「私の名はメフィラス。この星に福音を授けに来た、外星人第0号です 」
※本項目は『シン・ウルトラマン』に関する重大なネタバレが含まれています。
概要
演:山本耕史
禍威獣及び外星人襲来騒動の最中、ウルトラマン、ザラブに続いて人類の前に現れた外星人の一人で、「外星人第0号」「特命全権大使」という肩書きを自称している。
劇中での動向
※以下、映画本編のネタバレ注意
劇中では、ザラブによるにせウルトラマン事件後に本格的に動き始めた。
手始めに「デモンストレーション」と称して禍特対の分析官・浅見弘子を拉致し、自身が所有する科学技術兵器「ベーターボックス」の被験者として彼女を巨大な姿に変えて町中に出現させ、自衛隊が彼女を攻撃しようとすると声のみで牽制した。
それと同時に、生物を巨大化させる科学技術はウルトラマンに限るものではないこと、そしてその科学技術を人類に提供することを仄めかす。
浅見の巨大化が、地球人のあらゆる叡智が及ばない未知の科学技術によるものであることが判明したタイミングで禍特対の面々に人間態の姿で接触。
施錠されていた室内に忽然と現れ、「外星人第0号」と書かれた怪しさ全開の名刺を手渡す。
宗像室長「ほう…これはご丁寧に 」
普通の日本人男性にしか見えない姿から、禍特対メンバーからは本当に外星人なのか疑われるが、彼らにベーターボックスを証拠として提示し、システムを起動して浅見を元に戻すことで自らが外星人であることを証明する。
その後、大隈内閣総理大臣ら日本国政府高官と交渉を行い、「マルチバースにあまねく鼓腹撃壌の世作り」が目的であるとして、ベーターシステムの受領及び自らを上位概念としたシステム活用計画「人類の巨大化による対敵性外星人からの自衛計画」に関する密約を交わした。
その内容は、大量のベーターボックスを人類側に供与することで、ベーターシステムによって現生人類をウルトラマンのように巨大化させることで戦力強化を図り、ザラブのように地球の滅亡を目論む外星人に対抗するというものだった。
これに対し、メフィラスの要求は自らの存在を上位概念として認めるだけであり、地球人側に不利な条件だったザラブと異なり、現法はそのまま、国民の生活も保障するという異様ともいえる程地球人側に利点しかないものだった。
使用に危険が伴う核兵器による武装よりも安全かつ効率的という点に加え、対価の軽さから日本国政府も彼を信頼し、条約を締結。人類巨大化実験の準備に取りかかる運びとなる。
「この先、またいつ他の外星人に狙われるとも限りません。備えあれば憂いなし…私の好きな言葉です」
暗躍と真の目的
「まさに呉越同舟、私の好きな言葉です。どうです?私と一緒にこの星のために働きませんか?」
ここまで聞くと外星人の脅威になす術の無い人類に善意で協力を申し出たように思えるが、真の目的はウルトラマンと禍威獣・外星人が戦う姿を見せつけることで「人類に自分たちの無力さを知らしめ」、そこにベーターボックスを開示して「科学技術の面で外星人が人類よりも上位の存在であるという認識を彼らに植え付ける」ことによって、「心折られた人間たちを自身の庇護下に置き、自分達が扱える巨大戦力の素体として独占管理する」ことである。
「何より私は、美しいこの星が欲しい。…私も、現生人類が好きなんだよウルトラマン」
要は友好的な態度は建前に過ぎず、実際には人類への善意など欠片もない。ウルトラマンと密会した際には上記の発言をしているが、彼の地球人に対する感情は対等な存在としてではなくペットや家畜のような動物に向けるものに近い。
その手段として、地球に放置された星間戦争用の生物兵器、即ち禍威獣たちを日本各地で目覚めさせる(※)。
「威力偵察兼戦力分析用禍威獣」が一通り撃破されたタイミングで、地球上の兵器と科学技術力が通用しない「局地制圧用次世代型禍威獣」を出現させ、それを餌にウルトラマンを光の星から誘き寄せたことを神永新二=ウルトラマンに告白している。
「初期の生物は威力偵察や戦術用途に過ぎない。次世代型の透明禍威獣は基幹産業である電力を、地底禍威獣は面倒な核物質を捕食する局地制圧用の戦略生物だ。…君をおびき出すには、十分な餌として機能してくれた」
ザラブの来訪も裏で彼が仕組んでいたようだが、ザラブによって神永/ウルトラマンの正体が世界中にバラされたことによって彼が人類社会で動き辛くなったのを「グッド」と評する一方、神永との対話中に彼を追ってきた特殊部隊に囲まれるなど落ち着いて話もできなくなることは想定していなかったようで、瞬間移動でわざわざ河岸を変える羽目になっている。
つまり、このメフィラスこそが劇中の一連の事件ほぼ全てにおいて裏で糸を引いていた黒幕にして全ての元凶だったのである。
しかしその一方で光の星の使者が地球人と融合することまでは把握しておらず、メフィラス本人は自身の計画に先立って人類がベーターシステムによる巨大化に適した存在であると証明されたとだけ認識していた。
しかし、これが後々想定外の事態を招くことになる。
(※)……メフィラス本人は禍威獣の復活を「人間の環境破壊が原因」「大自然の怒り、祟りのようなもの」と述べており、全ての禍威獣をメフィラスが目覚めさせたのか、それとも偶発的に目覚めた禍威獣に目を付けて自身の計画に利用したのかは不明。
ウルトラマンと密会する中、大隈総理と交わした密約文書を見せることでベーターシステムの所持を望んだのはあくまで現生人類自らの意思であるとし、「現住生命体への干渉を禁ずる」という光の星の掟も把握した上で地球人の保護や自衛の力を持たせる必要性、現状での自身の計画の正当性を主張し、可能ならば共闘を、それが無理でも干渉せず静観するように勧めた。
しかし、人間に対する愛情が芽生え始めていたウルトラマンは神永の意思としてメフィラスの計画を否定し、逆に「実力で阻止させてもらう」という事実上の宣戦布告を行ってしまう。
メフィラスは人類の味方に付くという神永=ウルトラマンに対し、人類と融合するという禁忌を犯したことでウルトラマン自身が地球に災いを招くことになると警告するも、ウルトラマンはそれでも人類を守ると宣言、結局分かり合えないまま交渉は決裂した。
「物別れとは…実に残念な結果だ」
その翌日。
湾岸近くの某所に人目を避けるように設営された式典会場にて政府関係者が見守る中条約に署名し、大隈総理との調印式を滞りなく進める。正式に条約が締結され、別次元空間「プランクブレーン」に隠蔽していたベーターボックスを召喚、政府関係者に披露する。
その直後にプランクブレーンからウルトラマンが出現、ベーターボックスを奪われてしまう。
想定外の事態に眉を顰めるメフィラスだが、ウルトラマンが数値化できないデータ=浅見の匂いを辿ってベーターボックスの所在を突き止めたと察知すると不敵に微笑む。
「……まさか女性の匂いでプランクブレーン内を直接探索されるとは。ウルトラマンのような紳士が、そのような変態行為も厭わないとは━━」
「目的のためには手段を選ばず、私の苦手な言葉です」
強奪されたベーターボックスは、禍特対メンバーが搭乗する陸上自衛隊のCH-47ヘリコプターに投げ込まれる。
他星への干渉を禁忌とする光の星の掟を盾にウルトラマンが計画を妨害できないように仕向けていたが、ウルトラマンはベーターボックスの譲渡が完了したタイミングで使用される前に回収し、そしてそれを禍特対メンバーに託す=その後の処分を地球人類に任せるというメフィラスの思惑の裏を突く行動に出たのである。
政府の男「田村に上手く質に取られたな…という状況なのだが?Mr.メフィラス」
「自らの手で破壊せず、ベーターボックスを現生人類の所有後に彼らに処遇を委ねるとは……捲土重来、私の苦手な言葉です 」
彼との決別、そして戦う運命を避けられないことを残念に思いながらも本来の姿に戻り、「アフターケア」と称してボックスを点火し巨大化、工業地帯でウルトラマンと対峙する。
ウルトラマン「メフィラス。ベーターシステムを持って、さっさとこの星から立ち去れ 」
「謹んで、お断りする 」
ウルトラマンとは原典同様互角に渡り合うが、ウルトラマンが徐々にエネルギーを消費していくにつれて優勢になり、遂にはグリップビームとスペシウム光線の撃ち合いで優位に立ち、ジリジリと間合いを詰め始める。
「君を支えるスペシウムエネルギーは、プランクブレーンからの非コンパクト化への負荷と同時に、他生命体との融合情報を維持する状態では急激に消耗する。ネゲントロピーを利用した私と違って、活動制限時間はかなり短いはずだ 」
「それまでに私を倒せるか?ウルトラマン!」
体色が緑に変わり苦しむウルトラマンをあと一歩のところまで追い詰めたメフィラスだが、ウルトラマンの背後に"あるもの"を発見する。
戦闘を監視するかのように静かに佇む"それ"はウルトラマンに酷似した金色の外星人…正体は、光の星からウルトラマンに次いで来訪した使者ゾーフィだった。
「━━よそう、ウルトラマン」
その姿を目撃したメフィラスは、優勢にもかかわらず勝負を一方的に破棄する。
このゾーフィこそが「ウルトラマンが招いた災厄」であり、彼の来訪によって地球に光の星の裁定が下ることを察したのだ。
「残念だが私はここで手を引こう。君を殺してまで手に入れるだけの価値は、もう無さそうだ。君の言うとおり、ベーターボックスは私が持ち帰る事にする」
禍特対メンバーはメフィラスとウルトラマンが突然戦闘を中止したことを不思議に思いながらも、田村と浅見は外星人同士の話し合いによってメフィラスが撤退を決めたと判断。ベーターボックスはCH-47からウルトラマンの手に渡り、そしてメフィラスに返還された。
「確かに受領した。……厄介なものが来ている。面倒に巻き込まれる前に退散するとしよう。━━さらば、ウルトラマン」
捨て台詞を残し、メフィラスはテレポーテーションで姿を消した。
その後の顛末
メフィラスによる一連の所業の結果、地球人が「強力な兵器となり得る潜在的脅威」だとマルチバース全ての知的生命体(ゾーフィ曰く約130億)に認識されてしまった。
それによって人類が兵器として悪用されるだけでなく、外星人による人類争奪戦争の勃発、そして人類が「光の星の生命体と同じ進化に至る」という可能性が浮上、事態を重く見た光の星は、恒星系諸共地球人類の殲滅を決定する。
地球に来訪したゾーフィによって「天体制圧用最終兵器ゼットン」が衛星起動上に配備され、攻撃システムが完成次第地球は1テラケルビン=一兆度の超高熱球で焼き払われることになる。
ウルトラマンは負けると分かっていながら単身これに挑むが、力及ばす敗北し、日本をはじめ各国政府はゼットンに対し何もせず、国民に何も知らせないまま破滅を迎えるという選択を取らざるを得なかった。
しかし、ウルトラマンは光の星の裁定に抗う決心をした際にベーターカプセルの基礎原理と高次元領域に関する理論を地球の言語と計算式に変換し、それを「ベーターシステムは与えられる既製品ではなく、人間が自らの知恵で考え、その手で新たに作り出してほしい。 それをどう使うかは人類の自由だ」とのメッセージと共に禍特対に託していた。
地球人の科学技術力では太刀打ちできない敵の出現に、メフィラスの思惑通り打ちのめされ、希望を捨てる直前まで追い込まれていた滝明久は、ウルトラマンの想いと希望を託されたことで立ち直り、世界中の研究者を招致して「ゼットン攻略国際会議」を提唱する。
人類の叡智と外星人由来の超絶科学技術が結集した結果、ベーターシステムの基礎原理を解明し、それを応用することで遂に人類はゼットンを破壊する方法を編み出した。そしてそれは、ウルトラマンの犠牲と引き換えにに成功し、地球滅亡の危機は免れた。そればかりか、強硬な姿勢を見せていたゾーフィは人類の知恵と勇気を認め、人類に敬意を表すとともに裁定を撤回した。
「他外星人からの侵略に対する自衛と抑止」云々を謳っておきながら地球で暗躍の限りを尽くした挙げ句、史上最大の侵略とも言える光の星の裁定(地球どころか太陽系規模の危機)を悟った瞬間、自らの行いの責任も取らずに全てを放り出し逃げ出すなど、原典の「悪質宇宙人」の異名にふさわしい活躍を見せたメフィラス。
しかし物語の結末は━━
メフィラスが偽りの善意で地球人類にばら撒こうと目論んでいたベーターシステムを、人間の未来を想うウルトラマンがヒントという形で人類に託し、
外星人との力の差を見せ付けられ一度は心を折られた地球人たちがその希望を受け取って立ち直り、地球人の発展途上な科学技術力をもって外星人由来の超絶科学技術を発展させ、
それによってマルチバース全ての知的生命体が恐れる大量破壊兵器を撃滅し、
光の星の裁定を光の星の使者にして地球人でもあるウルトラマンがその命をかけて退け、結果ゾーフィの考えを改めさせるという、メフィラスの目論見が一つ一つ真正面から完全否定され、見事に打ち砕かれるという皮肉な結果を迎えたのだった。
人物像
常に余裕と丁寧さを見せた態度で日本語の学習も進んでおり、やたら語彙が豊富。
ウルトラマンの来訪よりも前から地球に潜伏していたらしく(「第0号」という呼称もこれに由来する)、デモンストレーションの準備を粛々と整える用意周到さを持ち合わせる。
相当長いこと地球に滞在していたようで日本の社会習慣や文化にも通じており、初対面の相手に名刺を渡したりブランコに乗ったりと何気に人間社会に馴染んでいる。
地球の諺等を多用し、その後に「私の好きな言葉です」若しくは「私の苦手な言葉です」と述べる癖がある。
神永/ウルトラマンやザラブと比べてもかなり人間味を帯びている外星人といえるだろう。また、ウルトラサインのような彼特有のロゴマークも存在する。
原典では地球人に対して高圧的な言動を行っていたが、本作では言葉に強い拘りを持つキャラとなり、日本国政府との言葉による約束を求め、破壊活動をせずに人類の心を屈服させることで侵略しようとする描写に翻案されている。
原典同様に暴力を嫌悪していることを口にしているが、「ザラブのような暴力を行使する外星人から身を守る術としての自衛力と、それを起こさせないための抑止力としての場合はやむを得ない」とも考えている。
もっとも、自身に都合が悪くなった際でも「目的のためなら手段を選ばず」や「捲土重来」といった言葉を指して「私の苦手な言葉です」といった婉曲な表現にとどめて「嫌い」という直接的な表現を避ける彼が、暴力については「嫌悪します」と言い切っているため、裏に含む物が様々あるにせよここは本心に近いと解釈できる。
女性に対する紳士の振る舞いにも理解があるようで、ベーターシステムのデモンストレーションに利用した浅見がネット上で晒し者にされた時には本人にこの扱いは想定外だったことを伝える謝罪メールを送って投稿者らを「下劣な輩」と評し、直後に「償い」「罪滅ぼし」と称してネット上に大量に投稿されていたその時の画像や動画を全て抹消したり、前述の通り浅見の匂いを元にボックスの在処を追跡したウルトラマンの行動を「変態行為」と眉を顰めていた。
しかし、そもそも全ては自分が撒いた種である上に「変態行為」という批判に関しても浅見を拉致して実験体にした挙げ句、(その気は無かったとは言え)上述した通り彼女を晒し者にしているため、「お前が言うな」とする意見もある。
ウルトラマンもメフィラスにだけは変態呼ばわりされたくなかっただろう。
「目的のためには手段を選ばず」という一言に関しても、メフィラスも自身の計画のために禍威獣を復活させた結果日本全土に甚大な被害をもたらし、さらにはウルトラマンやザラブのように他天体の生命体を地球に誘き寄せている。
その結果、ザラブとウルトラマンは(ウルトラマンは本人が望んだ形ではあるが)命を落とし、多くの罪なき一般人が禍威獣災害に巻き込まれ死亡し(作中で名言はされていないが、逃げ遅れる等で死亡した民間人が0とは考えられない。ウルトラマンの降着に巻き込まれ殉職した神永もメフィラスの被害者といえよう)、住居を失い避難所生活を余儀なくされる(作中のSNSで自宅に戻れず避難生活を送っている人の投稿が見られる)、などの被害を受けている。
自身の計画のために多くの命を犠牲にしたこの男に「目的のためには〜」云々と言う資格はない。
ウルトラマンとの会話で語った通り、人類に自分ら異星文明との差を見せつけて精神的に屈服させ、彼らを生体兵器の素体という資源として保護・管理・利用する計画を進めている以上、いかに人類への理解と理知的な姿を見せていても、結局はあくまで地球人とは異なる価値観を持った侵略者に過ぎないことは否めないだろう。
ただ、デザインワークスによると地球人を利用したいというのは事実だが、地球が大好きなのも本当であり、地球をなるべくありのままの姿で残したかったのも本心だった様子。
ウルトラマンに対しても、自身が高い実力を有しており武力行使が可能…どころか何なら撃破すら可能な状況であることを把握していた(後述)にもかかわらず、「私は君と戦いたくない」として共闘か静観を幾度となく薦めており、戦闘直前にも「君と戦うのは残念だ」と述べている。最後まで彼と争うことを避けたがっていたのは明らかといえる。同時に「暴力を嫌悪する」という彼の信念に嘘偽りが無いことの証左ともいえるだろう。
以上の点から、原典のような「悪質宇宙人」であったことには変わりないとは言えど、ザラブ及び同シリーズの他の侵略者と比べても、原典同様なるべく平和的な解決を望んでいた心情が窺える。
ただ、メフィラスの構想していた計画を考慮すると彼が地球人に向ける感情は地球人たちが家畜(もしくはペット)に向ける感情に近いと見てほぼ間違いなく、神永としても活動することで、地球人(禍特対)を仲間、つまり対等な存在として見るようになったウルトラマンとは根本的に地球人に向ける感情が異なり、そこの差異が埋まらない限り、メフィラスとウルトラマンが相容れることはあり得なかっただろう。
もっとも、対等な存在としては見ていなかった一方で、絶対的な支配者に立つ前提で人類が持つ個の可能性を愛して尊重し、彼なりに守る価値を見出していた節もある。
外星人二者と地球人との関係は、しばしば猫カフェと客との関係に例えられる。いかに猫を愛していても店が閉まれば帰るのが当然、猫のフリをして店に居続けるウルトラマンの方こそ(外星人の感覚としては)異常といえるのかもしれない。
しかしメフィラスが絶対的な支配者に立つ前提で人類が持つ個の可能性を愛して尊重し、彼なりに守る価値を見出していたのは確かだろうが、彼の計画が成功したとて、生体兵器として地球外に輸出された地球人が輸出先で『人』としてまともに扱われるかといえば、答えはおそらく否であり、そしておそらく地球人を家畜のように見ているメフィラスは、その中でも特に酷い扱いに眉を顰めることはあっても、全ての輸出を止めることはしないであろうし、生体兵器として地球人の需要が高まれば、本来無関係の星での争いや、時に異星間での戦争で、異星人たちの代わりに地球人同士が戦わされることも充分あり得ると考えれば、地球人を対等な存在として見るウルトラマンがメフィラスの計画を止めようとしたのは当然ともいえる。
結論から言うと、今作のメフィラスは悪質ではあるが邪悪ではないという絶妙に掴み所のない不思議(不気味?)な人物像となっている。
こうした人物像故か、「全てが終わった後こっそり地球に戻ってきてそう」と囁くファンもいる。
なお、歴代の個体がたびたび見せていた「自分の思い通りにならないと激昂する」激情家な一面は彼には全くといっていいほど存在しない。
それどころか劇中での立ち振舞いは一貫して冷静沈着であり、感情が昂ってテンションが上がったり、必要以上に興奮気味になるようなシーンすら皆無である。
もっともウルトラマンによってベーターボックスを強奪された際には予想外の出来事に若干動揺し不機嫌そうな表情を見せてはいたが、その時でさえベーターボックスをどうやって追跡できたのかを瞬時に看破してのけており、冷静な思考力と分析力は失われていない。
本来の姿に戻っても言動自体は落ち着いており、結局最後まで余裕を乱すことは無かった(ただし、先述の「それまでに私を倒せるか?」という発言の際に声(テレパシー)のトーンが若干高くなっているため、ウルトラマンとの一騎打ちでは彼なりに楽しんでた部分もあったんじゃないかと考えるファンもいる)。
ちなみに劇中では終始笑顔を絶やさないが、よく見ると笑っているのは口元だけで目は全く笑っていない。
表向きは友好的に接しながらも、内に野望を秘めたメフィラスの心の表れとも言え、温厚さと胡散臭さが入り交じったこの絶妙な表情と雰囲気を見事演じ切った山本氏の演技力を賞賛する声は多い。
さらに、禍特対との初コンタクト(簡易ラボ室内のホワイトボードに書かれた計算式を眺めるシーン)や調印式直前の場面などでは、見方によっては「地球人の未熟な科学技術」や「諸外国との関係悪化を防ぐために四苦八苦している日本国政府」を小馬鹿にしているようにも捉えられる。
本来の姿と能力
劇中では主に人間に擬態した姿で行動するが、終盤では外星人としての正体を見せている(浅見の写真や動画を削除するシーンでは両腕のみ擬態を解いてPCを操作しており、体の一部分のみ変身を解くことも可能な模様)。
全体的なシルエットは原典のメフィラス星人とよく似ているが、歴代に比べ手足や胴回りが細身なのが特徴。
デザインワークスによると、「無駄のない格闘家の体型を意識している」らしい。
最大の相違点は、眼の部分が一つに繋がった細長いバイザーのようになっている点。
わかりやすい悪人面だった原典から一転して、無機質で感情の読み取りにくいのっぺらぼうのような顔立ちになっており、どことなくロボットやパワードスーツを彷彿とさせる近未来的なデザインである。
また、実は掌が手首まで上下に裂けるような形で左右それぞれ2枚存在するため、平時は重ねてあり確認しづらいものの手の指が計20本ある。ウルトラマンからベーターボックスを返還された際は、右手の10本指で上下から絡め取るようにして受領した。
腕は華奢な外観に反して非常に頑丈で、八つ裂き光輪が直撃しても切れるどころか片手で軽く弾いてのけている(『ウルトラマンメビウス』における、メフィラス星人三代目がダブル八つ裂き光輪を素手で叩き壊したシーンのオマージュか)。
自身が巨大化する際はウルトラマンが変身に用いるベーターカプセルと同じ原理を持つ大型の装置「ベーターボックス」を使用し、起動や操作の際にはナックルダスターのような形のリモコンでボックスを起動させる。
原典同様「グリップビーム」が主力技であり、ウルトラマンのスペシウム光線と同等の威力を持つ。発射にはネゲントロピーを利用しているため、スペシウム133を消耗するウルトラマンよりも長時間発射し続けることが可能。作中では燃費の問題から急激に減衰するスペシウム光線と打ち合い、上述の特性から徐々にスペシウム光線を押し返す威力を発揮した。
上述のように「暴力を嫌悪します」と公言しているものの本人の戦闘力自体は非常に高く、本作ではウルトラマンのエネルギー問題を突くことで戦闘では終始互角か優位に立っており、彼の来訪が無ければそのまま勝利を収めていた可能性すらある。
シリーズではライバルないしは強豪宇宙人として扱われることの多いメフィラスだが、これまではまともに勝負しても普通に負けるか、善戦しても決着が付かないまま双方引き分けに終わるイメージが強く、何気にウルトラマン相手に単独で勝利目前まで追い詰めたメフィラスは本作が初である。
この為、知略のみならず戦闘力に関しても歴代最強格のメフィラスといえるだろう。
…ただしメフィラスが指摘した通り、ウルトラマンは神永と融合した影響でエネルギー消費が非常に激しくなる弱体化を強いられており、数分しかベーターシステムによる巨大化を維持することができない。
ウルトラマンを殺害してまで地球を手に入れようと企んでいたメフィラスが弱体化したウルトラマンに合わせて手加減していたとは考えられず、つまりメフィラスはあくまで本来の能力を発揮できないウルトラマンを勝利目前まで追いつめただけともいえる。
神永と一体化せず全快の状態のウルトラマンが相手ならば劇中のようにはいかず、劣勢あるいは敗退していた可能性も捨てきれない。
とはいえ、作中で外星人は明確に禍威獣より格上として描かれており、光波熱線は外星人にはいずれも決定打にはなっていない。
劇中ではウルトラマンは人類との融合で急速に消耗し、フルパワーで光波熱線を長期間撃ち続けられないからこそメフィラスは優勢になったこと以外はわからないため、全快のウルトラマンとメフィラスがどの程度の力関係なのかは不明瞭である。
作中では戦闘開始時は互角だが徐々にウルトラマンが押されだす演出がなされており、やはり万全のウルトラマンとは原点同様ほぼ互角で、作中事実上勝利寸前まで追いつめたのはウルトラマンが消耗したからと考えるのが無難だろう。
ゾーフィを見て即座に撤退を選んだのも、地球の顛末を察したことに加え、元々暴力を嫌悪する彼がわざわざ骨を折って二人の外星人相手に分の悪い勝負をする気がないことも大きい。
いずれにせよ、作中の外星人の中でも明確に強力な存在として描かれているのは間違いない。
初期構想
このように映画本編では強烈な存在感を表したメフィラスだったが、庵野による初期構想では大きく異なる末路を遂げていた。
映画同様人類を愛しており、それ故支配し管理しなければならないと考え、浅見を巨人化させベーターシステムによる人類の生物兵器化を指せる技術供与を匂わせるが、ここで決定的に違う展開が起こる。
メフィラスは国民投票を行い、公平に人類の支配を試みるが各国の指導者はメフィラスを拒絶し、人類の同調者から排除してしまった。映画とは違い「政府から受け入れられなかった」のであった。
ウルトラマンからは負けを認めて地球を去るよう勧められるが、メフィラスは「君も私もいずれは強制排除されるだろう」と語り、退去しないメフィラスを人類はウルトラマンを巻き添えに爆撃して抹殺し、後に残った焼け野原にはウルトラマンが一人佇んでいる…というあまりに救いのないものだった。
結果的に人類に拒絶されウルトラマンと戦うことなく人類に倒されるという結末をたどっていた。
ネタ
メフィラス「……割り勘で良いか?ウルトラマン」
神永「………」
本作ではウルトラマンと地球の行く末について相談する為に、居酒屋で神永と食事をするシーンがある。
そこでは明らかにウルトラマンよりも飲み食いしている(メフィラスの前には複数の料理が並び、会話の合間に口にしているのに対して神永の前には一品のみ、さらに見る限りでは飲酒の量も控え目)くせに割り勘を提案するという絶妙なセコさと日本の文化に非常に慣れ親しんでいる姿が描かれ、余りにも人間臭い様子から、名シーンとして話題になった。
その結果なのか、公式によって行われた『シン・ウルトラマン』好きなせりふ総選挙ではまさかの1位を取った。
このシーンに関しては、ウルトラマンこと神永は国家公務員であり、食事を奢ってしまうと接待・賄賂になってしまうために避けたのではないか(日本国政府との対談でも、本人が「現法はそのまま」と言っている)との説と、財布を開いて中身を確認した際に神永をチラ見したことから「単に金欠だった(または手持ちが足りなかった)」という説がネタ交じりで考察されている(一応あの時点で神永は既に外星人として扱われ、戸籍上死亡扱いになっているので、仮に奢っても問題はないと思われるが)。
また、このような経緯からか、pixiv内で投稿された彼のいるイラストではワリカン星人というタグおよび呼び名が付けられるようになった。
また、「私の好きな言葉です」「私の苦手な言葉です」という決まり文句ないしは口癖も、その汎用性の高さからファンの間では公開直後から人気が高まっており、ネット上では様々な文章に改変して遊ぶ大喜利のようなものがたびたび行われている。
詳しくはメフィラス構文を参照。
ウルトラマンとの戦闘終盤、ゾーフィを目撃した途端ベーターボックスを回収してさっさと撤退したことから、二次創作等ではゾーフィに対し苦手意識を持っている、もしくはゾーフィから一方的に敵認定され目の敵にされているといった設定が付け加えられており、ゾーフィとの微笑ましい(笑)やりとりを見ることができる。
Twitter上ではゾーフィとメフィラスのフィギュアを並べてこれまた微笑ましい(笑)写真を投稿しているファンもいる。
ぜひそちらも拝見して頂きたい。
余談
- 4月15日に先行公開された特報のシーンの中で、メフィラスに加えて、『ウルトラマン』でメフィラス星人の配下だったザラブ星人に似た外星人も登場したことで、視聴者の一部では同じく子分だったバルタン星人やケムール人、ケムール人に似たゼットン星人に類似した外星人が登場する可能性を推測する者も存在した(実際にはバルタン星人やケムール人は登場せず、ゼットン星人に相当する役回りも別のキャラが担当することになった)。
- 神永/ウルトラマンと食事をしたシーンのロケ地は浅草にある居酒屋「浅草一文本店」。映画鑑賞後は所謂“聖地”の一つとして店を訪れたというファンもいるとか。店舗側も映画公開後にTwitter上にて実際にロケに使われたことを公表しており、店舗の宣伝に活用するという抜け目の無さを見せている。
- 上映期間中、人間態を演じる山本氏が史実の歴史をモデルにした大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にて、作中屈指の策謀家で他人に対して(友人ですら)冷たい対応のすることもある三浦義村として出演しているせいか、両方を視聴したファンからは「実はメフィラスは平安時代末期から日本に潜伏していたのではないか」とネタにされた。『鎌倉殿』スタッフも脚本の三谷幸喜氏を始め、山本氏のメフィラスを絶賛しているとか。
- プレミアムバンダイ限定の超動αにて初商品化された。こちらは手のひらサイズのアクションフィギュアとなっている。またムービーモンスターシリーズ(所謂ソフビ人形)やウルトラアクションフィギュアシリーズでも発売された。
- 更にS.H.Figuarts(通称ウルトラアーツ)でも商品化が発表された。こちらは特徴的な細身の体型を見事に再現しており、幅広い可動域で劇中でも披露したハイキックのポーズも可能な他、左右3種類ずつの交換用手首パーツを始め、グリップビームエフェクトや展開した手首、おまけにシンウルトラマン用のベーターボックスを持った手首パーツが付属する。
- そして彼が劇中で使用したベーターボックス点火器も、ウルトラレプリカシリーズよりプレミアムバンダイ限定で商品化、ボタンを押すと発光ギミックは勿論同時に彼とウルトラマンの戦闘時に流れたBGMが再生される。
- 6月10日以降、入場特典で余白にメフィラス構文の書かれた名刺風ポストカードが来場者に配布されるようになった。切り取ることで作中の名刺と同じサイズになる。
- なお、メフィラスは作中以外のウルトラマンと飲みの場で会合し、直接このポストカードを渡していたことが判明している。
- 上映後、メフィラス戦の劇伴『An Out of Body State 〈体外離脱〉』は、SFC版ウルトラマンでのメフィラス戦BGMをオマージュしたものではないかという声がちらほらと上がった。実際聞き比べてみると、楽器(音)の構成や曲自体の構成が似通っているように思える。尚、ラスボス戦の劇伴も同様なのではとも言われている。また、〈体外離脱〉というサブタイトルはウルトラQの決まり文句「これから30分、あなたの目はあなたの体を離れ、この不思議な時間の中に入って行くのです」を意識していると思われる。冒頭のシン・ウルトラQとも言うべき禍威獣災害の一部もしくは全部がメフィラスの思惑だったことと繋がっているのでは?と言われている。
- 監督の樋口真嗣曰く、「メフィラスとウルトラマンがブランコで会談しているところに警察の機動隊が駆けつけるシーンで機動隊員が持っているライオットシールド全てに撮影カメラが写り込んでしまい、消すのが大変だった」ことを撮影で大変だったこととして語っている。単純に量の問題というだけでなく、通常写り込んだものは塗りつぶす等して処理するのだが、ライオットシールドは透明のため従来の方法が適用出来ず、悪戦苦闘したそうな。その折には主に大竹なる人物(フィニッシングエディターの大竹航氏と推測される)の多大な努力によりなんとかなったとのこと。
- 2022年11月に公開されたヒノキヤグループのCM「Z空調」にて、山本氏が久しぶりに斎藤工氏との共演を果たしており、その中で「よく喋る山本耕史」と「寡黙な斎藤工」、「人類は〜」とまるで自分たちが地球人と異なる存在であるかのような台詞等、どこか劇中のやり取りを意識したかのようなCM構成となっているため、人気を博している。
- 中にはBGMを本編のものに差し替えて動画サイトに投稿したファンもおり、さらにウルトラマンとメフィラスの掛け合いに見えるため視聴者の笑いを誘っている。
- 2023年再びZ空調のコマーシャルに両名揃って出演。やり取りもさることながら、トレーニングルームに貼られているポスターには「MUSCLE MY FAVORITE WORD」の文字が…
- 2024年に放送されたバラエティ番組『メシドラ』に山本氏がゲスト出演。車内トークでメフィラスが話題となった際には「アレ以降どんな役をやっても胡散臭いと言われる」「僕が本当は宇宙人なんじゃないかと疑う人が増えた」「ネットで色んな人が台詞を真似てくれるのは嬉しい」と笑いながら語っており、上述のネタも少なからず山本氏へ届いているようだ。
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類似キャラクター
- メトロン星人(ウルトラセブン他):侵略目的でやって来たが、地球の自然や日本の文化を好んだり、馴染んだりした異星人繋がり。後のシリーズでも、(内容は違えど)地球の自然や日本の文化を好んでいる個体も登場している。また、初代の個体も、結局は生存したまま地球を去ったことになっている。
- キリエル人(ウルトラマンティガ):ウルトラマンが現れるよりも前から地球に潜伏し、人類に干渉しては「より良い方向に導く」と嘯いて支配しようとした怪人繋がり。人間態と怪人としての姿の二つを持つ点もメフィラスと共通し、自身の手に負えない脅威の出現と共に尻尾を巻いて逃げ出す点までそっくりである。ただし、表面上は低姿勢だったメフィラスに対し、こちらは最初から傲慢かつ上から目線な態度を隠そうともしていない。