概要
アイヌは文字を持たない為、口伝やユーカラ等の叙事詩で語り継いできた。
神や精霊は「カムイ」と呼ばれ、カムイコタンという場所に住んでいる。
しかし、アイヌモシリは広く、同じカムイや英雄でも
それぞれのコタン(村々)の文化や生活によって語り継がれる内容が違う。
明治以降、民族学者に採録され日本語に訳したものが昔話として親しまれているが、創作も含まれている事は留意すべきである。
創世神話では二柱の神から多くの神々が生まれ、それぞれが役割分担したという日本神話に類似した描写や、五色の雲から世界が創造されたという中国の五行思想から来たもの、アイヌはカムイの似姿であるという聖書の様な描写がある。
一覧
神
- アエオイナカムイ(Ae-oyna-kamuy):動物の創造神
- アッカムイ/アツカムイ(At-kamuy):モモンガの神。
- アッコロカムイ/ラートシカムイ(Atkorkamuy, Atkor-kamuy):蛸の神
- アパサムンカムイ/アパサムウンカムイ(Apasamun Kamuy):タヌキの神。
- アペフチカムイ/アペフチ/アペカムイ(Ape-huci-kamuy, Ape-huci, Ape-kamuy):火神
- アミタンネカムイ(Amitannekamuy, Ami-tanne-kamuy):アシダカグモの女神。
- イソサンケカムイ/イショサンゲカムイ(Isosanke Kamuy):フクロウの神。
- イユタニカムイ(Iyutani Kamuy):“杵の神”という意味。イワンサパエウシチロンヌプという六つの頭と六つの尾を持った狐の姿をした悪神の退治に協力した。
- イワンオンネチェプカムイ(Iwan Onnecep Kamuy):然別湖の主。体長60mにもおよぶ巨大なイトウであり、熊を呑み込んだが呑み込みきれずに死んでいたという。
- イワンサパエウシチロンヌプ(Iwan Sapa Eus Cironnup):六つの頭と六つの尾を持った狐の姿をした悪神。一つの頭はユーカラを謡い、一つの頭はシノッチャを歌い、一つの頭は拍子をとり、一つの頭はオイナを語っている。ある時、英雄神オキクルミはこの悪神が自分の家にやってくる事を察知した。そこで栗男ヤムオッカヨに頼んで囲炉裏の灰の中に潜んでもらい、太針男ルウェケムオッカヨに悪神の尻を刺すように頼んで床に刺し、蟹男アムシペオッカヨに悪神の手を鋏で挟むように頼んで水樽の中に隠れてもらい、臼神ニスカムイを土間の庇の上に置き、杵神イユタニカムイを家に立て掛けておいた。悪神がやってきて囲炉裏の埋火を掻き回すと栗男が弾けて灰や燠とともに目や鼻や口に飛び込み、悪神がひっくり返ると太針男が尻を刺し、悪神が水樽に手を突っ込むと蟹男が手を挟み、悪神が外に出ると臼神が落ちてきて地面に押さえつけ、そしてオキクルミが杵神で悪神を叩きまくった。それでも悪神は死なず、切り刻まれて細かい肉片にされても再生しようとしたが、囲炉裏の燃えさしと灰を掛けてさらに切り刻むと退治できたという。この話はさるかに合戦がアイヌに伝わったものだとされる。
- ウェンカムイ(Wenkamuy):悪神
- ウパシチロンヌプカムイ(Upas-cironnup-kamuy):オコジョの神。
- エカイタマ(Ekaytama):カタツムリのこと。ある者が道を歩いている時にカタツムリを見て「飢饉だったら食うんだが」と言いながら足で道の脇にどけると、そのカタツムリが足に刺さってその者は死んでしまった。これは神罰だという。
- オササンケカムイ:札内川の上流の山の中に住んでいたとされる裸族。冬は獣の皮を纏うがそれ以外の時期は全裸で生活する。時折、山を下りては優秀なアイヌの若者を攫って婿にしていた。この裸族の住む里に入った者は死ぬまでそこから出る事を許されないという。
- カイポクングル/カイポクンマッ(Kaipokun Guru, Kaipokun Mat):“波の下に住むもの”と“波の下に住む女”という意味の悪神。海岸から少し離れた場所に住んでおり、舟を沈めてしまう。カイポクングルの妻はカイポクンマッである。
- カパッチリカムイ(Kapatcir-kamuy):オオワシの神。
- カパトトノマト(Kapat Tonomat):蝙蝠の女神
- カパプカムイ(Kapap-kamuy):コウモリの神。
- カムイソワ(Kamuy-sowa):“神の蜂”という意味でありヒグマを獲るほどの巨大なスズメバチ。カムイソワの他にもソヤカムイ、チッソヤカムイ、シソヤトノ、チチョッチャプ、ユクソヤといった蜂の伝説が伝わっている。
- カンナカムイ(Kanna Kamuy):雷神
- キナストゥンクル/キナシュツウングル(Kinasutunkur, Kina-sut-un-kur, Kinashutunguru):大地の悪神の長。“草の根の間に住んでいるもの”という意味であり蛇やアオダイショウを意味する単語でもある。
- キラウシカムイ(Kiraw-us-kamuy, Kirauskamuy):鹿の角を持つ雷神
- キムン・カムイ/キムンカムイ/シペ・コロ・カムイ(Kim-un-kamuy, Kimun-kamuy, Kimunkamuy):ヒグマの姿の山の神
- クンネチュプカムイ(Kunnecup-kamuy):月神
- ケムラムカムイ(Kemram-kamuy, Kemramkamuy):飢饉魔
- コタンカラ(Kotankar):国創りの神
- コタンコロカムイ(Kotan-kor-kamuy, Kotankor Kamuy):シマフクロウの神
- コッコチカプ(Kokko-cikap):“恐ろしい鳥”という意味。幼児を脅かす時に語られるお化け鳥だが、実は疱瘡神である。
- コㇿポックㇽ/コロポックル/コロボックル/トイセコッチャカムイ(Korpokkur, Korbokkur):蕗の下に棲む小人
- サウタラカムイ(Sawtarakamuy, Sawtara-kamuy):橇を引いた大勢の人間の姿から鳥の群れの姿になって飛び去るサウタラカムイを網走湖で目撃した者がいた。
- サラッカムイ/サラクカムイ(Sarakkamuy, Sarak Kamuy, Sarak Kamui):人間に変死や事故死をもたらす悪神。特に人を水中に沈めて溺死させる事が多く、ミントゥチと同一視される場合もある。サラッカムイというのは“水死人”を意味する単語でもあるらしい。
- サロルンカムイ(Sarorun Kamuy, Sarorunkamuy, Sarorun-kamuy, Sar-or-un-kamuy):タンチョウ姿の湿地の神
- シオカムイ(Siokamuy):風邪の神。
- シノッペトゥンマッ(Sinotpetunmat):シノッペという国の美しい女神であり悪神。剣で斬られてもすぐに再生する能力を持っていた。最終的には英雄アイヌラックルによって体を縦半分に引き裂かれ、半身は山に投げられてイワコシンプに渡され、もう半身は海に投げられてルルコシンプに渡された事で再生能力を封じられて死亡した。
- シリカプカムイ(Sirkap-kamuy):メカジキの神。
- シリコロカムイ(Sirkor Kamuy, Sirkor-kamuy, Sir-kor-kamuy):大地の神
- スルクカムイ/イモンカオヤンマツ(Surku-Kamuy, Surkukamuy, Imonka-oyan-mat, Imonkaoyanmat):トリカブトの女神
- チウカピンネカムイラメトク/チウカピンネカムイラメトリ(Chiuka-Pinne Kamui Rametok):魚の姿をした勇敢な男神であり悪神。この神の棲家は川の流れの中にある。
- チェプコロカムイ(Cep-kor-kamuy, Cepkorkamuy):鮭の神
- チキサニカムイ(Cikisani Kamuy):ハルニレの女神
- チセコロカムイ(Cisekor Kamuy, Cise-kor Kamuy):家の守り神
- チピヤクカムイ(Cipiyak-kamuy):オオジシギの神。
- チロンヌプカムイ(Cironnup Kamuy):キタキツネの神
- チワシエコッマッ(Chiwash-ekot-mat):河口の淡水と潮水が混じり合う場所を見張っており鮭を誘導するという女神。人々は敬意を持って女神に祈りを捧げ、イナウを供えるといい、これを怠ると不漁になったり人間を溺れさせたりするという。
- トイクンライトゥムンチ(Toikunrai Tumunchi):イチャシカラという呪いを行う時、ヨモギで作った草人形を枯れ木の下に埋めてこの悪神に祈ると、対象人物は枯れ木が朽ちるとともに命を落とす。呪いの言葉は「おお、悪神よ。枯れ木とともに地中に埋めしこの人形が表す人物をなにとぞ病に罹らせ、この枯れ木とともに朽ちるように仕向け、やがてその命を絶っていただきたい。おお、トイクンライトゥムンチを名乗る悪神よ、よく聞かれよ。直ちにこの人物の魂を体から抜き取ってそなたたち悪神の仲間に加えられよ」である。
- トイクンラリグル/トイクンラリマッ/トイクンラリマト(Toikunrariguru, Toikunrarimat):“地上で休息するもの”という意味の悪神であり大地の下に住んでいる。野生動物に襲われた時はトイクンラリグルに祈るという。トイクンラリグルの妻はトイクンラリマッである。
- トゥスニンケ(Tusuninke):エゾリスの神
- トゥレプカムイ(Turep Kamuy):ウバユリの女神
- トカプチュプカムイ(Tokapcup-kamuy):太陽神
- トシリポクンカムイ(Tosirpokun Kamuy, Tosir-pok-un-kamuy):ミソサザイの神
- ニシカントリ(Niskan-tori):“天上の鳥”という意味。英雄アイヌラックルの助勢をする神鳥。
- ニスカムイ(Nisu Kamuy):“臼の神”という意味。イワンサパエウシチロンヌプという六つの頭と六つの尾を持った狐の姿をした悪神の退治に協力した。
- ニッネカムイ(Nitnekamuy):悪神。
- ポロニッネカムイ(Poro Nitnekamuy):ニッネカムイの中でも強力なものをポロニッネカムイと呼ぶ。
- ヌプキオックル/ヌプキオッマッ(Nupki-ot-guru, Nupki-ot-kur, Nupkiotkur, Nupki-ot-mat, Nupki-ot-mat, Nupkiotmat):“濁ったところにいる者”と“濁ったところにいる女”という意味の悪神。ヌプキオックルが夫でありヌプキオッマッが妻。川瀬の水中に住んでおり水を濁らせたり川岸を崩したりする。侮辱されたり蔑ろにされたりすると夜中に人間の農地を崩してしまうが、崇められていれば人間を害する事は無いという。
- コヌプキオトグル/コヌプキオッグル/コヌプキオッマッ(Konupki-ot-guru, Konupki-ot-mat):ヌプキオックルとヌプキオッマッの別名。
- ヌプリケスングル/ヌプリケスンクル(Nupuri Kesunguru, Nupurikesunkur):“山の麓に住んでいるもの”という意味。人食い熊の姿で現れて人間を殺害する悪神。
- パウチ/パウチカムイ(Pawci, Pawci-kamuy):人に憑りつく淫魔
- パコロカムイ/パヨカカムイ(Pakor-kamuy, Payoka-kamuy):疱瘡神
- ピカタカムイ(Pikata-kamuy):南風の神
- ピリカカムイ/ピリカ(Pirka Kamuy):美しい神、善神
- フリーカムイ/フリカムイ(Huri Kamuy):巨大な鳥の神
- ピカタトノマッネプ(Pikata-tono-matnep, Pikatatonomatnep):“南西風の女神”という意味。南西の風が強い場合、人々はピカタトノマッネプに祈って風を止めてもらおうとする。
- ピカタニッネカムイ(Pikata-nitnekamuy):“南西風の魔神”という意味の女神。山の上で踊る事で暴風を起こす。悪戯で人里を荒地にしたがオキクルミの家だけは壊せず、逆にオキクルミが起こした暴風で懲らしめられたので悪戯をする事をやめた。
- プリカンダカムイ(Purikanda Kamui):人喰い熊として現れる神
- ホロカリイェプ/ホロカレイェプ(Horokariyep, Horkareyep):“後ずさりするもの”もしくは“後ろに行くもの”という意味でありザリガニのことでもある。アイヌの研究家であったジョン・バチェラーの著書によればホロカリイェプは川に住む女神であり妬み心や意地悪な気持ちを起こした人間を襲うという。
- ホヤウカムイ/ラプシヌプルクル/サㇰソモアイェㇷ゚/サキソマエップ(Hoyaw Kamuy, Rap-us-nupur-kur, Rapusnupurkur, Sak-somo-ayep, Saksomoayep):翼を持つ蛇神
- サクサマウェ(Sakusa Mawe):蛇神サクソモアイェプが伴っているという毒の匂いの風。
- ホロケウカムイ(Horkew Kamuy, Horkew-kamuy):エゾオオカミの神
- ホンポキケウシ/ホンポキケウシュ(Honpokikeush):“山の側でガラガラと音を立てるもの”という意味。山腹に石を落として転がすのはこの悪神の仕業である。
- ミンツチ/ミントゥチ/ミンツチカムイ(Mintuci):水神で蛟や河童とも同一視される
- モシリコロカムイ(Mosir-kor-kamuy):土や山野の神。
- モシレチク・コタネチク(Moshirechik-Kotanechik, Mosirecik-Kotanecik):小さな目と、大きな目を持つ魔神
- ヤトッタカムイ(Yatotta-kamuy):トビの神。
- ラプスカムイ(Rap-us-kamuy, Rapuskamuy):中川郡豊頃町十弗コタンに毒気を吹いてくる鳥の神
- ルコロカムイ(Rukorkamuy, Ru-kor-kamuy):便所の神。急病人が出た時はこの神に助けを求めると最も早く助けてくれる。
- レタッチリ(Retatcir):白鳥の女神
- レタルカムイ(Retar Kamuy):日高山脈の白熊の神
- レタルセタカムイ(Retar Seta Kamuy):日高山脈の白狼の神
- レプンカムイ/レブンカムイ(Rep-un-kamuy, Repun Kamuy):シャチの海神
- レプンリリカナイナウウクカムイ(Repun-riri-kata inao uk kamui):鯨神
- レラカムイ(Rera Kamuy):風神
- ワッカウシカムイ(Wakka-us-kamuy):水神
英雄
- アイヌラックル/オキクルミ(Aynurakkur, Ainurakkur, Okikurmi)
- イクレスイェ/イクレスエ(Ikuresuye)
- オタスツンクル(Otasutunkur, Ota-sutu-un-kur)
- オムタロ:桃太郎に似た昔話の登場人物。お婆さんの膨らんだ股(オム)から生まれたのでオムタロと名付けられた。成長したオムタロは舟に乗って海へ乗り出し、遥か沖にあった島の大きな穴の奥の立派な家にいた男性と協力して鬼から宝を奪った。
- サマイクル(Samaykur)
- シンナイペッ・モイレパマッ:昔話に登場するオンカミ・アチャボという怪物を返り討ちにした女性。
- ポイヤウンペ/クトネシリカ(Poiyaumpe, Kutune Shirka, Kutune Sirka)
魔物
- アイヌエップ(Aynuep, Aynu-e-p):“人を食うもの”という意味の女妖怪。アイヌラックルの姉代わりであり育ての親でもあったが、実はアイヌラックルの父親を殺害して食べてしまっていた事を告白したら怒ったアイヌラックルに殺された。
- アイヌカイセイ(Aynu-kaysey):手足のない魔物。
- アイヌソッキ:人魚
- アイヌトゥカプ/アイヌライトゥカプ/アナイシリ/アイシリ/アイシリカムイ/ライカムイ/トイヘクンラ(Aynutukap, Aynu-tukap, Aynu-ray-tukap, Anaysir, Aysirkamuy, Raykamuy):幽霊のこと。
- アシトマチカプ(Astoma-cikap):“恐ろしい鳥”という意味。言う事を聞かない子供を脅かす時に語られる鳥の妖怪。
- アシトマプ(Asitomap):“恐ろしいもの”という意味であり妖怪の総称。
- アツゥイカクラ/アトゥイカクラ(Atuy Kakura):内浦湾に棲む巨大ナマコ
- アトゥイコロエカシ/アツゥイコロエカシ(Atuykor Ekasi, Atuy-kor-ekasi, Atui Koro Ekashi):“海を支配する翁”もしくは“海を支配する長老”という意味であり海亀のことでもある。妖怪としてのアトゥイコロエカシは鯨や舟を呑み込めるほどの巨大な袋のような姿をしており、海水を口で吸引して恐ろしい速さの急流を発生させる。乗っている舟を呑み込まれそうになったある者がこの怪物の口に不潔な着用済み腰布を投げ入れたらそれを呑み込めなかった怪物は舟を放り出したので難を逃れた。別の話ではアトゥイコロエカシは室蘭近海の主であり下顎が手に届くほど大きな口と赤い体を持つとされており、とあるアイヌの女性は3歳くらいで人に負んぶされていた時に室蘭の近海の西輪から大黒島の方にこの怪物が出たのを目撃した記憶があると語っている。さらに別の話では人々と一緒に海上を漂流していた老女神イワンアイヌイキリエポソルネマッが、自分が死んだら海神アトゥイコロエカシに死臭がまとわりつく事になるのでそれが嫌なら急いで私を助けてくださいと歌ったら、それに怒ったアトゥイコロエカシが老女神を掌で握り潰して地獄に落としたという。
- ルルプルゲクル(Rurpurgekur, Rur-purke-kur):“海津波を引き起こす神”という意味でありアトゥイコロエカシと同一視される悪神。ルルプルゲクルは大きな口で海水を吸い込んで吐き出す事で津波を発生させるので、津波の予兆があればこの悪神と海の善神トマレコロカムイに供物を捧げて悪神を鎮める。
- レプンエカシ/レブンエカシ(Repun-ekasi, Rebun-ekasi):“海の翁”もしくは“海の長老”という意味であり鯨のことでもありさらにアトゥイコロエカシと同一視される場合もある。船や数匹の鯨を丸呑みにできるほど大きな怪物。これに丸呑みにされた二人の漁師が体内で焚き火をしたら吐き出されて生還した話が伝わっている。
- アネケムオッカヨ(Ane Kem Okkayo):“細針男”という意味。ポロニッネカムイという魔神の退治に協力した。
- アプトルヤンペウェンユク/アプトルヤムペウェンユク/アプトルヤムベウェンユク(Apto-ruyampe-wenyuk, Aptoruyambewenyuk):“暴風雨の魔物”という意味。ウェンユクというのは“悪い熊”という意味でもある。空飛ぶ暴風雨を呼ぶ魔物。
- アフンラサンペ(Ahunrasampe):“あの世に棲む化け物”という意味でありアオバズクのこと。
- アペヤキ/アベヤキ(Ape-yaki, Abe-yaki):火の蝉。
- アムシペオッカヨ(Amuspe Okkayo):“蟹男”という意味。イワンサパエウシチロンヌプやイワンレクトゥシペなどの悪神や化け物の退治に協力した。
- アラウェントゥカプ(Arwentukap):“本当に悪い化け物”という意味であり悪魔や化け物のこと。
- アラクントゥカプ/アラクンツカプ(Arakuntukap):“全く巨大な化け物”という意味であり悪魔のこと。
- アラサラウス/アラサルシ/イワサラウス(Arasarus):無毛で尾の長いもしくは六尾の熊の様な魔獣
- イウェンテプ(Iwentep):“人を悪くさせるもの”という意味であり悪鬼や悪魔のこと。
- イカメナシレラ/イカメナシュレナ(Ikamenas-rera, Ikamenashrera):“南東風”という意味。大気中の悪魔らしいが詳細不明。
- モテナイ(Motenai):北東から吹く強風のこと。この風の中に潜む悪魔は邪悪だがイカメナシレラには負けるという。
- イコンタビプ:悪い病を持ち歩く怪魚だというが詳細やアイヌ語での意味などは不明。アイヌ語では「b」と「p」の音を区別しないためイコンタピプやイコンタビブと表記する事もできる。
- イソポトノ(Isopo-tono):足跡がかんじきほどもある大ウサギ。イソポはウサギ、トノは殿様を意味する。
- イッカチカプ/イッカトリ(Ikkacikap, Ikka-cikap, Ikka-tori):“盗む鳥”という意味。山中に棲んでいる人攫い鳥。大人が子供を脅す時に語られる妖怪。
- イトゥンナプ(Itunnap):蟻を意味する単語。伝説では蟻は人間に化け、人間の異性を騙して自分たちの仲間にしてしまうという。
- イペオプ(Ipeop):持ち主を祟り殺すという人食い槍。
- イペカリオヤシ(Ipekari Oyasi, Ipe-ekari-oyasi, Mawa-oyasi):焚火をしていると食べ物をねだりにくる妖怪
- イペタム/エペタム(Ipetam):人喰い刀という意味の妖刀
- イユタニオッカヨ(Iyutani Okkayo):“杵男”という意味。イワンレクトゥシペという六つ首の化け物やポロニッネカムイという魔神の退治に協力した。
- イワイセボ/イワイセポ(Iwa-isepo):巨大なウサギに似た鹿の声で鳴く魔獣
- イワエサングル(Iwaesanguru):“山から下りてくるもの”という意味。熊の姿で現れる妖怪であり悪意を持った時にのみ姿を見せる。これに遭った時はトイポクンチリやトイクンラリグルに祈る。
- イワエチシチシ/イワエチシチス(Iwaechishchish):山で呼ぶ者という意味の牛の様な声で鳴く怪鳥
- イワエトゥンナイ/モシレチクチクイワエチクチク(Iwaetunnay, Mosirecikcik Iwaecikcik):空を飛ぶ一つ目の化け物
- イワオロペネレプ(Iwaoropenerep):岩を破るものという意味の怪鳥
- イワホイヌ(Iwa-hoynu):山に棲む岩鼬という意味の名の恐ろしい獣
- イワポソインカラ(Iwaposoynkar, Iwa-poso-inkar):岩に潜む目玉の塊のような魔物
- イワンレクトゥシペ(Iwanrekutuspe, Iwan-rekut-us-pe):六つ首の化け物。一本の首はサケハウの歌声を発し、一本の首はハーハーしており、一本の首は子供の声で泣き、一本の首は子守歌を歌い、一本の首はチャランケを行い、一本の首は危険を知らせる声を発している。ある日、ある者が窓の方を見るとエヌムノヤという小鳥が「六つ首の化け物がお前の所に来るぞ。さあ逃げろ。早く逃げろ」と言っているように聞こえた。そこで火の真ん中に栗男ヤムオッカヨを潜ませ、座る所の真ん中に太針男ルウェケムオッカヨを潜ませ、窓の所に蜂男ソヤオッカヨを潜ませ、樽の所に蟹男アムシペオッカヨを潜ませ、戸の側に杵男イユタニオッカヨを潜ませ、煙出しに臼男ニスオッカヨを潜ませると、本当に六つ首の化け物がやってきた。化け物が火の真ん中を掻き回すと栗男が弾けて灰や火を目に飛ばし、化け物が後ろに下がると太針男が尻を突っつき、化け物が窓のところに行くと蜂男が頭を刺し、化け物が樽のところに行くと蟹男が手を挟み、化け物が外に出ると杵男が腰を搗き、そして上から臼男が飛び降りて化け物を押し潰した。
- ウェイスネ(Weysune):“悪い松明”という意味であり人魂のこと。
- ウエソヨマ:魔女
- ウェンレラ/ウエンレラ(Wen-rera, Wenrera):“悪い風”という意味。小さい竜巻のこと。
- ウパシメノコ(Upas-menoko):アイヌに伝わる雪女。
- ウパシルヤンペウェンユク/ウパスルヤムベウェンユク(Upas-ruyampe-wenyuk, Upasruyambewenyuk):“吹雪の魔物”という意味。ウェンユクというのは“悪い熊”という意味でもある。詳細不明。
- エラシラシケポンヘカチ(Erasraske Ponhekaci):“かさぶただらけの赤子”という意味。子熊に化けていたが化け物である事がばれて退治された。河童のようなものとされる場合もある。
- オキナ/ショキナ:鯨すら飲みこむ怪魚
- オコッコチャペ(Okokko Cape):化け物猫。
- オタパッチェクル/オタパッチェグル/オタパッチェマッ(Otapatcekur, Ota-patce-kur, Otapatche-guru, Otapatcemat, Ota-patce-mat, Otapatche-mat):海岸で砂を舞い上がらせる悪魔。オタパッチェクルの妻はオタパッチェマッである。オタは“砂”、パッチェは“飛び散る”、クルは“人”、マッは“女”という意味。
- オッケルイペ(Oxke-ruy-pe, Oxke-oyasi):大きな屁をひる化け物
- オニマクシメノコ/オイマクシ・メノコ(Onimakus-menoko, Oimakus Mahnekuh):陰部に歯が生えている女性の妖怪。
- オハインカル:山野を歩いていると突然山や川が現われて、行く手を塞いでしまう怪異。
- オハチスエ/オハチスイェ(Ohacisuye):空家に住み着き人や家畜に害を成す魔物
- カチョコロマッとソロバンコロマッ(Kaco-kor-mat, Soroban-kor-mat):“太鼓を持つ女”と“算盤を持つ女”という意味。とある軍がこの女たちを敵軍に差し向けて見蕩れさせている隙にその敵軍を討ち破ったという話が伝わっている。
- カネラッコ(Kane-rakko):金のラッコ。
- カヨーオヤシ(Kayo Oyasi):人呼びお化け
- カミアシ(Kamiasi):魔物のこと。
- カムイラッチャク(Kamuy-ratcaku):疫病を流行らす神の火
- キサラリ(Kisarri, Kisar-ri):耳長お化け。
- キムナイヌ/キモカイクッ/オケン/ロンコロオヤシ(Kimunaynu, Kim-un-aynu, Kim-un-kux, Kim-okay-kux, Ron-koro-oyasi):禿げ頭の妖怪
- キムン・セタ:キムナイヌが連れている猟犬
- クウケェパロ:肩に口を持つ異形の者で英雄ポイヤウンペの味方をした
- クンツゥカブ/クンツゥカプ/クントゥカプ/クンツカパプ/クントゥカパプ(Kuntukapap):かすべ(カジキエイ)の様な怪魚でありこれを捕まえると不幸になるといい、これを捕った者が破産して関わった者も不幸な死に方をしたという。アカエイの大きなものをクントゥカパプと呼ぶという情報もあり、クントゥカパプは角があって扁平な海魚であり漁夫が最も恐れるものだという話もある。
- クンネチカプ(Kunnecikap, Kunne-cikap):“黒い鳥”という意味。吉田巌『アイヌの妖怪説話 (續)』によるとポンヤウンベの征服した北方クンネペッ(黒い川)の怪鳥らしいが詳細不明。
- ケナシコルウナルペ/イワメテイェプ/ニタッウナラベ(Kenas-kor-unarpe, Nitat-unarbe, Nitat-unarpe):ヒグマを操る山姥
- コシンプ/トゥレンペ(Kosimpu, Turempe):憑き物
- コチウツナシュグル/コチウトゥナシグル/コチウトゥナシマッ(Kochiu-tunash-guru, Kochiu-tunash-mat):“早瀬の男”と“早瀬の女”、もしくは“早い流れの者”と“早い流れの女”という意味。コチウトゥナシグルと妻のコチウトゥナシマッは夫婦で一緒に川の激流に住んでいる魔物である。
- コヌブキオトグル:川岸を崩す魔物
- コロトラングル/コノトラングル/コノトランマッ(Konoto-ran-guru, Konoto-ran-mat):暴風を起こし漁の邪魔をする巨大魚の姿をした魔神で、ルルコシンプの祖先であるという。
- シソヤオッカヨ(Sisoya Okkayo):“雀蜂男”という意味。ポロニッネカムイという魔神の退治に協力した。
- シチェプ(Si-cep):“大きな魚”という意味。並外れて大きな鮭のことでありイルカほどもある大きな鮭が獲れることがあるらしい。これが獲れたら上客が来た時の御馳走にするためにイナウキケを付けて吊るしておくという。
- シートッコニ(Sitokkoni):網走市の池に住んでいた蝮の王であり、竜になって海へ出たとされる。
- シトンピーチロンノップ/シトンビーチロンノプ/シトゥンピー・チロンノップ(Situmpi Cironnop):日蝕や月蝕をもたらす狐。
- シラルポンチャチャ(Sirarponcaca):磯の小さな爺。金属の杖を持っているという。
- スマトゥムンチ(Suma-tumunci):石の化け物、岩の女。目が額にあり、口の端は目の下にあったといい、人肉を食べていた。
- スムレラウェンユク(Sumrera-wenyuk, Shumrerawenyuk):“西風の魔物”という意味。ウェンユクというのは“悪い熊”や“人食い熊”という意味でもある。詳細不明。
- ソヤオッカヨ(Soya Okkayo):“蜂男”という意味。イワンレクトゥシペという六つ首の化け物の退治に協力した。
- タプカルニ(Tapkar-ni):“踊る木”という意味。昔、踊りを舞ってばかりの女がいて夫に子の養育や家事の全てをやらせていた。夫に同情してその妻に怒りを抱いた天の神は彼女をタプカルニという木に変えてしまった。
- チウラングル:強い流れの川の中に棲む魔物。
- チュコポイェレラ/チウコポイェレラ(Cukopoye-rera, Chiukopoyerera):チュコポイェは“混ぜる”、レラは“風”という意味。旋風や竜巻のことであり、このような渦巻く風は妖怪視されたという。
- チライ(Ciray):鹿を食う巨大なイトウ(魚)
- テイネポキナシリ(Teyne-poknasir):穴の奥にあった小さなお化けがいる世界
- テクンベコルベ/テクンペコロペ/テクンペコロカムイ(Tekumbekorbe, Tekumpekorpe, Tekumpe-kor-pe):アイヌ語で“手甲を持つもの”という意味でありおそらくザリガニのこと。昔の日本ではザリガニは北海道と東北地方の北部にしかいなかったため和人にとっては見慣れない生物であった。『一宵話』にはテクンベコルベは首は蟹だが尾は海老であり首に真珠があると記されている。首の真珠というのは胃石のことと思われる。
- テレケイペ(Terkeype, Terke-ipe):蛙のこと。蛙は悪女が死後に地獄で釜に茹でられた後に生まれ変わったものであり、蛙の足に刺青のような模様がついているのは生前の彼女の刺青の名残りだという。
- テンキセイチェプ(Tenki Sei Chep):寿命で死ぬ直前に鱗が剥げ落ちる鮭。これは疱瘡を運ぶ魚なので食べてはならないという。
- トイポクンオヤシ(Toy-pok-un-oyasi, Toypokun-oyasi, Toy-pok-un-pe):地面に潜み異性を脅かす魔物
- トイポクンチリ(Toipokunchiri):“地下にいる鳥”という意味。イチャシカラという呪いを行う時、ヨモギで草人形を作って自分の家の近くの地面に穴を掘り、トイポクンチリが対象人物を地獄まで運ぶように頼む呪いの言葉を唱えて草人形を逆さまに埋めると、草人形が腐るにつれて対象人物の体も腐っていく。呪いの言葉は「おお、トイポクンチリよ、憎みても余りある男の人型を今そなたの元へ送る。この男よりその魂を抜き取り、その体とともに地獄まで運んでいかれよ。この憎むべき男を悪神の姿に変え、そなたの仲間に加えられよ」である。
- トッコニオッカヨ(Tokkoni Okkayo):“蝮男”という意味。ポロニッネカムイという魔神の退治に協力した。
- トホイ(Tohoy):海鞘のこと。樺太などに伝わる昔話では退治されたケナシウナルペの乳房が海鞘になったとされている。
- 戸を欲しがるお化け
- トラサンペ(Torasampe):「湖の苔の心臓」と呼ばれるマリモ
- ニシヲカムイ:正体不明の黒い者
- ニシンナイサムニオヤシトゥムンチ/ニシンナイサムニオヤシツンウンチ(Nishinnai Samnioyashi Tumunchi):“木が立っている荒れ果てた場所のそばの化け物”もしくは“樹木の生ずる山野の魔”という意味。悪とされる種類の木(カンボク、エゾニワトコ、ポプラなど)に対して呪いの言葉を唱えるとこの化け物が対象人物の不意を突いて攻撃してくれる。呪いの言葉は「おお、汝ニシンナイサムニオヤシトゥムンチよ。私は汝を崇拝し、汝にお願いします。私をいじめる人が大勢います。私はそれらの人々の名前を知らせます。汝、急いでください。それらの人々の魂を取ってください。彼らを汝に似た化け物にしてください」である。
- ニスオッカヨ(Nisu Okkayo):“臼男”という意味。イワンレクトゥシペという六つ首の化け物やポロニッネカムイという魔神の退治に協力した。
- ニタッラサンペ(Nitatrasampe):見たものを不運にする魔物
- ヌイコロベ(Nuykorbe, Nuy-kor-pe):“炎を持つもの”という意味。有珠山を噴火させた悪魔だというが詳細不明。
- パシクルアペ(Paskur-ape):鳥のように飛び回る鬼火
- フウレチカプ(Hurecikap, Hure-cikap):“赤い鳥”という意味。吉田巌『アイヌの妖怪説話 (續)』によるとポンヤウンベの征服した北方フウレケナシ(赤い林)の怪鳥らしいが詳細不明。
- ペカペカ(Pekapeka):河童の子のことらしいがアメンボを意味する単語でもあるらしい。
- ベカンベ/ペカンペ(Pekampe):阿寒湖に生えていた菱でカムイに追い出されたので、湖中に草を投げ込みトラサンペを作った
- ペンタチコロオヤシ/イシネカプ(Pentaci-koro-oyasi, I-sineka-p):松明をかざす魔物
- ホックム(Hot-kum):悪い化け物の鳥だというが詳細不明。
- ホロプ(Horop):水生昆虫マツモムシのこと。ホロプは猛毒を持つ虫とされている。ある時、大きなホロプは少女の口から体内に入って彼女を病気にしたが、老婆によって彼女の体内から追い出されたので川に逃げた。するとホロプは水の神ワッカウシカムイに怒られ、体を切り刻まれて小さな虫にされた。
- マカオタリ(Makaotari):ミミズクの一種。縁起の悪い鳥であり人を罵る時に用いる単語でもあるらしい。
- マッナウウェンユク(Matnaw-wenyuk, Matnauwenyuk):“北風の魔物”という意味。ウェンユクというのは“悪い熊”や“人食い熊”という意味でもある。非常に悪いものだとされていたらしいが詳細不明。マッナウカムイという北風の女神も伝わっている。
- ムイ(Muy):ヒザラガイ類の世界最大種であるオオバンヒザラガイのこと。民話ではオオバンヒザラガイとアワビの間に戦いが起こって以来、両者は別々の海域に棲むようになったという。
- メコ(Meko):猫のこと。猫を殺害した事で猫の霊に取り憑かれた者は、猫のような行動を執るようになり、やがて衰弱して死んでしまう。この祟りを防ぐには殺害した猫の一部を食べれば良いとされる。飼い主に焼き殺された猫の怨霊が飼い主の家に火を放って焼き尽くし最終的に飼い主を病死させた話や猫が人間の女性に化けた話も伝わっている。
- メナシオッカイウェンユク(Menas-okkay-wenyuk, Menashokkaiwenyuk):“東風の雄の魔物”という意味。ウェンユクというのは“悪い熊”や“人食い熊”という意味でもある。詳細不明。
- モシリシンナイサム(Mosirsinnaysam):馬程の大きさの白黒まだら模様の魔物で、見たものを不幸にする
- ヤウシケプ(Yauskep):巨大な蜘蛛
- ヤムオッカヨ(Yam Okkayo):“栗男”という意味。イワンサパエウシチロンヌプ、イワンレクトゥシペ、ポロニッネカムイなどの悪神や化け物の退治に協力した。
- ライクルエチカップ(Raykur-e-cikap):死人を食べる鳥
- ルウェケムオッカヨ(Ruwe Kem Okkayo):“太針男”という意味。イワンサパエウシチロンヌプやイワンレクトゥシペなどの悪神や化け物の退治に協力した。
- ルヤンベニッネプ/ルヤムベニトネブ(Ruyambenitnep):大雨や嵐が起きるのは地上にこの妖怪が現れた時だとされており、そういう時に人々は小屋の外の棒に笊を刺し「お前ができるなら、水でそれを一杯にしてみろ。できないなら、立ち去る方がいい」と告げる風習があった。
参考
※この項では正確にはアイヌ神話ではないが、現在知られているものの現状と、参考として和人や海外の資料にあるが、創作であることが分かっているものを紹介する。
資料について
アイヌに伝わる叙事詩(ユーカラ)などが書物化されて刊行されているが、「アイヌの伝承」という触れ込みで刊行・流布されているものにも捏造・偽作が含まれるため注意。
有名な阿寒湖の『恋マリモ伝説(悲しき蘆笛)』や『シトナイの大蛇退治物語』はその代表例である。
シトナイのものとされるエピソードは一個人による創作でありながら、北海道庁編纂の『北海道の口碑伝説』に掲載されてしまった。
和人により「アイヌの伝承」が捏造され、それがロクなチェックもされずに素通しされ官庁の書籍に「実際の伝説」として掲載されてしまう。
これは北海道史におけるアイヌ民族・アイヌ文化の扱いを端的に示す一例でもある。
偽伝承がそうと気付かれないまま観光に用いられ、後代に発覚・周知されるという出来事も起こっている。
2021年になり、北海道出身の作家・朝里樹氏著による『日本怪異妖怪事典 北海道』が出版され、アイヌ神話の神々を含めた約800種の怪異妖怪が出典を含めて紹介されている。
この書籍ではシベリアの少数民族の伝承や、近代の都市伝説妖怪まで網羅されているが、上記の問題点を鑑みたのかそれぞれ別項目を設けて説明している。
和人による創作や伝承
※基本的にタグやイラストがあるものを掲載。
※シトナイとニングルはアイヌ語が用いられているが、逸話・設定は和人の創作である。
※江戸時代松前藩の支配下にあった蝦夷地は異郷で、怪獣や妖怪が棲むとされていた。
- アマニ:心臓の病に効く脂が採れるため珍重された海獣
- 海鬼(Umi-Oni, Umioni, Kaiki):水虎に似た、もしくは同一な妖怪
- 隠れ座頭(Kakure-Zato)
- クッシー(Kussie, Kusshi):屈斜路湖に棲む未確認生物
- げたおじさん(Geta-Ojisan):函館市にある「お化けトンネル」に現われる下駄を履いたおじさんの幽霊。
- 犬面人(Kemmenjin):北海道から寄せられた噂として学校の怪談の本で紹介された都市伝説妖怪。人面犬の逆パターンであり顔が犬になっている人間。普段は帽子とサングラスで顔を隠しており、人間が近づくと犬の顔を見せて脅かすという。黒いコートを着ていたという話もある。
- 国道40号ばばばばばばえおうぃおい〜べべべべべべべべべえべえええべえべべべえ(Kokudo Yonju-go Babababababaeowioi Kara Bebebebebebebebebebeebebebebe)
- 権六狸(Gonroku-Danuki):留萌の民話に登場する大狸
- シュムナ(Shumuna):あらゆるものを溶解させる霧の妖怪。
- シトナイ(Sitonai, Shitonai):大蛇を退治したという少女
- シバレボッコ(Shibarebokko):吹雪の時に現れて唄を歌い、子供を攫う妖怪。
- チャレンカ/シララ/メヌカ/フミキ:海の難所である神威岬の岩に、もしくは花になった源義経に叶わぬ恋をして自害したという首長の娘。
- トッシー(Tossie, Tosshi):洞爺湖に棲む未確認生物。
- 泣く木(Nakuki):夕張郡の国道234号線沿いに昭和45年まであった、切ろうとすると泣くような音を立てるハルニレの木。
- ニングル(Ninguru):富良野に伝わるという小人。
- 捕血豈棲(Hotchikisu):「呪縛留め金」なる技で相手の動きを封じる妖怪。
- 雪女(Yuki-Onna)
- ラガル/ラガルト(Ragaru, Ragaruto, Lagarto):ポルトガル語でトカゲという意味の怪物。
- 落斯馬/ラシマ/ロスマ/ラシメ(Rashima, Rosuma, Rashime):ラシマと読む頭に角が生えた海獣。
- リヤカーおばさん(Rearcar-Obasan, Riyaka-Obasan):時速80キロ以上で走るリヤカーを引いたおばさん。
- リョウ子さん(Ryoko-san):苫小牧市から寄せられた噂として学校の怪談の本で紹介された都市伝説妖怪。とある学校の三階のトイレの入り口から三番目、五番目の個室でリョウ子さんの名を呼び、その悪口を言うと一ヶ月後に病気になってしまう。病気になるのを避けるためには悪口を言った直後に四百九十回「ゴメンナサイ」と言わなければならないという。
海外の創作
- コック・バシロサウルス/クナシリシンカイオオトカゲ(Koch Basilosaurus, Kunashir-shinkai-o-tokage)
- ユキ・オトコ/ユキ・オンナ(Yuki Otoko, Yuki Onna)