概要
バロメッツ(ラテン文字表記:Barometz)は、中世ヨーロッパの人々が、黒海沿岸以東のアジアを主とする未知の土地や辺境の荒野に実在すると信じていた伝説上の不思議な生物(半植物半動物)である。
なんでも、羊毛(ウール)でモコモコの子羊を果物のように実らせる植物だそうな。南方熊楠の『十二支考』にもそう書かれている(いやマジで言い方違うけど紹介してる)。
ラテン語名 |
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Agnus scythicus(アグヌス・スキュティクス|= スキタイの子羊), Planta Tartarica Barometz(プランタ・タルタリカ・バロメツ|= タタールの植物「バロメツ」、タタールにゆかりある植物「子羊の木」) |
英語名 |
Vegetable Lamb of Tartary(= タタールの植物子羊), Tartar Lamb(= タタールの子羊), The Scythian Lamb(= スキタイの子羊), earth born sheep(= 大地から生まれる羊、地生羊), Chinese lycopodium(= 中国のヒカゲノカズラ〈※注1〉), Syrian lamb(= シリアの子羊), water sheep(= 水羊), planted sheep(= 植えられた羊), Barometz(バロメッツ) |
日本語名 |
バロメッツ、タタールの植物子羊、タタールの野菜子羊、タタールの子羊、タタールの羊、スキタイの植物子羊、スキタイの野菜子羊、スキタイの子羊 |
中国語名 |
鞑靼植物羔(= タタール植物子羊), 鞑靼植物羊(= タタール植物羊), 植物羔, 植物羊 |
ラテン語名に含まれる "Barometz(バロメツ)" の由来は、タタール(韃靼)の言葉(キプチャク語群)の組み合わせにあり、[ baro-(baran〈バラン|子羊〉の)+ metz(メズ|木)]という語構成になっている。
日本語では、Barometz の音写形「バロメッツ」のほか、英語の訳語とその略語である「タタールの植物子羊」「タタールの子羊」「スキタイの植物子羊」「スキタイの子羊」など、様々な呼称がある。「子羊を産む植物」も含めるべきであろうか。「タタールの植物子羊」「スキタイの子羊」などは書籍名になっている。山上たつひこの作品『羊の木』もバロメッツをモチーフにしている。
様々な姿の図画が残されているが、一般的にはメロンほどの大きさの球根から茎が伸び、その先端に子羊のような形の植物体が成長する姿が有名。
「スキタイ」の名が見えるのは、スキタイ人が帽子の裏打ちを作る時にこの植物の綿毛を用いると信じられていたことによる。
一説に、木綿を採るために栽培されるワタ(アオイ科の植物)が誤伝された末に想像された植物ともいわれている。
表記揺れ等
tag1は小説を含むpixivの全作品が検索対象で、タグ数は完全一致検索で検出される作品の総数を意味する。tag2はイラスト部分検索結果。いずれも検索結果の数字は2024年4月6日のもので、随時更新推奨。
バロメッツ(tag1,tag2|作品総数: 143、イラスト部分一致検索数: 170)… 本項。
Barometz(tag1,tag2|作品総数: 4、イラスト部分一致検索数: 4)
タタールの植物子羊(tag1,tag2|作品総数: 0、イラスト部分一致検索数: 0)
タタールの子羊(tag1,tag2|作品総数: 0、イラスト部分一致検索数: 0)
スキタイの植物子羊(tag1,tag2|作品総数: 0、イラスト部分一致検索数: 0)
スキタイの子羊(tag1,tag2|作品総数: 1、イラスト部分一致検索数: 1)
地生羊(tag1,tag2|作品総数: 1、イラスト部分一致検索数: 1)
- 関連語1
タカワラビ(高蕨、学名:Cibotium barometz;キボティウム・バロメツ / キボチウム・バロメッツ)… 他の和名として「ヒツジシダ(羊羊歯)」「アッサムタカワラビ(アッサム高蕨)」「ケナガシダ(毛長羊歯)」などもあり、また、後述する中国語名に倣って「キンモウク」「キンモウコウ」とも称す。ただし、呉音準拠でも漢音準拠でもなくて音写はちぐはぐ。本来なら、呉音準拠で「コンモウク」、漢音準拠で「キンボウコウ」になって然るべきところ。さらには、流通名として「ゴールデンモンキー」と「ゴールデンチャウチャウ」がある。中国語名は「金毛狗蕨」「金狗毛蕨」。中国の一部とマレー半島西部に自生する木生シダ (cf.Wikip:edia) の一種。ヘゴ目タカワラビ科タカワラビ属の1種。羊毛のような根茎は「タタールの植物子羊」の発想源の一つとなった可能性がある。
- 関連語2
- 関連語3
pixivユーザー「天雲バロメッツ」
関連作品
左から順に解説する(以下同様)。
1. ヨハン・ツァーン(Johann Zahn|17世紀ドイツの修道士で作家・挿絵画家)が著した百科事典 "Specula"(1696年刊行)に所収の挿絵を原典にした、草花の長い茎の頂点に子羊が成っているタイプ(※本節では『長茎タイプ』と称す)。本体の造形だけなら、例示した作品の中で最も原典に近しい。串刺し刑に処された獣のようにも見えてしまう原典と違って、本作は牧歌的に描いており、すごく楽しそう。
2. 収穫の季節/長茎タイプ。メルヘンチックな世界観は 1 と同じながら、こちらは打って変わってホラーなシチュエーション。イメージの背景にマンドラゴラがあるように思える。ハーヴェストの季節を迎え、真夜中に刈り取られる植物子羊は、マンドラゴラ同様、悲鳴を挙げるに違いない。南方熊楠も、韃靼の植物羔ことバロメッツには「感情があって」「鳴き声を挙げるらしい」旨の解説をしている。しかし、バロメッツの悲鳴はマンドラゴラのような危険なものではなく、屠られる家畜のそれなのだろう。知らんけど。
3. 真夜中の庭園/長茎タイプ。メルヘンチックに描いた透明水彩画。魔法使いの植物園ですくすくと育つバロメッツたち。
4. 長茎タイプ。ペン画(ボールペン画かな)。思いっきり綿花に寄せて作画されており、脚は無く(見えない)、耳は葉っぱになっている。
5. たわわに実る果実タイプ、すなわち、長い茎や枝の先で、花を咲かせた後の結実さながら重そうに羊が成っているタイプ。何本もの枝にすずなりになっている作例が多い中、本作では1本きり。ただし、作者が茎と枝のどちらのつもりで描いたのかは確かめてない。
6. 原典から派生させた作者の世界観で描く、品種改良版バロメッツ。1本の茎に1匹しか生えない“原種”と違い、また、1本の草から何匹もの羊が果実のようにすずなりになる“中間種”とも違い、この改良品種は、1本の大きな樹木が木の実のようにバロメッツをすずなりに実らせている。熟して落果しても、とりあえずは平気とのこと。それどころか、連れて帰ったりしてるし。
7. イラスト + 4コマ漫画。考え無しの風見幽香(『東方Project』の登場キャラクター)は、バロメッツを召喚してしまった。植物好きの幽香はバロメッツたちから妙に懐かれてしまい、どうすんだこれ状態に。
8. 向かって右側の2匹がバロメッツ。ワゴメッツという変なの(綿ではなく輪ゴムが採れる)が隣に生えてきたので、「なんか違う変なメッツが生えてきた」とツッコミを入れている。
10. 植物羊ならぬ、白詰草羊という大胆なアレンジ。羊毛のようにシロツメクサの花弁を生やしている。ナナホシテントウはおともだち?
11. スキタイシープ/バロメッツをモチーフにした作者オリジナルのモンスター。アーサー・ラッカム(18~19世紀イギリスの挿絵画家)が描くファンタジー画や、その影響を受けたRPG作品などに登場していても可笑しくないクリーチャー。植物系で、火に弱いとか。倒すと「スキタイの帽子」を落とすとか。
12. ウールーを育てよう/ウールーは羊タイプのポケットモンスター。バロメッツとウールーはいずれも羊タイプということ以外に関係性は無い。しかし、作者は両者を紐付けて「バロメッツのように種子から育てて果実のように成るウールー」を描いている。
版権物ポップカルチャー
ぷよぷよ通
塔の一階の対戦相手のうちの一人として登場 ⇒ バロメッツ(ぷよぷよ)
例示イラストの、左から数えた2番目と3番目は、ぷよぷよ版バロメッツをリアルに寄せて描いた作品。
関連項目
デジタル・デビル・ストーリー
続編の『新デジタル・デビル・ストーリー』にルシファーたち魔王が呼んだ、根の生えた脚を持つヒツジ姿の刺客として登場。
ファイナルファンタジーシリーズ
『ファイナルファンタジー3』の浮遊大陸外縁部に、植物の葉を人型にしたようなアルラウネの色違いとして登場した。
魔物娘図鑑
サモンソウルバトル
pixivユーザー「七海ルシア」が担当。無断転載禁止。造形は「関連作品」節での解説における「たわわに実る果実タイプ」
ダンジョン飯
第7巻に登場。羊に似た果実を実らせ、それを肉食動物に狩らせることで種子を広げる。熟した果実はダイアウルフに取られてしまい、パーティのメンバー(主人公たち)は食べられなかったが、未成熟の実を調理したところ、言い伝えのとおり、カニの味がした。
遊戯王OCG
⇒ 神羊樹バロメット
脚注
注釈
※注1 「件のバロメッツを意味する名称の一つである "lycopodium(リュコポディウム、リコポディウム)" がヒカゲノカズラの学名(属名)に転用された」旨の解説を見るが、英語(ラテン語形)lycopodium は、古代ギリシア語由来で[ lyco-(狼の)+ podium(足、足を具える者)]という語構成になっており、要するに「狼の足のごときを具える者」という意味を持っているのであり、なぜこの語が「狼」と直接的には関係ない「バロメッツ」と関連付けされているのか、読み取れない部分ではある。
出典等
※a1 「タカワラビ」 コトバンク > 平凡社『改訂新版 世界大百科事典』、光田重幸
※a2 「タカワラビ」 コトバンク > 小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』、栗田子郎
※図譜1 「タカワラビ」 草木図譜
※cinema1 「港町にやってきた、見知らぬ6人の男女 。彼らは全員、元殺人犯!! 信じるか 疑うかー?」 映画『羊の木』(公式Twitter)、2016年9月成立。
関連タグ
外部リンク
- 「バロメッツ」 ウィキペディア
- 「【動物植物】木から生える羊!?バロメッツ【へんないきもの#111】」 へんないきものチャンネル(YouTubeチャンネル)、2024年4月1日投稿。