概要
律令国とは、古代に制定された、日本の地域行政区分体系を指す制度である。制度上の呼称は「国」。令制国、あるいは旧国名とも呼ぶ。唐風の通称は「~州」。
国の中は複数の郡に分けられ(平安京などの都は郡に含まれない)、その中は古代では郷に分かれていたが、中世に郷は次第に分解して、より細かい町や村に再編されていった。
歴史
7~8世紀(飛鳥時代)に律令制下で成立したとされる。殊に大宝律令によって確固たる区分が成立したと考えられているが、その先駆けは大化の改新頃に見られ、さらに遡ると古墳時代の各地の豪族の勢力圏をある程度元にしていると考えられている。
平安時代の初期に最終的な枠組みは完成して、以後、明治時代に入り廃藩置県に至るまで長く基本的な地理区分として用いられてきた。江戸時代までの間で多少境界に変更があり、明治初期に北海道にも令制国が設置されたり、陸奥・出羽両国の分割が行われた。廃藩置県後にも府県の分割併合が相次いでいたため、明治時代には地理区分として引き続き使われて、郵便の宛先も律令国基準で有効だった。
現代の日本国が日本列島を47都道府県に分けているように、戊辰戦争までは北海道・小笠原・沖縄を除く日本列島を68ヶ国(「六十余州」「六十六国二島」と通称)に分けて管理していた(戊辰戦争後、北海道編入を経て最終的に84ヶ国に増加)。
奈良時代の律令国家制が成立した当初は都から国衙へ国司が派遣され、地元の有力者である在庁官人を従えていたが、平安時代に入ると国司が代官(目代)を代わりに派遣する例も出てきて、後期には知行国として上流~中流の公家に割り振り、知行国主が配下の貴族(上級武士を含む)を国司にするようになった。貴族の荘園が平安時代には増えていくが、荘園でない地域(公領)との割合はだいたい1:1で、荘園も国司からの干渉を完全に拒めるわけではなかった。
鎌倉時代になると鎌倉幕府が警察権を持つ守護を国(もしくは郡)に設け、鎌倉幕府との関係を持つ御家人(特に御家人になった在庁官人)や、鎌倉幕府が持つ知行国により、国司の権限が次第に浸蝕されていく。特に元寇以後は、御家人でない武士も幕府の指揮権下に入るようになった。
南北朝時代には、北朝で室町幕府が守護の権限を大幅に強化した(守護大名)ため、国司の存在がほぼ有名無実になり、室町時代末、俗に言われる戦国時代には分国法によって完全に有名無実となった。
行政組織としては廃れる一方で、地域区分としては相変わらず律令国の呼称が用いられていた。大名の領地区分や町・村の所在地を示す呼称は律令国基準であり、幕府や大名が設けた行政組織が地理区分に取って代わることもなかった。
また、律令国が定められた当時には都(奈良や京都)からの距離によって「畿内」「近国」「中国」「遠国」、国力によって「大国」「上国」「中国」「下国」にそれぞれ分けられていた。中国地方は、距離による「中国」からそう呼ばれるようになった。
そして
現在でも地域区分のひとつとして使われる場合があり、「旧国名」とも呼ばれるが、公的に廃止されたわけではないので、植物・鉱物などの採取地に国名・郡名を使う習慣は長く残った。現代においても例えばとらのあな本店の所在地について古来の地名を用いて「武蔵国豊島郡神田郷」などと表記するのも、一応は間違いではない。ただし国境(や郡境)は意外とあちこちで変更されているし、東京スカイツリーのように中世と近世で国境・郡境が異なる場所や(少なくとも最終変更後は武蔵国ではあるので高さの由来とは合う)、東京ビッグサイトのようにそもそも海だった場所(この場合は江東区のため延長で言えば武蔵国葛飾郡)では無理が出てくる。
また、地域の名産品名や設置される施設名、地域そのものの呼称(例:讃岐うどん、大和郡山、陸前高砂、信州大学等)にも良く使用されている。
旧大日本帝国海軍においては正規戦艦(及びそれから改造された空母)の名称に旧国名が採用された(大和、長門、加賀など)。このため、旧国名タグが付いたイラストの中には各艦を描いたものもある。2013年春以降『艦隊これくしょん』の戦艦娘のイラストに旧国名タグがそのままつけられている事例も増えているため、検索時には注意を要する(なお「艦名(艦隊これくしょん)」タグで一応の区分がされつつある)。
なお、近代に入ってからも正式な廃止をされておらず、帝国議会開設後は法律を根拠として改正がされており、最終改正は1902年の「京都府下国界並郡界変更法律」という法律によるものである。
現在の使用例
- 都道府県と令制国の領域がほぼ一致する場合、その別称として使われる。長野県=信州(信濃の通称)など。
- 都道府県が複数の令制国からなる場合の地域名や、旧令制国の地域へ向かう鉄道路線・列車名等として使われる。
- 同一名称の駅名を区別するため頭に令制国名が使われる。
- 市町村名の頭あるいは名そのものに使われる。
など。
外部リンク
関連タグ
国名
五畿七道
以下が五畿七道の一覧。
道は上記の律令国を数国、内包する広域の行政区分。
道の呼称については、その道の主要部分を通る著名な街道(江戸時代の五街道など)といくつか重複(もしくはニアピン)する。
以下、弘仁14年(823年)から明治元年(1869年)までにおける区分に基づき、北・東から順に記載する。
国名 | 州名 | 国名略称 | 国力区分 | 距離区分 |
---|---|---|---|---|
陸奥国 | 奥州 | 陸奥 | 大国 | 遠国 |
出羽国 | 羽州 | 出羽 | 上国 | 遠国 |
下野国 | 下野州、或いは野州 | 下野 | 上国 | 遠国 |
上野国 | 上州、或いは上毛 | 上野 | 大国 | 遠国 |
信濃国 | 信州 | 信濃 | 上国 | 中国 |
飛騨国 | 飛州 | 飛騨 | 下国 | 中国 |
美濃国 | 濃州 | 美濃 | 上国 | 近国 |
近江国 | 江州 | 近江 | 大国 | 近国 |
※奈良時代の一時期、陸奥国から分離して石背国、石城国が設置された。後に陸奥国へ再統合。
※戊辰戦争後、陸奥国は陸奥国、陸中国(陸中)、陸前国(陸前)、磐城国(磐城)、岩代国(岩代)に分割される。
※同様に、出羽国は羽後国(羽後)、羽前国(羽前)に分割される。
※奈良時代の一時期、信濃国から分離して諏方国が設置された。後に信濃国へ再統合。
国名 | 州名 | 国名略称 | 国力区分 | 距離区分 |
---|---|---|---|---|
佐渡国 | 渡州 | 佐渡 | 中国 | 遠国 |
越後国 | 越州(越中、越前を併せて呼ぶことも) | 越後 | 上国 | 遠国 |
越中国 | 越州(越後、越前を併せて呼ぶことも) | 越中 | 上国 | 中国 |
能登国 | 能州 | 能登 | 中国 | 中国 |
加賀国 | 加州 | 加賀 | 上国 | 中国 |
越前国 | 越州(越後、越中を併せて呼ぶことも) | 越前 | 大国 | 中国 |
若狭国 | 若州 | 若狭 | 中国 | 近国 |
※加賀国は平安時代になって越前国から分割された、戊辰戦争以前では成立が一番遅い国。
国名 | 州名 | 国名略称 | 国力区分 | 距離区分 |
---|---|---|---|---|
常陸国 | 常州 | 常陸 | 大国 | 遠国 |
下総国 | 総州(上総と併せて呼ぶことも)、或いは北総 | 下総 | 大国 | 遠国 |
上総国 | 総州(下総と併せて呼ぶことも)、或いは南総 | 上総 | 大国 | 遠国 |
安房国 | 房州 | 安房 | 中国 | 遠国 |
武蔵国 | 武州 | 武蔵 | 大国 | 遠国 |
相模国 | 相州 | 相模 | 上国 | 遠国 |
甲斐国 | 甲州 | 甲斐 | 上国 | 中国 |
駿河国 | 駿州 | 駿河 | 上国 | 中国 |
伊豆国 | 豆州 | 伊豆 | 下国 | 中国 |
遠江国 | 遠州 | 遠江 | 上国 | 中国 |
三河国 | 三州 | 三河 | 上国 | 近国 |
尾張国 | 尾州 | 尾張 | 上国 | 近国 |
伊勢国 | 勢州 | 伊勢 | 大国 | 近国 |
伊賀国 | 伊州 | 伊賀 | 下国 | 近国 |
志摩国 | 志州 | 志摩 | 下国 | 近国 |
※山城の別名「雍州」は、長安が所属していた州の名称。
国名 | 州名 | 国名略称 | 国力区分 | 距離区分 |
---|---|---|---|---|
丹波国 | 丹後と併せて、或いは単独で丹州 | 丹波 | 上国 | 近国 |
丹後国 | 丹波と併せて、或いは単独で丹州。あるいは北丹、奥丹 | 丹後 | 中国 | 近国 |
但馬国 | 但州 | 但馬 | 上国 | 近国 |
因幡国 | 因州 | 因幡 | 上国 | 近国 |
伯耆国 | 伯州 | 伯耆 | 上国 | 中国 |
出雲国 | 雲州 | 出雲 | 上国 | 中国 |
石見国 | 石州 | 石見 | 中国 | 遠国 |
隠岐国 | 隠州 | 隠岐 | 下国 | 遠国 |
国名 | 州名 | 国名略称 | 国力区分 | 距離区分 |
---|---|---|---|---|
播磨国 | 播州 | 播磨 | 大国 | 近国 |
美作国 | 備前、備中、備後と併せて備州 | 美作 | 上国 | 近国 |
備前国 | 備中、備後、美作と併せて備州 | 備前 | 上国 | 近国 |
備中国 | 備前、備後、美作と併せて備州 | 備中 | 上国 | 中国 |
備後国 | 備前、備中、美作と併せて備州 | 備後 | 上国 | 中国 |
安芸国 | 芸州 | 安芸 | 上国 | 遠国 |
周防国 | 防州または周州 | 周防 | 上国 | 遠国 |
長門国 | 長州 | 長門 | 中国 | 遠国 |
※「長州」が長門国のみならず周防国を合わせた領域として用いられる場合もあるが、これはあくまで長門国萩城に藩庁を置いた「長州藩」が周防国も支配していたからであり、律令国そのものとは直接的には無関係である。
国名 | 州名 | 国名略称 | 国力区分 | 距離区分 |
---|---|---|---|---|
筑前国 | 筑後と併せて、または単独で筑州 | 筑前 | 上国 | 遠国 |
筑後国 | 筑前と併せて、または単独で筑州 | 筑後 | 上国 | 遠国 |
豊前国 | 豊後と併せて、或いは単独で豊州。両国を指して二豊 | 豊前 | 上国 | 遠国 |
豊後国 | 豊前と併せて、或いは単独で豊州。両国を指して二豊 | 豊後 | 上国 | 遠国 |
日向国 | 日州、或いは向州 | 日向 | 中国 | 遠国 |
大隅国 | 隅州 | 大隅 | 中国 | 遠国 |
薩摩国 | 薩州 | 薩摩 | 中国 | 遠国 |
肥後国 | 肥前と併せて、或いは単独で肥州 | 肥後 | 大国 | 遠国 |
肥前国 | 肥後と併せて、或いは単独で肥州 | 肥前 | 上国 | 遠国 |
壱岐国 | 壱州 | 壱岐 | 下国 | 遠国 |
対馬国 | 対州 | 対馬 | 下国 | 遠国 |
※奈良時代に多禰国が設置されたが、平安時代初期に大隅国へ併合。
五畿八道
戊辰戦争後には、これに北海道が加わった。
北海道が置かれてからは五畿八道。
国名 | 州名 | 国名略称 | 距離区分 |
---|---|---|---|
渡島国 | 渡州 | 渡島 | 遠国 |
後志国 | 後州 | 後志 | 遠国 |
胆振国 | 胆州 | 胆振 | 遠国 |
日高国 | 日州 | 日高 | 遠国 |
石狩国 | 石州 | 石狩 | 遠国 |
天塩国 | 天州 | 天塩 | 遠国 |
北見国 | 北州 | 北見 | 遠国 |
十勝国 | 十州 | 十勝 | 遠国 |
釧路国 | 釧州 | 釧路 | 遠国 |
根室国 | 根州 | 根室 | 遠国 |
千島国 | 千州 | 千島 | 遠国 |
その他
※律令制とは別に旧琉球王国のうち奄美群島を除いた地域(現在の沖縄県に相当)を指して琉球国(本来は琉球王国の正式名称)とする事もある。尚、江戸期の琉球は中々に複雑なので薩摩島津家による琉球の役を参考にして頂きたい。
※小笠原諸島に関しては通常どの律令国にも含められていない。
※樺太庁の統治下において、旧国名を記載する必要がある際には、こちらも沖縄県の琉球国と並んで便宜上「樺太国」と記載する事もあった。