追放ものとはどんな内容か?
話の類型としては古典的なものであり古くは巌窟王などにも見られるが、現在なろうで模倣されている詳細な類型は「真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました」が生み出したものである。
主人公が所属パーティ(またはブラック企業)のメンバーからクビを宣告されて始まる追放ものだが、作品によっては主人公の所属するパーティがダンジョンでお目当てのアイテムを手に入れる等の目的を達成したら「お前はもう用済みだ」と言わんばかりに『主人公を囮にして自分達を襲ってくる(追いかけてくる)モンスターから逃げる』という悪質極まりないパターンからスタートするケースや『主人公とは恋人や婚約者な関係であったパーティメンバーの女性がメンバーの一人(主に勇者等のリーダー格)に奪われていた』という不幸の上乗せで更に悲惨なパターンも中には存在する。
パーティに限らず、会社や冒険者ギルドや軍隊、果てには国家からの追放も存在する。国家からの追放の場合、クビ宣告を受けるのは勇者自身というケースもある。(悪の魔王退治後の勇者不要論、狡兎死して走狗烹らる)
主人公の性別は男性である事が多いが、女性が主人公の場合もあり、その場合、追放理由が男性より緩和されている場合が多い。
定型パターン
作品によって異なる点はあるが、主に下記のようなストーリーである。
その1"クビ宣告"
勇者「〇〇。お前はクビだ」
戦士「お前みたいな足手まといは俺たちのパーティにはいらないんだよ!」
- 主人公は冒険者パーティに所属するメンバーであるが、ある日突然メンバーの一人(主に勇者等のリーダー格)からクビを宣告されてしまう。
- これは物語が主人公の追放から始まることに加えて、一方的に宣告されることにより、勇者パーティがその誉れに相応しくない輩なのを分かりやすくするためである。
補足:追放される理由(一応は納得できる理由のパターン)
- 他のメンバーと比べて主人公だけ目立つような活躍・貢献ができていない。
- 主人公以外の他のメンバーの職業が勇者や剣聖、賢者や聖女といった上級の職業を連想させるものに対して、主人公の職業は遊び人や盗賊、魔物使い等で比較して地味である。
- 主人公の持つスキル(アビリティ)が鑑定や錬金や育成等のように戦闘では直接役に立たないタイプである。
- だが「使い方次第」で実は戦闘用のスキルを遥かに凌駕するなどのパターンが多い。
- 職業やスキルで考えれば主人公の上位互換な新メンバーが加わったから。
- だが後述で述べられる通り、結論上は新メンバーではなく主人公の方が『得意分野』に限り優れていたというパターンも多い。
- 実は追放者側も追放したくはないが、何らかの事情で追放せざるをえなくなる。
- 変化球として存在するパターン。このパターンでは主人公と比較的良好な関係だったことが多い。主人公がその事情を知っていて円満に抜けることもあれば、知らずに困惑しながら追放されることもある。
その2"主人公の追放"
主人公「なんで私が!」
勇者「お前は俺たちより弱いし、スキルも役立たずだ。そんな足手まといは俺たちのパーティに必要無い」
- 突然のクビ宣告に納得できない主人公は文句を言うのだが、状況によってはそのメンバーに具体的な理由や悪口を一緒に言い返されてしまう。
- それを聞いた主人公は諦めて、そのメンバーの言われるがままにパーティを離脱してしまう。
- 作品にもよるが主人公が所属していたパーティを抜ける際に、主人公を追い出す張本人(主に勇者等のリーダー格)が主人公に対して「そうそう、出ていく前に装備は全部置いて行ってくれよ。それは僕たちが手に入れたものだからね」と理不尽極まりない事を言うと、何故か主人公はこれを拒否せず馬鹿正直に装備を置いていくという卑屈な対応をするケースも多い(作品にもよるが主人公が力不足なのを認識している事も要因)。…とある有名RPGでは離脱するキャラクターが装備を置いて行く事はお約束だし、種泥棒と呼ばれたキャラも存在するが…。
- さらに酷い追放ケースになると奴隷商人に売られたり、ダンジョンなど証拠隠滅できる場所で殺害されかけるケースもある(追放者が追放したい者に対する悪意が強い場合)。
- 逆境を切り抜けて立ち直るケースもあれば、追放された者が追放者に殺害されるケースもあり、その場合は追放された者が自身の能力発動又は何者かに蘇生させられたり(この場合生存ルートと同じルートに戻る)、新たな生物として転生して第二の人生を歩む要素も含まれてくる。
- 逆に主人公はパーティーから追放されても過去の貢献に対しつつましく暮らせば一生暮らしていけるだけの多額の退職金を渡すという普通の組織としての対応もできるものもあり、互いにライバルとして機能して成長するジャンルも出始めている。
補足:主な追放理由(理不尽な理由のパターン)
- 発言者の「俺のパーティに俺以外の男はいらない」という考え(男性主人公前提)。
- だが『パーティ内の女性メンバー達にとっては好意も信頼も主人公>>越えられない壁>>発言者であるため主人公が発言者のせいで追放されたという事実を知ると発言者を見限って主人公との合流を目指して行動するという展開になり、追放者のハーレム計画は破綻してしまう』というケースもある。
- 発言者は仲間の一人を狙っているが、その仲間は主人公が好きなので追い出したいという最低な横恋慕(男性主人公前提)。
- 主人公の身分・種族を理由とした差別。
- 『冒険やクエストの最中にあったトラブルは主人公のせい』という思い込みやリーダーである勇者の判断ミスが原因なのに主人公のせいにする責任転嫁。
- しかしその判断が後に自分達のパーティの首を絞めることになるのがお約束である。ブラック企業のよくあるいじめの標的が辞職したら他が次のいじめの標的として狙われるが、繰り返す内に組織の自洗能力が残っていた場合、最期は害のある元凶に残った仲間達による報復によって逆に追放される。元凶が生き残った場合は寄生された組織ごと崩壊するのがオチである。
- 主人公には実力は本当にないが追放者以上に知恵があり、追放者が真のリーダーシップがとれない事による嫉妬思考。主人公の欠点を理由にリストラまたは追放する(さらに酷いケースになると奴隷商人に売ったり、暗殺するケースもある)。
- しかし、追放者には主人公より悪知恵があっても真の知恵や人心を掴むコミュニケーション能力などはないので今まで上手く行っていた事が上手く行かなくなり仲間達の関係が悪化して、犠牲者や離脱者が増え信用を失う。離脱者は追放された主人公の離脱を一例にしてパーティを離脱するケースもある。最悪組織が崩壊したり、追放者自身の命がなくなる。
- 「俺達のパーティは攻撃こそ全てだから、それができないお前はいらない」という脳筋な体育会系思考。
その3"主人公の再スタート"
主人公「今までやっていけたのも奇跡だったんだ…でもこれからどうしようか……」
- パーティを抜けた主人公は、途方に暮れながらも一人で頑張っていくことを決意する。
- この後は復讐するか、冒険をするか、農場を営むか、新しい道(再就職)を探すなどに分類される。
補足:追放された主人公が取る行動
- ソロで冒険者を続ける(この場合ギルドでのランクがリセットされて最下級のランクからスタートしたり、『主人公は勇者パーティの一員ではあったが、ギルドに所属する冒険者ではないためギルドで冒険者になるための試験を受ける』というパターンもある)。
- 故郷に帰省したり、自分のことを知る者がいない田舎や辺境の地で一人暮らしを始める。
- 自分のスキルや能力等を活かした商売・ビジネス・領主・建国などを始める。
- 国や組織のトップ、もしくはその関係者であるヒロイン等にスカウトされる形で、その国や組織に所属するようになる。
- なお自分の力の使い方に気づけずに他の組織にスカウトされるまで再就職と追放(解雇)を繰り返すケースもある。
- 傷心旅行や自分を見つめ直す等の理由で一人旅を始める
その4"スキルの真価やヒロインや勧誘者との出会い"
※パターンが重なるケースもある
- パターンA
主人公「俺のスキルにこんな使い方があったなんて…!」
- パターンB
ヒロイン「ねぇ(主人公の名前)ちゃん……私の仲間になってくれない?」
- パターンC
勧誘者「(主人公)さん……ぜひとも我が○○(国や組織名など)に来てはいただけませんでしょうか?」
- パターンD
主人公を追放したパーティの仲間「キミにはこういう仕事が向いていると思う」
- 主人公は真の力を発揮した自分のスキルや偶然手に入れた武器などの装備品やアイテム、または出会ったヒロイン等がきっかけで、実力や冒険者としてのランク、そして名声等を徐々に上げていく。
- ヒロインが主人公の仲間(従者)になる理由は『モンスターや悪徳な盗賊団等に襲われたり等のピンチから助けてもらった(庇ってもらった)』『奴隷として売られていた所を主人公に助けてもらった』等で主人公に恩があるタイプの物が多い。
- 主人公を追放したパーティが主人公の新たな道を示す事もある。追放後も互いの関係が良好なパターンに多い。
補足:主人公におこるターニングポイント
- 何かがきっかけで凄い効果や性能の装備品、アイテム、スキルを手に入れる。
- パーティに所属していた時は『役立たず』と自分でも思っていたスキルが、パーティからの追放後に『使い方を理解する』『条件が満たされる』等の理由で真価を発揮できるようになる。
- 主人公と出会ったヒロインは高い能力や強力なスキルの持ち主である冒険者。あるいは魔王の娘、人に近い姿をしてるけどエルフとかそんなんじゃない等でとても凄い存在である。
- 誰かに指摘されて主人公は自分が凄い能力の持ち主だったことに気付く。
- どん底に落ちた主人公が成り上がったり、ヒロインと出会って良い関係になる、色々な人たちに認めてもらえる等で報われる。
その5"勇者パーティの没落"
- パターンA
勇者「〇〇使いならこれぐらい簡単にできるはずだろうが!あの野郎はいつも平然とやっていたぞ!」
名うての〇〇使い「そっ、そんな立ち回りなんて可能なわけないだろ!!」
勇者「なん…だと…」
- パターンB
勇者「くそっ!いつもより切れ味が鈍いじゃないか!どういうことなんだ!」
魔法使い(勇者は気づいていないようだな。追放したあの娘のスキルは我々の生命力を僅かに吸収する代わりに攻撃力を大きく倍増させる効果を持っていることに…)
- その一方で、主人公を追い出した冒険者パーティは落ちぶれて行くのだった……
- この段階で主人公に対して酷い仕打ちをしたパーティがその報いを受けるというざまぁ展開を欲する読者が現代は多いためか、このジャンルの小説を原作とした漫画はとても多い。
勇者パーティのその後
普通に没落する
- 結果、惨敗の事実や功績に隠されていた素行の悪さ・自力の乏しさ等が一気に知れ渡り、勇者の地位や高ランクな冒険者としての資格そのものを早々に剥奪されてしまうケースも珍しくない。主人公の序盤の踏み台や壁として破滅する事もあれば、他の要因で勝手に破滅する事もある。
反省し己を顧みる者は報われ、そうでない者は破滅する
- その後のメンバーの行方は作品によって様々だが、追放に反対していた穏健派などは、主人公と復縁する事や自力で他の道を歩む事が殆ど。逆に賛同していた者たちの中で反省した者や頭のいい者(善悪区別なく)は自力で他の道を歩んでいく(腐っても有能な実力者)が、反省できなかった愚者は過去の威光を喚きたて、それを周りから嘲笑される日々を送る。最悪破滅したり、命を失う。善人も悪人も愚かであれば平等に破滅するのである。
覆水盆に返らず…?
- 主人公の重要さにようやく気付いた勇者パーティ(元・所属パーティ)が連れ戻しに来るパターンもあるが、主人公に酷い仕打ちをして追放した件は特に謝罪しないケース、謝罪するケース、仮に謝罪しても再び主人公にすり寄るための方便に過ぎず誠意が感じられないケース等様々。
別れた方がためになる場合も
- 逆に主人公を追放した事で新たな道を歩んだ主人公やうまく体制を整えた追放パーティにとって互いに大きな利益になったり、対等なライバルといえる存在になったり、いい影響を与える事もある。
逆恨みされるケースも…。
勇者「くそっ!〇〇め、せっかく許してやろうと思ったのに再加入を断りやがって……」
基本的に主人公に酷い仕打ちをした元・パーティ一同がその報いを受けるというのが『追放もの』の定番だが、逆恨みされるケースもある。
- 主人公がかつて所属していた元・パーティの中には悪知恵の働く卑劣漢や悪女がいて、主人公が保護するヒロインなどを盾にしたりする等、魔王もびっくりの外道ムーブに走る作品もある。
- スローライフに移った作品でも、こうした主人公の成り上がりを許さない元パーティの追撃が現れ始めた。生産したポーションや装備などの販売が軌道に乗り始め、幸せを取り戻しつつあったはずの主人公だが、それを風の噂で知った勇者パーティが主人公の幸せと利益を奪おうと目論むのである。(現実のコンビニ経営みたいな…。)
主人公が気が付いたら主人公を追放した組織がいつの間にか滅んでいた
主人公が何もしなくても主人公を追放した組織がいつの間にか他団体に滅ぼされ、その情報を主人公の知人や噂で聞くケースもある。
特に触れられずフェードアウト
「『ざまぁ』はメインでは無いんで」と作者に割り切られている場合、特に追放した側の事は描写されなかったりする。愛の反対は無視。
- 役者の都合がある実写ドラマなどでもありがち。
悪に堕ちた勇者
勇者「俺は世界を救う使命を背負う勇者なんだぞ……なのにどうして俺が落ちぶれて、あいつばかりがどんどん持て囃されるんだ……」
ローブの男「……力が欲しいか?」
勇者「誰だお前は!?」
自分の身勝手で追放した主人公が成り上がっていき、その逆に坂を転がり落ちるボールのように落ちぶれて行く(中には逆恨みで主人公に危害を加えるも返り討ちにされるパターンもある)現実を受け入れる事とができない勇者パーティーに謎の男(大抵は魔族等の世界の平和を脅かす存在であるのがお約束)が自分達の前に姿を現し、そのまま誘いを掛けてくる。
当然、勇者や冒険者としてはその誘いには絶対に乗ってはいけないのだが、『主人公への逆恨みな憎悪』もしくは『地位や金、女を思うがままにできる人生を送りたいという私利私欲』が理由でその誘いに乗って悪に堕ち、主人公どころか国や世界の平和を脅かす勢力に与するようになる。というのが定番である。
そうなってしまっては、『勇者の肩書きは失われてしまい、悪に堕ちた自分を倒した主人公が勇者としての肩書を引き継ぐ』のがお約束である。
その他新要素
今更もう遅い
これは、最近の小説家になろうやカクヨム等で投稿されている追放ものに用いられている要素で、以下のような特徴がある。(もちろん当てはまらない作品もいくつかある)
- 追放される主人公は、自分の持つスキルの詳細を完璧に把握しており、自分を追放しようとする張本人に「俺(私)を追放したら俺(私)のスキルの効果が適応されなくなってこういう損失がある」と丁寧に説明するのだが、追放する張本人は『追放を逃れるための聞き苦しい言い訳』等と称して聞く耳を持たず主人公を強引に追放してしまう。
- その後の流れは前述の通りで、現在の順風満帆ぶりが嘘のようになくなってから主人公の言っていたことが本当だったと思い知ることになる(最期まで理解しない愚者もいる)。
- 主人公と同じパーティにいる女性メンバー達は主人公を信頼していたり、好意を寄せているのだが、張本人が彼女達に断りも相談もなく独断で追い出したため、『張本人が主人公を追い出した』という事実を知らない。
- そのため張本人は『あいつが勝手にパーティから抜けた』等の嘘を言って正当化するのだが最終的にはバレてしまい、主人公を追い出した張本人に愛想を尽かして見限りパーティを抜け、女性メンバー達は追放されて行方知れずとなった主人公との再会や合流を目標に活動していく(ただし中には脅迫等の何らかの事情で自分の意志でパーティを抜けられずジレンマを味わうケースもある)。
追放視点
追放者が主人公の場合もある。有能な人材を追放する事で達成できる目的遂行(恋愛関連など)の為に他の犠牲(没落や組織の崩壊など)を払う事を覚悟している。
ライバル関係
主人公がスキルで成功しつつ、その後のパーティの成功も喜び、パーティも追放した主人公の成功を喜びつつ、競い合うライバル関係のような対等な存在になり、別組織になっても助けあう存在となりえる事もある。
自主離脱
追放されるのではなく、主人公が理不尽な扱いに耐えかねて自らの意志で離脱するパターン。厳密にいえば追放ものではないが、離脱後の展開は同じような経過になることが多い。
利点と欠点
追放ものの利点は分かり易く主人公の立ち位置と目的が明確化されていることにある。
言わば、主人公という冷遇された被害者が報われる展開と、パーティ側という加害者が自業自得で落ちぶれる展開を見せる事で、清濁両方の爽快感を味わわせることができる。
追放された後の道筋に農場生活が多いのも、競争社会やブラック企業の過労死しかねない状態から抜け出して平穏な生活を送りたいという共感を募る意図があるのかもしれない。
金は生活必需品だが、必要な分あれば過剰に頑張る必要もないのだ。……と言いつつ、結局は金も異性も才能も超一流レベルで過剰に手に入るのがお約束だが。
欠点しては、主人公の強さや目的といった内容が単一化(主人公は第二の人生を歩む、勇者パーティは落ちぶれる、美少女と一緒に農場生活を送るなど)してしまい、他ジャンルと比較してストーリー展開の差異が少ない。
追い出される主人公が本当に役立たずなままだったためしが無いというのも、昨今のタイトルで作品の内容がほぼ把握できてしまう小説と同じテンプレと言っても良い。
また、上述した所謂ざまぁ要素はほぼ確実に付属し、ネット小説において根強い人気を誇るジャンルであると同時に、醜い感情から成り立つため根強いアンチも多いジャンルである。元よりざまぁ系は「加害者側があまりに愚か過ぎて現実味がない」と言う批判を受ける事が少なくないが、追放ものの場合は特にそれが顕著。勇者サイド周りの描写を過激化させすぎて、読者にドン引かれ見限られてしまう作品も少なくなく、人によってはタイトル(これは追放ものに限った話ではないが、他ジャンルと比較すると作品の趣旨を分かり易くするために長文タイトルであることが多い)を見ただけで既にお腹いっぱいになってしまい、表紙避けならぬタイトル避けが散見される。
もう1つの欠点として、主人公を追放すると言う結論有りきで話が進むため展開に矛盾が生じやすい。
解りやすく強い能力を持つ主人公であればどう考えても、こんな有能なヤツを追放するのはおかしいと言う話になり、あまりにリアリティが無さすぎる。だが不自然を解消するため追放する理由に説得力を持たせようとするとよくよく考えれば追放は妥当であり、追放した側にさほど非がないと言う状況になってしまうため、読者の共感が得にくい作品になってしまうことが多い。
一例を挙げると
- 「追放時点では主人公は無能で、追放後に能力に目覚めたので見返す」と言う場合、追放する時点では無能な主人公をクビにするのは仕方のない事である。
- 「主人公はスキルでパーティの力になっていたが、その事をパーティが理解していなかった」と言う場合、「主人公がパーティに自分の能力を伝える努力を怠っていた」または「伝えようとすらしなかった」「むしろ隠していた」など主人公側に非がある場合も多い。さらには「追放される際に主人公が全く弁明もしない」事も非常に多い。いくら戦闘系のスキルが優秀でも、報連相が全く出来てないような人間とのパーティなど成り立つ筈もなく、クビになって当然である。
上記のように、主人公が一方的な被害者であると言えず、むしろ正当性が追放した側にあるにもかかわらず、過剰に批判されてざまぁを受け、追放された主人公はかつての無能を棚上げして無双するといった作品が少なくなく、当然、読者の共感を得にくくなる。
総じて言うと、とにかく「不自然になりやすい要素」「叩かれやすい要素」が非常に多く、よほど上手く調理しないと突っ込みどころ満載の矛盾の塊のような作品が出来上がってしまうため、前述の「タイトル避け」が他ジャンルよりもさらに発生しやすい。
コミカライズされる段階に至れば、1話目(ある意味ファンを獲得するラストチャンス)だけなら読む読者もいるので、そこで読者を物語に引き込むのがコミカライズした漫画家の腕の見せ所である(もっとも、原作自体にそこまでの魅力が無い場合、漫画家の腕だけではどうにもならないが……)。
一応、「ざまぁ」要素が付随しない(追放した側も没落しない)作品の場合、パーティから追い出される合理的な理由で主人公も納得し自ら脱退する展開が多く、元パーティ仲間と良好な関係を保ちお互いの健闘を祈るような間柄となる。
話の整合性は取りやすくなるのだが、そもそもざまぁ嫌いの人は追放ものと言う時点でタイトル避けしてしまう事が多いので、なかなか読者がつかみにくい。
こうした事情もあってか、なろう系の隆盛に反して、
悪役令嬢
ネット小説界隈で絶大な人気を誇る悪役令嬢物にも追放ものの要素を含むものが少なくない。
婚約破棄に際して追放や投獄がなされるパターンで
- 悪役令嬢が実は神や大精霊といった超越存在のお気に入りで、悪役令嬢を追放や投獄をした結果、それら超越者の怒りを買い、元婚約者とその取り巻き、あるいは国そのものが災厄に襲われる。
- 聖女(正ヒロイン)はただのお飾りで悪役令嬢こそが国を守る聖なる結界の源で、悪役令嬢を追放したせいで結界が消えてモンスターの襲撃を受ける。
- 悪役令嬢は政治や外交をほとんど一人で担っていた天才で、彼女がいなくなったことで国がたちゆかなくなる。
- 悪役令嬢の実家が強大な軍事力や経済力を持っており、婚約破棄をきっかけにクーデターを起こしたり一族郎党や領地ごと隣国に鞍替えして王家や国を滅ぼす。
等のパターンがある。
どのパターンにしろ勇者追放同様、元婚約者が不自然に無能である、もしくは悪役令嬢が追放されて当然の行為しか行っていない、という批判を受けやすい。
該当する作品一覧
※加筆時は『記事が存在する作品』を『タイトルはフルネーム表記』かつ『五十音順に従って』お願いします。
- ありふれた職業で世界最強
- 落ちこぼれ国を出る ~実は世界で4人目の付与術師だった件について~
- 「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい
- 「お前には才能がない」と告げられた少女、怪物と評される才能の持ち主だった
- 俺だけ選び放題、S級レアアイテムも壊れスキルも覚醒した【シュレディンガーの猫】で思うがまま! ~冒険者の俺はレベルも金も稼いで幸せなので、追放してきた連中も自力で頑張ってくれ~
- 解雇された暗黒兵士(30代)のスローなセカンドライフ
- 経験値貯蓄でのんびり傷心旅行 ~勇者と恋人に追放された戦士の無自覚ざまぁ~
- 「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~
- 最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン
- 失業賢者の成り上がり
- 実は俺、最強でした?
- 真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました
- 創造錬金術師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-
- その門番、最強につき~追放された防御力9999の戦士、王都の門番として無双する~
- 追放されたS級鑑定士は最強のギルドを創る
- 追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる
- 追放者食堂へようこそ!
- 追放冒険者のやりなおし ~妖精界で鍛えなおして自分の居場所をつくる~
- 追放魔術教官の後宮ハーレム生活
- 人間不信の冒険者たちが世界を救うようです
- 反逆のソウルイーター ~弱者は不要といわれて剣聖(父)に追放されました~
- 僕の武器は攻撃力1の針しかない
- 魔剣使いの元少年兵は、元敵幹部のお姉さんと一緒に生きたい
- 勇者に全部奪われた俺は勇者の母親とパーティを組みました!
- 勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強種の猫耳少女と出会う
関連タグ
無能(役立たず)、ゴミ:プロローグで主人公が追放される時に元・所属パーティーのメンバー(つまり追放者)から浴びせられる悪口としてお約束の言葉。だが、前述の通り追放者にとっての無能(役立たず)とは自分にとって実感できる貢献(特に攻撃役)をしていないという意味なので、的外れそのものである。
悪徳勇者:『追放もの』という物語を成立させる上で必要不可欠な悪役と言える存在。詳細はリンク先参照。
バカ息子:こちらも追放ものをはじめとする異世界ものにおいて定番となっている悪役。ただしこちらは前述の悪徳勇者と比較すると、登場してから破滅するまでの期間が物語全体(プロローグ~最終回)で見ると短い、かませ悪役に落ちぶれることが多い。
関連・類似するジャンル・要素
ハーレムもの:『主人公の仲間になるのはヒロインをはじめとして女性である場合が大半で、最終的に主人公以外は全員女性のパーティになる』(チーレムとも言う)という要素を含むものもある。
復讐もの:主人公を酷い目に遭わせた者が報いを受けるという点が共通している。
ざまぁ:小説のタグに高確率で付いている。
もう遅い:こちらも小説のタグに高確率で付いており、中には小説のタイトルに含まれる場合もある。
従者もの:追放ものとは真逆の状況。
出世もの:出世ものの場合、追放もの、従者ものどちらにも転ぶ。
辞職・リストラ後の再就職:自分自身の実力より上のエリート企業や環境の悪いブラック企業を辞めて、自分の能力に見合った相性のいい企業に就職して再スタートする方が状況が改善する事も多い。
現地主人公:レトロニムの一つで、追放ものと相性が良いとされている。
関連作品
みにくいアヒルの子:『グループ(家族)から追い出された主人公が実は優れた素質を持っていて、それにより報われる』という要素を持っており、そういう意味では追放もののご先祖様とも言える童話である。
ブレーメンの音楽隊:『年を取り仕事が若い頃のようにできなくなり、グループ(農家)から追い出された動物たちが身を寄せ合い、セカンドライフを目指す』、これまた追放もの、リストラからのスローライフのご先祖様とも言える童話である。結局ブレーメンにたどり着いてないとか言わない。
スカッとジャパン:追放ものの定型パターンを『リストラスカッと話』と揶揄する声もしばしば聞かれる。
関連キャラクター・人物
ジル(ドルアーガの塔):主人公だが、盾役なのに突進してきた魔物に気絶させられ、仲間に運ばれるなど明らかに足手まといだった事から主人公の兄によって早々にパーティーから戦力外通告される。ある意味このジャンルを先取りしたキャラ。
ラッキューロ:悪の組織の幹部の一人なのだが、本編終盤にて所属する悪の組織が目的である地球滅亡も目前になった時に、組織の大幹部に「君はもう用済みだから解雇(クビ)だ」と理不尽に解雇されてしまう。その結果、ラッキューロ(の持つアイテム)が敵対するヒーローたちが勝利する要因の一つになり、悪の組織は負けてしまったというある意味では『追放もの』の先駆けのような経歴がある。
流離のグリフォンライダー:異世界転生・転移モノが元ネタと言われる勇者トークンテーマで圧倒的な封殺性能、出張性能により公式から禁止カードに指定された姿が勇者パーティーから追放された追放ものと比喩された。なお出張性能が高いだけでなく、純粋な勇者デッキではまさにキーカードであるため、禁止による追放後に勇者一行のデッキパワーが悲惨になる事が予測される事も、追放ものを踏襲していると言われている。
黄泉:短気で頭が悪い事を理由にリーダーから刺客を差し向けられ、視力を失った状態で見捨てられる。だが、視力を失った事で慎重に生きる様になり、蔵馬が目標を捨てて唯の盗賊として生きている一方で努力を重ねて霊界からの支配を跳ね除ける程の強さと魔界でも有数の権力者となっている。蔵馬は黄泉に対する劣等感や嫉妬心なんて無いが、追放された側が追放した側よりも出世しているという点では似ている。
秋山駿:冤罪で勤務していた銀行を解雇された挙句、恋人を自身に濡れ衣を着せた上司に奪われたが、投資家としての才能が開花し、銀行員時代とは比べ物にならない大富豪となった。そして、稼いだ金を人生を本気で立て直そうとする人々に無利子に貸すという金貸しとなり、極道すらも自慢の足技で叩きのめす神室町のヒーローの一人となった。
その反面で彼に濡れ衣を着せ、恋人と結婚した上司は彼の活躍の余波で銀行を解雇され、自身も彼と同じ金融業を始めるも彼の様な才覚が無い為に零落れ、その挙句に保険金目的の自殺を考えるも、秋山の情けで彼から金を借りる事となる。
追放された側が追放した側よりも社会的に成功し、人間として成長した事で魅力的な存在となったという点では該当するだろう。
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