異類婚姻譚
いるいこんいんたん
もしかして:本谷有希子による小説 → 異類婚姻譚(本谷有希子)
概要
動物、精霊、妖怪、神など、人間以外の者との恋愛や婚姻(結婚)を主題とした説話の総称。世界レベルで見ると、お相手となる存在は実に多種多様。
日本でよく知られている例としては、「鶴の恩返し」や「雪女」など。
日本の話には「見るなのタブー」が頻繁にみられる(参照)。
両者が引き裂かれたり悲しい結末を迎えるものが多く、トントン拍子に幸せな結末を迎えるものは稀である。元々幸せな人間の恋人同士を異類が化かして引き裂く(「お浪草」)、強制的に人間を引き込む(「乙女湯」、「笛吹沼と蛇喰見」、「ふき姫物語」、馬婿)、「白馬岳の魔神」のようにもっと暴力じみた話など、かなりのバッドエンドも見られる。屋久島の「乙女が石」では、猿に命を助けられた娘が猿と共に消え、娘を好いていた男が自死するというパターン。
ヨーロッパやインドなどには、「キューピッドとブシケー」型とされる、男の神が通い婚をし、一度は破局するが人間側の努力で元に戻る、などハッピーエンドの話も少なくない。
中国には、日本の話のモチーフになったとされる話も多い。幽霊との婚姻があるのが特徴。
様々な神話や物語などに見られる人ならざる者と人間との「ハーフ」や末裔などにも、当然異類同士の婚姻を経て産まれた者たちもいる。人ならざる者同士の間の子らも。
日本の異種婚説話
日本神話。火遠理命(人間)と豊玉毘売命(女神)の婚姻が描かれている。豊玉毘売命の正体は『古事記』では鮫、『日本書紀』では龍。この2人の孫が初代天皇(神武天皇)とされている。
・酒呑童子
ヤマタノオロチと人間の間の子だという説もある。
いわゆる七夕。もとは中国に伝わる「天河配」。
人間の男に助けられた鶴が、人間の女に姿を変えて嫁いでくる。
・浦島太郎
浦島太郎(人間)と乙姫(海神の姫)との結婚が描かれている。
・雪女
日本各地に伝わる昔話。婚姻譚以外にもさまざまなパターンがある。つらら女も、どこか似ている部分がある。
・羽衣伝説
天女と 人間の男の婚姻譚。最終的に妻は天に帰ってしまう。妻が子供を連れて行くパターンと子供が残るパターンがある。日本のみならず、アジアや世界全体に見うけられる。
滝沢馬琴による長編伝奇小説。大名の娘伏姫と 犬の八房の結婚が描かれている。
・海神別荘
人間の男に助けられた白狐が 人間の女に姿を変えて男と恋仲になる。ふたりは結婚し、子をもうける。やがて正体が知れ、妻は子を残し去ってしまう。子は後の安倍晴明とされている。
・狐女房
男が美女に出会い、結ばれて子をなすが、美女は狐の化けた姿で、犬に正体を悟られて去ってしまう。しかし男は狐に「なんじ我を忘れたか、子までなせし仲ではないか、来つ寝(来て寝よ)」と呼びかける。『日本霊異記』に記載されている。
- 単に化かされる場合もある(動画)。
・雁の草子
身よりのない姫と 人間の男に姿を変えた雁が恋仲になり契りを結ぶ。しかし春になると男は帰郷(帰雁)せねばならず、ふたりの恋は悲恋に終わる。やがて一羽の雁が女のもとに男の死を伝え、姫は無常を感じて出家し、一生を終える。
・佐伯友尾
水神の娘の蛇に池に引きずり込まれ、そのまま娘の夫となり妖怪となった男の話(参照)。
東北地方の伝承。ある農家の娘が家の飼い馬と仲が良く、ついには夫婦になってしまった。娘の父親は怒り、馬を殺して木に吊り下げ、馬の首をはねた。娘は馬の首に飛び乗ると、そのまま空へ昇っていったという。後に養蚕、農業、馬の神として信仰された。柳田國男の『遠野物語』で有名。
・アカマタ
アカマタの子を孕んだ女はたくさんの子蛇を産む(参照)。
・黒姫伝説
長野県の伝承。龍に見初められた姫君の物語。いくつかのバリエーションがある。
・女郎蜘蛛
様々なパターンがある(参照)。
秋田県の伝承。大蛇と結婚し竜神となった姫君の物語。いくつかのバリエーションがある。
・蛇婿入り
大きく分けて苧環(おだまき)型と水乞い型がある。この2つ以外にもいくつかのパターンがある。
・蛇女房
雌蛇と人間の男の恋物語。正体がばれた後の別離の際、妻は自分の眼を与えるが、男はその眼をなくしてしまう。妻はもう片方の眼も与えて盲目となってしまう(動画)。
老夫婦に息子として育てられたタニシが 信心深い長者の娘と結婚する。ある祭りの日、タニシ夫婦は観音様にお参りに行った帰りに、烏に襲われる。その弾みでタニシの殻が割れてしまうが、中から人間になったタニシが現れる。
ケチな男が「ものを食わない」という女を妻にするが、なぜか蓄えた米が減っていく。男が出掛けたふりをして家を覗いたところ、妻は髪を解いて後頭部にぱっくりと開いた口に次々と握り飯を放り込んでいた。正体がばれたことに気づいた妻は夫を監禁(あるいは殺害)しようと追いかける。山姥の場合も大まかな筋は似ている(動画)。
・猿婿入り
男が「田に水を引いてくれた者に娘を嫁にやる」という。猿がそれを聞き、田に水を引き、娘をもらいにくる。いくつかのバリエーションがあるが、最終的に猿は死に、娘は無事に帰る。
・蛤女房
漁師の男に助けられた蛤が、人間の女に姿を変えて嫁いでくる。
・鮒女房
男が人間の姿を捨てるのが特徴的で、男と女が再び夫婦になったのなら、それなりにハッピーエンドなのかもしれない(動画)。
・クジラ女房
奄美大島の伝承で、クジラの化身が人間の男に嫁ぐが、出産の際に判明するという話。
・ふしぎな壺
琉球・宮古島の伝承で、いわゆる浦島太郎型の話で、人魚の嫁やザンの影響もあるのかもしれない。乙姫と人間が、出会ったその晩に子供を設けたり、一度は人間が老化してから若返るなどの特徴が見られる(動画)。
・鬼の刀鍛冶
婚礼をすませるパターンとそうでないパターンがある(動画)。
・鬼の嫁さん(動画)
・蕎麦屋に婿入りした雷
何の問題もなくハッピーエンドである(動画)。
・人の嫁になったネコ(動画)
・石楠花
飼い牛と娘の恋物語だが、やはり悲劇的である。
・野々海の物語
厳密には話の途中で婚姻が行われた訳ではない。池の主の白蛇または龍神と人間の男のパターンである(参照)(動画)。
・山犬女房 (イラストは秋田県版の狼女房)
人間による山犬狩りを避けてか、山犬の女王が人間の嫁になるが…(動画)。
秋田県の「狼女房」では、男は自分の女房が宿敵だと知ることになる(参照)。鳥取県の「狼女房」は、他の異類婚姻譚に近い部分がある(参照)。
・月見草の嫁
男の歌声に惚れた花の精が嫁になるが、男が嫁のために刈ってきた月見草は嫁の花であり、嫁は亡くなってしまう(参照)(動画)。
・犬神の嫁
「今昔物語」に見られ、題名は「北山の犬、人を妻とせし語」(参照)。
こちらは、はじめから犬神と人間が結婚しており、そこに人間がちょっかいを出して問題になるが、犬神と嫁が無事に逃げるも騒動の発端となった男は言うなのタブーを破ったことにより呪い死ぬ(参照)。
・犬娘
・虹の嫁
天女との婚姻譚だが、主役の男と女はハッピーエンドになる(動画)。ただ、女の生まれ変わりに惚れた長者の息子はかわいそうなのかもしれない?
・牡丹灯籠
これも原点は中国にある。
日本以外の異種婚説話
ギリシャ神話 。恋と性愛を司る神と 人間の王女が恋に落ちる。ギリシャ神話にはこの他にも異類間の恋物語や婚姻譚が多く見うけられる。
・ミノタウロスの誕生
ギリシャ神話。クレタ王が神との約束を破ったことで、その后パーシパエーは牡牛と結婚し怪物を産んでしまう。
ドイツのロマン主義小説。人間の騎士と水の精の悲恋物語。
・かえるの王さま (カエルの王様 / カエルの王子 / 鉄のハインリヒ / かえると金のまり)
フランスの伝承。人間と妖精の間に生まれたメリュジーヌは、出生時に呪いを受けており、週に一日だけ下半身が水蛇の姿になってしまう。メリュジーヌはある領主と結婚し子供をもうけるが、あるとき正体を知られてしまう。領主はそれでもメリュジーヌを妻としつづけた。しかし二人の間に生まれた気性の荒い息子達が殺人を犯したと聞いたとき、激昂して「お前が蛇だからだ」と妻をなじる。傷ついたメリュジーヌは川に飛び込んで行方をくらました。その後メリュジーヌの夫が治める一族は急速に衰退してしまったという。
・リンドブルム王子
美女と野獣の竜版で、やはりハッピーエンド。イギリスにも、「スピンドルストンの醜い竜」という物語がある。
・へび娘
韓国の伝承で、大蛇が敵の大百足を倒し、男と母親と娘がへびだと分かった上で結ばれてハッピーエンドになる。竜/蛇vs百足の構図は、戦場ヶ原の伝説や輪島(参照①)(参照②)や滋賀(参照①)(参照②)など日本にも広く伝わる。
・白蛇伝
中国の民話。白蛇の精が人間の男と恋に落ち夫婦になるが、正体がばれて和尚に塔の下へ封印される。時代とともに数々のバリエーションと派生作品が生まれた。道成寺伝説もこれの派生だとされることもある。
ポリネシア圏でひろく見られる民話。どの民話でもトゥナは死んでしまうが、その亡骸から様々な生物やココヤシが発生するというハイヌウェレ型民話の側面も持つ。
・ロナと月/マラマ
ニュージーランドに伝わる話で、厳密には婚姻話ではない。月を参照。
・イルカの夫
アマゾンカワイルカが満月の夜に男に化け、人間の女性と子供を設けるという話。