概要
高度100kmから数100kmの上空で核爆弾を爆発させると、上空高くでは大気が薄いため爆風はほとんど起きない。しかし、核爆発によって生み出された放射線の一種:ガンマ線が大気層20kmから40km付近の希薄な空気分子に衝突し電子を叩き出す。叩き出された電子は地球磁場の磁力線に沿って螺旋状に跳び、急峻な立ち上がりで強力な電磁パルス (EMP) を発生させることとなる。
電磁パルスの直撃を受けると、EMPは強力な電磁波なので、波長の適合するあらゆる導体に誘導電流が瞬間的に引き起こされる。特に外部にアンテナ用の電線を持つものや、パルス電流への耐圧・耐電流が不十分なものが特にダメージを受ける。早い話、送電線や送電鉄塔へ雷が落ちたのと似たような状況になる。光ファイバーケーブルを除く通信回路と外部から電源を受け取っている電源回路、それらの周辺にある電流の抜けていく経路となる回路が過電流や過電圧で破壊される。
こうなると復旧は短時間では済まない。最悪の場合はあらゆる放送通信(テレビ・ラジオ・インターネット・アマチュア無線など)が短期・長期に渡り機能を失い、生産工場、交通・運輸・流通システム、送電、金融も完全に停止しすぐに回復できなくなる。
ちなみにこれと似たような現象は自然に発生することもある。太陽の活動が活発な時期に太陽から吹き付ける強力な太陽風が地磁気を乱し、送電施設を破壊することがある。
これへの対策のため、アメリカ合衆国では情報通信システムの代替手段の研究も古くから行われ、インターネットもその一つという俗説がある(実際はインターネットの前身の研究に米国防総省の外郭団体が出資しただけであり、インターネットの発祥は電磁パルス兵器対策とは無関係である)。
フィクションでは
アニメ
- 高村和宏が監督を勤め、A-1Picturesが制作を担当したビビッドレッド・オペレーションで電磁パルスを起こすアローンが登場した。
映画
- 1984年公開の『ゴジラ』では、新宿の上空で核爆発が起こった際に電磁パルス現象が発生し、スーパーXをはじめとする人類側の兵器を戦闘不能に追い込む。さらに、この時発生した雷雲から放たれた雷により、カドミウム弾によって活動を停止していたゴジラが蘇生してしまう。
2014年公開の『GODZILLA』に登場する怪獣:MUTO(メイン画像)も、強力な電磁パルスを放出することで都市機能を麻痺させ、米軍の兵器類を使用不能に追い込んでいる。
- 『007』にはソ連が開発した秘密衛星兵器で核攻撃に対する報復を目的としたものとしてゴールデンアイが登場。普段は衛星軌道上を周回しているが、地上からの指令で起動すると、設定された標的地点に軌道を修正して移動する。標的地点到達後は、内蔵した小型核爆弾を起爆させて高出力の電磁パルスを発生させ、それを衛星軌道上から撃ち込むことで、標的地点周辺の電子機器を悉く破壊する。 その威力は凄まじいもので、セヴェルナヤ宇宙センターに対して使用された際には同センターの電子機器を破壊し尽くした上、宇宙センターからの警報で駆け付けたMiG-293機が巻き添えを食らって墜落、おまけにMI6やアメリカの衛星も巻き添えを受けて機能停止した。
- 『パシフィック・リム』には電磁パルスを発生させる器官を有したKAIJU、電磁波暴獣レザーバックが登場。最強のイェーガー(人型ロボット兵器)であるストライカー・エウレカを機能停止させ、人類を窮地に陥れた。
- 『Transformers』ではディセプティコンの一人、ブラックアウトがアメリカ軍カタール基地襲撃の際に使用。指揮等に混乱を齎した事で奇襲を成功させ、生き残ったレノックスチームの無線機器などを破壊してトランスフォーマーの存在をアメリカ本土へ伝えるのを遅らせることにも成功した。
- 『スモール・ソルジャーズ』では、開発責任者が誤って軍事用のAIメモリを導入してしまった自立型可動フィギュアを鎮圧するために、終盤ヒロイン宅の家電をフル稼働させて電柱の変圧器同士を金属の棒で接続することで電磁パルスを発生させた。ちなみにその際主人公は工具を持ち出したが、敵フィギュアのリーダーに落とされた末、代わりにそのリーダー自身を差し込んだ。また味方のフィギュア達は発生の少し前に破壊され、地面に落ちていたパラボラアンテナの下に隠れたことで運よく難を逃れている。
ドラマ
- 『ウルトラマンデッカー』では、スフィア合成獣およびスフィア融合獣の発する一部の攻撃に電磁パルス効果が付与されており、第1話ではこれを用いて無人化の進んでいた地球側の迎撃兵器を悉く無力化した(これにより、対スフィア兵器の有人化が進むことになった)。
- 『ウルトラマンブレーザー』では、宇宙電磁怪獣ゲバルガが身体にある発生器官からドーム状の電磁パルスを使用しており、第11話で迎撃を試みようとしたアースガロンの撃退や通信施設一帯の深刻なネットワーク汚染など発生させるなど、上記のスフィア融合獣にも勝るとも劣らない被害を引き起こした。
ゲーム
- 『メタルギアライジングリベンジェンス』では手榴弾型の電磁グレネードや無人機の装備として登場しており、効果範囲内のサイボーグ及び無人機の行動を一時的に行動不能にすることが出来る。
- 『CoD:MW2』ではアメリカ本土に侵攻したロシア軍に対抗するため、プライス大尉らTF141はロシア軍の潜水艦を襲撃、核ミサイルをアメリカ東海岸上空で起爆させることで一帯の電子機器を破壊してアメリカの反攻のきっかけを作り出した。
- 『ACV』では分類の都合上電磁波による機能障害よりも周囲に高熱を放出する熱エネルギー(表記はTE)兵器に分類されているが、1度の射撃で複数の電磁弾を射出するパルスガンが登場(同名の装備は4系統の頃からあったが、大きく性質が変化している)。射出される電磁弾は直進せずある程度拡散しながら浮遊し、一定距離に到達するか着弾すると爆発しダメージ領域を形成する。派生武器として連射速度を優先したパルスマシンガン、威力特化のパルスキャノン、系統としては違うが、弾速と射程距離を犠牲に威力を高めたパルスガンとも言うべきプラズマガンがある。
- 『エースコンバットZERO』では本土侵攻を許し、バルトライヒ山脈を盾に防衛を続けるベルカ軍によって七発の核弾頭がベルカ領内で起爆された為強力なEMPが発生、爆撃機迎撃に上がっていた部隊を含む複数の部隊との通信が途絶し、大きな影響を与えた。そしてその混乱に乗じて主人公の僚機は作戦空域から逃亡。そして……
漫画
- 『ゴルゴ13』ではゴルゴを狙うAI「ジーザス」を破壊するためにジーザスが乗っ取とるであろう軍事衛星のプログラムに罠を仕込み、大気圏外爆発の核爆発で生じた電磁パルスでジーザスが存在するコンピュータ及び逃亡先となるコンピューターを破壊している。また、刑務所内にいる目標の殺害の為に侵入した際に電磁パルス兵器を使用して刑務所内の監視カメラ等の設備を使用不能にして監視を逃れている。依頼遂行の条件として成層圏核実験を行なわせ、広大な実験エリアの監視網及び通信網を一時的に麻痺させた事もある。
- 『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』では、誤発射された核ミサイルによって電磁パルスが発生。車が使えなくなる、電動の門が動かなくなる、ペースメーカーが故障する等の被害が出た。主人公一行は、それまで乗っていた車から対EMP加工がされた軍用車両に乗り換えることとなった。