のび太の恐竜
のびたのきょうりゅう
概要
映画およびその原作となる大長編ドラえもんの記念すべき第1作。
短編(単行本10巻収録)をベースにしており、序盤の展開は単行本10巻の同名のエピソードに準ずる。なお、大長編では黒マスクの勧告などのシーンが加筆されている。
劇場公開は1980年。
2006年には『のび太の恐竜2006』としてリメイクされた。
長編アニメ定番化のパイオニア
制作当時、日本の映画業界では小学校低学年以下の児童に90分を超える劇場用映画の視聴は無理だと本気で信じられていた。長編劇場用アニメの嚆矢は1977年の『宇宙戦艦ヤマト』だが、これ以降、本作より前の劇場用長編アニメは他に『ルパン三世』『機動戦士ガンダム』と、やや高い年齢層に向けた作品を“開拓”しようとしていたが、いずれの作品も初期には物珍しさで高い興行収入を上げたが、尻すぼみになる傾向から逃れなれなかった。
そんな状況下、“テレビ放映中の子供向けアニメの長編劇場用作品”が公開されて大成功した。『銀河鉄道999』である。本作も劇場版は年齢層を上げることを想定していたのだが、実際には「テレビより早く結末が分かる!」と子供連れの観客が押し寄せた。これにより、低年齢層向け長編映画の可能性が示唆されたのである。
そしてストレートに“藤子不二雄原作の子供向け長編映画作品”である本作が公開され、観客動員数320万人、興行収入15億円を記録したことで、低年齢層でも長編劇場作品に充分堪えうることが実証された。『ゴジラ』シリーズとともに東宝の看板作品となり、シリーズの定番化となった。
試行錯誤が続いていた長編劇場用アニメ作品が定着しにわかに活況を帯びてくるのは、本作以降である。
このため本作は制作費が限定されており、当時長編映画のデファクトスタンダードになっていたドルビーステレオシステムも使用されていない、モノラル音声であった。ソフトもVHS・βともハイファイトラックには対応していたもののモノラルであった。1990年の廉価化パッケージではVHS・LDとも疑似ステレオ音源となった。
ストーリー
スネ夫にティラノサウルスの化石を自慢されたのび太は、恐竜の全身化石を見つけてみせると強がるあまり、もし見つからなかったら鼻でスパゲッティを食べると宣言。引くに引けなくなったのび太は様々な本を読み漁って古い地層を掘りまくり、ついに卵の化石を発見する。
ドラえもんの支えを借りながらタイムふろしきで卵を元に戻し、温めて孵化させたのび太は、生まれたばかりのフタバスズキリュウの子供にピー助と名をつけて育て始める。しかし、大きく育てすぎて隠しきれなくなってきたため、仕方なくスネ夫たちに見せることなく、タイムマシンで1億年前のフタバスズキリュウの生息地に送り返すことになった。
その後、嘘つき呼ばわりしてくるスネ夫たちにタイムテレビでピー助の姿を見せるのび太だが、ピー助を送り返そうとした時に恐竜ハンターの攻撃を受けたことでタイムマシンの空間移動機能に故障が発生しており、それが原因でピー助を本来の棲息地である日本近海ではなく、アメリカ沖へ置いて来てしまったことが判明する。
エラスモサウルスに虐められるピー助を助けようと大慌てでタイムマシンに乗り込むが、ジャイアンたちも無理やり同乗したため、定員オーバーで暴走した末、目的の時代についたもののタイムマシンは完全に壊れてしまった。
更にピー助を捕獲しようと企む恐竜ハンターの魔の手が迫る。
レギュラーキャラクター
- ドラえもん
cv:大山のぶ代
恐竜の卵の化石のことでのび太を付き放しつつもタイムふろしきをこっそりと貸し、羽化の手伝いをする。白亜紀においては、生命線でもあるタケコプターのメンテを行う姿も見られた。
- のび太
cv:小原乃梨子
スネ夫を見返すために恐竜の卵を見つけ出し、ピー助と名付ける。白亜紀の冒険では、恐竜ハンターに屈せず、ピー助を日本まで送り届ける意志の強さを見せた。
- しずか
cv:野村道子
ピー助の一件でのび太が嘘を付いていると思い込んだ際には「ちゃんと謝れば良いだけ」と説得するが、それにより、のび太は辛い思いをすることになっても別れたピー助を皆に見せる決意に繋がる。ピー助と出会ったことでジャイアンやスネ夫と同じく、のび太と和解。恐竜ハンターの取引においては、真っ先にのび太に同調。
- ジャイアン
cv:たてかべ和也
スネ夫と同じく、ピー助の一件でのび太を嘘つき呼ばわりして責めるが、ピー助と出会ったことでのび太と和解。白亜紀の冒険においては、のび太に助けられたこともあり、最後まで冒険に付き合うことにする(原作のみ)
- スネ夫
cv:肝付兼太
のび太たちにティラノザウルスの化石を見せたことが冒険の始まりとなる。白亜紀の冒険においては、限界を迎えたことから、恐竜ハンターの取引に応じようとするが、のび太やジャイアンの友情もあって、最後まで付き合うことにする。
- のび太のママ
cv:千々松幸子
- のび太のパパ
cv:加藤正之
- ジャイアンのママ
cv:青木和代
- スネ夫のママ
cv:加川三起
ゲストキャラクター
のび太が卵から孵したフタバスズキリュウの子供。刷り込みでのび太を親だと思い慕う。劇中ドラえもんが成長促進剤をエサに混ぜて投与しているため短期間で大人の大きさに成長している。人懐っこい性格であるため、恐竜ハンターたちに狙われる。
実はフタバスズキリュウが属する首長竜は恐竜とは別種の爬虫類である。更にいうなら、首長竜の卵の化石は2014年現在一つも発見されておらず、2011年に妊娠したまま死んだメスの首長竜の化石が発見されたことから卵胎生であったとする説が有力。
- 恐竜ハンター「黒マスク」
黒ずくめの姿をした男。部下を率いて恐竜狩りを行っている時空間犯罪者。白亜紀のジャングルの中に基地を持っており中では捉えた恐竜同士を対決させる闘技場などがある。ピー助を狙ってのび太たちを執拗に追う。
原作ではドラえもんに操られたティラノサウルスに基地を滅茶苦茶に破壊されあっさり敗北しているが、それに対し『のび太の恐竜2006』ではスピノサウルスを、『DS』ではギガノトサウルスをけしかけて応戦している。
- ドルマンスタイン
24世紀の大富豪。恐竜狩りを趣味としており、屋敷には自らが狩ったと思われる恐竜の骨や剥製などが飾られている。
人を恐れないピー助に興味を示しのび太らにピー助を引き渡すように要求する。
『のび太の恐竜2006DS』では「レプリガン」という最新鋭ひみつ道具を使って最強の怪獣「ドルマンザウルス」(シュマゴラスとヤマタノオロチとアパトサウルスを足して3で割ったような姿)を作るという幼稚な夢を持っており、優しい心を持つピー助を無理矢理ドルマンザウルスの脳に埋め込んで従順な家畜にしようともくろんでいた。
小ネタ
出木杉レギュラー化断念
もともとは出木杉君も旅の一行に加わる予定であったが、なんでも解決してしまうため面白くないということで却下された。後に出木杉君は小学校在学中に肉食恐竜のツメの化石を発掘しており、のび太が全体復元液で完全復元して埋め直した(後で掘り起こして自分の手柄にしようとした)全身骨格を掘り当てた。
作品の矛盾?
劇中では恐竜狩りは犯罪だとドラえもんが言っているが、初期のドラえもんでは未来では恐竜狩りが流行している(『恐竜ハンター』単行本2巻)と逆のことを言っており、比較画像などを使ってよくネタにされる。このことに関しては、藤子が、本作をよく理解していないことから発生した矛盾だと、藤子不二雄Aと宮崎駿との鼎談で語っており、「『矛盾しているじゃないか』という投書がきましたよ(笑)」とも振り返っていた。『ドラえもん深読みガイド』(2006年)では、専用の道具「細胞縮小機」を使って捕獲していたことに目を付け、ドラえもんは釣り堀のような合法的な施設を利用したのではないかと結論付けている。
また、単行本2巻における恐竜狩りについて、ドラえもんは以下の様に解説している。
「未来の世界ではやっているんだ。おもしろいスポーツだよ。」
「(前略)連れて帰ったきょうりゅうは、ペットにするんだよ。」
一方、本作中では恐竜ハンターについて以下の様に批判している。
「中生代のめずらしい動物を、殺したりつかまえたりして金持ちに売るんだ。」
「でも、これは航時法という法律で禁じられてるんだよ。」
すなわち、スポーツや飼育といった個人の娯楽としての狩りは許可されているのに対して、商品としての売買など金銭目的・経済活動としての狩りは禁止されていると解釈することもできる。
恐竜ハンター&ドルマンスタインは2112年ドラえもん誕生にも登場している。ドラえもんが今の性格になった原因を作ったり、セワシを誘拐してタイムパトロールから逃げおおせようとしたりする。
タイムマシンの定員
本作においてタイムマシンは3人乗りで、5人乗ると定員オーバーで故障の恐れまであるが、翌年夏公開の『ぼく、桃太郎のなんなのさ』にて改修したことが言及されており、以後の映画においては普通に5人乗りしている。
ただ、この肝心の『ぼく、桃太郎のなんなのさ』自体が大長編ナンバリングに入ってない上、原作ではこの話でもタイムマシンを壊しているのだが、大長編も含め原作マンガでは特にタイムマシンを改修した描写は出てこない。
この為ツッコミどころとしては実は恐竜ハンターの話よりこちらの方が矛盾がでかかったりする。
F先生と恐竜
フォローしておくと、藤子F先生はものすごく恐竜に詳しい。フタバスズキリュウを題材にしたのは、当時日本で発見されたもっとも有名な「恐竜」を使ってリアリティを出すためだという。作品の描写と現在の学説との食い違いについては、先生の勉強不足と言うよりも、当時の恐竜に関する調査が未発達であったために起こったミスである(当然、今後の研究次第によって現在の定説が覆されることは、十分にありうる)。
日本はその地形の関係で古生物の化石を学者先生がスタッフ集めて掘りに入れる環境がなく、1975年(たたき台としての話が発表された年)から1980年(漫画版及びアニメ版発表年)まで、「日本に恐竜なんかすんでいなかったの!」が普通の常識的な考え方だった。一方で素人が掘れる環境がそこそこあり、のび太君の後裔が化石掘りまくって恐竜(もふもふティラノのアウブリソドンなど)を発見しまくる最初の嚆矢が1980年代中頃である。
劇中で「その辺の哺乳類型爬虫類は人間のご先祖」という説明があるが、我々の直接の祖先である現世真獣類(胎盤があってお子さんを産むタイプの哺乳類)が出てきたと考えられるのは、21世紀初頭の説で、「今から9000万年くらい前(ピー助の種類の化石が出てくるちょっと前だから本作品よりうん千万年前)」が有力である。しかも漫画版の中に出てくるトリコノドンは(短編『白亜荘二泊三日』でも出てくる)、白亜紀後期の地層から出てきていないが、短編『白亜荘~』の説明は「哺乳類はジュラ紀からいた」となっている。21世紀初頭にジュラ紀後期の地層から「多分赤さんを産んでる哺乳類」の化石は発見された。
作品中での説明はほぼ間違いなんだけど、最近の説ではタヌキや猫、人間の祖先は北アメリカ大陸~ユーラシア大陸のどこかでもふもふしていた種類から発生したと考えられている。
その辺を踏まえてあたたかい目で見守っちゃいけないのが2006である。
20世紀が終わるまで、恐竜全盛期の哺乳類というのはペラデクテスやデルタテリジウムのような小型のものであり、大型哺乳類の登場は恐竜絶滅後と考えられていた。ところが、2005年の中国でのレペノマムス・ギガンティスの化石の発見を皮切りに、中生代の地層から恐竜(と、それまで一般的にされていた中~大型爬虫類)を捕食していたと思われる大型サイズの肉食哺乳類の化石が続々と発見されたのである。ところが、このあたりの設定を「2006」には反映せず、原作設定のまま映像化してしまっているのである。藤子F氏が健在だったら、製作途中だろうがスタジオに乗り込んで、「コンテからやり直しだ! できないなら今期のドラ映画はない!!」となっていたことだろう。
これら大型哺乳類の発見により、現在では恐竜は本当に(おしなべて)現在の爬虫類に類するものだったのか、という疑問も出ている。考察ってホント大事だよ、ね。
主題歌
- オープニングテーマ「ぼくドラえもん」
作詞 - 藤子・F・不二雄 / 作曲・編曲 - 菊池俊輔 / うた - 大山のぶ代、こおろぎ'73
- エンディングテーマ「ポケットの中に」
作詞 - 武田鉄矢 / 作曲・編曲 - 菊池俊輔 / うた - 大山のぶ代、ヤング・フレッシュ
挿入歌
- 「ドラえもんのうた」
作詞 - 楠部工 / 補作詞 - ばばすすむ / 作曲・編曲 - 菊池俊輔 / うた - 大杉久美子 / セリフ - 大山のぶ代(ドラえもん)
- 「ワンパク三人組」
作詞 - ばばすすむ / 作曲・編曲 - 菊池俊輔 / うた - たてかべ和也(剛田武)
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