概要
「ゴジラのテーマ」とは、1954年(昭和29年)に封切りされた日本映画(東宝特撮映画)『ゴジラ』のテーマ曲の一つであり、この映画を初代として長く続くゴジラシリーズでもたびたび使われることになる、同シリーズ中最も有名な楽曲である。
後述するとおり、元来は怪獣ゴジラを表現したものではなかったが、「ゴジラ(メインテーマ)」と捉えられるようになった。
作曲者は、作曲家・伊福部昭(1914年 - 2006年)で、同氏の代表作である。
上に例示した動画では、冒頭から1分30秒までが該当する。
ドシラ ドシラ ドシラソラシ ドシラ ♪ という、4拍子と5拍子が交差する独特のリズムが特徴。
1983年に発表された、東宝特撮映画作品の楽曲を演奏会向けとしてまとめた『SF交響ファンタジー』三部作の第1番冒頭では、ゴジラの動機(ライトモティーフ)から「ゴジラのテーマ」の逆行型といえる2拍子+7拍子の上昇音型による接続曲を経て、本楽曲が使用されている。
今でこそゴジラのテーマ曲として定着しているが、元々はゴジラのテーマ曲ではなく、ゴジラに立ち向かう人類のテーマとして作曲されたものである。実際、この作品で本楽曲が流れる所は自衛隊の戦車が出動したり、戦闘機がゴジラに攻撃を加えるシーンなど完全に人間側のターンといえる場面だったりする(例外に近い場面もあくまでスタートは人間側であり、ゴジラが逆転したといえる場面である)。
ちなみに、劇中におけるゴジラ本来のテーマは「ゴジラの猛威」であり、ハイテンポな上記の曲とは対照的に、スローテンポで重々しく、ゴジラの恐怖を煽る曲調である。この曲は後に「キングコング対ゴジラ」や「モスラ対ゴジラ」でもアレンジが加えられながら流用されていく事になる。
ゴジラを象徴するテーマ曲ではあるものの、昭和シリーズでは初代より後は本編にて一向に流れる機会がなく(予告編では使用される作品もあった)、昭和シリーズ最終作『メカゴジラの逆襲』で約20年ぶりに復活、初めてゴジラのテーマとして使用されることになる。
その後しばらくゴジラシリーズが休止してしまい、シリーズが再始動した『ゴジラ(1984)』でも流れずじまいだったが、続く『ゴジラVSビオランテ』で久々にゴジラのテーマとなり(本作ではゴジラ側と人間側両方で使用されている)、以降はゴジラのテーマとして定着することになった。
伊福部氏の没後に制作されたゴジラ作品でも度々使用されている。
『ゴジラxコング:新たなる帝国』では一般人への知名度の高さから、「ゴジラ復活す」のイントロと合わせてサンプリングした楽曲「RISE TOGETHER」が日本語版主題歌として制作されている。
意外な原曲
実は、『ゴジラのテーマ』には元となった曲がある。
直接的には、1948年12月に松竹映画から封切りされた喜劇映画『社長と女店員』のオープニングテーマをアレンジしたものとされている。
さらにメロディの基は、戦時中の1944年に作曲された管弦楽曲『管絃楽のための音詩「寒帯林」』で見受けられる。これまで「ゴジラのテーマ」の「原曲」として度々言及されてきた『ヴァイオリンと管絃楽のための協奏風狂詩曲』については、その原曲である『ヴァイオリンと管絃楽のための協奏曲』(1948)、『ヴァイオリンと管絃楽のための狂詩曲』(1951)の総譜に、実際には「ゴジラのテーマ」が含まれていなかったことが、近年、複数の研究者によって報告されている。
これら一連の楽曲のメロディは、フランスの作曲家モーリス・ラヴェル (cf.Wikipedia) が作曲した協奏曲『ピアノ協奏曲ト長調』第3楽章と似ているといわれるが、これは、伊福部がラヴェルのファンであり、作曲家として影響を受けていたことが知られていることも論拠になっている。
『ゴジラ(メインテーマ)』、『社長と女店員(オープニングテーマ)』、このほか『ヴァイオリンと管絃楽のための協奏風狂詩曲』の1971年改訂版所収。
「社長と女店員(オープニングテーマ)」所収。
モーリス・ラヴェル「ピアノ協奏曲 ト長調 第3楽章」所収。
シリーズ後発作品での使用
ゴジラのテーマは、ゴジラシリーズの後発作品でも使用されていく。
作品ごとに異なる担当作曲家によって少しずつ異なるアレンジが施されているが、メロディや構成など、おおまかな部分に大きな改変は見られない。
ゴジラアイランド版
ゴジラ版『いえるかな?』の趣のある歌詞なのだが、グリホンなんて超マイナーなやつ(※)がいるのに何故がビオランテがいなかったり、ガニメ、ゲゾラときてカメーバが仲間ハズレにされてたりする。
※怪獣図鑑などで姿を見ることはできたが、当時『緯度0大作戦』はソフト化されていなかった。
ゴジラ2000
本編ではリベンジシーンに一度使われたのみで印象は薄いが、イメージソング『ランランゴジラン』が存在。
ゴジラのテーマに怪獣の名前を並べた歌詞をつけたものと言う意味で『ゴジラアイランド』と似ているが、
数が少ない代わりに、一番は「名前に『ラ』がつく」二番は「名前に『゛』がつく」という共通点で縛られている。
レディ・プレイヤー1
スティーブン・スピルバーグ監督作品の同作品でもアレンジされて使用されている。
ゴジラ キング・オブ・モンスターズ
本作では過去のゴジラのテーマがアレンジされて使用されている。編曲を手がけたのはベアー・マクレアリー。
イントロを含め、メロディ等は原曲を忠実に踏襲している。途中までは。
ところが、中盤を過ぎたころから、曲の雰囲気がガラリと変わり、突然「ハッ! ソイヤ!!」「ゴッ! ジッ! ラッ!」といった謎の合いの手が入り、劇場に足を運んだ多くの視聴者を唖然とさせた(その結果、Twitter等でもゴジラのテーマに対する暗喩として「ソイヤ」というフレーズが使われることとなった)。
カッコいいと取るかダサいと取るかは人次第であろうが、良くも悪くもインパクトのある編曲になったであろうことは間違いない。
ちなみに、この合いの手を収録するために、実際に日本から大勢の若い衆が駆り出されてレコーディングに参加したことが上記の公式動画で明かされている。
一見すると日本感を出すために取って付けたようにも思えるが、そもそも日本のお祭りは神道の神事が源流にあるため、GOD(神)の名を冠するゴジラの曲に祭囃子が用いられるのはそれほど奇異なことではないとも言える。
また、地球の守護神たるゴジラのBGMは日本在来の宗教である『神道』に縁あるフレーズを用いているのに対し、その宿敵たる地球外生物ギドラのBGMは日本では歴史的に見て外来の宗教である『仏教』の般若心経(般若心経は大乗仏教系の宗派でのみ見られる仏典であり、日本の仏教も大乗仏教系である)のフレーズを用いているという構図となっており、むしろ日本の宗教史と風土に対する確かなリサーチと知識に基づいて作曲されていることがうかがえる。
本作ではゴジラのテーマのメロディーを使った曲が複数あるが、なかでも「Battle in Boston」はゴジラのテーマはもともとゴジラに立ち向かう人類のテーマであったという事実を加味した場合、非常に感慨深い使われ方であったという感想もでている。
ゴジラS.P
本作では第10話のクライマックスシーンで流れる。
『VSキングギドラ』から使われたバージョンのアレンジで、コーラスが付き、今までにない神々しいゴジラのテーマとなっている。
アレンジした沢田完曰く、「当時の曲の作り方と今の音楽の作り方は技術的に違うところがあるので、多少音の増強や補強はしたが、大きな変更はしていない」とのことである。
ゴジラ-1.0
同作の楽曲を担当した佐藤直紀氏の手で制作されたバージョンが使われた。
こちらもアレンジは殆どされておらず、一部和声に手が加えられているものの、伊福部氏が書き上げたものをほぼそのまま忠実に演奏している。
作中では、ゴジラが銀座に上陸して破壊活動を行うシーンと、海神作戦での作戦実行部隊とゴジラが対峙するシーンで使われている。前者は『モスラ対ゴジラ』で使用されたもの、後者は『SF交響ファンタジー第1番』の冒頭部分がそれぞれ元となっている。
なお、海神作戦のシーンでは堀田艦長が作戦の開始を告げると同時に楽曲のドシラ~♪パートがスタートするというニクい演出が取られており、正に「ゴジラに立ち向かう人類のテーマ」という本楽曲の原点に立ち返った形となっている。
本作の日本語版主題歌は、「ゴジラのテーマ」を公式にサンプリングした「RISE TOGETHER feat. OZworld」である。
他作品や他分野での使用
特撮映画以外にも、時代劇映画などで、若干メロディを変えて多数使用されている。
また、先述したように本来は「ゴジラに立ち向かう人間のテーマ」であったが、他作品『温泉わくわく大決戦』では、「立ち向かうはずの人間のトラウマを刺激する音楽」として使われた。
読売ジャイアンツの名スラッガー・松井秀喜(1974年 - )は、「ゴジラ」の二つ名で親しまれているが、現役時代には入場の際にゴジラのテーマを使用していた。
また、2024年4月には、ドジャースのホームゲームで、大谷翔平選手のバットアットの際に「ゴジラのテーマ」が流されるという演出が取られたことも。
これは、大谷選手が松井氏のMLB通算175本塁打(日本人最多本塁打記録)を更新することが期待されていたため…ではなく、球場でオルガン演奏を担当していたスタッフが、「大谷選手は大きくて強いから(ゴジラの曲が)相応しいと思った」と考えたためらしい(これに限らず、この年のドジャースは日本人選手が2人も在籍していた事情もあってか、日本のファン向けに「紅蓮の弓矢」や「廻廻奇譚」、「アスレチックステージBGM」(『スーパーマリオワールド』)等、日本のサブカルチャーに絡んだ楽曲をよく演奏していた)。
ゴジラのテーマはその著名さゆえにパロディなどに使われることも多く、板尾創路が『ダウンタウンのごっつええ感じ』にて「板尾係長」というコントで使用したことは有名である。
第96回アカデミー賞授賞式でも、『ゴジラ-1.0』が視覚効果賞を受賞した際にイベント用にアレンジされたものが流れている。伊福部昭の楽曲が世界最高峰の映画の祭典で使用された歴史的な瞬間であり、X(旧Twitter)においても「ゴジラのテーマ」がトレンド入りすることとなった。
緊急地震速報とゴジラのテーマ
緊急地震速報のチャイム音はゴジラのテーマとの類似点を指摘する声は多い。緊急地震速報のチャイムは、「緊急性を感じさせつつ、不安感・不快感を与えない。騒音の下でもお年寄りや難聴者にも聞き取りやすい。さらにどこかで聞いた音に似ていない」などの複数の要件を満たす必要があり、昭のおいにあたる福祉工学者伊福部達が作曲に当たることになった。
達は創作の過程で本作を元にすることも考えたというが、あまりに有名な旋律であったことや恐怖感をあおることから見送られ、最終的には昭の楽曲から、交響曲「シンフォニア・タプカーラ」第3楽章の最初の和音が採用された。
パロディ
往年のファンの中には、このメロディが歌詞付きで「ゴジラ、ゴジラ、ゴジラとメカゴジラ ♪(※以下リフレイン)」と脳内再生されてしまう人が少なからずいる。
上に例示したのは『福岡市ゴジラ』というパロディ曲であるが、1982年~1985年にかけてNHK-FMで放送されていた『坂本龍一のサウンド・ストリート』という番組で放送された「デモテープ特集」で、一般リスナーから送られた作品であった。
これは、件の脳内再生にギャグ要素を加えた作りになっていて、ゴジラとメカゴジラに、モスラ、ラドン、モゲラという、ゴジラシリーズに登場する他のキャラクター(怪獣およびロボット)を追加するに留まらず、サザエさん一家や『アルプスの少女ハイジ』のハイジ達までもが、メカ扱いまでされながら参加してしまうという、カオスな仕上がりになっている。
また、『ゴジランド』の「正調ゴジラップ」という楽曲も、このメロディと歌詞であるが、やはり後半は何かがおかしくなってくる。
脚注
出典
※a 「ゴジラのメロディが現れる協奏風狂詩曲」 HMV&BOOKS online、2014年4月18日作成。
※b 「伊福部昭:ヴァイオリンと管絃楽のための協奏風狂詩曲~第1楽章 [豊嶋泰嗣 / 下野竜也 / 広島交響楽団] Akira Ifukube : Rapsodia Concertante - 1 mov」 広響チャンネル〈Hiroshima Symphony Orchestra〉HSO Channel(YouTube動画)、2021年11月15日作成。※ゴジラのテーマと共通する旋律は12分25秒あたりから始まる。
※c 「評論|伊福部昭―独り立てる蒼鷺―7.間奏曲~『アリオーソ』に導かれて|齋藤俊夫 |」 Mercure des Arts、2024年4月24日作成。