概要
テレビアニメの放送中に『冒険王』(秋田書店)の付録『冒険王コミック文庫』に掲載されたコミカライズ版『機動戦士ガンダム』のこと。
1999年発行のムック本『G20』Vol.3に掲載の西島大介氏によるインタビュー記事によれば当時、作者である岡崎優氏の家にはテレビが無く、日本サンライズからシナリオとキャラクター設定画のコピー等の設定資料を渡されて漫画を描くこととなった。
西島「設定画のコピーだと色なんて判別できませんよね。例えばアムロの髪の色であるとか。」
岡崎「だから全部自分の勘ですよね。この頃描いたザクの目のまわり(モノアイのこと)白かったりするでしょう。どこに色付けたらいいかわかんないんでねぇ、下手に付けるよりは塗らないほうがいいかなって考えるんです」
西島「デザイン的にどこに戸惑いました?」
岡崎「やっぱザクの目ですね。1個でしょ。それまでのロボットっていうのは必ず目が2個ついてたんですよ。それが動くことも随分長い間知らなかったですよね。目(モノアイ)が、へへへ(笑)」
西島「執筆当時、ご自宅にテレビは?」
岡崎「なかったです、へへへ(笑)」
その結果、出来上がったものは1stガンダムのキャラで『機動武闘伝Gガンダム』をやったようなノリのスーパーロボット漫画であった。
テレビアニメとの相違点
原作との相違で有名な所を挙げると以下の通り。
- 第1話のアムロの部屋にあるのは戦闘機のラジコンと壊れたガラクタのロボット。レトロなガラクタロボットを修理するでもなく弄くり回すアムロの姿は気でもふれたのかと心配になる(改定版の単行本ではガラクタを弄るシーンはハロの修理に変更されている)。
- V作戦の極秘資料に御丁寧にカタカナで「ガンダム」と書いてある。
- アニメ版の準備稿そのままの鋭利な長いトゲが三本だけ突き出した変な形のガンダムハンマー。
- 全体的に設定ミスが多く、宇宙空間をジオン水泳部が動き回ったり作中でそのキャラが全く搭乗していない機体に乗っていたりする。
- ザクもガンダムも平気で地球の空を飛びまわり、ムサイまで何の説明もなく空に浮かんでいる。太陽炉でもあんのか?
- シャア・アズナブルがミョーに小物っぽい。「やったぞ、サイド7の最期だ」「悪く思うなよガルマ、お前の戦闘を最後に手助けしたおれは英雄になるのだからな」などとザコキャラっぽい台詞を吐く。
- しかも、地球の夕焼け空を自在に飛ぶムサイをバックに「わははは」「あ~っははははは」とガルマが死んで大喜びのシャアのバカ笑いが響き渡る。
- ついでに第1話で、ジーンとデニムはサイド7内に侵入した際、ザクから降りて、ノーマルスーツ姿で隠れる事無く、住宅地近くを歩き回っている(見つかったらどうするんだ)。
- なお、ガンダムを発見し、功を焦って破壊しようと試みるのは同じだが、ジーンとデニムが乗り込んだザクは、「直立不動の姿勢のままで、空を飛んでいる」。
- アムロが「ええい、このスイッチだ!」と適当にそこら辺のボタンを押しただけで勝手にガンダムが「ガガ」っとパンチを放ち、ザクをぶっ壊すという超オートマ設計。
- ホワイトベースからスーパーマンかウルトラマンのごとく拳を突きだし「シュッ」と飛び出すガンダム!まさに宇宙の平和を守る正義の味方のスーパーロボットだ!
- 「ガンダム、ゴー!!」
- セイラさんがガンダムで「シュバッ」と出れば、それを追うアムロのガンキャノンも「ズバーッ」と参上!ランバ・ラル率いる7機のグフ(多すぎ)と戦闘開始!
- ジオン軍のMSの装甲があまりに貧弱。まあ原作のテレビアニメ版でもずっこけて戦車とぶつかっただけで爆発したりしてたけど。
- いくらミノフスキー粒子があるからといって、戦闘がことごとく超接近戦ばっか。レーダーが全く役に立ってない。
- その戦闘シーンもだいぶゴチャゴチャしていて、パースが狂ったりすることも多い。ホワイトベースに迫るザクが超巨大だとかは当たり前。
- サイド7がシャア率いるジオン艦の攻撃で破壊しつくされる。ムサイの撃った超巨大ミサイルで大爆発するサイド7。どう見ても生存者はゼロ。
- 爆炎に包まれたサイド7の中から現れるホワイトベース。スペースコロニーと比べると明らかにサイズがおかしく、超巨大戦艦になってしまっている。
- アムロが全体的に喧嘩っ早く、どっちかっつーとカミーユかシンに似ている。少なくとも原作では「くそっしょうがねえな」「ざまあ見ろ!」「ちっこんどは赤い彗星抜きかい!!」「満足に寝させてもくれねーのかよ」「ちくしょ~出せよブライト何のつもりだ~!」なんて言う子ではないし、どんなにキレてもテレビを叩き割ったりはしない。(下記も参照)
- そのせいかガンダムの戦い方も物凄い格闘特化。シャア専用ザクの羽交い締めを振りほどいて無理矢理ビームサーベルを抜いてザクをぶった切ったり、グフに両手を縛り上げられてもアメリカンクラッカーみたいに振り回して頭上でゴッツンコさせて破壊したり、ギャロップを投げたりしている。
- それ以前にムサイのメガ粒子砲を受けてもびくともしないなどガンダムの装甲があまりに頑健(中のアムロはさすがに驚いていたが)であり、ダメージを負ったのはラストのジオング戦だけ(下記も参照)。まあ、これは原作でもそんな感じだった(ザクの動力炉の核爆発を零距離で受けてピンピンしているなど)が、だからといってビーム兵器に耐えるのはやりすぎ。
- ちなみにガンダム以外でも、ベルファスト基地での対ゴッグ戦にて。苦戦しているガンダムを助けんと、発進したホワイトベースが、そのままゴッグの頭上から降下し押しつぶすという事もあった。
- ブライト・ノアに白目がある。
- ガルマ・ザビの国葬が余りにも安っぽい(詳細:少女漫画チックなザビ家邸の庭園に軍人でもない国民(ただのご近所の若者たち)を無造作に立たせて、屋敷上階のバルコニーから演説するギレンとザビ家の皆さん)。
- このギレンの演説時に、アムロはそのテレビ中継放送を観て激昂し、「うおーっ!!」っと叫びながらホワイトベースのTVモニターに正拳突きをして「ガチャッ」と破壊している。そして、「負けんぞ……絶対にキサマらなどに負けるものか!!」と明後日の方向を見つめながら男らしく決意を述べる。そんな自分勝手にホワイトベースの備品を破壊したアムロを凄く頼もしそうに見つめるブライトであった…。なお、後の愛蔵版などでは加筆修正され、このコマ自体が消滅しているものもある。
- シャア専用アッガイ。
- 上述した様に、グフの量産体制が原作アニメよりも早く、ランバ・ラルがホワイトベースを奇襲したころには既に量産化されている始末。ランバ・ラル軍団としてグフが大量に出撃しており、変なガンダムハンマーを振り回すガンダムと対決し、全機もれなく撲殺された。
- そんな狂暴なガンダムを見て、ブライトは「かなわんな、まったく……」「最近アムロは人が変わっちまった…」と心配するが、人が変わったのはお前たちも同じだろうと言いたくなる。
- そのくせ、次の話の冒頭では「戦いに勝つためにはアムロの弱い性格はガンダムには不適当だ……」などと、突然真逆の事をミライさんに言い出す支離滅裂なブライト。それもアムロの部屋の前で。
- 当然、それを聞いていたアムロはランニングシャツにトランクス一枚の下着姿のまま、即行でガンダムに乗って「勝手にやってみろ!!」「もう帰るもんか!!」と愚痴りながら脱走する。しかし、次の砂漠のシーンではしっかりと私服を着ている。
- ちなみにブライトは、グフの存在を噂に聞いていた(グフを見た時に、「うわさに聞いた事がある」とブライト自身が口にしている)。
- 「このままアムロのわがままをとおさせる……そんなわけにはいかないわ」とかぬかすセイラさん。前回、ガンダムで「シュバッ」っと無断出撃したアンタがそれを言うか?
- ガンキャノンの砲撃による衝撃(?)で何故かグフのコックピットから放り出されたランバ・ラルが、偶然近くにいたセイラさんと再会して会話中に突然のブライトの誤射でそれはそれはあっさりと死ぬ。しかも断末魔は「げっ!!」。
- 連載版のラスボスがまさかのマ・クベ専用ゾック。しかも舞台は宇宙(なのでリック・ゾックとでも呼ぶべきか)。宇宙空間をかなりのスピードで飛び回り、ガンダムを翻弄していた。ちなみにマ・クベにこのゾックを授けたのはキシリア。
- ついでにドズルも「モビルスーツにはモビルスーツだ」と言い放ち、宇宙空間でズゴックを出撃させている(これも正式名称はリック・ズゴックだろうか)。
- 原作となるテレビアニメの打ち切りと放送短縮の決定により『冒険王』の付録での漫画連載も無理矢理打ち切りにされたため、最終回は明らかにソードマスターヤマト状態に。内容も詰め込まれ過ぎており、黒い三連星編なんて丸ごとカットされている。
- マチルダ・アジャンが登場しない。
- 最終回の最後のコマは、「ガンダムがいる限り、オマエたちの好きにはさせないぞ!」と、ポーズを決めたガンダムとアムロが描かれている。
…等々。
なお、上記した内容はほんの一例に過ぎない。
その一方で、映像作品『機動戦士ガンダム』のみではいまいち把握しにくい一年戦争の本質を、ズバリ解りやすく、しかし誤解のしようがないような言葉で説明しているコマがあったりもする。
岡崎版『めぐりあい宇宙編』
原作となるテレビアニメ版でホワイトベースがジャブローから宇宙に上がった直後の辺りで『冒険王』の付録での漫画連載が打ち切られたため、それから約2年後の1982年には事実上の続編(最終章)である『劇場版・機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』のコミカライズも描かれた。当初は『別冊冒険王』に掲載され、後に単行本化された。
こちらは原作を(今までに比べれば)尊重した出来(上述した西島大介氏との対談企画内で作者の岡崎氏曰く「再放送かなんか見た後で、一度だけ試写に連れていかれた」とのこと)になっているが、それでも変な点は多々ある。
その最たるものが、ア・バオア・クーにおけるガンダムvsジオング戦。
ジオングと交戦したガンダムは頭部を破壊され途中までは「うわーっシャア~め!!(原文ママ)ま、まだだっ、たかがメインカメラをやられただけだ!!」と、劇中に準じた展開およびシチュが描かれていた。
しかし、その次のコマでは、頭部が健在なままのガンダムが(岡崎氏曰く「残像ですね、きっと。へへへ(笑)」ざ、残像って何…?)ビームサーベルを抜いて一閃!何とジオングを一撃で破壊してしまう。
その直後、アムロとシャアの白兵戦に。つまり丸々ラストシューティングをカットしてしまっている(これは雑誌掲載版で、単行本ではガンダムの頭は再生せず、ちゃんと映画劇中に準じたラストシューティングのシーンが加筆されている)。
というか、百歩譲って最終回で戦艦が撃墜されたドズル・ザビはまだしも、乗っていたMSごと真っ二つにされて宇宙に放り出されたマ・クベはどうやって生きてたんだ!?
岡崎優氏によれば、この『めぐりあい宇宙』のコミカライズは2ヶ月程の短期間で描きあげたらしく、上述の西島大介氏との対談ではこんなエピソードを語っている。
西島「この『めぐりあい宇宙』はどのくらいの期間で描かれたんですか?」
岡崎「これは、2ヶ月いかないくらいですね。これなんか見ても滅茶苦茶ですよね。汚くて…」
西島「それは短いですね。あれ?このコマ?(上記の「頭部が再生したガンダム」のコマを見つける)」
岡崎「こ、これ、ガンダムの頭が飛んだのにまだあるんですよ。くくくくく(爆笑)。1週間寝てなかったんですよこの時!へへへへへ(また爆笑)」
西島「すごいですね。ガンダムが一度ジオングに頭部を吹っ飛ばされてるのに、次のコマで頭がまた再生してるわけですね(笑)」
岡崎「これはあんまりだということで、描き直させてもらったんです。」
西島「別冊冒険王が昭和57年(1982年)4月15日発行で、サンデーコミック版が出たのが昭和57年5月30日。これも非常に短い期間で修正されたわけですね。」
岡崎「だから編集部に返してくれって言って。いくらなんでも格好悪いからって。へへへ(笑)」
制作期間2ヶ月。1週間の不眠と云う悪条件が産み出した、あまりにも出鱈目なシーン。
作者の岡崎優氏自身もこの「再生するガンダムの頭」のシーンに一番ウケていた。
上述したようにサンデーコミック版では既に修正されており、現在この伝説のコマを拝めるのは当時刊行された『別冊冒険王 機動戦士ガンダムⅢ 漫画特集号』だけである。
都市伝説
シャアとの初対決時にアムロが「そういややけに赤い!!」は、実はコラ。
本来は「そういややけにすばやい!!」である。
これがあまりに出回ってしまい、岡崎版の存在が“知る人ぞ知る”だった時期、まるでそれがオリジナルのように認識されてしまった。現在も初めてそのコラを見た(岡崎版の存在をそれまで知らなかった)人間が、そう誤解してしまう事がある。
別作品
スーパーロボット大戦シリーズで、2回ほど『逆襲のシャア』設定のアムロが、本作でディスプレイを破壊した件を話題に出されている。
関連タグ
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