アニメーター
あにめーたー
概要
主に原画を担当する原画マン、動画を担当する動画マン、原画の品質を監督する作画監督に分けられている。
セルに色を付ける彩色(仕上げ)、背景を描く美術、動画と背景を合わせてCG処理を行う撮影などは、アニメーター(作画)とは別にそれぞれ専門のセクションが設けられている。
アニメーター1本に絞って仕事をする者が最も多いが、中には勉強をして演出家となったり、さらにその上の監督となって活躍する者もいる。なお、アニメーション監督はアニメーター出身とは限らず、制作進行や撮影出身の人間も多数存在する。
少数だが、本業の傍ら漫画家やイラストレーターとしての仕事を請け負うアニメーターもいる。そして、pixivには現役アニメーターやアニメーターを目指すユーザーも大勢いる。
漫画家・イラストレーターは売れないと食えないが、アニメーターは個人のセールス力が低くても「実力」と「早さ」があれば仕事はあるというメリットがある。
ちなみに、ベテラン級アニメーターが言う「趣味でやれ」は、「見込みがない」「役立たず」と同義語の最大限の罵倒である。これは個人の趣味で作品を作られるとほとんどすべてが駄作として終ってしまうという、無数の実例があるためである。
アニメーターの役職
絵コンテと演出家の指示に従って、レイアウト(画面の構図)と原画(動きの要所となる絵)を描くアニメーター。経験を積んだ動画マンが昇格してこの役職に就く。ようやく一人前といえる。
動画と原画の間には第二原画という中間職があり、動きのクオリティを保つために設けられる。
原画と原画の間をつなぐ絵(動画、中割りなどとよばれる)を描くアニメーター。
新人アニメーターが一番最初に割り振られる役職。動画マンとしての実績を積むと、徐々に原画マンとしての仕事が割り振られるようになっていく。原画マンになる前に、動画検査の仕事を経験する者もいる。但し下記の諸問題および、基礎を身に着けるまでの求道者的思考改造レベルでの訓練に耐え切れない事により、この段階で退職していく者も少なくない(1日で嫌になり逃げ出すことも全く珍しくない)。
まず最初に覚えさせられるのは「鉛筆できれいな線をひけるようになること」。ちなみに動画は熟練度が低くても比較的描きやすく、スキャン時に強く出るBの鉛筆を使うが(近年はB芯のシャーペンを使う作品も多い)、原画担当は熟練すれば表現に各段位幅の出る固めのHBやFの鉛筆を使う。
上がってきた動画がきちんと動いて見えるよう描かれているか、タイムシート(撮影のタイミングを記した伝票)の動画パートに記入ミスがないかを検査する仕事。経験を積んだ動画マンに割り振られる。この役職に就きながら原画の仕事を少しずつこなしていき、原画マンに昇格する者が多い。
動検、動画チェッカーとも呼ばれる。
原画マンが描いた原画の上に「修正用紙」とよばれる用紙を重ね、そこに修正を入れていく。
経験を積んだ原画マンのうち、技量が並みはずれて高いうえに周囲からも一流と認められたうえで、作業スピードが速く、一定のクオリティを保って作業をこなせる者が就く。
作画クオリティのストップギャップ的な職であり、機能しないと作画崩壊が待っている。
各話ごとの作画監督の絵柄のバラつきを抑えるために置かれる役職。作画監督が描いた絵の上に修正用紙を重ね、そこに修正を入れていく。
その作品のキャラクターデザインを担当した者が兼任することが多い。
アニメに登場するキャラクターの外見をデザインする役職。いわゆるキャラ表(キャラクター設定)を描くアニメーター。
原画マンや作画監督として実績のある者が抜擢されるが、コンペティションがひらかれイメージ的に最も優れたものが受けるのがふつうである。それを怠り縁故人事を行うと時代遅れの画面になったり作画崩壊が待っている。
日本のアニメーターの現状
日本のアニメ産業は世界でもトップクラスに盛んであるにも関わらず、アニメーターの労働環境や待遇は劣悪な場合がほとんど。
報酬はごく一握りの企業を除き出来高制が基本。このため、日本のアニメーターにとっては絵を描く速さが非常に重要なスキルとなる。
アニメーターの大半は制作会社の社員ではなく、「制作会社から仕事場を提供されている自営業者」扱いで、会社勤めのサラリーマンだったらまず加入している厚生年金や健康保険などの福利厚生も無い。そして、そもそもまともな住環境を維持したり、国民年金を納める余裕すらもないほどの薄給である。その平均年収は20代で110万、30台でも210万とフリーター以下である。
原画や作画監督に昇格できれば年収も一般のサラリーマン以上(凄い人になると普通に家を建てたり、そもそも独立してフリーランスとなりサラリーマンなど歯牙にもかけない、などという例もある。)にアップすると言われているが、それまでの下積み時代に多くのアニメーターが月収数万円の壁や、ナルシシズムの克服の失敗(学校などでは上手ともてはやされていた甘ったれが、現場に入れば最下級の見習い扱い、そして意識と現実との乖離により耐えられなくなる)による職人としての挫折、悪質なスタジオ・スタッフによる裏切りや過労などによる病気(肉体ばかりではなく精神を病むことすらある)に突き当たるなどして、人倫に勝る資質を見出されたるもの以外は辞めていくのが実情である(動画マンの寿命は3ヶ月ともいわれるが、基礎を身に着けられないでやめていく者があまりにも多いため)。
これは決して天才的資質を持つもののみを意味するのではなく、確実に仕事をこなす能力を経験で身に着けた者のほうが重宝される。凡人が人並みの生活になれる作画監督に至るまでは約10年はかかる。基本ドロップアウトするものは追わないが、逃げ出したからと言ってそれ以上になれる保証もどこにもない。
ただし、一定レベル以上の職人同士であればアニメーター同士の最低限の互助はある。危険なスタジオの噂や見分け方、現在時点での欠点と克服法は教えてくれることがあるが、それ以上は本人の努力と地道な勉強次第である。
考えてもみればいい、ソシャゲ絵師は売り物にならなければいくら技量があっても、全くの理由を告げられることもなくごみ以下扱いなのだ。どちらがまし、もしくは酷いと思うかはあなた次第。
また、基本的にアニメ制作者はサラリーマンを蛇蝎のごとく嫌う。「目の前の仕事を毎日時間だけやっていればいい、長いものに巻かれるのが平気」なサラリーマンという存在は、「郷に入っては郷に従うが長いものに巻かれるのは嫌い、自分の仕事は自分で決める」というアニメーターにとって、根本から論理が違うからである。
金がなくても誇りと仕事があれば耐えられるのがアニメーターだがが、金さえあれば心と誇りすら売り払い、自分の責任を意識もしないサラリーマンは決して相いれない存在である。
動画など下級職における低賃金の具体的な事例としては、2015年にP.A.Worksスタッフの内部告発により同社アニメーターの低賃金構造が発覚し、ブラック企業として大きな騒動になった事がある。
問題の解決に当たってはもちろん給料の増額が一番なのだが、企画や製作を担当する会社(製作委員会の出資者)が、作品の収益の多くをかっさらっていくという縦割り業界の構造上、下請けの現場(制作会社)に渡るお金は非常にわずかなもの。ここまでしないと会社が回らないのである。中にはかなりアコギな搾取どころではない行為を行うスタジオすらあり、見分ける能力や情報収集能力がないと、個人スタッフとして参加すると破滅への片道切符である。(そのようなスタジオは隠蔽に努めるが、発覚すれば最終的に、所属スタッフの信頼すら失い実質的に崩壊した例もある)
元請けが収益を独占し、現場の労働者は過労と薄給に喘ぐ...というのは日本においてはアニメや隣接業界のテレビ、ゲーム、映画、漫画業界でよく見られ、その他、土建業界や原子力産業、IT業界など数多くの現場に共通する問題である。
うまくなってたくさん描ければだれも自分も文句は言わないが、そこにたどり着くまでに色々な意味で耐えられなくなってしまうのである。そもそも職人職場を甘く見るな。
改善への取り組み
カラーを経営する庵野秀明(※)は、こういった実態に心を痛め、次の時代のアニメ業界を担う人材育成の場とするために労働環境の改善を掲げ、一般企業並みの月給制と福利厚生を実現している。
(※)公の場において「日本アニメの寿命は(この体制のままでは)あと5年」と危機感を持った発言をしたことがある。ただし、これは作品傾向の偏りにも問題を挙げている。
だがこれは、会社自ら企画と製作を行うために中間搾取が少なく、また独自企画作品が安定して売り上げを上げているカラーと京都アニメーションくらいしか実現できていない体制である(制作部門を解体する以前のスタジオジブリも宮崎駿の意向でアニメーターの月給制を実現していた。カラーはジブリの運営体制を参考にしている)
したがって、日本のアニメをまともな業界として成り立たせるには、広告代理店やテレビ局、人材派遣事業者などの中間搾取業者の利権にメスを入れ、クリエイターの側を向いた方策を打ち出すことが必要なのだが、政府はむしろ電通などの中間搾取業者の利権のため「クールジャパン」の広告に何百億円もかけるといった有り様で、現場のアニメーターからは怒りと反発を買っている。
なお、アニメーターの労働条件がこのような現状になったのは、手塚治虫が『鉄腕アトム』を格安で請け負ったせいと批判されることが多いが、これについては多くの異論反論がある(詳細は手塚治虫の記事にて)
海外資本の国内進出
少子高齢化が進む現状において、若手アニメーターそのものが減少するのは避けられない情勢であり、アジア圏(主に中国、韓国)を中心とした外国人スタッフの採用を行うスタジオも多い。逆に中国のアニメ企業が人材獲得を目的に東京周辺にスタジオを設立する動きも相次いでいる。日本に進出した中国企業はアニメーターの正社員採用を打ち出しており、日本アニメの技術を取り込むだけではなく、日本を継続的な制作拠点とする思惑も垣間見える。今やアニメの市場規模は中国の方が遥かに大きく、中国企業の資金力も日本企業とは比較にならない。日本に拠点を置くアニメ制作スタジオの多くが中国資本という時代が、もうすぐやってくるのかもしれない。
代表的なアニメーター
※50音順
※太字はすでに故人である事、あるいは引退している、または長期休業中の人物を示す。
※アニメ監督は『アニメーション監督』の頁に一覧あり。
※それ以外のアニメ関係者は『アニメーション』の頁の「関係者一覧」にお願いします。
※原恵一などのアニメーター以外を本職としている人物、あるいはアニメーター以外にもあらゆる活動をする人物、もしくは元々は違う職業だった人物も含める。(このケースは※付きで示す。また 菊池通隆(麻宮騎亜名義)、石田敦子など漫画家として活動経験のある人物は〇印。)
あ行
あきまん、あおきえい、青山充、芦田豊雄、荒木伸吾〇、有澤寛、安藤雅司、安藤正浩、庵野秀明※、飯田馬之介、幾原邦彦、石垣純哉、石田敦子〇、磯光雄、板垣伸、板津匡覧、板野一郎※、一石小百合、市川崑、伊藤郁子、伊藤伸高、稲上晃、いのまたむつみ〇、今石洋之、今川泰宏、岩根雅明、宇木敦哉、うつのみやさとる、馬越嘉彦、うのまこと、うるし原智志〇、うるまでるび、江端里沙(愛媛みかん)、海老川兼武、遠藤正明、逢坂浩司、大河原邦男、おおすみ正秋、大塚健、大塚康生、大友克洋〇※、大西雅也、大沼心、大張正己、大森貴弘、岡村天斎、沖浦啓之、奥田万つ里、押山清高、押井守※、越智一裕
か行
加々美高浩、賀川愛、垣野内成美〇、門之園恵美、金田伊功(かなだよしのり)、金山明博、金子一馬、金子ひらく、椛島洋介、亀垣一、神山健治、河合静男、河野さち子、河野のぞみ、川村敏江、河森正治、かんざきひろ、神戸洋行、菊池通隆〇、岸誠二、岸田隆宏、黄瀬和哉、北久保弘之、北爪宏幸〇、北山真理、 金世俊、木村圭市郎、木村貴宏 きむらひでふみ※、工藤昌史、窪岡俊之、倉嶋丈康、劇団イヌカレー、高坂希太郎、小泉昇、湖川友謙、後藤圭二、小林明美、小林常夫、小林治(注意:アニメーションでの分野では、同姓同名で2名もいる)、小西賢一、小松原一男、コヤマシゲト、近藤勝也、近藤喜文、今敏〇
さ行
斎藤昌哉、坂井久太、境宗久、酒井怜子、笹川ひろし※、笹木信作、佐々門信芳、貞本義行〇、さとうけいいち、佐藤順一、佐藤正樹、佐藤竜雄、佐藤好春、塩山紀生、重田敦司、重田智、芝山努、しもがさ美穂、霜山朋久、しんぼたくろう、すあだ※、杉井ギサブロー、杉野昭夫、杉本功、すしお、鈴木博文、新海誠※、新房昭之、関崎高明、園田健一〇
た行
大地丙太郎、高木潤、高橋晃、高田明美※、高橋良輔、高畑勲、高松信司、高見明男、高村和宏、竹内進二、竹内浩志、只野和子、舘野仁美、田中敦子(アニメーター)、田中ちゆき、田中宏紀、田中将賀、谷口悟朗、谷口淳一郎、千葉道徳、千羽由利子、鶴巻和哉、出崎統、出崎哲、手島晶子、手塚治虫〇※、寺岡巌、寺岡賢司、ところともかず、富野由悠季※、友永和秀
は行
秦綾子、羽原信義、浜洲英喜、原恵一※、林明美、樋口真嗣※、菱沼義仁、姫野美智、平井久司、平田雄三、平野俊貴、平松禎史、福井智子、福田己津央、福地仁、藤田陽一、藤森雅也、二木真希子、べんぴねこ、細田守※、堀口悠紀子(白身魚)※、本郷みつる、本田雄、古川尚哉、古橋一浩
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