概要
多くの植物が動物の食害から防御するためにアルカロイドなどの毒性成分を含んでいる。しかし、植物毒の生理活性は非常に多様であり、中には薬用として使われるものも少なくない。
食用のものでも毒を含んだ植物は多くある。例えばジャガイモは芽や緑色に変わった部分はソラニンという毒を含んでいるし、梅も生の未熟果(いわゆる「青梅」)や仁(種子の中身。「さね」と読む)にアミグダリンという毒成分を含むことが知られ「梅は食うとも仁食うな 中に天神寝てござる」ということわざがある。大豆やインゲン豆などの食用マメ類も有毒な酵素を含んでいるが、加熱すれば無害である。
無毒あるいはそれに近いものであっても過剰摂取すれば大抵は体に悪影響を及ぼすため、厳密にどこからどこまでが有毒植物なのかと決めるのはなかなか難しい。また、アルカロイドの代謝能力には個人差も少なからず関係してくる。コーヒーや茶に含まれるカフェインは多くの人が日常的に摂取しているが、代謝能力に乏しい人はカフェインを少量摂っただけで脈拍数や呼吸数の増加など、カフェイン中毒の症状が現れる。
有毒・無毒の基準はそれを摂取する動物によっても違ってくる。例えば、タマネギやニラなどのネギ属植物は我々人間を含む霊長類にとってほぼ害のない野菜であるが、犬や猫などの食肉類にとっては有害である。除虫菊に含まれるピレトリンは昆虫にとっては猛毒であるが、哺乳類や鳥類への毒性は低いため殺虫剤の原料に使用されてきた。いずれにしても、人間以外の動物に毒性のある植物であっても、人間にとって無害であれば、普通は有毒植物とは言わない。
ソバやマンゴーなどの植物は人によってはアレルギー反応を引き起こしやすく、体質や摂取量によっては死亡することもあるが、これらは多くの人にとっては無害なので有毒植物ではない。
毒を含んだ植物は非常に多い。この記事の一覧は抜けが多い上、毒性が弱くまず中毒しないもの、普通は食用としない部分の毒性を説明しているなど有毒な食用・栽培植物についてのトリビアめいた記載が多く、あまり調べものの役には立たない。有毒植物の判別などは専門書を当たっていただきたい。
有毒植物一覧
(★マークは死亡例のある猛毒植物、太字は一部が有毒部を取り除くか毒抜きすれば食べられる植物、カッコ内は有毒な部分)
ア行
- ★アオツヅラフジ(全草、特に果実)
- アサ(種子以外の全草。麻薬及び向精神薬取締法で栽培が禁止されている)
- アサガオ(種子)
- アジサイ(葉)
- ★アセビ(木本全体)
- アブラギリ(種子)
- アンズ(未熟果、種子)
- ★イチイ(仮種皮以外の全体)
- イチョウ(仮種皮)
- ★イヌサフラン/コルチカム(全草、特に球根)
- イボガ(根。幻覚性の毒)
- ★ウパス(樹液、矢毒に利用)
- ウマノアシガタ(全草)
- ★ウマノスズクサ(全草)
- ★ウメ(未熟果、種子)
- ウラシマソウ(全草)
- ウルシ(葉や樹皮、漆も乾燥が十分でないとかぶれを引き起こす)
- エゴノキ(果実。かつては魚毒に利用されたが現在は違法)
- エニシダ(花の蜜)
- エンレイソウ(全草)
- オオハンゲ(全草)
- ★オオミフクラギ(木本全体、特に種子)
- ★オキナグサ(全草)
- ★オキナワスズメウリ(果実)
- オトギリソウ(全草、特に茎の汁)
- オニドコロ(芋、ムカゴ)
- ★オモト(全草)
カ行
- カート(別名はアラビアチャノキ、葉に陶酔性あり)
- ★カラバルマメ(種子)
- カロライナジャスミン(木本全体)
- キキョウ(根)
- キャッサバ(根)
- ★キョウチクトウ(樹木全体)
- ★ギンピ・ギンピ(植物体のトゲ)
- クサノオウ(全草、特に草の汁)
- クララ(全草)
- ★クラーレ(樹木全体、矢毒に利用される。ツヅラフジ科の蔓性木本の「コンドデンドロン・トメントースム」とマチン科の低木の「ストキリノス・トキシフェーラ」の2種類が「クラーレ」という名称を持つ)
- ★グロリオサ(全草、特に根茎)
- ケシ(種子以外の全草、麻薬及び向精神薬取締法で阿片ケシの栽培は禁止されている。ただし、オニゲシやオリエンタルポピーなどの幻覚成分がほとんど含まれない品種は栽培可能)
- ケマンソウ(全草)
- ★ゲルセミウム・エレガンス(木本全体)
- ★コバイケイソウ(全草)
- コマクサ(全草)
- ★コヨティロ(木本全体、特に果実。ナツメに近縁のクロウメモドキ科の木本植物だが、我が国には産しない。家畜や人間に有毒で、摂取から発症まで時間差がある。症状は、異常行動や衰弱を経て、死に至る)
- ★コンフリー/ヒレハリソウ(全草。2004年まで健康野菜として利用されていたが、肝硬変などの症状を引き起こした事例があり、現在は有毒植物として扱われる)
サ行
- ザクロ(果皮)
- ★ザゼンソウ(全草。我が国のものは濃い赤紫色だが、北米のスカンク・キャベッジと呼ばれる黄花の品種は致死性が日本産のものに比べて高い)
- ★サワギキョウ(全草)
- ★シキミ(木本全体)
- ★ジギタリス(全草)
- ジャイアント・ホグウィード(全草。樹液に触れると植物性光線皮膚炎になり、炎症の跡は数年間残る。目に入ると失明する)
- ジャガイモ(葉及び緑化したイモ)
- スイセン(全草、特に葉や球根)
- ★スズラン/ドイツスズラン(全草)
- ★ストロファンツス(種子、矢毒に利用。経口では毒性を示さないため、矢毒に汚染された肉を食べても問題ない)
- スモモ(未熟果、種子)
- セロリ(フラノクマリンやシュウ酸などの毒性のある物質を含む。通常の体質の人であれば食用にしてまず問題がないが、体質によってはセロリを食べたあと、痛みを伴う酷い日焼けをすることがある。また、畑仕事のさなか収穫したセロリの腐った部分を素手で触っても、類似の症状が起きる)
- センニンソウ(汁液)
- ★ソテツ(木本全体、特に種子)
タ行
- タガラシ(全草)
- タケニグサ(全草)
- タバコ(全草。喫煙用のタバコ栽培は免許を取得してからでないと違法である。また、一昔前に栽培が解禁された観賞用のハナタバコ、いわゆるニコチアナという園芸名で知られる品種も喫煙用タバコほどではないものの有毒成分を含む。)
- チューリップ(全草、特に球根や草の汁、ただし毒の無い食用種も存在する)
- ★チョウセンアサガオ類/ダチュラ(全草、キダチチョウセンアサガオ、いわゆるエンゼルストランペットやブルグマンシアも同様)
- ツタウルシ(木本全体)
- ツツジ類(花の蜜)
- ディフェンバキア(草の汁)
- ★デスカマス(全草)
- テッポウウリ(果実)
- デルフィニウム(全草)
- ★トウゴマ(種子)
- ★ドクウツギ(木本全体)
- ★ドクゼリ(全草)
- ★ドクニンジン(全草)
- ドクムギ(種子。本来はドクムギの植物体そのものに毒性があるわけではなく、種子に有毒な菌が寄生することによる)
- トマト(未熟果、熟した果実以外の全草)
- ★トリカブト(全草)
ナ行
- ナス(果実以外の全草)
- ナンテン(葉)
- ニガウリ(完熟果や種子を多食すると嘔吐や下痢を引き起こす)
- ニガカシュウ(芋、ムカゴ)
- ニガヨモギ(全草。陶酔成分を含んでいて、アブサンの原料として知られる)
- ニチニチソウ(全草。茎の汁が肌に触れると軽い痛みが走ることがある)
- ニワトコ(果実。生食では有毒なのでジャムや果実酒にする)
- ヌルデ(樹皮。ウルシほどひどくはないが、触ると皮膚がただれて痛む)
- ノウルシ(全草)
ハ行
- ★バイケイソウ(全草)
- パイナップル(未熟な果実を食べるとひどい下痢を引き起こす)
- ハッカクキリン(樹液。化学成分を含んでおり、樹液に触れると皮膚が爛れる)
- ハシリドコロ(全草、特に新芽)
- ハズ(巴豆、種子)
- ハリエンジュ/ニセアカシア(葉、果実、樹皮。花は山菜として食用にすることがある)
- ヒカマ(マメ科の根菜。種子)
- ★ヒガンバナ(全草。球根が一番危険)
- ヒョウタン/ユウガオ(果実。ウリ科特有のククルビタシンという有毒成分が含まれ、猛烈な苦味を持つ成分である。カボチャやズッキーニでもククルビタシンによる中毒例がある)
- ヒョウタンボク(果実)
- ★ヒヨス(全草)
- ビンロウ(果実。果実をキンマ(コショウ科)の葉や石灰とともに噛み続けると陶酔感を覚えるが、摂取し続けると癌になるリスクが高まる)
- ★フクジュソウ(全草)
- フジ(藤、種子)
- ★ベラドンナ(全草)
- ペヨーテ(全草、幻覚性成分のメスカリンを含むサボテンであるが、日本の多肉植物専門店や園芸店で扱われているものにはほとんど含まれない。一名を烏羽玉という)
- ホウチャクソウ(全草)
- ポインセチア(樹液。1914年にハワイで少女がこの植物で中毒死したという記録があるが、現在ではごく弱い、樹液に触れると皮膚が痒くなるくらいの毒性しか含まれていないとされる)
マ行
- マダガスカルジャスミン(木本全体、ただし中毒例の報告はなし)
- ★マチン(種子。この植物に含まれるストリキニーネは致死性の高い猛毒)
- マムシグサ(全草)
- マユミ(種子)
- ★マルバフジバカマ(全草。乾燥させた植物体の標本にも毒素が残留する)
- ★マンチニール(果実含め幹や葉の全体に非常に危険な毒性を持つ樹木でギネスにて世界一危険な木と認定されている)
- ★マンドレイク(全草。その強力な毒性から様々な伝説が生まれた)
- ミトラガイナ(葉、葉をチューイングガムのように噛み続けると一種の陶酔や興奮を覚える。日本では数年前に法規制がかかり始めた)
- ミドリサンゴ(全草)
- ムサシアブミ(全草)
- モモ(未熟果、種子。また、人によっては果実表面の産毛に触ると皮膚に痒みを覚えることがある。)
- モロヘイヤ(種子。茎にもごく微量の毒性があるが、無視しても問題ないレベルである)
ヤ行
ラ行
- ライチ(未熟果)
- ★ラットベイン(モノフルオロ酢酸塩という非常に珍しい致死性の高い毒素を含む。この植物を食べた動物が死んだ後も毒素が体内にとどまり、捕食者が動物を食べると、捕食者が毒を受けるなどの食物連鎖が続く)
- ラナンキュラス(草の汁)
- ランタナ(全草)
- リュウキュウハンゲ(全草)
- レンゲツツジ(花の蜜)
- ★ローレルジンチョウゲ(全草)
ワ行
有毒植物による中毒を避けるには
有毒植物は非常に多いものの、摂食による中毒例の多い種はある程度限られる。スイセンとニラなど、食用の植物とよく似た見た目の有毒植物の取り違えによる中毒事例が多い。スイセンの葉はやや厚みがあって、葉の先は丸くなっている他、独特の臭気がないことが特徴としてあげられる。一方、ニラの葉は薄くて先端が尖っており、独特の臭気がある。一般的な見分け方がまるでない毒キノコよりは見分けはやさしい。
また、上述の通り、人間にとっては無害なものでも、他の動物にとっては有毒となりうる植物も多い。例えば、アボカドに含まれる「ペルシン」という成分は、犬猫や牛馬、鳥類など他の多くの動物にとっては致命的になりえる(人間にとってもアレルギー原因物質となりえることが指摘されている)。また、犬が鉢植えのユリをかじってしまったことで舌が腫れ上がり、ものを飲み込むのに難儀したという事例もある。ペットの目の前にはそうした植物を置かないよう心がけねばならない。転じて農地では獣鳥害や虫害への対策として有毒植物(できれば人間には無害)を活用する試みもある。
有毒植物による症状は経口だけでなく、樹液などをうっかり素手で触ってしまい、皮膚が腫れたり爛れたりする場合もいう。
皮膚炎を引き起こす有毒植物は園芸植物に多く見られ、手入れの最中にこうした事故を経験することが多い。
事故のリスクを避けるには、花きなどを扱う際には素手ではなく、ゴム手袋を使用するべきである。また万一皮膚に汁液がついたしまった場合はしっかりと洗い流すこと。ただ、品種によっては、完全に洗い流せたように思えても実際は極微量の汁液が残っていて、皮膚炎などの症状を引き起こす場合がある。やたら皮膚の赤みが強かったり、いつも以上に強いかゆみなどを感じるなど、少しでも様子がおかしいと思ったら、早めに皮膚科に行きましょう。