概要
厨設定とは、主に小~中学生時代に生まれがちな「非の打ち所のない完璧超人設定」のことである。
小学~中学生という多感な時期に漫画や小説などの創作活動を行っていると、作者が主人公に過剰に自己投影・感情移入したキャラ作りを行なってしまうケースが多くなりがちである。
その主人公を通し擬似的な万能感を求めるあまりに、主人公キャラに誰も敵わないような最強設定を持たせて「俺TUEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!」と作品世界で無双させるのは誰もが通る道だったりする。
安易に厨設定の主人公を登場させると、世界を揺るがすような大事件が起きても主人公が指先一つで解決してしまう為に全くストーリーが展開しなくなってしまい、作品の鑑賞者にとってもあまりにも簡単に事件が解決しすぎてなんのカタルシスも得られなくなりつまらくなってしまうという弊害も起きる。
バトル展開を伴う交流企画に厨設定キャラを参加させてしまうと、上記に上げた特性上、企画そのものが白けてしまいかねず、参加者や主催にも迷惑をかけることに繋がってしまう。そのため、そうしたキャラクターの作成・参加を禁止する企画がほとんどである。
このように厨設定を持たされてしまったキャラは非常に扱いが難しくなるため、ストーリー作りに慣れるまでは手を出さないほうが無難である。
厨設定の例
- このキャラは最強である(決して崩れない前提)。
- 接近戦でこのキャラに敵う相手はいない。
- 銃も効かない。避けるから。
- ありとあらゆる種類の魔法を操る。
- 時間操作系の能力を持っている。
- 闇と光の両方の力を操る。
- 怒ると背中に羽が生える。
- 出合った異性は特に理由もなく全員メロメロになる。
- 個人で暗殺業を請け負っていて、学生の身分で莫大な資産を持っている。
- FBIやCIAに知り合いがいる。
- というか偉そうな奴はだいたい友達。
- アメリカ大統領が土下座する。
- 実は世界を裏から動かしている。またはそういう組織を束ねている。
- この世に存在するありとあらゆる兵器を持ってしてもこのキャラを殺すことは不可能。
- このキャラは地球上で最強である。
- というか宇宙全体で最強である。
- それどころか平行世界や平行宇宙までもを股にかけて最強である。
- 異世界やら過去や未来にも飛ばされたが、やっぱり最強である。
- 神とか悪魔とかもダース単位でぶっ飛ばしている。
- 創造主的な存在の末裔で、最終的にはそれをぶち倒して新創造主的な存在になる。
その他、中高生が好みがちなオサレ設定が厨設定と言いがかりを付けられることもある。
商業作品における最強設定
上述のように作劇上のデメリットの多い厨設定だが、それ自体が必ずしも悪いこととは限らない。
例えば、最強設定の主人公は扱いが非常に難しいが、主人公が事実上最強の存在として描かれつつもヒットを飛ばした作品も数多く存在している。
また最強設定=厨設定とも限らない。主人公が最強だからこそ話が成り立つ作品もあるからである。
要は、安易なだけで終わらせないキャラクター作りのセンスと、それをうまく活かせるだけのストーリー構成力があるかどうかによって、作品の質も変わってくるということである。
以下に商業作品における最初から最強設定、一貫して負け知らずの主人公の例をあげる。
基本形
- BLACKRX (仮面ライダーBLACKRX) - その時不思議な事が起こった
- キリコ・キュービィー (装甲騎兵ボトムズ) - ご覧の通りだ。キリコは死にません。
- 実力はあるがラッキーマン系能力の持ち主でもある。
- 司波達也 (魔法科高校の劣等生) - さすがはお兄様です
- キラ・ヤマト (機動戦士ガンダムSEED) - やめてよね
- 天道総司 (仮面ライダーカブト) - 安心の天道クオリティ。
- 初代ウルトラマン (ウルトラマン) - 2話構成の時と最終話以外は苦戦らしい苦戦をしていない。
- 桐生一馬 (龍が如くシリーズ) - 喧嘩を売ってきた相手がトラだろうが人食いザメだろうがゾンビだろうが異世界の化け物だろうが容赦はしない。ただし、ムービー銃だけはかんべんな。
- 三日月・オーガス (機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ) - 特に彼の仲間や仲間の身内を死に追いやったら、確実に生きて帰れない。
- 藤原拓海 (頭文字D) -友 人のハチゴーを運転した際にそのクルマをバカにした走り屋をあっという間にごぼう抜きしたり、特にシビックとのレースでは愛車のハチロクをガードレールにぶつけながらも猛追したほど( 当然、持ち主の父親に叱られたが )。
- 紅守黒湖 (MURCIELAGO)-男性に対しても女性に対しても敵対すればとことん無情で殺しにかかる。ただし可愛い女の子なら生かしてあげることも。
- 松坂さとう (ハッピーシュガーライフ) - 最愛の人絡みになると、目が最初からクライマックス状態になり、良くても脅迫程度で、最悪の場合は『死』(たとえ相手が友人でも)
デウス・エクス・マキナ系
極端な言い方をすれば「出落ち系主人公」。登場するだけで話が終わってしまうので、物語の進行役は他の人物が行っており、主人公とは言え出番は少ない(ただし存在感は圧倒的なので主人公(笑)にはならない)。
- 黄金バット - 強い!絶対に強い!。進行役はヤマトネ一行。
- ゴルゴ13 - 序盤のエピソードこそ「いかにして不可能を可能にするか」がテーマだったが、中盤以降は「ゴルゴが登場した時点で暗殺成功」と言う展開に(『ドイツはひとつ』と言うエピソードで作者自身もネタにしている)。進行役は依頼人やターゲット。
デウス・エクス・マキナ系その2
デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)を直訳したようなもの。あくまでも「主人公機(主人公の乗る機体)」であって「主人公」ではない。
- ガンバスター (トップをねらえ!) - バスタービームは惑星を両断し、ホーミングレーザーは約2000の敵を薙ぎ倒し、バスターシールドは約2万の敵の集中砲火を防ぐ。実践投入されたのは作中後半であり、出撃回数は2回。それまで主人公達は量産機で戦うことになる。
- ゴッドマーズ (六神合体ゴッドマーズ) - ファイナルゴッドマーズ=相手は死ぬ。ゴッドマーズ召喚自体が「他の作品で言う必殺技」とも。
- イデオン (伝説巨神イデオン) - 宇宙すら滅ぼす伝説の巨神。自らの意志を持ち、主人公達ごと宇宙を滅ぼしたラスボスでもある。
- 鉄人28号 (鉄人28号) - 操縦者の金田正太郎の腕前とも言える。
ネタ系
- ドラえもん (ドラえもん) - ひみつ道具で全て解決(実際に「ウソ800」「あらかじめ日記」「しあわせトランプ」等、全知全能の力が身に付く道具が数多く存在する)…と言いたいところだが、上記の出落ち系とは違いひみつ道具の故障やドラえもん自身の失敗で台無しになる事も多い。とは言え、何だかんだで大長編及び映画作品で巻き起こる問題を全て解決に導いているあたりはやはり国民的漫画の主人公と言ったところか。
- サイタマ (ワンパンマン) - 「最強過ぎちゃった主人公」の悲喜交々(ライバルが居なくて張り合いが無いとか)という内容。出落ち系も兼ねる(進行役は他のヒーロー達)。
- 両津勘吉 (こちら葛飾区亀有公園前派出所) - ギャグ補正の塊というべき存在なのか、本当に殺しても死なない。ドラゴンボールとのコラボ漫画ではフリーザの部下に「ギャグだ!あ、あいつはギャグ漫画の人間だ!」「永遠に死にませんよあいつ…」と言われ、実際にフリーザが放つエネルギー弾の直撃を受けてもピンピンしていた。
- ラッキーマン (とっても!ラッキーマン) - 実力はないが、行動の一つ一つがラッキーへと繫がっていき、どんな苦境に陥っても最終的には必ずラッキーでなんとかなっている。
所詮は人類最強止まり
- ガッツ (ベルセルク) - 敵は人知を超える使徒なので苦戦続きである。
- リナ=インバース (スレイヤーズ) - 敵の魔王の方が強い。そもそも彼女の魔法の一部は魔王の力を借りる物の為、魔王を倒すほど使える魔法が減る(厨設定っぽく「力を奪う」なんて事は出来ない)。本作は頭脳戦な部分もあるのだが、同時期に開催されたラノベコンテストの応募作品に本作を「表面だけ」真似た作品が多数あって審査員をあきれさせたとか。
主人公=ラスボス
- ウルトラスーパーデラックスマン - 「最強主人公がクズ野郎だったら?」を題材にしたブラックユーモア。該当項目では主人公は別のキャラとされるが「『ドラえもん』の主人公はドラえもんかのび太か」で揉めるようなもの(尤も『ドラえもん』については藤子・F・不二雄が「ドラえもんが主人公でのび太は副主人公」と明言しているが)。
- 殺せんせー (暗殺教室) - 世界中の軍隊や自衛隊が束になってもかなわない殺せんせーが、生徒達に自分を暗殺するための暗殺技術を教えていくという話。ある意味「メイン主人公は教師だが、毎回の主役は生徒達」と言う教師ドラマのテンプレ通りとも言える。
- 陸奥九十九 (修羅の門) - 無敗の古武術の使い手である主人公にどうやって勝つか、そもそも格闘技において勝つとはどういうことかなど、主人公が最強であることを前提に話が描かれている。
- 歴代の陸奥圓明流継承者 (修羅の刻) - 修羅の門の外伝であり、陸奥圓明流継承者が無敗であることは修羅の門で語られた「歴史的事実」なので、歴代継承者がどのような人物と関わってきたか、あるいは誰が継承者になるのかなど、継承者達の行く末を中心に描いていく。
- 播磨灘勲 (ああ播磨灘) - 絶対に負けない主人公という設定を逆手に取り、物語の展開においてライバルとなる相手力士や協会関係者らの描写に重点が置かれたエピソードが多く、転じて興行や伝統に縛り付けられた日本の角界へのアンチテーゼと思われる描写も数多く見られる。
- アーカード (HELLSING) - 作者的にラスボスであったことが明言された主人公。様々な能力を持った超人達がそれぞれの目的で鎬を削りあう中、他を圧倒する能力を秘めた主人公をいかに打倒するかが敵勢力の最終目標であったことが終盤で明かされ、物語が収束していく。
注:この項目はあくまで商業作品における最強設定の主人公を挙げる項目であり、強キャラを羅列する項目ではありません。キャラを追加する際は最強である理由を明確に表記して下さい。
厨二病との関連について
厨とつく厨設定だが、厨二病は「他人とは違う俺カッコイイ病」であるため、患者からはこうしたありがちな最強キャラを皮肉るような属性も人気がある。
例えばキリコ・キュービィーは毎回死ぬ寸前まで痛めつけられる、高性能専用機ではなくオンボロ量産機を好むなど「反・厨設定キャラ」としての属性も持つ。
物語自体の反・厨設定展開としては、「超能力者なぞ認識外からの狙撃で余裕」「単体でしかない超人なんて組織の前には無力」といった力関係にされる場合もある。地球なめんなファンタジーの項目も参照。
また、もっと直接的に「自分は厨二病などではないし厨キャラなどにも興味はない」と言わんばかりに作中で厨設定キャラをモデルにしたキャラを出してボコボコに〆る、というパターンも二次創作などでは人気がある。(いわゆるキャラヘイトに近い)
これらは高二病や高二キャラという分類もできるかもしれないが、いずれにせよ厨二病=厨設定=最強キャラと考えると語弊があるので注意が必要である。