概要
アイヌは文字を持たない為、口伝やユーカラ等の叙事詩で語り継いできた。
神や精霊は「カムイ」と呼ばれ、カムイコタンという場所に住んでいる。
しかし、アイヌモシリは広く、同じカムイや英雄でも
それぞれのコタン(村々)の文化や生活によって語り継がれる内容が違う。
明治以降、民族学者に採録され日本語に訳したものが昔話として親しまれているが、創作も含まれている事は留意すべきである。
創世神話では二柱の神から多くの神々が生まれ、それぞれが役割分担したという日本神話に類似した描写や、五色の雲から世界が創造されたという中国の五行思想から来たもの、アイヌはカムイの似姿であるという聖書の様な描写がある。
一覧
神
- アエオイナカムイ(Ae-oyna-kamuy):動物の創造神
- アッコロカムイ/ラートシカムイ/アツゥイコロエカシ(Atkorkamuy, Atkor-kamuy, At-kor-kamuy, Atuy-kor-ekasi):蛸の神
- アペフチカムイ/アペフチ/アペカムイ(Ape-huci-kamuy, Ape-huci, Ape-kamuy):火神
- ウェンカムイ(Wenkamuy):悪神
- カイポクングル/カイポクンマッ(Kaipokun Guru, Kaipokun Mat):“波の下に住むもの”と“波の下に住む女”という意味の悪神。海岸から少し離れた場所に住んでおり、舟を沈めてしまう。カイポクングルの妻はカイポクンマッである。
- カパトトノマト(Kapat Tonomat):蝙蝠の女神
- カンナカムイ(Kanna Kamuy):雷神
- キナストゥンクル/キナシュツウングル(Kinasutunkur, Kina-sut-un-kur, Kinashutunguru):大地の悪神の長。“草の根の間に住んでいるもの”という意味であり蛇やアオダイショウを意味する単語でもある。
- キラウシカムイ(Kiraw-us-kamuy, Kirauskamuy):鹿の角を持つ雷神
- キムン・カムイ/キムンカムイ/シペ・コロ・カムイ(Kim-un-kamuy, Kimun-kamuy, Kimunkamuy):ヒグマの姿の山の神
- クンネチュプカムイ(Kunnecup-kamuy):月神
- ケムラムカムイ(Kemram-kamuy, Kemramkamuy):飢饉魔
- コタンカラ(Kotankar):国創りの神
- コタンコロカムイ(Kotan-kor-kamuy, Kotankor Kamuy):シマフクロウの神
- コㇿポックㇽ/コロポックル/コロボックル/トイセコッチャカムイ(Korpokkur, Korbokkur):蕗の下に棲む小人
- サラッカムイ/サラクカムイ(Sarakkamuy, Sarak Kamuy, Sarak Kamui):人間に変死や事故死をもたらす悪神。特に人を水中に沈めて溺死させる事が多く、ミントゥチと同一視される場合もある。サラッカムイというのは“水死人”を意味する単語でもあるらしい。
- サロルンカムイ(Sarorun Kamuy, Sarorunkamuy, Sarorun-kamuy, Sar-or-un-kamuy):タンチョウ姿の湿地の神
- シリコロカムイ(Sirkor Kamuy, Sirkor-kamuy, Sir-kor-kamuy):大地の神
- スルクカムイ/イモンカオヤンマツ(Surku-Kamuy, Surkukamuy, Imonka-oyan-mat, Imonkaoyanmat):トリカブトの女神
- チェプコロカムイ(Cep-kor-kamuy, Cepkorkamuy):鮭の神
- チキサニカムイ(Cikisani Kamuy):ハルニレの女神
- チセコロカムイ(Cisekor Kamuy, Cise-kor Kamuy):家の守り神
- チロンヌプカムイ(Cironnup Kamuy):キタキツネの神
- チワシエコッマッ(Chiwash-ekot-mat):河口の淡水と潮水が混じり合う場所を見張っており鮭を誘導するという女神。人々は敬意を持って女神に祈りを捧げ、イナウを供えるといい、これを怠ると不漁になったり人間を溺れさせたりするという。
- トイクンライトゥムンチ(Toikunrai Tumunchi):イチャシカラという呪いを行う時、ヨモギで作った草人形を枯れ木の下に埋めてこの悪神に祈ると、対象人物は枯れ木が朽ちるとともに命を落とす。呪いの言葉は「おお、悪神よ。枯れ木とともに地中に埋めしこの人形が表す人物をなにとぞ病に罹らせ、この枯れ木とともに朽ちるように仕向け、やがてその命を絶っていただきたい。おお、トイクンライトゥムンチを名乗る悪神よ、よく聞かれよ。直ちにこの人物の魂を体から抜き取ってそなたたち悪神の仲間に加えられよ」である。
- トイクンラリグル/トイクンラリマッ/トイクンラリマト(Toikunrariguru, Toikunrarimat):“地上で休息するもの”という意味の悪神であり大地の下に住んでいる。野生動物に襲われた時はトイクンラリグルに祈るという。トイクンラリグルの妻はトイクンラリマッである。
- トゥスニンケ(Tusuninke):エゾリスの神
- トゥレプカムイ(Turep Kamuy):ウバユリの女神
- トカプチュプカムイ(Tokapcup-kamuy):太陽神
- トシリポクンカムイ(Tosirpokun Kamuy, Tosir-pok-un-kamuy):ミソサザイの神
- ヌプキオックル/ヌプキオッマッ(Nupki-ot-guru, Nupki-ot-kur, Nupkiotkur, Nupki-ot-mat, Nupki-ot-mat, Nupkiotmat):“濁ったところにいる者”と“濁ったところにいる女”という意味の悪神。ヌプキオックルが夫でありヌプキオッマッが妻。川瀬の水中に住んでおり水を濁らせたり川岸を崩したりする。侮辱されたり蔑ろにされたりすると夜中に人間の農地を崩してしまうが、崇められていれば人間を害する事は無いという。
- コヌプキオトグル/コヌプキオッグル/コヌプキオッマッ(Konupki-ot-guru, Konupki-ot-mat):ヌプキオックルとヌプキオッマッの別名。
- ヌプリケスングル/ヌプリケスンクル(Nupuri Kesunguru, Nupurikesunkur):“山の麓に住んでいるもの”という意味。人食い熊の姿で現れて人間を殺害する悪神。
- パウチ/パウチカムイ(Pawci, Pawci-kamuy):人に憑りつく淫魔
- パコロカムイ/パヨカカムイ(Pakor-kamuy, Payoka-kamuy):疱瘡神
- ピカタカムイ(Pikata-kamuy):南風の神
- ピリカカムイ/ピリカ(Pirka Kamuy):美しい神、善神
- フリーカムイ/フリカムイ(Huri Kamuy):巨大な鳥の神
- ピカタトノマッネプ(Pikata-tono-matnep, Pikatatonomatnep):“南西風の女神”という意味。南西の風が強い場合、人々はピカタトノマッネプに祈って風を止めてもらおうとする。
- ピカタニッネカムイ(Pikata-nitnekamuy):“南西風の魔神”という意味の女神。山の上で踊る事で暴風を起こす。悪戯で人里を荒地にしたがオキクルミの家だけは壊せず、逆にオキクルミが起こした暴風で懲らしめられたので悪戯をする事をやめた。
- プリカンダカムイ(Purikanda Kamui):人喰い熊として現れる神
- ホヤウカムイ/ラプシヌプルクル/サㇰソモアイェㇷ゚/サキソマエップ(Hoyaw Kamuy, Rap-us-nupur-kur, Rapusnupurkur, Sak-somo-ayep, Saksomoayep):翼を持つ蛇神
- ホロケウカムイ(Horkew Kamuy, Horkew-kamuy):エゾオオカミの神
- ホンポキケウシ(Honpokikeush):“山の側でガラガラと音を立てるもの”という意味。山腹に石を落として転がすのはこの悪神の仕業である。
- ミンツチ/ミントゥチ/ミンツチカムイ(Mintuci):水神で蛟や河童とも同一視される
- モシリコロカムイ(Mosir-kor-kamuy):土や山野の神。
- モシレチク・コタネチク(Moshirechik-Kotanechik, Mosirecik-Kotanecik):小さな目と、大きな目を持つ魔神
- ラプスカムイ(Rap-us-kamuy, Rapuskamuy):中川郡豊頃町十弗コタンに毒気を吹いてくる鳥の神
- レタッチリ(Retatcir):白鳥の女神
- レタルカムイ(Retar Kamuy):日高山脈の白熊の神
- レタルセタカムイ(Retar Seta Kamuy):日高山脈の白狼の神
- レプンカムイ/レブンカムイ(Rep-un-kamuy, Repun Kamuy):シャチの海神
- レプンリリカナイナウウクカムイ(Repun-riri-kata inao uk kamui):鯨神
- レラカムイ(Rera Kamuy):風神
- ワッカウシカムイ(Wakka-us-kamuy):水神
英雄
- アイヌラックル/オキクルミ(Aynurakkur, Ainurakkur, Okikurmi)
- イクレスイェ/イクレスエ(Ikuresuye)
- オタスツンクル(Otasutunkur, Ota-sutu-un-kur)
- サマイクル(Samaykur)
- シンナイペッ・モイレパマッ:昔話に登場するオンカミ・アチャボという怪物を返り討ちにした女性。
- ポイヤウンペ/クトネシリカ(Poiyaumpe, Kutune Shirka, Kutune Sirka)
魔物
- アイヌカイセイ(Aynu-kaysey):手足のない魔物。
- アイヌソッキ:人魚
- アイヌトゥカプ/アイヌライトゥカプ(Aynutukap, Aynu-tukap, Aynu-ray-tukap):幽霊のこと。
- アツゥイカクラ/アトゥイカクラ(Atuy Kakura):内浦湾に棲む巨大ナマコ
- アプトルヤンペウェンユク/アプトルヤムペウェンユク/アプトルヤムベウェンユク(Apto-ruyampe-wenyuk, Aptoruyambewenyuk):“暴風雨の魔物”という意味。ウェンユクというのは“悪い熊”という意味でもある。空飛ぶ暴風雨を呼ぶ魔物。
- アペヤキ/アベヤキ(Ape-yaki, Abe-yaki):火の蝉。
- アラサラウス/アラサルシ/イワサラウス(Arasarus):無毛で尾の長いもしくは六尾の熊の様な魔獣
- イカメナシレラ/イカメナシュレナ(Ikamenas-rera, Ikamenashrera):“南東風”という意味。大気中の悪魔らしいが詳細不明。
- モテナイ(Motenai):北東から吹く強風のこと。この風の中に潜む悪魔は邪悪だがイカメナシレラには負けるという。
- イコンタビプ:悪い病を持ち歩く怪魚だというが詳細やアイヌ語での意味などは不明。アイヌ語では「b」と「p」の音を区別しないためイコンタピプと表記する事もできる。
- イソポトノ(Isopo-tono):足跡がかんじきほどもある大ウサギ。イソポはウサギ、トノは殿様を意味する。
- イトゥンナプ(Itunnap):蟻を意味する単語。伝説では蟻は人間に化け、人間の異性を騙して自分たちの仲間にしてしまうという。
- イペカリオヤシ(Ipekari Oyasi, Ipe-ekari-oyasi, Mawa-oyasi):焚火をしていると食べ物をねだりにくる妖怪
- イペタム/エペタム(Ipetam):人喰い刀という意味の妖刀
- イワイセボ/イワイセポ(Iwa-isepo):巨大なウサギに似た鹿の声で鳴く魔獣
- イワエサングル(Iwaesanguru):“山から下りてくるもの”という意味。熊の姿で現れる妖怪であり悪意を持った時にのみ姿を見せる。これに遭った時はトイポクンチリやトイクンラリグルに祈る。
- イワエチシチシ/イワエチシチス(Iwaechishchish):山で呼ぶ者という意味の牛の様な声で鳴く怪鳥
- イワエトゥンナイ/モシレチクチクイワエチクチク(Iwaetunnay, Mosirecikcik Iwaecikcik):空を飛ぶ一つ目の化け物
- イワオロペネレプ(Iwaoropenerep):岩を破るものという意味の怪鳥
- イワホイヌ(Iwa-hoynu):山に棲むオコジョの様な恐ろしい獣
- イワポソインカラ(Iwaposoynkar, Iwa-poso-inkar):岩に潜む目玉の塊のような魔物
- ウエソヨマ:魔女
- ウェンレラ/ウエンレラ(Wen-rera, Wenrera):“悪い風”という意味。小さい竜巻のこと。
- ウパシメノコ(Upas-menoko):アイヌに伝わる雪女。
- ウパシルヤンペウェンユク/ウパスルヤムベウェンユク(Upas-ruyampe-wenyuk, Upasruyambewenyuk):“吹雪の魔物”という意味。ウェンユクというのは“悪い熊”という意味でもある。詳細不明。
- オキナ/ショキナ:鯨すら飲みこむ怪魚
- オタパッチェクル/オタパッチェグル/オタパッチェマッ(Otapatcekur, Ota-patce-kur, Otapatche-guru, Otapatcemat, Ota-patce-mat, Otapatche-mat):海岸で砂を舞い上がらせる悪魔。オタパッチェクルの妻はオタパッチェマッである。オタは“砂”、パッチェは“飛び散る”、クルは“人”、マッは“女”という意味。
- オッケルイペ(Oxke-ruy-pe, Oxke-oyasi):大きな屁をひる化け物
- オニマクシメノコ/オイマクシ・メノコ(Onimakus-menoko, Oimakus Mahnekuh):陰部に歯が生えている女性の妖怪。
- オハチスエ/オハチスイェ(Ohacisuye):空家に住み着き人や家畜に害を成す魔物
- カネラッコ(Kane-rakko):金のラッコ。
- カヨーオヤシ(Kayo Oyasi):人呼びお化け
- カミアシ(Kamiasi):魔物のこと。
- カムイラッチャク(Kamuy-ratcaku):疫病を流行らす神の火
- キサラリ(Kisarri, Kisar-ri):耳長お化け。
- キムナイヌ/キモカイクッ/オケン/ロンコロオヤシ(Kimunaynu, Kim-un-aynu, Kim-un-kux, Kim-okay-kux, Ron-koro-oyasi):禿げ頭の妖怪
- キムン・セタ:キムナイヌが連れている猟犬
- クウケェパロ:肩に口を持つ異形の者で英雄ポイヤウンペの味方をした
- クンツゥカブ/クンツゥカプ/クントゥカプ/クンツカパプ/クントゥカパプ(Kuntukapap):かすべ(カジキエイ)の様な怪魚でありこれを捕まえると不幸になるといい、これを捕った者が破産して関わった者も不幸な死に方をしたという。アカエイの大きなものをクントゥカパプと呼ぶという情報もあり、クントゥカパプは角があって扁平な海魚であり漁夫が最も恐れるものだという話もある。
- ケナシコルウナルペ/イワメテイェプ/ニタッウナラベ(Kenas-kor-unarpe, Nitat-unarbe, Nitat-unarpe):ヒグマを操る山姥
- コシンプ/トゥレンペ(Kosimpu, Turempe):憑き物
- コチウツナシュグル/コチウトゥナシグル/コチウトゥナシマッ(Kochiu-tunash-guru, Kochiu-tunash-mat):“早瀬の男”と“早瀬の女”、もしくは“早い流れの者”と“早い流れの女”という意味。コチウトゥナシグルと妻のコチウトゥナシマッは夫婦で一緒に川の激流に住んでいる魔物である。
- コヌブキオトグル:川岸を崩す魔物
- コロトラングル/コノトラングル/コノトランマッ(Konoto-ran-guru, Konoto-ran-mat):巨大魚の姿をした神。強風や嵐を起こして船を難破させ、漁師が漁をしている場所から魚の群れを追い払い、漁師を溺れさせたりする事で漁を妨害する。コノトラングルの妻はコノトランマッでありルルコシンプはこの夫婦神の子孫だという。
- シトンピーチロンノップ/シトゥンピー・チロンノップ(Situmpi Cironnop):日蝕や月蝕をもたらす狐。
- シラルポンチャチャ(Sirarponcaca):磯の小さな爺。金属の杖を持っているという。
- スマトゥムンチ(Suma-tumunci):石の化け物、岩の女。目が額にあり、口の端は目の下にあったといい、人肉を食べていた。
- スムレラウェンユク(Sumrera-wenyuk, Shumrerawenyuk):“西風の魔物”という意味。ウェンユクというのは“悪い熊”や“人食い熊”という意味でもある。詳細不明。
- チウラングル:強い流れの川の中に棲む魔物。
- チュコポイェレラ/チウコポイェレラ(Cukopoye-rera, Chiukopoyerera):チュコポイェは“混ぜる”、レラは“風”という意味。旋風や竜巻のことであり、このような渦巻く風は妖怪視されたという。
- チライ(Ciray):鹿を食う巨大なイトウ(魚)
- テイネポキナシリ(Teyne-poknasir):穴の奥にあった小さなお化けがいる世界
- テンキセイチェプ(Tenki Sei Chep):寿命で死ぬ直前に鱗が剥げ落ちる鮭。これは疱瘡を運ぶ魚なので食べてはならないという。
- トイポクンオヤシ(Toy-pok-un-oyasi, Toypokun-oyasi, Toy-pok-un-pe):地面に潜み異性を脅かす魔物
- トイポクンチリ(Toipokunchiri):“地下にいる鳥”という意味。イチャシカラという呪いを行う時、ヨモギで草人形を作って自分の家の近くの地面に穴を掘り、トイポクンチリが対象人物を地獄まで運ぶように頼む呪いの言葉を唱えて草人形を逆さまに埋めると、草人形が腐るにつれて対象人物の体も腐っていく。呪いの言葉は「おお、トイポクンチリよ、憎みても余りある男の人型を今そなたの元へ送る。この男よりその魂を抜き取り、その体とともに地獄まで運んでいかれよ。この憎むべき男を悪神の姿に変え、そなたの仲間に加えられよ」である。
- トホイ(Tohoy):海鞘のこと。樺太などに伝わる昔話では退治されたケナシウナルペの乳房が海鞘になったとされている。
- 戸を欲しがるお化け
- トラサンペ(Torasampe):「湖の苔の心臓」と呼ばれるマリモ
- ニシヲカムイ:正体不明の黒い者
- ニシンナイサムニオヤシトゥムンチ/ニシンナイサムニオヤシツンウンチ(Nishinnai Samnioyashi Tumunchi):“木が立っている荒れ果てた場所のそばの化け物”もしくは“樹木の生ずる山野の魔”という意味。悪とされる種類の木(カンボク、エゾニワトコ、ポプラなど)に対して呪いの言葉を唱えるとこの化け物が対象人物の不意を突いて攻撃してくれる。呪いの言葉は「おお、汝ニシンナイサムニオヤシトゥムンチよ。私は汝を崇拝し、汝にお願いします。私をいじめる人が大勢います。私はそれらの人々の名前を知らせます。汝、急いでください。それらの人々の魂を取ってください。彼らを汝に似た化け物にしてください」である。
- ニタッラサンペ(Nitatrasampe):見たものを不運にする魔物
- パシクルアペ(Paskur-ape):鳥のように飛び回る鬼火
- ベカンベ/ペカンペ(Pekampe):阿寒湖に生えていた菱でカムイに追い出されたので、湖中に草を投げ込みトラサンペを作った
- ペンタチコロオヤシ/イシネカプ(Pentaci-koro-oyasi, I-sineka-p):松明をかざす魔物
- マッナウウェンユク(Matnaw-wenyuk, Matnauwenyuk):“北風の魔物”という意味。ウェンユクというのは“悪い熊”や“人食い熊”という意味でもある。非常に悪いものだとされていたらしいが詳細不明。マッナウカムイという北風の女神も伝わっている。
- ムイ(Muy):ヒザラガイ類の世界最大種であるオオバンヒザラガイのこと。民話ではオオバンヒザラガイとアワビの間に戦いが起こって以来、両者は別々の海域に棲むようになったという。
- メナシオッカイウェンユク(Menas-okkay-wenyuk, Menashokkaiwenyuk):“東風の雄の魔物”という意味。ウェンユクというのは“悪い熊”や“人食い熊”という意味でもある。詳細不明。
- モシリシンナイサム(Mosirsinnaysam):馬程の大きさの白黒まだら模様の魔物で、見たものを不幸にする
- ヤウシケプ(Yauskep):巨大な蜘蛛
- ライクルエチカップ(Raykur-e-cikap):死人を食べる鳥
- ルヤンベニッネプ/ルヤムベニトネブ(Ruyambenitnep):大雨や嵐が起きるのは地上にこの妖怪が現れた時だとされており、そういう時に人々は小屋の外の棒に笊を刺し「お前ができるなら、水でそれを一杯にしてみろ。できないなら、立ち去る方がいい」と告げる風習があった。
- レプンエカシ(Repun-ekasi):鯨を一度に8頭飲み込む巨大な海の魔物
参考
※この項では正確にはアイヌ神話ではないが、現在知られているものの現状と、参考として和人や海外の資料にあるが、創作であることが分かっているものを紹介する。
資料について
アイヌに伝わる叙事詩(ユーカラ)などが書物化されて刊行されているが、「アイヌの伝承」という触れ込みで刊行・流布されているものにも捏造・偽作が含まれるため注意。
有名な阿寒湖の『恋マリモ伝説(悲しき蘆笛)』や『シトナイの大蛇退治物語』はその代表例である。
シトナイのものとされるエピソードは一個人による創作でありながら、北海道庁編纂の『北海道の口碑伝説』に掲載されてしまった。
和人により「アイヌの伝承」が捏造され、それがロクなチェックもされずに素通しされ官庁の書籍に「実際の伝説」として掲載されてしまう。
これは北海道史におけるアイヌ民族・アイヌ文化の扱いを端的に示す一例でもある。
偽伝承がそうと気付かれないまま観光に用いられ、後代に発覚・周知されるという出来事も起こっている。
2021年になり、北海道出身の作家・朝里樹氏著による『日本怪異妖怪事典 北海道』が出版され、アイヌ神話の神々を含めた約800種の怪異妖怪が出典を含めて紹介されている。
この書籍ではシベリアの少数民族の伝承や、近代の都市伝説妖怪まで網羅されているが、上記の問題点を鑑みたのかそれぞれ別項目を設けて説明している。
和人による創作や伝承
※基本的にタグやイラストがあるものを掲載。
※シトナイとニングルはアイヌ語が用いられているが、逸話・設定は和人の創作である。
※江戸時代松前藩の支配下にあった蝦夷地は異郷で、怪獣や妖怪が棲むとされていた。
- アマニ:心臓の病に効く脂が採れるため珍重された海獣
- 海鬼(Umi-Oni, Umioni, Kaiki):水虎に似た、もしくは同一な妖怪
- 隠れ座頭(Kakure-Zato)
- クッシー(Kussie, Kusshi):屈斜路湖に棲む未確認生物
- げたおじさん(Geta-Ojisan):函館市の五稜郭駅の北側にある通称「お化けトンネル」と呼ばれるトンネルに現れる下駄を履いたおじさんの霊。車に下駄を投げ付けてくるといい、その下駄に当たると次の日に死んでしまうという。このトンネルの入り口には「げたに注意」と書いてあるというが、実際には「けたに注意」と書かれている。「けた」というのは漢字では「桁」と書き、これは橋を支える柱と柱の間に架けてある部材の事である。なので「げたに注意」というのは勘違いと思われる。お化けトンネルにはこのおじさん以外の幽霊も現れるという。
- 犬面人(Kemmenjin):北海道から寄せられた噂として学校の怪談の本で紹介された都市伝説妖怪。人面犬の逆パターンであり顔が犬になっている人間。普段は帽子とサングラスで顔を隠しており、人間が近づくと犬の顔を見せて脅かすという。黒いコートを着ていたという話もある。
- 国道40号ばばばばばばえおうぃおい〜べべべべべべべべべえべえええべえべべべえ(Kokudo Yonju-go Babababababaeowioi Kara Bebebebebebebebebebeebebebebe)
- 権六狸(Gonroku-Danuki):留萌の民話に登場する大狸
- シュムナ(Shumuna)
- シトナイ(Sitonai, Shitonai):大蛇を退治したという少女
- シバレボッコ(Shibarebokko):吹雪の時に現れて唄を歌い、子供を攫う妖怪
- チャレンカ/シララ/メヌカ/フミキ:海の難所である神威岬の岩に、もしくは花になった源義経に叶わぬ恋をして自害したという首長の娘
- トッシー(Tossie, Tosshi):洞爺湖に棲む未確認生物
- ニングル(Ninguru):富良野に伝わるという小人
- 捕血豈棲(Hotchikisu)
- 雪女(Yuki-Onna)
- ラガル/ラガルト(Ragaru, Ragaruto, Lagarto):ポルトガル語でトカゲという意味の怪物
- 落斯馬/ラシマ/ロスマ/ラシメ(Rashima, Rosuma, Rashime):ラシマと読む頭に角が生えた海獣
- リヤカーおばさん(Rearcar-Obasan, Riyaka-Obasan):時速80キロ以上で走るリヤカーを引いたおばさん
- リョウ子さん(Ryoko-san):苫小牧市から寄せられた噂として学校の怪談の本で紹介された都市伝説妖怪。とある学校の三階のトイレの入り口から三番目、五番目の個室でリョウ子さんの名を呼び、その悪口を言うと一ヶ月後に病気になってしまう。病気になるのを避けるためには悪口を言った直後に四百九十回「ゴメンナサイ」と言わなければならないという。
海外の創作
- コック・バシロサウルス/クナシリシンカイオオトカゲ(Koch Basilosaurus, Kunashir-shinkai-o-tokage)
- ユキ・オトコ/ユキ・オンナ(Yuki Otoko, Yuki Onna)