概要
技術としての特殊撮影は時代劇を含む多くの分野で広く活用されており、特に幽霊・妖怪や忍術を表現する上では欠かせない要素といえる。
が、ここでいう『特撮時代劇』とは、『独立したジャンルとしての特撮作品』と時代劇のハイブリッドを指す。
二つのジャンルの親和性
日本におけるヒーロー番組の元祖である月光仮面は、企画当初は鞍馬天狗を意識した時代劇として提案され、予算の都合から現代劇に仕立てたという経緯がある。
以降のヒーロー番組にも時代劇の分野で培われた作劇・演出のノウハウが多々取り入れられており(特に東映系に顕著)、親和性の高さはむしろ必然といえる。
特撮において重要な着ぐるみも、元々はゴジラをキングコングのようなストップモーションでやりたかったが技術や時間もないため、忍者ものの演劇に登場するようなガマガエルの作り物をアレンジする形で考案されたのがはじまりである。
特撮時代劇の例
- 劇場映画大魔神シリーズ(1966年)
- 仮面の忍者赤影(1967年)
- 妖術武芸帳(1969年)
- 快傑ライオン丸(1972年)
- 変身忍者嵐(1972年)
- 新諸国物語 笛吹童子(1972年)
- 魔人ハンターミツルギ(1973年)
- 白獅子仮面(1973年)
- 風雲ライオン丸(1973年)
- 隠密剣士(1973年)※第3作目
- 劇場映画里見八犬伝(1983年)
- 参上!天空剣士(1990年)
- 劇場映画さくや妖怪伝(2000年)
- 陰陽師☆安倍晴明〜王都妖奇譚〜(2002年)
- 怪談百物語(2002年)
- 超忍者隊イナズマ!(2006年)
- メタル侍(2009年)
受け継ぐもの
TV番組としては1970年代前半の短い時期に集中しているので、日本のTV史における限定的な流行と見ることもでき、またいわゆる『変身ブーム』のなかの一形態として扱う向きもある。
一方、舞台を現代や未来に設定したり、年代設定を(意図的に)曖昧にしているものは『時代劇』の定義からは外れるものの、武士の魂や忍びの術を受け継ぐもの、神仏から神通力を授かったもの、あるいは鬼や妖怪変化、これらを中心に据えたいわゆる和モチーフの特撮作品は現在に到るまで断続的に作成されている。
- 忍者ハットリくん(1966年)
- 忍者ハットリくん + 忍者怪獣ジッポウ(1967年)
- 河童の三平妖怪大作戦(1968年)
- 行け!牛若小太郎(1974年)
- 宇宙からのメッセージ銀河大戦(1978年)
- 世界忍者戦ジライヤ(1988年)
- 有言実行三姉妹シュシュトリアン(1993年)
- 忍者戦隊カクレンジャー(1994年)
- 忍風戦隊ハリケンジャー(2002年)
- 幻星神ジャスティライザー(2004年)
- 仮面ライダー響鬼(2005年)
- 劇場映画妖怪大戦争(2005年)
- 劇場映画妖怪奇談(2007年)
- 仮面ライダー電王(2007年)
- 侍戦隊シンケンジャー(2009年)
- 仮面ライダー鎧武(2013年)
- 手裏剣戦隊ニンニンジャー(2015年)
また2011年の劇場映画『将軍と21のコアメダル』では旬のヒーロー番組と長寿時代劇のクロスオーバーが実現しており、特撮時代劇の系譜は途絶えることなく継承されているといえよう。
特撮時代劇の傍流
物語の舞台が海外である(大規模なロケを敢行している)ためいわゆる時代劇の範疇からは外れるが、時代物ではある。
特撮は円谷プロ出身のスタッフが担当しており、ウルトラマン80(1980年)へと続く特撮史上重要な作品とされる。
- 水滸伝(1973年)
上述と同様。本作では中国のロケができなかったが、ドラマを制作した国際放映が本作のノウハウを生かして西遊記を作ることになる。
舞台は架空の世界(ドラゴンクエストのパロディが中心)だが、衣装や住居等に和風テイストが多く含まれる。
また通常のファンタジー作品で『神様』に相当する役どころを『仏様』が担っている。
元々他作品のパロディが目立つ作品ではあるが、戦闘シーンでは(バズーカや自動車が出てくることもあるが)基本的に刀による殺陣が中心になっている(原作、アニメ版も同様)。
- タイムスリップ
特撮作品におけるパターンの一つ。行き先が時代劇の世界となる事例は少ない。上述の『将軍と21のコアメダル』も含まれる。
江戸時代以前の人物が逆に現代に来る場合もある。
- ウルトラマンA第46話では奈良時代にタイムスリップ。
- キカイダー01第36話では平賀源内の時代を舞台に戦う。
- 宇宙刑事シャリバンの第31話で、主人公が敵の作戦でタイムスリップで送られた時代の一つが織田信長の延暦寺焼き討ちの頃。
- おもいっきり探偵団覇悪怒組第25話では時代は不明だが覇悪怒組メンバーがタイムスリップして妖怪と戦うことになる。
- 有言実行三姉妹シュシュトリアン第6話は平安時代で光源氏と戦うことになる。
- タイムレンジャーのロボは毎回時空を超えて登場するが、江戸時代の情景も挿入される。
- 獣拳戦隊ゲキレンジャー第33話では江戸時代にタイムスリップして忠臣蔵とコラボ。東映時代劇の重鎮・福本清三氏もゲスト出演。
- 日本の作品ではないが映画「ミュータントタートルズ3」はタートルズが戦国時代の侍と入れ違いになってタイムスリップする。
- 昔の日本に似た世界
タイムスリップとは異なり、住人や建造物が時代劇を思わせる場所を舞台にする。
- 『ウルトラマン80』第26話で主人公たちが迷い込んだ黄泉の国も、日本の戦国時代に似た世界となっている。
- 『大戦隊ゴーグルファイブ』第9話は江戸時代さながらの隠れ里を敵がアジトにしていた。
- 『炎神戦隊ゴーオンジャー』のパラレルワールドの中には戦国時代に似た異世界があり、劇場版で舞台になった他、何度か物語に関わっている。
- ご先祖や前任者
登場人物の因縁として侍や忍者等が登場するというケース。上述の「受け継ぐもの」はもとより、東映版スパイダーマンや超電子バイオマンは先祖の因果が現代に影響を与え、百獣戦隊ガオレンジャーは先代のガオレンジャーとガオシルバーは陰陽師として活動していたことが明言されている。
- 七変化回
登場人物が侍や忍者、町人(場合によっては幽霊にも)に扮する話。話の舞台が時代劇のセットそのもの(メタフィクションではなくタイアップ)の中で進むことが多い。なお、七変化が時代劇のみとは限らず、西部劇や香港のカンフー映画、スポーツ選手等にも扮したりもする。
- モチーフとするキャラ
ヒーロー側だけでなく、敵が侍や忍者、妖怪をモチーフにするキャラだったりすると、時代劇調の演出がなされることが多い。ただし武者仮面やヨロイスネークのように和風モチーフでも登場回の時代劇要素は皆無の敵もいる。