「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知して戴く」
内閣支持率が5%の衝撃
日本の政治家。第86代内閣総理大臣、第19代自民党総裁(在任2000年4月~2001年4月)。175cm、体重103kgの巨体。
名前の読みは「もり よしろう」「シン キロウ」でも「蜃気楼」でもない。念のため。
田中眞紀子議員は、皮肉でそう呼んでいたが。
前総理の急死を受け、取り急ぎ自民幹部(五人組)によって選定された。就任に際し投票等が無かったことは「民主主義の否定」だとして後々まで非難され続けることとなった。
在任中は沖縄サミットを成功裏に終え、犯罪被害者保護法の立法、ストーカー行為規制法の立法、児童虐待防止法の立法、少年法の改正など治安立法を立て続けに成立させた。
しかし、相次いだ失言等が問題とされ支持率が伸びず、短期で辞任した。
止めとなったのは、「えひめ丸事件」(アメリカ海軍の原子力潜水艦が浮上する際、日本の実習船と接触し沈没させた事故。ただの事故ではなく、原潜は見学の民間人を乗せていた)。
この事故が発生した際に首相はゴルフのプレー中であり、すぐさま公邸に戻るという判断をしなかったのが仇となった。
ラグビーやプロレスを好み、馳浩の政治家転身を導いた。見た目とキャラクターに似合わず潔癖症だという。自身でも大学時代にラグビー部に入部したことはあったが当時の早稲田大学は桁違いの強豪選手揃いだったこともありわずか半年足らずで挫折している。
しかしその後もスポーツへの関心は高く、自民党のスポーツ振興政策を取り仕切っている。
三塚博から党内グループ「21世紀を考える会・新政策研究会」を受け継いで「清和政策研究会」と改称した。以降の自民党内部ではこの清和会が主流派となった。
小泉純一郎、中川秀直は弟分的存在(小泉は一匹狼的存在で、自民党内部における仲間は少なかった)で、総裁選挙のルール変更は小泉の首相就任を後押しした。小泉退任後、「小泉さんは聞くことは聞いてくれるんですよ。ただ私は、あまり言うことを聞いたとは言わないようにしているんです。『小泉は何でも森の言うことを聞いてやっている』となればそれはよくない。言うことを聞かないやつだという言い方をしているほうがいい」と言っている。
但し、上記の小泉とのエピソード等は幾分森の演技も含まれており、中でも知名度が高いのが「干涸びたチーズ事件」である。郵政民営化法案が参議院で否決されたら衆議院を解散すると言う小泉を説得する、という体で彼と会談した際に「出されたのがビールと干涸びたチーズだけだった」とぼやいて空き缶とチーズを持ち、小泉がいかにも彼の言う事を聞かず強行するという印象を演じてみせた。しかしこれは小泉と阿吽の呼吸で演じた茶番劇だった事を後で本人も認めており、小泉相手以外の対応でもこうした「プロレス」的なパフォーマンスを行う事が多かった。
2012年の衆議院選挙に出馬せず、かつて石川県議を務めた長男も既に不祥事で辞職した後事故死しており、親族による後継者も立たないまま引退した。彼の地盤であった石川2区は同じ自民党の佐々木紀が受け継いだ。
その後も自民党文教族、並びに清和会のボス的存在であり続け、「私学助成利権」、「スポーツ振興利権」などを取り仕切った。政権を率いた期間こそ短かったが、党内においては「重鎮」「長老」と言って差し支えなく、現代政治史に少なからぬ影響を残したと言える。
外国訪問などの政治活動も引き続き行っており、2019年のラグビーワールドカップの日本招致では委員会会長を務めた。2020年のオリンピック招致活動にも参加し、積極的に諸外国との顔合わせを行い最終選考にも安倍晋三らとともに同席した。
オリンピック招致の中心人物であった猪瀬直樹の辞任を受けて2014年には五輪組織委員会会長に就任し、「五輪利権」も掌握している。
しかし選手からの評価は低く地位を私物化したとも指摘されている。
特に新国立競技場建設を巡っては「森喜朗古墳」などと揶揄された。
TOCOG会長として
2014年1月に「東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(The Tokyo Organising Committee of the Olympic and Paralympic Games。以下「TOCOG」)」が発足するにあたり、会長に任命された。
2021年2月11日、コロナ禍によって大会の開催が延期となる中、以下の理由により辞任の意向を表明し、開催を迎えることなく会長の座を降りている。
次代会長は元サッカー選手でJリーグの初代チェアマンをつとめた川淵三郎という形で調整されていると報じられた(森喜朗会長が辞意、組織委の相談役に 後任は川淵三郎氏)が、こちらも後述の経緯から白紙となり、その後の理事会で元スピードスケート選手で現自民党議員の橋本聖子に決定している。
「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」
2021年2月3日、日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会にて、JOCの「女性理事を増やす」という方針を巡る発言が女性差別であるとして炎上した(「女性がたくさん入っている会議は時間かかる」森喜朗氏)。
一連の発言は「これはテレビがあるからやりにくいんだが、女性理事を4割というのは文科省がうるさくいうんですね」から始まる。
ニュアンス的に、この部分では増員する女性自体ではなく、それを求めてくる文科省を「うるさい」と称した可能性が高い。また「やりにくい」と言っている以上、内容にかかわらずこれが問題発言にあたる自覚があったと考えられ、厳密な意味では「失言(言ってはまずいこと、いけないことをついうっかり口に出してしまうこと)」にはあたらない、という点には留意する必要がある。
続けて「だけど、女性がたくさん入っている理事会は、理事会の会議は時間がかかります」と述べる。
これは直接女性を指した発言と判断でき、それによって結局のところ彼自身が増員に難色を示していると受け取られた。
更にその理由を「女性っていうのは競争意識が強い。誰か1人が手をあげていうと、自分もいわなきゃいけないと思うんでしょうね」と推測する。
これも内容を顧みず、さも女性が他の理事へのマウントのためだけに中身の無い話を繰り広げていると決めつけていると解釈された。
そして「結局、あんまりいうと、新聞に書かれますけど、悪口言った、とかなりますけど」と断った上で、「女性を必ずしも数を増やしていく場合は、発言の時間をある程度、規制をしていかないとなかなか終わらないで困るといっておられた。だれが言ったとは言わないが。そんなこともあります」と対策を紹介する。
これによって「女性の発言だけを制限する差別主義者」として炎上に至ったのである。
この発言のややこしいところは、まず彼はここでも悪口の自覚を(新聞からのレッテル貼りというニュアンスは滲ませるものの)一応持っている。
加えて肝心の部分は伝聞調で、自分の意見としては述べていない。伝える判断をした時点で同罪ではないかという批判が上がる一方、一つの情報に過ぎず彼自身が差別をしているとは言えないという擁護も上がり、場外乱闘の様相まで呈した。
その後に続けた発言も、混乱に拍車を掛けた。
「私どもの組織委員会にも女性は何人いたっけ? 7人くらいか。7人くらいおりますが、みんなわきまえておられて。(中略)ですから、お話もシュッとして、的を射た、そういう我々は非常に役立っておりますが。次は女性を選ぼうと、そういうわけであります」と、最終的にむしろ女性を歓迎する意向を示しているのである。
これも都合の良い女性だけを選ぼうとする上から目線だと火に油を注いだ一方、そんなことをいちいちあげつらう奴こそ「わきまえ」なければならないといった反論も過熱した。
ともあれ、こうした論争は海外にまで伝播してゆき、その場に居合わせた者が誰も異論を挟まず、むしろ笑っていたことが委員会全体の問題として取り上げられるまでになってしまった(森喜朗氏は「会議での女性の制限を提案」 海外紙も報道)。
もちろん、これにも日本の国内問題に干渉される謂れは無い、女性の話が長いことはある程度共有された事実だったのではといった擁護は存在している。
日本ラグビー協会理事会関係者のコメント
この発言の後、昭和女子大特命教授の稲沢裕子が「もしかして、私のこと?」と名乗り出ている(森氏の発言「もしかして、私のこと?」 日本ラグビー協会の稲沢理事 質問止められたことも)。
彼女は森がラグビー協会の会長にいた時代(2005年~2015年)に唯一の女性理事(2013年着任)であった。
ラグビー業界外の声を求められて着任した立場として、多くの質問をし「非常に長引かせた張本人だと思う」としつつ、女性である事を議論の長引きと結びつける森発言は「正しくない」と断言。「女性かどうかではなく、議論しなければならないことは時間がかかる。活発に議論することは必要」と述べた。
また、自分一人が女性理事であったことで場から浮き、また自分一人が女性全体の事として一般化されることを憂慮しており、五人に増えたことでそれが薄らいだと語っている。
その増えた女性理事の一人谷口真由美准教授(2019年6月着任)は「理事会で女性の話が長いという事実はない。男女問わず活発に議論している」と断言している(「女性の話が長いという事実ない」 森発言でラグビー協会理事・谷口真由美さん)。森発言における、女性の評議会における発言を競争意識によるものとする内容を否定した(ラグビー協会の女性理事、谷口真由美氏 森会長発言は「残念」)。
また、これらの反応から引用部分を含めた全文が森の発言として受け止められるようになっていった様子が窺える。元来の失言の多さや人望の薄さが根底にあったとは言え、この点については同情の余地はある。
その他の反応
女子アイスホッケーのカナダ代表として冬季五輪で4大会連続の金メダルを獲得したオリンピック選手であり、国際オリンピック委員会(IOC)委員のヘイリー・ウィッケンハイザーは「朝食会のビュッフェでこの男性を追い詰めます、絶対に。東京で会いましょう!」と#oldboysclub(老いた少年たちのクラブ)タグと共にツイートした(森喜朗会長の発言にカナダのIOC委員「追い詰めます、絶対に」)。
欧州議会議員安全保障小委員会委員長ナタリー・ロワゾーも森元総理の発言に言及し「はいはい、ムッシュ森よ、女性は簡潔になれる。例えば、あなたには『黙れ(Taisez-vous)』の二語で十分だ」(元ツイート)と一蹴した。
彼女の祖国フランスのメディア・ヴァンミニュットは「性差別の高速道路を時速320kmで疾走する所を撮影された森喜朗」(元記事)とコメントした。
森側の対応
2月4日、「辞めざるを得ないかもしれない」「一般論として、女性の数だけを増やすのは考えものだということが言いたかった。女性を蔑視する意図はまったくない」と語り、妻や娘たちに叱られた、と洩らした(森喜朗氏、会長辞任の可能性に言及 「女性が…」発言の波紋拡大で)。
しかし、その後の別の会見では「辞任する考えはありません」と発言を撤回。むしろ報道への不満を露にし、声を荒げる場面も見られた。そして司会役が強引に幕引きをする形で会見は終了した(「面白おかしくしたいから聞いてるんだろ?」森喜朗氏、謝罪会見で“逆ギレ”も(会見全文))。
この理由として、武藤敏郎事務総長らによって引き留められたことを後に明かしている(森氏、会見の舞台裏明かす「辞任する腹決めたが説得で思いとどまった」)。
会見について東国原英夫は「勇退された方がかっこよかった」と発言し、会見前の辞任検討発言も周りから言われた故の発言と受け止めた旨を語った(森喜朗会長会見に東国原英夫「勇退された方がかっこよかった」田んぼ聖火リレー「ギャグにも…」)。
IOCの中でも賛否両論あったと伝わるが、本部は4日に広報担当者を通じ「森会長は謝罪した。この問題は終了と考える」と発表した(IOC「森会長は謝罪した。この問題は終了と考える」)。
この事についてTOCOG幹部は「IOCも(森会長に)辞められたら困る。代わる人がいない」と取材に答えている。
しかし批判は収まらず、2月5日にはヨーロッパの複数の国の駐日大使館が〈#DontBeSilent(黙ってはいけない)〉〈#GenderEquality(男女平等)〉〈#男女平等〉といったハッシュタグを付けて、手をあげる多くの女性職員を映した写真をSNSにアップし、駐日欧州連合代表部もこれに呼応した(世界が呆れる…森喜朗「女性蔑視発言」に、各国大使館が「抗議の男女平等ツイート」を始めた…!)。
スポンサーからも彼の発言を憂慮・問題視する声が上がり始めた(森会長発言 スポンサー70社にNHK取材 36社「発言容認できず」、森会長発言にスポンサー企業が苦言 組織委は声明と説明)。
2月9日、IOCは、森の進退には踏み込まなかったものの、「完全に不適切だ」とする声明を発表した(IOC、森氏発言は完全に不適切 非難受け新見解、進退問題触れず)。
会長辞任へ
2月11日、森は辞任の意向を表明し、川淵三郎に次代会長になるよう要請した旨が報じられた(森喜朗会長辞任へ 自ら後任指名 禅譲劇も「密室」での幕引き)。
辞任に対し、川淵は「気の毒」と発言した(川淵三郎氏、就任前向き 旧知の森氏に涙流し「気の毒」)。
問題発言で辞める当人が後任を任命する、というプロセスが政府等から問題視され、組織委員会は川淵の起用を見送った(川淵三郎会長就任が白紙撤回 森喜朗氏の指名に政府が難色)。
2月18日の東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の理事会において、全会一致で元スピードスケート選手の議員橋本聖子が後任に選ばれた(橋本聖子氏が新会長に就任 東京五輪・パラ組織委員会)。
が、彼女は2014年ソチオリンピック閉会式後のパーティーでフィギュアスケート選手高橋大輔に強引にキスした事が報じられており、今回の就任でその事が改めて注目され、問題視されている。就任会見でもその事が問われ、「その当時も今も深く反省しております」と答えた(橋本聖子新会長、7年前の“セクハラ騒動”を反省「非常に厳しい声は受け止めている」)。
橋本議員自身は自己正当化の言葉を述べない形で回答したが、彼女と同じ自由民主党所属の竹下亘(竹下登の弟)は「スケート界では男みたいな性格でハグなんて当たり前の世界だ」「セクハラと言われたらかわいそう。別にセクハラと思ってやっているわけではなく、当たり前の世界である」(橋本氏は「男みたいな性格、ハグ当たり前」自民・竹下氏)とセクシャルハラスメントへの無理解を凝縮した擁護発言で火に油を注ぐことになった。
聖火ランナーの処遇問題
「人が集まる」という理由で、聖火ランナーにタレントを起用して田んぼで走らせる、という突飛な提案もしており、これを受けてロンドンブーツ1号2号の田村淳は辞退を表明した(田村淳さん聖火ランナー辞退。理由は森喜朗会長発言 「人の気持ちをそぐ」「ちょっと理解不能」)。
その後
東京オリンピック・パラリンピックに汚職疑惑が持ち上がると、関係者の一人として彼も証言を求められるようになった(森喜朗・元首相、五輪汚職事件で参考人聴取…AOKIやKADOKAWA側と会食か)。
彼自身が手を染めたという扱いにはなっていないが、ここでも賛否両論紛糾した。ただし笑い事ではなくなったという点では一致を見ており、「古墳」ネタなどは急速に廃れていった。
2022年にウクライナ侵攻が発生すると、明確にウクライナ側に付いた日本政府の外交方針を断続的に批判するようになった(森喜朗元首相、また発言物議 ゼレンスキー氏批判にSNSで疑問の声)(森元首相「ロシアの負け考えられない」 ウクライナ支援を疑問視)。
また、同じくロシア側を擁護し「独自外交」まで試みた鈴木宗男の肩を持っていたことも本人の口から明かされ、諸共燃える事態にもなった(「森元首相から発破をかけられた」ロシア訪問の鈴木宗男議員が関西テレビの番組で明かす)。
この当時は岸田文雄政権で、出自の異なる宏池会系とは言え同じ自民党員である。対して鈴木宗男は野党であった日本維新の会の幹部(後に除名)であり、言わば寝返りのような振舞いに、従来擁護していた層からも批判が上がるようになった。
一応、日本維新の会は他の野党とは一線を画すると評価する向きも一定数あり、派閥を重視する向きからも岸田より信用できるとの声は無くはなかったが。
前後して、2023年3月には政治資金パーティーでかつての選挙戦を振り返りながら「女性相手というのは嫌だ。女性を軽蔑してはいけないが、もうとにかく女性の戦法っていうのは、空中戦なのか何なのか訳がわからない」と語り、こちらの方面でも再燃した(森元首相、女性候補相手の選挙「嫌だ」「戦法が訳分からない」)。
更には政治資金パーティー自体に清和会を中心とした大規模な裏金疑惑が持ち上がり、その重鎮であった彼にも当然疑いの目が向けられることとなった。こちらも実際に何らかの罪に問われたわけではないが、以上のような情勢から庇う者を見ることも少なくなってきている。
清和会も岸田の意向により解体の運びとなった。
余談
「森」という短い苗字から、「森元総理」と表記されると「森元・総理」に見えるというネタがある。
このため、ネット上では「森元」呼ばわりされることもあるが、時折本気で「森元」という苗字だと誤解する人もいるらしい。
なお、編集時点で「森元」という名の総理大臣は存在しない。
沖縄サミット中、クリントン大統領に対し「How are you?」(ごきげんいかが)を間違えて「Who are you?」(あんた誰)と言ったとされるが、これに関しては完全なるデマである。
元々、韓国大統領の金泳三が英語が苦手なのを揶揄して「こんなこと言いそうだ」と語られたジョークであり(つまり、金泳三も実際には言っていない)、それが「森総理にも使えそうだ」ということで広まったものである。