神に近い存在である。このことからハリウッド版『GODZILLA』に登場するガッカリ怪獣はGOD(神)を引いてジラと呼ばれている。
もっとも、これらはゴジラに端を発する怪獣映画、および『ウルトラシリーズ』に代表される怪獣ブームから生まれた印象が積み重なったものであり、例外も数多く存在する。
また一般的な書籍では、これらの印象に当てはまらない『キングコング』が怪獣映画の元祖として挙げられていることが多く、以上の議論は日本の特撮文化に愛着を持つマニア層のこだわりによる主張と言わざるを得ない。
一方で、ウィキペディアにKaijuという項目があるように、少なくとも海外でも怪獣に対する共通認識があり、『クローバーフィールド/HAKAISHA』(2008年)のように往年の怪獣映画にリスペクトを捧げた作品も生まれている。
なお、アニメにも怪獣映画が存在する。その中で最も著名なものが『新世紀エヴァンゲリオン』である。
怪獣映画一覧
日本
- ゴジラシリーズ(東宝)
- モスラシリーズ(東宝)
- 空の大怪獣ラドン(東宝)
- 大怪獣バラン(東宝)
- 宇宙大怪獣ドゴラ(東宝)
- フランケンシュタイン対地底怪獣(東宝)
- サンダ対ガイラ(東宝)
- ガメラシリーズ(大映→角川映画)
- 宇宙大怪獣ギララ(松竹)
- 大怪獣東京に現わる(松竹)
- 大日本人(松竹)
- 怪獣大奮戦ダイゴロウ対ゴリアス(円谷プロ・東宝)
- ウルトラQザ・ムービー星の伝説(松竹・セガ・東北新社・円谷映像)
- 大巨獣ガッパ(日活)
- デスカッパ(日活)
- 八岐大蛇の逆襲(DAICON FILM)
- 地球防衛未亡人(トラヴィス)
- 大怪獣モノ(アーク・フィルムズ)
- ラブ&ピース(アスミック・エース)
- 長髪大怪獣ゲハラ(NHK)
- 深海獣レイゴー
- 深海獣雷牙
- 惑星大怪獣ネガドン
- へんげ
海外
- キングコング(アメリカ合衆国/RKO→パラマウント映画→ユニバーサル・ピクチャーズ→レジェンダリー・ピクチャーズ)
- モンスターバースシリーズ(レジェンダリー・ピクチャーズ):ゴジラとキングコングのシェアワールド企画
- 原子怪獣現わる(アメリカ合衆国/ワーナーブラザーズ)
- 地球へ2千万マイル(アメリカ合衆国/コロムビア)
- 襲う!巨大怪鳥 空の大怪獣Q(アメリカ合衆国)
- 侵略怪獣ザーコー(アメリカ合衆国)
- クローバーフィールド/HAKAISHA(アメリカ合衆国/パラマウント映画)
- パシフィック・リム(アメリカ合衆国/ワーナーブラザーズ)
- ランペイジ巨獣大乱闘(アメリカ合衆国/ワーナーブラザーズ)
- 怪獣ゴルゴ(イギリス)
- 大海獣ビヒモス(イギリス)
- 原始獣レプティリカス 冷凍凶獣の惨殺(デンマーク)
- 巨獣ガジュラ(アメリカ合衆国)
- 尻怪獣アスラ(アメリカ合衆国)
- シンクロナイズドモンスター(カナダ/スペイン)
- グレートウォール(中国・アメリカ合衆国/レジェンダリー・ピクチャーズ)
- ガルーダ(タイ王国)
- グエムル-漢江の怪物-(韓国)
- ヤンガリー(旧ヨンガリ)(韓国)
- D-WARS/ディー・ウォーズ(イモギ/ブラキ)(韓国)
- オクジャ/okja(韓国)
- プルガサリ(ガルガメス)(北朝鮮)
怪獣映画に関わって来たとされる人物
円谷英二 / 本多猪四郎 / 川北紘一 / 田中友幸 / 伊福部昭
湯浅憲明 / 樋口真嗣 / 庵野秀明 / 金子修介 / 実相寺昭雄 / 河崎実 / 田口清隆 / 坂本浩一
レイ・ハリーハウゼン / ローランド・エメリッヒ / ピーター・ジャクソン / ギレルモ・デル・トロ / ギャレス・エドワーズ / ポン・ジュノ