ジョーカー(バットマン)
じょーかー
「We live in a society.」
ゴッサム・シティを中心に活動する凶悪犯罪者。DCコミック、ひいてはアメコミ史上で最も有名な愉快犯。
口の両端が極端に吊り上った引きつった様な笑みの白塗りの顔に、紫と緑色を基調としたスーツで身を包んだ、趣味の悪いピエロのような風貌をしている。
外見通りにその内面も、「犯罪界の道化王子」という異名の通り、奇人変人揃いの『バットマン』の悪役の中でもトップクラスに常軌を逸している。
平凡でつまらない世界に、自らのジョーク(=犯罪)を利かせることを信条とするトリックスターである。彼にとっては、起こす犯罪は殺人を含め全てジョークである。一般人にとってみれば趣味の悪いジョークをたびたび口にし、理解不能で理に適わない行動が多く、混沌の象徴などとも言われる。彼の恐ろしさは「何を考えているか、何をしでかすか、さっぱり予測できないこと」にある。
何度も捕らえられているが、完全に狂っているため、アーカム・アサイラム送りになるのが精々で、そのたびに脱走している。
そのデザインとキャラクター性はバットマンの完全なるアンチテーゼそのもの(バットマンの「黒一色の衣装」「黒いマスクと口を真一文字に結んだ仏頂面」「厳格なまでの正義と秩序への執着」に対し、ジョーカーは「派手で洒落た服装」「真っ白な顔面と極端に引きつった笑顔」「秩序の破壊と正義や道徳への懐疑・嘲笑」)であり、これまで創造されたアメコミ・ヴィランの中でも最も偉大で完璧なライバルキャラクターとされている。
いわばバットマンとジョーカーは宿敵同士であると同時に表裏一体の分身同士でもあるとも言え、『バットマン』シリーズ作品の中ではこの部分をテーマに据えたものもある。
初登場したのは1940年で、ビル・フィンガー、ボブ・ケイン、ジェリー・ロビンソンによって創造された。当初は一エピソード限りで死んで退場する予定だったという。つまり、最初は北斗の拳で言うアミバ以下の雑魚敵に過ぎなかった。
登場時から歪んだユーモアセンスを持つサイコな異常犯であったが、1950~60年代にかけてコミックス倫理規定委員会によるコミックコードで規制が厳しくなったことで『バットマン』も明るい作風へと変化したため、ジョーカーもそれに合わせて一時マヌケで憎めないお茶目な愉快犯にされ、1964年頃になるとパッタリ出番が無くなってしまっていた。
その後、1970年代に『バットマン』がダークでシリアスな作風に戻ると、ジョーカーも再び狂気と混沌を象徴する残忍な天才凶悪犯罪者へと戻っていき、やがてバットマン最大最凶の宿敵の座に君臨することなる。
現在ではあまりにもキャラが立ちまくってることもあり、クロスオーバー作品等では「ただの人間の一個人犯罪者」でありながらも他のスーパーヒーロー達からも危険視されるなど、数いるヴィラン達の中でも別格的な扱いを受けることが多い。
2011年より始まった原作コミックの新しい世界設定のシリーズ『The New 52!』ではディティクティブコミック#1で一回登場した限りで、顔面の皮だけ残して長いこと消息不明(作中時間で約1年)だったものの、2013年のコミック『Death of the Family』(邦訳版タイトル『喪われた絆』)にて満を持して再登場。しかも警察に保管されていた自分の顔の皮を盗み出し、一度剥いだ顔の皮を改めて自分の顔に貼り付けて針金等で繋ぎ止めるという正しく異形の姿となり、よりパワーアップした狂気と共に復活した。
ヴィランとヒーローの立ち位置が入れ替わった世界(バッドマンやスーパーマン達が悪人)の世界に於いてすらも、オウルマン(ヴィランのバッドマン)の作り上げた悪の帝国に蔓延る悪人をヒーローとはお世辞にも呼べない悪辣な手法を取って抹殺しており、当然正義感だのなんだのといった「つまらない」動機ではなく「悪の掟による秩序」に混沌をもたらすための行動であり、「壊してるのが悪の秩序だから善行扱いなだけ」の根っからのデストロイヤーである。(日頃ボコってるのが悪人だからヒーロー扱いなだけのバッドマンポジションと好対照である)
狂気に満ちた人間性の一方で、知性そのものは冴え渡っており、残酷な策略でバットマンや市民を陥れ、時に能力的には格上のメタヒューマンをも手玉に取る事すらある。
薬学や化学を始めとする様々な工学知識にも精通しており、「ジョーカー・ヴェノム」のような悪趣味な効能を発揮する毒物を生成して利用することもある。
また、彼自身の精神そのものが凶器もとい狂気そのものなのでサイコメトラー系の能力者がうっかり彼の脳内を覗き込もうものなら、手痛いしっぺ返しを食らうこともある。
更に特技として、巧みな話術や残酷な罠を駆使して他人に狂気を伝染させる展開もよく見られ、ハーレイ・クインを感化してヴィランにしたり、スーパーマンを悪に堕としたこともある。並の人間では言葉一つで簡単に操られてしまうため、彼の言葉に本気で耳を傾けるのは極めて危険。
科学的手段を使うこともあり、彼の血を輸血された人間がジョーカー化したり、特殊な手段によってバットマンと融合したことも。
犯罪者だけでなく、社会の現状に不満を持つ一般市民(特にゴッサム・シティの強烈な経済格差に苦しむ貧困層の若者達)の中には、既存の社会秩序や道徳を否定し破壊するジョーカーの在り方とその危険なカリスマ性に惹かれ、自らシンパとなって彼を崇拝する者達も相当数存在する。
人は誰でもジョーカーになりうる…それはスーパーヒーローでも例外ではないのだ。
しかし、面白くない犯罪やセンスのない犯罪を忌避しているため、たとえ計画が上手くいっていても飽きたり、バットマンが来れなかったりして上手くいきすぎて面白くないと思った時には途中であっさり放棄することもしばしば。回りくどい手法をとってバットマンに負けることも少なくない。他のヴィランとアイディアが被ることも嫌う。また、犯罪そのものが目的であるため、山の様な大金をせしめてもそれ自体にはなんら価値を見出しておらず、邪魔だからと焼却処分したこともある。
そんな優れた(?)策略家である一方、本人のスペックはスーパーパワーの類を持たない凡人そのものである。そのため同業者やヒーローと比較した場合の単純な戦闘能力はかなり低く、バットマンとタイマンを張って勝てたことはほとんどない。作品によっては身体能力の低さが災いして、利用するために近づいた相手に返り討ちにされたことも。怒りによって正面切ってのマジバトルでバットマンを圧倒したことはあったが…。
戦闘方法もまたどこかピエロのようなふざけたもので、左胸に付けたコサージュから、毒薬、酸、笑気ガス(所謂「筋弛緩薬」ではなく「食らうと強制的に笑い顔になった上で死ぬ」猛毒)を噴出したり、手に仕込んだ高圧電気スイッチで握手した相手を感電死させたり、毒針で相手をチクッと殺害したり、ピストルから旗が出る玩具(ただし旗が飛び出るスピードは容易に人体を貫通する程)で撃ち(刺し)殺したり、手品やジョークグッズを悪趣味に改造したような手法を好んで用いる。
トランプのジョーカーを自分のトレードマークとして犯行現場に残すこともある、その時の気分による。
宿敵であるバットマンに対する偏愛ぶりを随所に見せ、毎度毎度、体を張ったジョーク…というかラブコールを送っては返り討ちに遭っている。
何故ならばジョークはそれを見てリアクションをくれる「観客」や「ツッコミ」がいなければ成立せず、ただの独り言になってしまう以上、ジョーカーにとって自分のジョーク(犯罪)に必ず駆けつけて付き合ってくれるバットマンはまさに最高の観客であり、最高のツッコミ役であり、最高の遊び相手(おもちゃ)だからである。
また、元々ジョーカーというキャラクターが作られたのには、『バットマン』というコンテンツを長続きさせるための永続的な宿敵が必要だったという背景がある。言ってしまえば、ジョーカーが存在できるのは『バットマン』という作品が存在するからであり、バットマンがヒーロー(善)でいられるのはジョーカーというヴィラン(悪)が存在するからでもある。
「なぜジョーカーは現れるのか?」と問われれば、その答えは「バットマンがいるからだ」と言っても過言ではなく、『ダークナイト』や『レゴ バットマン・ザ・ムービー』等のように、『バットマン』シリーズそのものが持つこのメタ的な構造に踏み込んでジョーカーとバットマンの関係性を描いた作品も少なくない。
さらにコウモリのコスプレを纏って街の犯罪者と戦い、それでいて相手を殺さないどころか、時にジョーカーにすら助けの手を差し伸べようとするバットマンのことを自分と同じ狂人(ジョーカー曰く「夜中にコウモリのコスプレして彷徨く正義の味方とかなんかのジョークだろ?イカれてる」)として捉えて面白がっており、これまたバットマンに対する執着を深める要因となっている。
それゆえにバットマンが自分以外の誰かに殺されたり倒されたりすることは特に我慢ならない模様で、時にバットマンをピンチから救うこともあった。バットマンからもその点はよーく理解されているようで、そこを突かれて手玉に取られたことがあり、当人もそれを分かってるが改める気はなく、またジョーカーもバットマンをよく分かっているため、どうすればイラつくかよーく分かった上で揶揄う(ただし揶揄い方は「大切な人を殺したり悪に堕としたり」という悪辣な形でだが)。
また、フランク・ミラー作の傑作コミック『バットマン:ダークナイト・リターンズ』序盤でバットマンが引退していた時には、何をやってもバットマンに構ってもらえなくなったため、ジョーカー自身も犯罪にやり甲斐を喪ってしまい、そのままアーカムアサイラムに大人しく引きこもって引退状態に陥ってしまっていたほど。
無論、あちらの復帰を知った瞬間に元気とやり甲斐を取り戻し、見事に立ち直ったが。(曰く「信じてたぜハニー」)
『The New52!』シリーズのコミック『Death of the Family』ではバットマンへの執着についてより深く掘り下げられており、ジョーカーの持つバットマンへの感情はズバリ「愛」そのものであることが示唆されている。その事がバットマンの最強最悪の宿敵との戦いで、彼を助けることにも繋がっている
一方、バットマンの関係者に対してはバットマンへの挑発も兼ねて様々な凶行を働いている。
『キリング・ジョーク』では初代バットガールのバーバラ・ゴードンを半身不随にし、『デス・イン・ザ・ファミリー』では二代目ロビンであるジェイソン・トッドを彼の母親をおとりにする事で爆殺、『ノーマンズ・ランド』ではゴードン本部長の妻サラを殺害している。そのため、バットマンの方も彼に対しては他の悪党の時以上に容赦しておらず、時には意趣返しとばかりにジョーカーのプライドを傷つけたり、存在意義を否定するような手段を使うことさえある。
バットマンはスーパーマンやスパイダーマンのような純度100%の正義ではなく、蔓延る悪をそれ以上の悪を以て制すことが真骨頂であり、それによってスーパーパワーをもつ他のヒーローやヴィランと渡り合っている(他のヒーローと敵対する可能性を考え、それぞれの弱点を用意していつでも撃破拘束できる様にしている)。
しかし、前述したようにジョーカーの犯罪の根底にあるのは悪意ではなく狂気、すなわちバットマンの毒を以て毒を制する理の外にいる存在であることが、ジョーカーが他のヴィランと一線を画す何よりの理由であり、バットマンの宿敵として長年君臨し作品の内外問わず高い人気を誇る最大の要因である。
「奴の本名は知っているが、そんな情報には何の意味もないんだ……最初から」
『バットマン:スリー・ジョーカーズ』より
その出自も本名も不明。幾度かコミック誌上で語られたことはあるのだが、ジョーカー自身の記憶が既に錯綜して真実は不明というのが公式設定である。ただし、ある犯罪者がバットマンとの戦いの末に化学薬品を顔に被ったせいで、狂気とそれにみちた笑顔を携えたジョーカーに生まれ変わった、というあらすじは殆ど共通している(これもジョーカーがバットマンに拘る理由の一つにされることがある)。
1951年2月のDetective Comics #168では、元は「レッド・フード(Red Hood)」という赤い仮面にタキシードの悪党であったが、バットマンから逃げる途中化学薬品の溶液に落ちた。その結果真っ白な皮膚、緑の髪の毛、裂けて常に笑みを湛えた口となり、発狂したとされている。
『ラバーズ・アンド・マッドメン』では犯罪者としての過去が語られる。悪事の全てが何もかも上手くいってしまい生きる気力を失いかけていたジャックという男が、バットマンに計画を1つ阻止されたことで彼に執着し始める。そしてとうとうブルース・ウェインの恋人を殺しかけたところ、バットマンの投擲用具で顔に歪んだ笑顔のような傷を負ってしまい、化学薬品工場に逃げ込む。銃撃を避けて飛び込んだ大おけに薬品が流れ込み、やはりピエロのような姿と化して、ジャックはジョーカーとなる。
アラン・ムーア原作の『キリング・ジョーク』では、悲しい事情から犯罪に手を染めた過去が描かれている。
化学薬品工場の技術者を辞めてコメディアンとなったが失敗した彼は、身重の妻を抱え、生活費を稼ぐため、元の職場への強盗に参加する。しかし、決行直前に妻が事故死してしまう。
後戻りできない彼は、失意の中、赤いフードを被せられ、怪人レッド・フードとして道案内を務めさせられるが、バットマンが現れ強盗は失敗。逃走の末に化学薬品の溶液の中に飛び込んだ結果、真っ白な皮膚、緑の髪の毛、裂けて常に笑みを湛えた口という外見と化す。
そして、自らを襲った出来事の重みに耐えられなかった彼は、精神の非常口――世界全てをジョークとして捉える狂気へと逃げ込み、ジョーカーとなった。
この作品では、同じように悲劇に見舞われながらもなお正気を保つバットマンやゴードン市警本部長に対して、明確に羨望の念を持っているのがわかる。
やっている事はいつも通りなのに、この作品のジョーカーはどこまでも悲哀を漂わせている。
『Pushback』では妻が誘拐され、犯罪に加担させられた上に妻を殺されている。
後述するバートン版実写映画でもジョーカーの誕生が描かれているが、だいたいここに挙げられたものと同じである。ただし、ブルース・ウェインの両親を殺した犯罪者その人であったことが後に判明。ジョーカーを誕生させたのはバットマンだが、そのバットマンを誕生させたのはかつてのジョーカー自身だったという捻りの効いた構図となっている。
ある人物によって改変されてしまった世界を描く『フラッシュポイント』では、とある重要人物が死亡した事により正気を失った彼の親がジョーカーへと変貌する。
新しい世界設定のシリーズ『The New52!』においては、一時的に全知の力を得たバットマンがジョーカーの本名を調べた所、その結果は「ジョーカーは過去に3人居た(ので、どのジョーカーの事なのかを特定しないと回答不能)」だった。つまり、「DCコミックの世界において、歴史改変・現実改変が起きても、また、パラレルワールドや分岐した時間軸でも『ジョーカー』は存在し続けるが、ジョーカーの正体や過去は同じとは限らない」可能性も有り得る。
そして……何と、『The New52!』のアース0(いわば基本世界/正史世界)のジョーカーは「自分より完璧なジョーカー」に成れる可能性を持つ者達を次々と自分をジョーカーに変えた廃液に漬けており、犠牲者の大半が死亡するも、成功例が2名存在していた。
つまり、「ジョーカーは3人居る」は「DCコミックでこれまで存在した3つの世界設定において、それぞれのジョーカーは別人だった可能性が有る」と「『ジョーカーは3人居た』という答を得たバットマンの世界には、本当に3人のジョーカーが居た」の両方の意味が有ったのである。
ある意味で「良心の欠如・狂気・知能を除いては単なる人間」の筈なのに、後になるほど、クリエイター・ファンの両方によって神格化されてしまったキャラクターとも言える。
近年公開された実写劇場版では全て世界観は異なるストーリーとして描かれている。演じたのはいずれも名優ぞろいであり、尋常ではない狂気とカリスマ性を発揮していて、そのキャラ柄から俳優の「怪演」振りが否応無く光る作品となっている。
むしろ今ではそのキャラ柄と演じた俳優勢の大成も相まって『俳優としてジョーカーに配役される事は至高のチャレンジにしてチャンス、そして最高の栄誉』 とすらみなされているフシも有る。
『バットマン』
「『ジャック』は死んだよ。今の俺は…『ジョーカー』だ。見ての通り、もっとハッピーになった!」
「月夜に悪魔と踊ったことはあるか?」
吹替:デーモン閣下(ソフト版)/大平透(TBS版)/内海賢二・一部玄田哲章(WOWOW版)
1989年に公開されたティム・バートン版では、コミックにかなり忠実なオリジンと、バットマン=ブルース・ウェインとの過去の因縁、そしてバットマンとジョーカーの異なる狂気を抱えた者同士による壮絶な戦いが描かれた。本名と出自も本作独自とはいえ公式に設定されている。※
本作では、ブルース・ウェインの両親を殺した者こそ後にジョーカーとなる人物であり、バットマンとなったブルース・ウェインが(相手が両親の仇と知らずに)ジョーカーが生まれる切っ掛けを作ってしまう、という、主人公とその宿敵が「互いが互いを生み出してしまう」鏡合せの関係となっている。
※本名は「ジャック・ネイピア」。人種はプエルトリカンで、15歳の時に最初の殺人を犯したという記録が残っている。
演じたのはジャック・ニコルソンで、制作費の半分をギャラとして貰うという前代未聞の出演条件を提示してきた(ちなみにこのエピソードは下記の『ダークナイト』内のシーンで盛大にパロられている)ものの、それが妥当に思えてしまう程文句の付け所の無い熱演を披露。当初その横暴な態度に反感を抱いていたオールドファン達をも「ちょっとふとましい点以外は完全にジョーカー」と言わしめ認めさせてしまった辺りは流石名優であろう。 一説によると『相場を提示したら同作が低予算だったので、結果的に予算の半分を持っていってしまった』、とも。
『ダークナイト』
「その しかめっ面はなんだ?」
「お前が、俺を完璧なものにするんだ」
演:ヒース・レジャー
2008年に公開された『ダークナイト』では、人々の良心や善意に疑問を抱き、極限状態に彼らを放り込むことでその欺瞞を暴くことを信条とした、これまでとは一味違う哲学的な狂人として登場。
先に記したコミック・アニメ版においての『バットマンが居てこその自分』という狂気の執着振りも上記の台詞等で前面に押し出されている。また、ニコルソン版ジョーカーに対してはあのギャラ絡みのパロ以外にも、『大通りの真ん中に仁王立ちしてバットマンを銃1丁で迎え撃ち』等、リスペクト兼オマージュと取れる演出も見せた。
身分証明になる物を何も持っておらず、身元に関する情報がゴッサムシティのデータベースに一切ない、完全に正体不明の男。口元には傷があり、劇中で二度その由来を語るが、それぞれ内容が違っていて、どちらが本当なのか(あるいはどちらも嘘なのか)は不明。白い顔はメイクという設定で、メイクなしの素顔で登場するシーンもある。
ジョーカー役を勤めた俳優ヒース・レジャーが鬼気迫る壮絶な演技や数々の素晴らしいアドリブを見せたことで大きな話題となった。残念ながら、収録後ほどなくしてヒースは急逝してしまったが、死後アカデミー助演男優賞を受賞している。睡眠薬のオーバードーズという怪しい死因も相まって、ジョーカー役に入り込みすぎた末に本当に発狂したとまことしやかに語られている。
日本国内では原作コミックより映画版のイメージの方が強いためか、pixivに投稿されている作品の多くがこのヒース版ジョーカーのものとなっている。
ヒースが急逝したため当然ではあるが、続編『ダークナイト・ライジング』でジョーカーは(『ダークナイト』ラストにて捕縛)アーカムアサイラムに収監されたまま存命である筈であるが、そのアサイラムがベインの策略によって解放、収監者達が軒並み野に放たれても姿を見せる事は無かった(スケアクロウは地味にシリーズ全作皆勤してるというのに)。
もっとも今作においてのバットマンは、アサイラム解放時には『ベインに敗北して行方不明』、舞い戻って来てからのクライマックス後は『ゴッサムを核爆発から護って生死不明』とほとんど姿を消している状態であった為、上述の彼への偏愛振りと併せると、『「シャバには出れてもヤツが居ない内は意味も無いしやる気も出ない」とバットマンの帰還を期待しながらどこかに潜んでおく事にしていた』という辻褄の合う考え方も出来る。
『スーサイド・スクワッド』
「ペチャクチャと… 黙らないとケガするぞ?」
「俺のオモチャをくわえるか?」
演:ジャレッド・レト
吹替:子安武人
2016年公開のDCEU作品『スーサイド・スクワッド』ではアカデミー賞俳優のジャレッド・レトが演じる。
劇中ではハーレイ・クインとのコンビで強盗や殺人を繰り返し、「ゴッサムのキングとクイーン」と恐れられていた。本作がほとんどハーレイを主役にした作品になっている都合上、『The New52!』版ジョーカーの意匠を取り入れつつ、歴代ジョーカーに比べセクシーでスタイリッシュな、「ハーレイにとって理想の王子様」という一面が強調されている。
DCEUにおけるジョーカーは、アーカム・アサイラムから連れ去られたハーレイを取り戻すため命がけで立ち塞がるなど、やたらとハーレイに対する執着が強く、曰く「キングはクイーンに対する侮辱を許さない」とのこと。
このあたりは古参ファンからしたら戸惑う要素であり、かなり賛否両論を呼んだが、日本ではライトな女性層から支持される一因にもなった模様。
レト自身はかなり役作りに励んでおり、サイコパスについて話し合い、ウィル・スミスには銃弾と怪しい手紙を、マーゴット・ロビーには生きたネズミとラブレターを、他の出演者には豚の死体や使用済みコンドームなどを同封したビデオレターをプレゼントするほどで、現場ではずっとジョーカーを演じており、ウィル・スミスも「本物のレトを見たことが無い。」と言うほどだった。ただしレト曰く「ジョーカーの出番はかなりカットされた」らしく、その中にはハーレイに対するDVシーンもあったとのこと。単なる相思相愛と言うよりは、ジョーカー自身の手で好みに作り替えられたというべきか。それ以前に、その時の気分によって言動が180度変わるのがジョーカーの個性であるため、映画の時点では「たまたま相思相愛でいたい気分」なだけだった可能性もある。
ジョーカーという扱いの難しいキャラクターを、半ば神格化されたジャック、ヒース、ホアキンといった名優たちと比較されながら演じるという苦しい立場であり、その上
- 制作側のゴタゴタに起因して、本作、ひいてはDCEU映画そのものへの評価があまり高くない
- 前述した「DVシーン」も含めて出演シーンがことごとくカットされ、印象に残る活躍に乏しい
- DCEUがどうにも迷走中(参照)で、バットマンとなかなか対決できない
- 現状唯一の出演作品である本作が、2作目にしてリブート(仕切り直し)が決定
- 直接の続編であるハーレイの単独映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』が、「ジョーカーと破局したハーレイがスーパーヴィランとして覚醒する」というストーリーで、ユニバースから切り捨てられることが示唆されている(結局本編でも出番がなかった)
と、割と散々な目に遭っており、歴代ジョーカーの中でも不遇。『Joker』のパンフレットで「正直ちょっと可哀想な人」と名指しでディスられる始末である。
『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』
「あっちの世界にこっちの世界」
「どんだけぶっ壊せば気が済むんだ?」
演:ジャレッド・レト
吹替:子安武人
しかし、ジャスティス・リーグのスナイダーカット版でレト版ジョーカーが再登場。
スタイリッシュな『スーサイド・スクワッド』のビジュアルからは一転し、長髪でボロ着を身にまとっている。
前述通り不憫という印象が強かったレト版ジョーカーだが、今作の狂気に満ちたキャラクターと演技で再評価を得た。
物事をシリアスに捉えすぎることや、シリアスに捉えすぎた人をからかうために使われるフレーズとしてネットミーム化していた「We live in a society.」というセリフを口にした事からも話題となった。
『Joker』
「人生は悲劇だと思ってた。でも今わかった。僕の人生は喜劇だ。」
「僕を『ジョーカー』と紹介してくれますか?」
吹替:平田広明
DCEUシリーズとは別系統の世界観となる、2019年公開の初のジョーカー単独作品。ゴールデングローブ賞俳優の個性派ホアキン・フェニックスが演じる。
有名コメディアンになることを夢見つつ、老いた母を介護しながら暮らす貧しい大道芸人のアーサー・フレックが、度重なる不幸と絶望の中で偶然に鼻持ちならない権力者を打倒するヴィジランテとして祭り上げられ、やがて巨大な悪のカリスマ『ジョーカー』へと変貌していくという、バットマンより先にジョーカーが生まれる珍しいパターンとなっている。
「絶望に塗れた人生の中での唯一の拠り所すら、実は欺瞞に満ちたタチの悪いジョークだとしたら?」と投げかけてくる物語や、主演のホアキンの痛ましく生々しい熱演が非常に高く評価され、第76回ヴェネツィア国際映画祭にて最優秀賞である金獅子賞をアメコミ映画史上初めて受賞するという快挙を成し遂げた。
さらにホアキンは第77回ゴールデングローブ賞で二度目の主演男優賞を、第92回アカデミー賞では主演男優賞を自身のキャリアとしては初受賞するなど、英米において9つの映画賞で主演男優賞を贈られた。
なお、主演のホアキンは、この作品のジョーカー像を『信用できない語り手』と指摘している。つまり…?
余談だが、当初はレオナルド・ディカプリオにオファーが来ていた。
『THE BATMAN』
「頂点に立ったかと思えば、ピエロになる」
「少なければ少ないほど価値があるものは?」
演:バリー・コーガン(クレジット表記は「見えざる囚人」)
吹替:内山昂輝(同「アーカムの囚人」)
最終盤、アーカムに投獄されたリドラーに話しかける隣の独房の囚人として登場。
劇中ではっきりジョーカーと明言されているわけではないが、思わせぶりな笑い方や趣味の悪いジョークを飛ばす面が共通している。
演じたのはアメコミ作品ではMCU『エターナルズ』のドルイグ役でも知られるバリー・コーガンで、吹き替えも同じ内山氏が担当している。(ちなみにドルイグはコミック版ではテレパシー系の精神支配・洗脳能力により他人を操って悪事を行なう完全なヴィランである)
マット・リーヴス監督曰く、「続編への伏線ではなく、『まだ街には巨悪が蔓延っている』事を示す描写、リドラーの物語を完結する為の役回りが必要だった」とのこと。バットマンとの会話シーンも撮影されたが、最終的にカットされた。
その未公開映像は後ほどプロモーションの一つであるリドラーのサイトで公開され、ジョーカーの外見の一部も明らかとなった。不釣り合いに所々生えた緑色の頭髪にしわくちゃに歪んだ顔、腫れぼった唇や黄ばんだ歯、傷だらけの手指などヒース版やフェニックス版と比較してより一層生理的嫌悪感を煽る外見となっている。
シーンとしては序盤の本部長死後にバットマンがジョーカーの助言を求めるという構図となっており、冗談めかしながらも的を射た分析をするジョーカー、彼の発言を黙って聞き入るバットマンなど、やはり一筋縄では行かない二人の関係性が見え隠れする映像であった。
アダム・ウェスト版バットマン
1960年代の実写TVドラマ『怪鳥人間バットマン』ではシーザー・ロメロが演じた。ロメロの他の仕事との兼ね合いから、金髪はそのまま、口髭は上からメイクで隠している。
ゴッサム・シティ・エンジェル
2002年から2003年にかけて放送された、女性ヒーローチーム“バーズ・オブ・プレイ”の活躍を描いたTVドラマ。
ジョーカーは投獄中で回想シーンのみの登場であり、彼の代わりにDr.ハーリーン・クインゼル(ハーレイ)が悪党のボスとなっている。
ロジャー・ストーンバーナーが演じた。
GOTHAM
演:キャメロン・モナハン
2014年から2019年にかけて放送された、バットマン登場から十数年前のゴッサム・シティを描いたTVドラマ『GOTHAM』では、後のジョーカーを思わせる少年ジェローム・ヴァレスカが登場する。
詳細はリンク先参照。
BATWOMAN/バットウーマン
名前のみの登場。
ピースメイカー
名前のみの登場。
バットマン・アニメイテッドシリーズ
CV:青野武。
92年に、アニメーター「ブルース・ティム」などが手掛けたアニメシリーズ。本作のジョーカーはティム・バートン版を下敷きにしているため、本名は同映画のジョーカー「ジャック・ネイピア」とされているが、詳細な人物設定は劇中では描かれていない。
詳細はジョーカー(バットマンアニメイテッド)を参照。
ゴッサム・ナイツ
バッドマンことブルース・ウェインが死去してしまった後の無法地帯と化したゴッサムシティが舞台のゲーム。
ゴッサムシティが舞台なのに当然登場"しない"、それどころか彼がチラつくヴィランすら居ない。バッドマンが現れなくなったからだろうか
レゴバットマン ザ・ムービー
CV:子安武人(スーサイド・スクワッドでも担当)/ザック・ガリフィアナキス(英語版)
2017年に公開されたアメリカのCGアニメ映画。
コメディ作品だが、ジョーカーの「バットマンにとって一番の敵でありたい」という執着心を物語上重要なエッセンスとして拾い上げており、マニアや古参ファンからの評価が高い。彼のキャッチコピーは『自意識ライジング』。
DCスーパーヒーローズVS鷹の爪団
CV:安田顕
2017年に公開されたアニメ映画。『秘密結社鷹の爪』の劇場版9作目。
悪役連合のボスとして登場し、ハーレイたちと共に日本のシェアハウスに潜伏し、日本で伝説になる映画の制作を目論んでいた。
とある「秘密兵器」を巡って鷹の爪団やジャスティスリーグと対立するが、蛙男商会のペースに呑み込まれて周囲が変人化し、普段やらないツッコミ役を押し付けられている。
また、ヒーローとしても人間としても最低なコイツについては「ただのクズ」と評している。
ニンジャバットマン
CV:高木渉
2018年公開のアニメ映画。
日本の戦国時代にタイムスリップし、自らを『第六天魔王』と名乗って尾張の国を支配しており、そこから2年後の世界に到達したバットマンと死闘を繰り広げる。
I, Joker
98年に発表された、ジョーカーが主役のエルスワールドのワンショットコミック(特別編の単行本)。
本作に登場するジョーカーは、バットマン本編のジョーカーとは異なる。
バットマンの活躍が伝説と化し、ブルースを名乗る新たなバットマンによるカルトが支配する近未来のゴッサムシティ。ここでは、支配権をかけて戦う儀式「ブラッドナイト」が行われていた。
儀式でバットマンと戦うのは、かつてのヴィランたち。彼らはレジスタンスや反逆者などが、外科手術により改造された者たちだった。
ジョーカーに改造されたジョーは、カルトに抵抗していた若者だが、記憶を消されていた。
やがてジョーは記憶を取り戻し、オリジナルのバットケイブを発見。かつてオリジナルのブルースが使用していたスーツをまとい、カルトの首領である今のバットマンに挑戦する。
正史のジョーカー本人ではないが、「ジョーカーがバットスーツを着る」というシチュが見られる一作。
スパイダーマン&バットマン
95年のマーベルとDCの公式クロスオーバー。
ジョーカーは脳内にチップを入れられ、従順にされるが、ジョーカーに犯罪者として憧れるカーネイジが助け出し、チップを破壊。スパイダーマンとバットマンに対抗する。
カーネイジはバットマン=ブルースの両親を、ジョーカーはスパイダーマン=ピーターの叔父ベンを、それぞれ射殺した強盗犯だったのか……と思わせるシチュがある。
ジョーカーはカーネイジに助けられるも、あまりにふざけるため相手を怒らせてしまう。しかし圧倒的な能力差があっても、ジョーカーは仕掛けや状況を利用してカーネイジを翻弄。手玉に取っていた。
最期にはスパイダーマンと対決し、捕らえられる。
バットマン/パニッシャー
95年のDCとマーベルの公式クロスオーバー。
ゴッサム・シティにやって来た犯罪者・ジグソーを追い、パニッシャーもやって来る。が、それにジョーカーも絡んでいた、という内容。
この時期のバットマン=ブルースは、背骨を折られており、アズラエル=ジャン・ポール・ヴァレーが代理になっていたが、後に復活。
ジョーカーは、ジグソーが起こした、ゴッサムでのギャング抗争の黒幕として登場。ジグソーと協力し、大物ギャングを次々に血祭りにあげていった。
パニッシャーと対峙し、短い時間ながら精神的に追い詰め、拳銃のマズルフラッシュで目つぶしも行った。しかし追い詰められ射殺されそうになるが、不殺を貫くバットマンに救われる。
バットマン/キャプテン・アメリカ
97年のDCとマーベルの公式クロスオーバー。
第二次世界大戦の最中、ゴッサムに派遣されたキャプテンアメリカが、バットマンとともに、レッドスカルとジョーカーを追う、という内容。
ジョーカーはレッドスカルに協力するが、そうとは知らずに原子爆弾をレッドスカル=ナチスに手渡す手助けをしてしまう。それを知った後、「俺はイカレた犯罪者だが、アメリカの犯罪者だ!」と、愛国心とともにレッドスカルに反抗した。
異世界スーサイド・スクワッド
声:梅原裕一郎
詳細はジョーカー(SSI)を参照。
・・・上記の作品以外にも、「フォートナイト」「荒野行動」を始めとする様々なゲームでスキンとして登場したり、「モータルコンバット」とのクロスオーバー「MKvsDC」や「MK11」のDLCとして格闘ゲームに外部出演したりとコラボにも引っ張りだこである。特に後者ではフレンドシップ…と見せかけてフェイタリティをぶちかます(「自作の木製看板にfriendshipとの風船文字を書いて出しておきながらサブマシンガンで蜂の巣にして看板に磔にし、割れた風船の下にはfatalityの文字…」、ちなみにそうでない方も「人体をぶち抜くほどの威力のマジックパンチで腹に穴を開けてねじまきプレゼントを穴にセット、中身が飛び出て頭を持ち上げ、生首連結」)など実に"らしい"一面も。
なお、逆に本当のfriendshipでは「fatalityしようとするも何処からともなく蝙蝠手裏剣が飛んできて頭にヒット、「ヘイ、バッツ!カモン!(んだよバットマン!文句あんなら来いや!)」とクレームを付けて首を竦める」という形式になっている。
ビジュアルモデル
1928年に公開したビクトル・ユーゴー原作の映画:「笑う男」の主人公:グウィンプレインと同役を演じたドイツ人俳優:コンラート・ファイトがビジュアルモデルとされている。
ジョーカーに共感する犯罪者達
人気のあるキャラクターである反面、そのリアリティから現実に模倣犯が現れる危険性はたびたび指摘されている。
2012年7月20日にはアメリカのコロラド州で開催された『ダークナイトライジング』のプレミア上映会で銃乱射事件が起き、犯人が前作『ダークナイト』に登場していたジョーカーを名乗ったと報道されたが、警察はその事実を否定している。
日本国内では2021年10月31日に京王線車内で発生した傷害事件の犯人はジョーカーの仮装をして犯行に及んだと報道されたが、犯人は仮装ではなく私服だったと主張した。
また、2022年7月8日に発生した安倍晋三銃撃事件の容疑者は社会から孤立していた自身の境遇をジョーカーに照らし合わせ、2019年10月に公開された『Joker』を鑑賞した直後に開設した自身のTwitterアカウント(凍結済)に「ジョーカーという真摯な絶望を汚す奴は許さない。」と投稿するなどジョーカーへの強い共感を寄せていた。
コメント
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