概要
生物の分類群を示す世界共通の名前で、ラテン語文法で表記される。18世紀の生物学者であるカール・リンネが提唱し体系化した。
種の場合、現生人類の学名「Homo sapiens」というように、同属ほど近縁な生物種をまとめた「属名」と、そのうち特定の生物種を表す「種小名」を組み合わせた二名法である。これは特定の種を表す種名となり、属名は最初の1文字だけ大文字で、種小名は全て小文字。文献記載では、属名や種名をこのように斜体(イタリック字体)で特記されることが一般的。
ヒトの場合は今は同属の別種がいないので1属1種という扱いになるが、絶滅したネアンデルタール人は同属別種で、Homo neanderthalensis という学名がつけられている。
現在1属1種の身近な生物は、他にもカブトムシ(Trypoxylus dichotomus)やイチョウ(Ginkgo biloba)などが挙げられる。
属全体を指すのに属名だけを単独で表記することはあっても、種小名だけ種を表記することはまずない。これは、属が違うと同じ種小名を使うことが認められているため、種小名だけだといずれの生物を指しているのかわからないからである。
例えば甲虫の一種ヘラクレスオオカブト(Dynastes hercules)で有名な種小名 hercules は、蛾の一種ヘラクレスサン(Coscinocera hercules)にも使われている。
elegans や japonica などに至っては常用される種小名であり、様々な生物のグループで該当する種が多く見られる。
種がさらに亜種(subspecies)として区分できる場合、種名の後ろにさらに「亜種小名」を付けられる。これは三語名法でそもまま足す(属名 種小名 亜種小名)、もしくは subspecies の略 subsp./spp. を挟んで表記される(属名 種小名 spp. 亜種小名)。そのうち基準の位置づけに当たる基亜種は、種小名と亜種名が同じである。
例:前述したカブトムシ(Trypoxylus dichotomus)には Trypoxylus dichotomus septentrionalis(ヤマトカブトムシ)や Trypoxylus dichotomus takarai(オキナワカブト)などの亜種がいるが、基亜種は Trypoxylus dichotomus dichotomus(タイリクカブトムシ)である。
属より上位な分類群の場合、学名は下位分類の併記(二名法)をせず、最初の1文字だけ大文字で、斜体をしないことで属名や種名と区別される(例:ヒト科 Hominidae)。
決まった読み方はなく、学名自体のスペルさえあっていればどのようにカタカナ転写や発音をしても構わない。例えば、Tyrannosaurus は「ティラノサウルス」の方が一般的であるが、「ティランノサウルス」でも「チラノサウルス」でもよい。前述した Dynastes hercules の和名は種小名由来で、それがヘラクレスオオカブトになったりヘルクレスオオカブトになったりする。
文法こそラテン語だが、別言語の言葉に由来する名称も多い。例えば日本語由来のものでは Nipponia nippon(トキ)や Gojirasaurus quayi(ゴジラサウルス)などが挙げられる。
特定の人物に敬意を表して、命名者がその名前を学名に織り込む場合も少なくない。これを献名という(一方、命名者が自分の名前を学名に織り込むことは基本的にはない)。
これらのケースは古生物によく見られ、Fukuisaurus(フクイサウルス)のようにラテン語でない発掘場所名や、Futabasaurus suzukii(フタバサウルス・スズキイ)のように命名者でない発見者名が学名になる事がしばしばある。
学名の基本的な表記法は動物だけでなく、植物や原核生物などもすべて同じであるが、実際に学名を決めるための規約はそれぞれ異なる。「国際動物命名規約」と「国際藻類・菌類・植物命名規約」および「国際原核生物命名規約」がそれである。ウイルスは細胞性生物ではないため命名規約がないが、分類のために原核生物のルールを準用して学名が命名されている。
よくある誤解
「Homo sapiens Linnaeus, 1758」ないし「Homo sapiens L.」のように、学名の最後には命名者(苗字かその略)や学名公表年を併記される場合もある。この文面全体がしばしば「学名」と紹介されることがあるが、命名者と学名公表年は学名の一部ではない。また、「ホモ・サピエンス」という表記はあくまで学名のカタカナ転写であり、学名そのものではない。
「学名」という文面から「学術的な名称」という漠然としたイメージを与えるからか、特定の言語での正式の生物名(例えば日本語では和名)が誤って学名と紹介されることもある。
シノニム
学名は1つに決められるべきであるが、種類の分け方は研究者によって見解が異なる場合があり、これにより同一の種や分類群が複数の学名を与えられた場合もしばしばある。これをシノニム(異名、同物異名)という。この状況を判明した場合は先取権に従い、先につけられた方は正しい学名(古参異名、シニアシノニム)、後につけられた方は無効の異名(新参異名、ジュニアシノニム)とされる。
例:アサガオの正しい学名 Ipomoea nil(1797年に記載)とそのジュニアシノニム Pharbitis nil(1833年に記載)。
ただし一般的な文脈での「シノニム」は、単にジュニアシノニムを指す場合が多い。
また、種の場合は所属する属が変えられた時、古い分類による命名の方をシノニムと呼ぶことが多い。
例:前述したカブトムシ(Trypoxylus dichotomus)には、サビカブト属(Allomyrina)に分類された頃の Allomyrina dichotoma / Allomyrina dichotomus や、タマオシコガネ属(Scarabaeus)に分類された頃の Scarabaeus dichotomus といった古い分類による命名があって、これらが Trypoxylus dichotomus のジュニアシノニムともされる。
近年、現生する生物(特に植物)については遺伝子解析により分類の判断がされるようになってきたが(分類を遺伝子だけで決めることには異論もある)、化石でしか残っていない古生物は遺伝子解析のしようがないので、研究者により判断が大きく分かれることが多い。
動物の学名
動物の学名は、地域の言語にもよるが専門家以外にはあまり使われることがない。通称名に比べ長いことと、名付け方が直感的ではないためであろう。
なお、古生物の場合はティラノサウルス(Tyrannosaurus)やアノマロカリス(Anomalocaris)のように、学名(特に属名。図鑑などでも属までしか記載されない事が多い)のカタカナ転写を通称として使われるのが一般的である。
動物の学名に特徴的なものとして「Gorilla gorilla」(ニシゴリラ)のように属名と種小名が同じ反復名(tautonym)がある。反復名は植物では許容されていない。
植物の学名
動物とは対照的に、一般の人にもなじみのある学名が多くある。アネモネ(イチリンソウ属 Anemone)、ロベリア(ミゾカクシ属 Lobelia)、コルチカム(イヌサフラン属 Colchicum)、デルフィニウム(オオヒエンソウ属 Delphinium)、ゼラニウム(フウロソウ属 Geranium)...など、属に和名があってもあまり使われず、学名のカタカナ転写で一般に呼ばれる植物は数多い。
しかし園芸分野で使われる学名は古い分類に基づくシノニムが多く、現行の分類と一致しているとは限らない。一般にゼラニウムと呼ばれる草花は実際にはペラルゴニウム(テンジクアオイ属 Pelargonium)の一部の種であり、しかも店によっては「ペラルゴニウム」の名も併用していたりするため非常にややこしい。
また、植物命名規約により、二名法の種名の後ろにさらに変種(variety を略して var.)の名を付けて表記されることもある。これは野菜や果物などの園芸植物で特に多く見られる。
例:ヤセイカンラン(Brassica oleracea)の変種キャベツ(Brassica oleracea var. capitata)。他の生物ではこれは許容されていない。
原核生物の学名
原核生物(細菌と古細菌)の分類は動物や植物に比べて難しい問題を多くはらんでいる。形態が似たようなものも多く外形で分類することが難しいことと、培養できる種が限られていること、そして遺伝子の水平伝播といって、異なる系統の細菌から遺伝子を獲得することがよくある(動物や植物でも遺伝子の水平伝播はないことはないが限定的)ことなどである。
前述した古生物や植物のように、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)やビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)など、一部の病原菌は学名のカタカナ転写が知名度が高い。
シアノバクテリア(藍藻)は原核生物だが、かつて藻類として扱われていた名残りから国際藻類・菌類・植物命名規約で取り扱われている。
フィクションでは
SF作品(稀にファンタジー作品にも)では架空の生物種に設定される事があり、フレーバーテキストとして機能している。
あくまでもフレーバーテキスト目的の命名であるため、現実の学名と違って詳細なルールが決められているというわけではない。日本語であればアルファベットではなくカタカナ表記にされ、それっぽさを出すために「〇〇ザウルス」や「〇〇・〇〇ス」というネーミングが付けられる傾向にあり、中には明らかに日本語文章の捩りや和名方式のものも見受けられる。
ウルトラ怪獣/円谷怪獣
出典 | 怪獣名 | 学名 |
---|---|---|
ウルトラQ | ゴメス | ゴメテウス |
- | リトラ | リトラリア |
- | パゴス | パゴストータス |
- | ピーター | アリゲトータス |
ウルトラマン | ゴモラ | ゴモラザウルス |
- | ヒドラ | ボルカノ・プテリクス |
帰ってきたウルトラマン | テロチルス | テロチルス |
ウルトラマンダイナ | ギガンテス | アウストラロピテクス・ギガンテス |
ウルトラマンコスモス | イフェメラ | ラ・ゾル=イフェメラ=ルー |
東宝怪獣
出典 | 怪獣名 | 学名 |
---|---|---|
ゴジラの逆襲 | アンギラス | アンキロサウルス |
大怪獣バラン | バラン | バラノポーダ |
ゴジラ×メガギラスG消滅作戦 | メガニューラ | メガニューラ・ルイザエ |
GODZILLA-ゴジラ- | ゴジラ | タイタヌス・ゴジラ |
ゴジラ・キング・オブ・モンスターズ | カマソッソ | タイタヌス・カマソッソ |
- | スキュラ | タイタヌス・スキュラ |
- | ティアマト | タイタヌス・ティアマト |
- | メトシェラ | タイタヌス・メトシェラ |
- | モスラ | タイタヌス・モスラ |
- | ヤマタノオロチ | タイタヌス・ヤマタノオロチ |
ゴジラS.P | カマンガ | クモンガ・ファルシペス |
- | クモンガ | クモンガ・サイトーデス |
- | ゼンブンガ | クモンガ・ウルティマ |
- | ハネンガ | クモンガ・アラートゥス |
GODZILLAvsKONG | コング | タイタヌス・コング |
- | ダグ | タイタヌス・ダグ |
- | ワーバット | ベラム・ヴェスペルティリオ |
その他
出典 | 種族名/個体名 | 学名 |
---|---|---|
R-TYPE | ドプケラドプス | ドプケラドプス・マットウシス |
ゼノギアス | ウーキィ族 | ドテスカチュチュポリン |
テイルズオブエターニア | クィッキー | ポットラビッチヌス |
ドンキーコング3 | バナナバード | ゴルダス・フラッタース |
にじさんじ | まめねこ | ハツガソライロマメネコ |
のび太の創世日記 | 昆虫人 | ホモ・ハチビリス |
バトルスピリッツソードアイズ | 疾風丸 | コルガノオオゾラノツバサ |
ピクミン | イヌムシ科 | oculus kageyamii |
マリオシリーズ | ヨッシー | T.ヨシザウルス・ムンチャクッパス |
ゼルダの伝説ムジュラの仮面 | ガロ | ガロ・ローブ |
リヴリーアイランド | ムシチョウ | phoenix penni-non |
ルーニー・テューンズ | ロード・ランナー | ハヤイッテ・シンジラレンス(他多数) |
- | ワイリー・コヨーテ | ニククッテ・ガッツキス(他多数) |
ONEPIECE | 象主(ズニーシャ) | ナイタミエ・ノリダ象 |
随時追加希望
一方、実在する生物をそのままテーマにした作品であれば、その学名まで忠実に導入されるものもある。例えば「甲虫王者ムシキング」では学名が明記されるだけでなく、属名が同じ虫同士だと相性が良くなるシステムも存在する(ただし、攻略本では「学名や外見が似ている」という曖昧な表記になっている。その割に種小名や亜種名は意味をなさない)。そして当時の旧分類により、カブトムシの学名が一昔前の Allomyrina dichotoma となっている。一方、オオクワガタは属名は変わらなかったため学名の変更に伴いカードの記載も変えられている。
- なお、こちらの固有名詞付き虫は個体名をアルファベットにしたもが学名と一緒にカードに記載されている。「キング」なら「King(Allomyrina dichotoma)」、「カブト丸」なら「Kaboto-maru(Allomyrina dichotoma)」など。
「アニマルカイザー」では学名が導入されないが、カードには固有名詞付き動物含めしっかり記載されている。なお、こちらにもカブトムシが登場するが、こちらは登場時には既に変更されていたため、Trypoxylus dichotomus と記載されていた。
また、元になった生物の学名がキャラクター名に取り込むことも多い。例えば「星のカービィ」でライオンを元にした獣王レオンガルフは、ライオンの学名である Panthera leo が名前に使われている。昆虫などの虫がモチーフの「王様戦隊キングオージャー」では、登場人物名の多くが昆虫の学名由来の部分がある。
関連タグ
アンノウン(仮面ライダーアギト):名称が学名の法則に似通っている。