概要
アメリカ合衆国の社会問題(アメリカがっしゅうこくのしゃかいもんだい)は、アメリカ合衆国(以下米国)が抱えている社会問題のこと。連邦共和国である米国は世界で最も強大な経済力と軍事力を有する国にして世界唯一の超大国及びリーダーとして君臨しているが、2024年11月現在でも問題は多く存在する。中には人種差別(特に黒人差別・黄色人種に対する差別)・銃社会など我が国では問題視されにくい課題があり、ここではそんな米国が抱えている主な社会問題について解説する。
人種差別
米国の中でも代表的な問題で、かなりセンシティブで記事内の単なる1項目として扱うのが難しいので端的に述べる。米国は先住民・古い時代の移民・黒人奴隷の子孫・新たな移民・これらの混血などで構成されている国であり、人種・民族・宗教に応じて様々な差別が存在する。人種差別を撤廃するための動きは長い歴史を持つが、まだ完全撲滅されたとはいえない状況にある。
言時点では白人が米国の主流と見なされており、過去には白人による相互の対立で例えばワスプ(イギリス系プロテスタント)・アイルランド系カトリック・ユダヤ系・イタリア系の確執も激しかった。現代では白人としての一体化が進んでいるため、白人同士による人種対立よりも他人種との対立・差別の方が問題となることが多い。
アフリカ系アメリカ人(黒人)に対する差別は特に根深いとされ、制度的な差別が撤廃されて久しい現在でも低い大学進学率・最も多い低所得者層割合・白人と比べて短い平均寿命・高い確率で犯罪被害者となるものがある。それを是正すべく1965年9月から大学入学・雇用などに際して黒人採用枠を設け、試験点数に下駄を履かせるなどの政策(アファーマティブ・アクション)が実施されているが、これには当時から賛否議論がある。
アジア系米国人も中国人排斥法(1882年5月)・移民法(1924年5月)など伝統的に差別を受ける事が多かったが、米国に移住する為のビザで技能が要求される中国系アメリカ人・インド系アメリカ人は比較的高い学歴を持つ者が多く、経済的に成功している者も少なくない。また、この成功体験を他マイノリティに振りかざして低く見たり、あるいは都市部に集住する為に労働市場で競合することが多い関係から他人種とのトラブルも多い。
2020年1月から流行した新型コロナは発生源が中国で、当時現職大統領であったドナルド・トランプ次期大統領が「チャイナウイルス」を連呼したこともあり、米国に在住する中国人・中国系アメリカ人に対する排斥運動が強まった。中国系との見分けが付かない他のアジア系も一部が巻き込まれ、アジア系全般に対するヘイトクライムに発展した事件が発生した。アジア系の中でも日系米国人は第2次世界大戦時期に強制的に収容された歴史があり、米国政府が度々謝罪している。
銃社会
(リンク先を参照)。
格差
格差社会に纏わる問題はどの国にもあるが、米国経済格差は先進国では最も高い部類とされる。格差を表す指標として使用されるジニ係数で見ると米国は2024年11月時点でOECD主要国の中では最も高い0.396である。ちなみに、日本もジニ係数が0.3を上回っており、先進国の中では決して低くはない点(格差が小さい訳ではない)に留意する必要がある。
死刑存置国
先進国では今や珍しくなった死刑存置国(G7では米国と日本のみ)であり、国内外から批判されている。連邦法と州法の刑罰に死刑があるが、約半数の州は廃止している。ちなみに、共和党が強い州は存置、逆に民主党が強い州は廃止が多いといわれている。連邦法での死刑は1972年6月に憲法が禁止する残虐な刑罰に相当するとして一時期廃止された時期があったが、1976年7月に連邦最高裁が合憲判決を下したことで執行が再開、今日に至っている。
ただし、死刑制度についての批判は年々高まっており、特に民主党は死刑制度に批判的で、クリントン政権からの民主党政権では連邦法による死刑が執行された事例はない。2021年1月から大統領に在任していたジョー・バイデン前大統領は死刑廃止論者であり、死刑執行を許していない。死刑制度を廃止している州は漸進的にであるが増加傾向にあり、南部の州に死刑存置州が多いとされていたが、同年3月にバージニア州が南部の州として最初に死刑制度を廃止、注目された。
学歴
米国は実力主義であるから学歴は関係ないといわれることがあるが、実際には米国も中国や韓国程極端ではないものの、日本よりも学歴社会の面が強い。人権意識が強い米国では人種・性別・出身地・生家など生まれ付きの要素による差別は許容されないとする風潮が強く、個人の努力次第で上下出来る学歴が評価基準として日本より重視されがちなことがその背景にある。
大卒資格
米国は奨学金制度が充実しており、貧しい家庭の子供でも意欲があれば返済不要な奨学金を簡単に貰える。そのため、家が貧しいという理由で進学を断念する人は少なく、実際に奨学金を貰って大学に行くという理由から多くの若者が米軍に志願する。米国では大卒資格が強いことから社会人時に大学で学び直す人が多く、日本ではその時点で大卒資格を取る人はまだ少数派である。
日本と異なり多民族国であり、それぞれの民族の価値観が異なる中、学歴・資格は人間を評価する物差しとして分かりやすいので重要視される。移民が米国で働くために必要な就労ビザも、基本的には大卒以上であることが取得する条件と成っている。つまり言い方は悪いが、大卒未満の学歴を有する者は、寿司職人などの専門職でもない限りは不法移民として扱われてしまう。
大卒資格の価値は大きく、最終学歴が大卒者・高卒者では就職・平均年収・平均寿命に日本より大きな差が付く事が多い。米国は日本・韓国の様に学閥が強くないため、卒業した大学のブランド名は余り重要ではなく、無名大学でも卒業出来れば高評価となるのが一般的である。これは米国の大学は基本的にどこも入学難易度はそれ程高くなく、卒業する方が難しいからである。しかもペーパーテスト成績のみならず、人間性が優れていないと卒業出来ない。
身分
米国は日本の様な天皇家(他国でいう王家)が存在せず、その代わりに学歴でほぼ身分が決定するといえる。しかも、その人の努力次第で上や下にも行けるため、寧ろ学歴でほぼ身分が決定するということは米国人が持つ幻想が未だ強烈な証拠ともいえる。ちなみに、途上国と失敗国では未だに生まれた家で身分が決定する事例が少なくない様であるが、実際は米国などの先進国(日本を含む)であっても実家がある程度裕福であったという人達が高学歴者に多いというのが現実である。
高度な知識を要する職業に就く場合は学部を卒業した者ですら相手にされず、大学院まで行くのが常識となっている。特に医者は日本の様な医学部は存在せず、1度大学を卒業してから大学院で医学教育を受ける流れである。ごく稀にビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、イチローなどの様に大卒資格がなくても社会的地位が高い人もいるが、それは彼らに学歴に頼らなくても良い程の特別な才能もあったためで、これがない人の場合はなるべく大学に行くべきといわれている。
相関関係
米国の場合は学歴と実力が強い相関関係にあるため、学歴社会であったとしても文句は出にくいという一面もある。逆に日本の大学は医学科や薬学部なども一部学科を除いて卒業するのが簡単であるため、必ずしも学歴と実力が比例しないという問題点がある。ちなみに、米国に限らず、英国・フランスなども日本より学歴社会の面が強いといわれており、日本は寧ろ先進国の中では学歴をあまり重視しない方である。具体的にはこちらの方を参照して頂きたい。
平均寿命低下
日本経済新聞(記事1)・BBC(記事2)・ロイター(記事3)の報道によれば、2022年8月にCDC(アメリカ疾病予防管理センター)は前年の米国人平均寿命は76.4歳で、1996年以来の短さとなったことを発表した。
男性73.5歳(前年比0.7歳減)・女性79.3歳(同0.6歳減)であり、ロイターの報道によれば男性・女性の平均寿命の差は20年超振りに拡大しているという。日本経済新聞・BBC・ロイター・いずれの報道でも、低下の原因として新型コロナ感染拡大・薬物過剰摂取増加・心臓病などの影響を挙げている。米国人平均寿命は先進国の中ではかなり短い方といわれているが、これには以下の様な理由があるといわれている。
- 日本や他先進国の様な国民皆保険制度がないので医療保険に入れない人が多く、結果的に病院に行けない人が多い。
- 上にも関連するが、経済的な格差が凄まじいので金持ちも多いが貧しい人も多い。
- かなりの学歴社会にして実力主義の国なので、学歴・実力がない人の就職先が限定されてしまう。
- 病院に行くのが贅沢であると考えられているため、鎮痛剤を沢山飲む人が多く、鎮痛剤中毒にかかる人も少なくない。鎮痛剤に限らず米国では薬物中毒で亡くなってしまう人が少なくない。
- ハンバーガー・フライドポテトなどのファストフードを食べる時が多いので、肥満となりやすい。
- 乳幼児や若い人の死亡率が高い。ちなみに、これは平均寿命に大きく影響する項目であり、老人がいかに長生きするかよりも重要である。
- 日本より遥かに治安が悪く、殺人事件に巻き込まれて亡くなる人が多い。
- 日本と違って多くの州では死刑制度を廃止しているものの、死刑廃止州でも警察官が犯人をその場で射殺する事例が少なくない。
- 度々紛争地帯に出向くので戦死する場合もある。
人種ごとの格差
人種ごとの格差が大きく、白人・ヒスパニック系の人々はヨーロッパ先進国と大差ない。しかし、黒人・インディアン平均寿命は途上国並みに短くなってしまっており、日系アメリカ人の場合は日本人とほぼ同じくらいである。また、ヒスパニック系以外の白人は近年は下降傾向である。しかし、黒人平均寿命も70歳代前半程度であり、アフリカの多くの国が70歳を下回っていることを考慮するならば、かなり短いという訳ではない。
また、州ごとの格差も大きく、温暖なハワイ州や富裕層が多い西海岸及び北東部は平均寿命が長い州が多いが、逆に貧困層が多い南東部は平均寿命が短い州が多い。2020年4月の国勢調査では最も長いハワイ州平均寿命は80.7歳でヨーロッパ先進国と大差はないが、逆に最下位・ミシシッピ州は71.9歳なので一部途上国より短い水準となっている。
日本の場合
2024年11月時点での日本人平均寿命は男性81.09歳・女性87.14歳である。またG7諸国を平均寿命が長い順番に並べると、長い順で日本>イタリア>フランス>カナダ>ドイツ>英国>米国となる。ちなみに日本で最も平均寿命が短い地域は青森県だが、それでも米国で最も長いハワイ州より長く、世界全体で見れば青森県も十分長寿な地域である事には変わりは無い。
失敗国家ランキング
米国の順位
2023年6月に失敗国家ランキングでアメリカの順位は141位(調査の対象となっている国は全部で179か国)となり、スコアは45.3点(120点満点)だったが、これはG7諸国としては最も上の順位だった。このランキングでは順位が高いほど深刻な問題を抱えているという判断なので、アメリカはG7の中で最も問題が多い国であるという評価となっており、そもそもこのランキングを作成している平和基金会という団体自体がアメリカの非営利団体である。
勉強・イタリアと他の比較
2021年5月まで米国はG7でイタリアに次いで2番目に悪い国という評価であったが、2022年7月にイタリアに抜かされる羽目となり、2023年6月に同国は146位・42.6点となった。以下は各国のランキングを示しており、G20は参加国の中でG7またはEU加盟国を除外しているが、他の主な国の点数・順位については失敗国家を参照して欲しい。
順位 | 国名 | 数値 | 定義 | 加盟 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
1位 | ソマリア | 111.9点 | - | - | 1位となった回数が最も多い国。 |
2位 | イエメン | 111.9点 | - | - | 2019 - 2022年は4年連続で1位であった。 |
3位 | 南スーダン | 108.5点 | - | - | 2014年6月・2015年6月・2017年5月・2018年4月にそれぞれ発表された統計では1位であった。 |
10位 | ハイチ | 102.9点 | - | - | 中央アメリカで最も点数が高い国で、ハイチ大地震の爪痕が未だに残存している。 |
40位 | イラン | 85.4点 | イスラム共和国 | - | 2002年1月に米国から悪の枢軸と名指しされた国の1国で、1980年4月に同国と外交関係を断絶。 |
53位 | ロシア連邦 | 80.7点 | 旧社会主義共和国 | G20 | 継承する前の国であった旧ソ連は冷戦時代に米国と並んで世界超大国に君臨していた。 |
101位 | 中国 | 65.1点 | 社会主義共和国 | G20 | 台湾は評価対象外とされている。 |
117位 | キューバ | 59.5点 | 社会主義共和国 | - | 2015年6月まで米国との外交関係がなかった。 |
118位 | ベトナム | 58.3点 | 社会主義共和国 | ASEAN | ベトナム戦争の爪痕が未だに残存している。 |
125位 | ブルネイ | 54.7点 | 先進国・絶対君主国 | ASEAN・イギリス連邦 | - |
143位 | イスラエル | 44.1点 | 先進国 | - | 米国の重要な同盟関係にあり、パレスチナは別枠で評価。 |
日本の場合
同時期は161位でスコアは30.5点で、アジアではシンガポールに次いで2番目に点数が低い。ただし、2011年3月11日に東日本大震災が発生した翌2012年6月には、大幅に評価が悪化していて43.5点であった。先進国は40点未満の国が多く、北ヨーロッパなどには20点を下回る国があるので高くても40点台が普通であるが、例外としてキプロス・ギリシャ・ブルネイは50点を超えていた。
関連項目
アメリカ合衆国の政治 アメリカ史 米国 社会問題 格差社会 学歴社会