オグリキャップ復活、ラストラン。
―2011年JRA CM「有馬記念」より
※馬齢は2000年までの旧表記で記載する。
本番までの動き
当時の競馬界を牽引していた平成三強のうち、イナリワンは宝塚記念を最後に引退、スーパークリークは京都大賞典を勝利するも繋靭帯炎で引退に追い込まれ、残るはオグリキャップのみとなっていた。
しかし、そのオグリも既にピークを過ぎており、安田記念こそ勝利するも、宝塚記念ではオサイチジョージに敗れ、天皇賞(秋)ではヤエノムテキの6着、そしてジャパンカップは11着に敗れており、ファンの間でもいよいよ引退ではと囁かれ「オグリは終わった」という声も上がっていた。
そして有馬記念を最後のレースと決め、鞍上も直近2戦の増沢末夫から安田記念でコンビを組んだ武豊に託された。
一方、この年のクラシックを走った4歳世代は、皐月賞馬ハクタイセイ、ダービー馬アイネスフウジン(既に引退)、菊花賞馬メジロマックイーンはいずれも登録していなかったため、ダービー2着馬メジロライアンが出走。オークス馬エイシンサニー、エリザベス女王杯優勝馬キョウエイタップも出走した。
出走馬
枠番 | 馬番 | 馬名 | 性齢 | 騎手 | 人気 | 主な勝鞍 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | オースミシャダイ | 牡5 | 松永昌博 | 12 | ’90阪神大賞典、’90日経賞 |
1 | 2 | ヤエノムテキ | 牡6 | 岡部幸雄 | 6 | ’88皐月賞、'90天皇賞(秋)、'88京都新聞杯、'88鳴尾記念、'89産経大阪杯 |
2 | 3 | オサイチジョージ | 牝5 | 丸山勝秀 | 5 | ’90宝塚記念、'89神戸新聞杯、'89中日スポーツ賞4歳S、'90金杯(西)、'90中京記念 |
2 | 4 | ランニングフリー | 牡8 | 菅原泰夫 | 9 | '90AJCC、'90日経賞、’86福島記念 |
3 | 5 | メジロライアン | 牡4 | 横山典弘 | 3 | ’90弥生賞、’90京都新聞杯、【'91宝塚記念】、【'92日経賞】 |
3 | 6 | サンドピアリス | 牝5 | 岸滋彦 | 15 | ’89エリザベス女王杯 |
4 | 7 | メジロアルダン | 牡6 | 河内洋 | 2 | ’89高松宮杯 |
4 | 8 | オグリキャップ | 牡6 | 武豊 | 4 | ’88有馬記念、’89マイルCS、’90安田記念、’88NZT4歳S、'88高松宮杯、'88/'89毎日王冠、'88ペガサスステークス、'88毎日杯、'88京都4歳特別、'89オールカマー |
5 | 9 | キョウエイタップ | 牝4 | 柴田善臣 | 10 | ’90エリザベス女王杯、’90サンスポ賞4歳牝馬特別 |
5 | 10 | ミスターシクレノン | 牡6 | 松永幹夫 | 13 | ’89鳴尾記念 |
6 | 11 | リアルバースデー | 牡5 | 大崎昭一 | 8 | (’89日本ダービー2着) |
6 | 12 | エイシンサニー | 牝4 | 田島良保 | 16 | ’90優駿牝馬、'90フィリーズレビュー |
7 | 13 | ホワイトストーン | 牡4 | 柴田政人 | 1 | '90セントライト記念、【'91産経大阪杯】、【'93AJCC】 |
7 | 14 | ゴーサイン | 牡4 | 南井克巳 | 7 | '90桂川S(1500万下) |
8 | 15 | カチウマホーク | 牡5 | 的場均 | 11 | ’90鳴尾記念 |
8 | 16 | ラケットボール | 牡6 | 坂井千明 | 14 | '90オールカマー |
レース展開
↑NHK版
実況:藤井康生(東京アナウンス室)、解説:鈴木康弘(調教師)
↑JRA公式
(2:15から)
「400の標識を通過!第4コーナーカーブ!
オサイチジョージ!そしてオグリキャップ!
オグリキャップが先頭に並んできた!
中を突いてメジロアルダン!
ホワイトストーンは内!ホワイトストーンは内!
先団4頭…あっアルダンがちょっと下がるか!
メジロ…ライアンが外から来た!ライアンが来た!
200を切って、オグリキャップ!オグリキャップ!
さあ頑張るぞ!オグリキャップ!!
オサイチジョージ!ホワイトストーン!そしてメジロライアン!
オグリだ!オグリだ!オグリキャップ!
オグリキャップ優勝!ゴールイン!!
オグリキャップです!ファンの夢をここで実現したオグリキャップ!
最後の最後を飾りました!堂々の優勝であります!」
↑フジテレビ版
(フジテレビ版上記動画8分50秒より)
「さあ、澄み切った師走の空気を切り裂いて、最後の力比べが始まります!
さあオグリ!オグリが上がっていった! そして、その内側にす~っとリアルバースデー!
リアルバースデー、さあオグリが行った! 武豊が行った!さあ第4コーナー!内でオサイチ頑張った!
そしてアルダン!アルダン!アルダン先頭か! オグリ先頭に立つか!
第4コーナー回って直線!大歓声です!
さあオグリキャップ!先頭に立つか!先頭に立つか!
オグリキャップ先頭に立つか!さあ内で頑張った!オサイチ頑張った!
オグリキャップ!オグリキャップ先頭か!オグリキャップ先頭か!
200を切った!オグリキャップ先頭!(ライアン!)
オグリキャップ先頭!オグリキャップ先頭! そして、そして、(ライアン!)
来た来た!ライアン来た!
ライアン来た!しかし、オグリ先頭!オグリ先頭!ライアン来た!ライアン来た!オグリ先頭!
オグリ1着!オグリ1着!オグリ1着!オグリ1着! 右手を上げた武豊(※)!オグリ1着!オグリ1着!
見事に引退レース、引退の花道を飾りました! スーパーホースです!オグリキャップです!
・・何とも言えない歓声が、オグリコールに変わりました!
中山競馬場、ゴール板前のお客さんからはオグリコール!右手上げてオグリコールです!」
※実際には武は左手を上げていた。
レース結果
着順 | 枠番 | 馬番 | 馬名 | 着差 |
---|---|---|---|---|
1 | 4 | 8 | オグリキャップ | 2分34秒2 |
2 | 3 | 5 | メジロライアン | 3/4 |
3 | 7 | 13 | ホワイトストーン | クビ |
4 | 2 | 3 | オサイチジョージ | 1/2 |
5 | 1 | 1 | オースミシャダイ | 3/4 |
払い戻し
単勝 | 8 | 550円 |
---|---|---|
複勝 | 8 | 250円 |
複勝 | 5 | 160円 |
複勝 | 13 | 140円 |
枠連 | 3-4 | 720円 |
武親子の物語
競馬史上に残るこのラストランの背後には、オグリの鞍上・武豊と、その父親・武邦彦との親子の絆の物語がある。
元々豊は本レースにおいてはオグリではなく、邦彦が管理する1枠のオースミシャダイに騎乗する予定だった。このため当初オグリへの騎乗依頼が来たときは嬉しさよりも困惑のほうが強かったという。困り果てた末、邦彦に相談したところ、邦彦からは「そりゃあお前、オグリに乗れ。こんな機会二度とないかもしれんぞ。オースミシャダイのオーナーには俺が話をつけとくから。だから、お前はオグリに乗れ」と言われたのだった。
このとき邦彦は調教師としてではなく、「あのような馬に乗せてもらえるのは騎手だった自分でも体験したことがない。オグリのような名馬に乗る貴重な体験を積ませることが豊の今後の人生の糧になるのではないか」と考えた結果、父親として豊の背中を押したのである。
豊は結局オグリの騎乗依頼を引き受けることにしたものの、調教を始めた際は安田記念のときとは打って変わって、すっかりやる気をなくしていた。そこで豊は、併せ馬を中心とした調教にすることを陣営に提案、更には邦彦に「オグリに気合い入れ直すの手伝ってくれへんか?」と相談した結果、その併せ馬の相手にオースミシャダイが選ばれた。
その工夫の結果、オグリは少しずつ調教で調子を取り戻していたが、レース前も気の抜けた様子を見せたため、豊はオグリに「しっかりせぇ! お前、自分を誰や思っとんねん。オグリキャップやで!」と声をかけ発破をかけた。
また、調教助手も有馬記念の数日前にオグリが勝つ夢を見た、厩務員もオグリが秋天以上の力で力強く引っ張ってくるという反応を見て、「ひょっとするとひょっとするかも」と囁き合った、という。本当に『神はいた』のかもしれない。
その他
解説の大川慶次郎は、実況の大川和彦がオグリキャップしか言わない実況になっていたことから「メジロライアンも来ているぞ!」という意味で「ライアン!」と叫んだのだが、それを本人曰く「明石家さんまが面白おかしく言うものだから」、「大川と言えばメジロライアン」というイメージが広まった。
ラジオたんぱ(現:ラジオNIKKEI)の実況を担当した白川アナウンサーは、上記の実況で「さあ頑張るぞオグリキャップ」という言葉を残している。これは、観客の女性がオグリに声援を送るのを聞き、「さあ頑張れオグリキャップ」と言いかけたが、特定の馬の応援をするのはよくないと思い直して言ったのが「さあ頑張るぞオグリキャップ」だったとのこと。冒頭のCMでも、最後の直線での実況(200を切って~から、オグリキャップ優勝!のところまで)が使われている。
JRAはオグリキャップの人気を受け、翌1991年より、単勝と複勝に馬名を表記するようになった。
3着のホワイトストーンは後にトウカイテイオー奇跡の復活として名高い第38回有馬記念にも出走。第35回と第38回の両方に出走した唯一の馬となった。
2021年2月17日にエイシンサニーが死去したことにより、消息が判明しているすべての出走馬がこの世を去った。
ちなみに、このレースの警備に当時JRA職員だった柔道家の小川直也氏も参加していたという。ファンが中山競馬場に押しかけて巡回できなくなってしまったが、たまたまレースの見える場所だったのでその場で観戦したそう。
他、TBSのテレビ番組の企画で歌手の森口博子がオグリキャップの単勝馬券を1万円買い、的中させて5万5000円の配当だった(換金はしていない)。JRAとガンダムがコラボした際にもインタビューで森口はこのレースに触れている。
オグリキャップに騎乗した武豊は当時21歳9ヶ月9日で有馬記念最年少勝利記録を達成した。そして武は本レースから33年後の2023年12月24日の第68回有馬記念をドウデュースで勝利し54歳9ヶ月10日で有馬記念最年長勝利記録を達成。有馬記念の史上最年長勝利記録と史上最年少勝利記録の両方を保持することとなった。
ウマ娘
ゲーム『ウマ娘プリティーダービー』においても、オグリキャップの特殊実況として、上記の大川和彦アナウンサーの実況が引用されている。
関連タグ
【前回】1989年/第34回:イナリワン
【次回】1991年/第36回:ダイユウサク