人物
同じく脚本家で、昭和ライダーシリーズで多数の脚本を手がけた伊上勝は彼の父親。
娘の井上亜樹子(鐘弘亜樹)も小説家・脚本家として活動しており、親子三代にわたる物書き一家である。
主に特撮ヒーロー番組やアニメのライターを務め、90年代以降の特撮に大きな影響を与えたスタッフの一人として知られる。
特に、『クウガ』から『ディケイド』までの平成仮面ライダーシリーズ第1期には、基本的に『仮面ライダー電王』以外で何らかの形で関わっている。これは制作に遅れが生じた際、速筆の井上がピンチヒッターとして登板することが多いためでもある。
父の伊上勝は長らく特撮ヒーロー番組の脚本を勤めてきたが、対して井上はかねてから存在した勧善懲悪のストーリーや完全無欠のヒーロー像に懐疑的であり、子供向けの作品にも登場人物の悲哀や人間模様のドロドロした描写を盛り込んできた。さらに『鳥人戦隊ジェットマン』や『超光戦士シャンゼリオン』、近年の『衝撃ゴウライガン』では「ヒーローも俗物」ともいうべき内容を書いている。そのためトラウマエピソードに定評があるといってもいい。
ただし井上のこのような作風は別に思想的な背景あってのものではなく、単に「そういうノリの方がストーリーが盛り上がる」という娯楽性を追求する手段に過ぎない。なのでシリアスなシーンでも辛気臭くなるような描き方にはせず、テンションの高い熱い展開が目指されている。そして子供たちが飽きないようなメリハリをつけるために、キャラ崩壊レベルの極端なギャグ演出を箸休めとして定期的に挿入していくのも特徴。
こうした姿勢は各作品のヒットに裏打ちされるように、大人層の視聴者を呼び込むことで一定の支持を得ている一方で、井上の作風を好まない視聴者との間に強い賛否を呼んでいる。
また、良くいえば豪快、悪くいえば大雑把な作風で、ストーリーの盛り上がりを重視するあまり、既存の設定を変更したり整合性を無視したりすることが多々ある。
ただし、「DEATHNOTE」では原作の場面をカード化し「どの場面を削除すればどんな矛盾が生じるか。その矛盾を回避するためにはどうすればいいのか」を組み立てて執筆したと語っており、必ずしも原作設定や整合性を否定する立場ではない。また、「平成ライダー」シリーズにおいては、井上よりもむしろ白倉伸一郎の意向が強かったとされる。
加えて、前述するように「速筆を見込まれての起用」も多いため、整合性や完成度より速さを優先しなければならない場合も多々ある。例えば『仮面ライダーOOO』では本編放送開始前に劇場版の脚本を書く羽目になり、キャラの性格が違和感全開になってしまった(一応、本編メインライターの小林靖子の監修のもとだが)。
特撮ファンはおろか出演者から大幅な批判を受けた『仮面ライダー響鬼』後半の路線変更についても、「井上本人は路線変更に反対だったが、上層部からの指示により嫌々脚本を書いていた」と松田賢二(仮面ライダー斬鬼役)が語っている。
脚本はあくまで「ドラマを制作する上での設計図」と考えており、現場で内容が変更されることについては異議を申し立てないスタンスを取っている。その結果、『仮面ライダーキバ』では、井上が「絶対カットしてはいけない」と言ったシーンが大幅に削られるなどの酷い事になったりもした。逆に『RIDER TIME 龍騎』では削るように言われたシーンを最後まで改訂しなかったらしい(今回は珍しくいろいろと指示出しもした様子)。
その一方、『名探偵コナン』では「アニオリ史上最も無理のある話」として名高い第6話『バレンタイン殺人事件』を手がけており、「シナリオ担当のお偉いさんを激怒させた」と言う噂も流れたりはしている(実際、井上はその後原作有りの脚本3本だけを手がけ、以後全く関わっていない)。
こうした立場的な話とは別の問題として、アクが強く賛否が分かれる作風であるのも事実である。
特に非常にアクの強いキャラクターを作ることにも定評があり、井上の作風が強く反映されたキャラクターについては、視聴者の間で"井上キャラ"などと呼ばれる(草加雅人など)。平成ライダーシリーズにおける天道総司や門矢士も、井上の人物像に強い影響を受けているという。
ギャグシーンの描写においてはキャラ崩壊を引き起こすことは日常茶飯事。
アニメ『ギャラクシーエンジェル』などの元々ギャグに寄っている作品で顕著だが、シリアスな作品の息抜き回でも大幅にキャラを崩してしまう点については賛否両論。
なお、本人はギャグ作品については「スラップスティックは構造が難しい」という発言を残している。
立場・作風・発言、その他諸々の要素が合わさって、何かと毀誉褒貶の激しい脚本家である事は間違いないだろう。
評価する側から「御大」と呼ばれたりする一方で、響鬼の一件を根に持ったりネタとして気に入ったりした者から「井上敏鬼」と呼ばれることもある。響鬼の放映から10年以上も経過した現在ではさすがに後者の呼ばれ方はあまりされないが。
80年代から、自身が関わったアニメ・特撮作品のノベライズも手がけていたが、2014年に『海の底のピアノ』で純文学デビュー。2015年には第2作『月神』を発表している。また『海の底のピアノ』のための取材がきっかけで俳句にも取り組んでいる。戯曲も2本書いている。
作風として、児童向けである特撮作品ではタブー的な扱いをされていたエログロ・人間の醜悪さを好んで持ち込む事が多い。仮面ライダー関連の小説では特にその傾向が顕著になる。ただ、単にそういうキャラや展開を描きたいだけではなく、人物の設定を深く掘り下げてその言動に深みを持たせており、そういった意図が上手くはまった担当回は高い評価を受けている。
逸話
脚本関係
- 速筆であり、作品のすべての脚本を手がけてしまうことも少なくない。「三時間で一本仕上げる」とも言われている(真偽は不明)。『RIDER TIME 龍騎』の第一稿は4日で3話分を書き上げたらしい。
- 作中にはよく食事のシーンが登場するが、これは本人が「子供向け作品ではセックスの描写ができないから」と語っているがこれは「性的描写は特撮番組では使えないため食事シーンで人間関係を描いている」という意味であり、「食事シーン=セックス」という解釈は勘違いも甚だしい。逆に彼が担当していた龍騎や555の小説版にはセックスシーンが普通に描かれている(子供向け作品でも男女の恋愛関係や女性のセクシーさを描くことがある)。また本人自身も料理好きであり、仕事を共にしたスタッフやキャストがよく料理を振舞ってもらったという証言を残している。因みに『ドンブラザーズ』のドン17話では、井上の得意料理が登場している(あとがきに「大先生の手料理はお預け」という記述があるため、本人が作った訳では無い模様)。
- もっとも上記のような逸話には誇張や誤解が非常に多く、ライダーシリーズの「井上ワープ」(キャラが場面転換ごとに場所が移る)や「水落ち」(ライダーが敵に負けると川などの水場に落ちる)といった他ライダー作品でも見られる行為(主に撮影場所確保の都合による)を彼の脚本のみの特徴と捉えてしまうものがいたり(この誤解の傾向は『仮面ライダー響鬼』後半のメインライターを引き受けた頃に前半部がその面にこだわりがあったこともあり特に目立つ)、上記のドロドロストーリーを多く書く為に「いつも鬱のシナリオになる」と言われたり、所謂偏向的な目で見られる事も非常に多い。
その他
- 作風や印象に残る台詞・場面に加え、「強面」「がっしりとした体格」の持ち主とあって、脚本家としては異例なほど"キャラ立ち"しており、関連グッズが制作されたり、各コミュニティでファン・アンチ含めてネタ扱いされるほど。ちなみに、本人は『響鬼』劇場版のムックにて、自身のアンチに関しては「いいんだよ、そういうのが(いた方が)面白いんだから」と発言している。
- 体を鍛えることが好きらしい。そのためか、前述のようにやけにガタイが良い体格をしている。『ギャラクシーエンジェル』のシリーズ構成を手がけていた頃、主演声優の新谷良子にヤの付く人と思われてしまったというエピソードがある。
- 出演キャストの面倒見がよく、作品放送終了後にも交友を持つ俳優もいる。特に村上幸平との仲の良さは有名。反面、アクの強い脚本を描く事が多い為か、登場する悪役の度が過ぎる悪どさに視聴者から散々叩かれすぎた演者から恨みを買う事も少なくないという。
- その外見のインパクトから、自身の作品にカメオ出演することもある。『555』最終回で琢磨逸郎を怒鳴りつけていた工事現場の監督が井上である。
参加作品
特撮(メイン脚本)
『鳥人戦隊ジェットマン』1991年
『超光戦士シャンゼリオン』1996年
『鉄甲機ミカヅキ』2000年
『仮面ライダーアギト』2001年
『仮面ライダー555』2003年
『仮面ライダー響鬼』2005年 - 30話以降
『キューティーハニー THE LIVE』2007年
『仮面ライダーキバ』2008年
『衝撃ゴウライガン』2013年
『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』2022年
特撮(サブ)
『どきんちょ!ネムリン』1984年
『超新星フラッシュマン』1986年
『光戦隊マスクマン』1987年
『超獣戦隊ライブマン』1988年
『高速戦隊ターボレンジャー』1989年
『地球戦隊ファイブマン』1990年
『超力戦隊オーレンジャー』1995年
『仮面ライダークウガ』2000年
『未来戦隊タイムレンジャー』2000年
『仮面ライダー龍騎』2002年
『仮面ライダー剣』2004年
『仮面ライダーカブト』2006年
『仮面ライダーディケイド』2009年
『海賊戦隊ゴーカイジャー』2011年 - 第28話のジェットマン回を担当
『仮面ライダージオウ』2019年 - 第35~36話のキバ編を担当
特撮映画・配信
『人造人間ハカイダー』1995年
『劇場版 仮面ライダーアギト PROJECT G4』2001年
『劇場版 仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL』2002年
『劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト』2003年
『劇場版 仮面ライダー剣 MISSING ACE』2004年
『劇場版 仮面ライダー響鬼と7人の戦鬼』2005年
『仮面ライダー THE FIRST』2005年
『仮面ライダー THE NEXT』2007年
『劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王』2008年
『仮面ライダー×仮面ライダー オーズ&ダブル feat.スカル MOVIE大戦CORE「仮面ライダーオーズ ノブナガの欲望」』2010年
『仮面ライダー1号(映画)』2016年
『仮面ライダー1号』2016年
『RIDER TIME 龍騎』2019年
『RIDER TIME ジオウVSディケイド』2021年
『RIDER TIME ディケイドVSジオウ』2021年
アニメ
『仮面の忍者赤影』1987-1988年 - 菅良幸と連名
『YAWARA!』1989-1992年
『遊☆戯☆王』(東映アニメーション版)1998年
『ギャラクシーエンジェル』2001-2004年
『ぱにょぱにょデ・ジ・キャラット』2002年
『電光超特急ヒカリアン』2002年
『ドラゴンドライブ』2002年
『獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇』2003年
『PAPUWA』2003年
『天上天下』2004年
『Legend of DUO』2004年
『牙-KIBA-』2006年
『すもももももも 地上最強のヨメ』2006年
『DEATH NOTE』2006年
『Devil May Cry』2007年
『メイプルストーリー』2007年
『CHAOS;HEAD』2008年
『アイアンマン』2010年
『うしおととら』2015年
『からくりサーカス』2018年
アニメ映画
『Dr.スランプ アラレちゃん ハロー!不思議島』1981年
『Dr.スランプ アラレちゃん ほよよ世界一周大レース』1983年
『みんなあげちゃう』1985年
『うる星やつら4 ラム・ザ・フォーエバー』1986年
『ドラゴンボール 神龍の伝説』1986年
『YAWARA! それゆけ腰ぬけキッズ!!』1992年
漫画
『ソードガイ 装刀凱』(2011年) - 小学館・月刊ヒーローズ
『仮面ライダークウガ(HEROES)』(2015年)同上
『機動絶記ガンダムSEQUEL』(2022年予定)
ゲーム
『フェアリーフェンサーエフ』(2013年)
関連タグ
関連人物
伊上勝:(井上の実父であり同じく脚本家。仮面ライダーの脚本に関わっていた)
井上亜樹子(鐘弘亜樹):(井上の娘で小説・脚本家。ニチアサではプリキュアの脚本を担当している)
外部リンク
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