概要
作者は神楽坂淳
女性の社会進出がまだ一般的ではなかった大正時代末期にあって、野球を始めとして様々に努力を重ねる少女達の、明るい学園生活が描かれる青春小説。
作中では東邦星華高等女子学院(※元ネタは東洋英和女学院)が主な舞台となる。
アニメ版が「けいおん!」の後継番組だった影響で、「たいやき」と省略されることもある。
また、そのインパクトのある題名から「大正(義)野球娘。」と茶化されることも。
2007年~2010年にかけてトクマ・ノベルズedgeから計4巻まで発売され、各種メディアミックスされるなど話題になった。
この時期はアニメ『マリア様がみてる』によるブームがひと段落した時期でもあり、同作品等を契機に大量に出現したいわゆる百合ファンの新たな受け皿となった側面も大きい。
しかし、『大正野球娘。4』発売以降は続刊アナウンスが途絶えた。10年後の2020年に別出版社である小学館の小学館時代小説文庫からトクマ版の1~3巻分のみが新装発売されたが、これ以降は公式からも音沙汰がなくなっている。
(イラストもノベルス版は小池定路が担当だったが文庫版ではうさもち。に交代している。)
このため、5巻以降に繰り広げられるはずであったアーミナ女学校との決戦が宙に浮いてしまい、各伏線も回収されないまま現在にいたる。
メタなことを言うと、作者の神楽坂は現在は第9回日本歴史時代作家協会賞を受賞した『うちの旦那が甘ちゃんで』といった他作品に活動の主軸を移しており、現段階では執筆再開の可能性は薄いといえる。
メディアミックス等での業績も加味すると、同作はある意味で当時から衰退の兆しを見せていたノベルス市場の最後を飾った作品ともいえる。
新書版
全4巻
- 『大正野球娘。』 2007年4月19日発売
- 『大正野球娘。-土と埃にまみれます-』 2008年8月1日発売
- 『帝都たこ焼き娘。大正野球娘。3』 2009年6月18日発売
- 『大正野球娘。4』 2010年6月17日発売
文庫版
既刊3巻
- 『大正野球娘。1』 2020年7月7日発売
- 『大正野球娘。2 〜土と埃にまみれます〜』 2020年9月8日発売1
- 『大正野球娘。3 帝都たこ焼き娘。』 2020年11月6日発売
ストーリー
「一緒に野球をしていただきたいの!」
時は西暦1925年(大正14年)7月。東邦星華高等女子学院に通う鈴川小梅は、親友である小笠原晶子の突然の誘いで野球というものを始めることになった。きっかけは晶子の許婚である岩崎荘介が晶子に対して発した「女性に学歴など不要」「主婦として家庭に入るべき」という何気ない一言であり、それは当時の社会ではごく一般的な考え方でありながらも男尊女卑の意識に強く支配されたものであった。内心でこれに反発した晶子は態度を硬化させ、許婚が打ち込んでいる野球という競技を用いて彼の鼻を明かしてやり、旧態然とした認識を改めさせようと思い立ったわけである。
小梅もまた晶子の気持ちを知って共感し、その目標に賛同したのであった
・・・が、誘った晶子ともども野球のルールなどまるで知らなかった。加えて、野球を始めるにあたって必要な9人のメンバーを集めることも中々難しく、さらにスポンサー募集など、あの手この手で奔走することとなるのである。
そして、東奔西走の末に、東邦星華内のセレブサロンにしてボランティア団体「清風会」に対抗する形で女子野球チーム「桜花会」は結成される。
野球を通して、彼女たちは現代の百合の前身であるエス的な絆を深め、また男子中学生との交流から女性としての自分を見つめ、そしていつか訪れる自身らの「少女の時代」の終わりを感じながら日々を送るのであったーーーー。
登場人物・団体
CVが2人いる人物は左側がアニメ版およびそれ以降の関連作品、右側が2007年版ドラマCDの担当声優。
東邦星華高等女子学院 「桜花会」
日本の西欧化に寄与する、という名目の事実上の女子野球部。学校の所在地は東京の麻布で、キリスト教系の女学校。清廉としつつも閉鎖的な「清風会」に対して和気藹々とした雰囲気が特徴。メンバーは家庭環境に何かしらの問題を抱えていることが多い。
当初は「女子が野球なんてはしたない」と周囲から白眼視されたが、小梅の実家である洋食屋「すず川」常連の作家・偏奇館先生が賛同にまわったことで財閥総帥・小倉矢八郎(元ネタは大倉喜八郎)をはじめとする後援者を得ることになる。その結果、当時としては前代未聞の装備であるアルミニウム製のバットの試作導入にも成功する。
当座の目標であった朝香中学と浅黄中学の男子野球部との試合後はタテマエとしての日本の欧化推進のほうにも軸足が傾いたことで一時は女子野球部としての活動が停滞していたが、原作第3巻にてアーミナ女学院から試合申し込みされたことで、原作4巻にて再び野球部として活動再開している。
本作の主人公。洋食屋の一人娘にして、晶子の女房役。ポジションは捕手。
実家が自営業で、自身も家業を手伝っているためにお嬢様ばかりの学校生活では庶民ポジションという意識が強い。このため、庶民出身≒現代人であるユーザーに近い感性の持ち主として描かれる。
まだ恋愛感情もない状態で父親に許嫁を決められていることに内心微妙な心境だったりする。ただし、婚約者の三郎に対しては憎からず思っていたりする。
ユーザーからはこの人と比肩されることが多い。というのも、作中で老若男女問わず夢中にさせるいっそ清々しいまでの天然ジゴロぶりがまさにそれだから。
貿易商・小笠原家の令嬢で、小梅たちが野球を始めることになった発端。小梅の旦那役。ポジションは投手。愛称はお嬢。
当初は校内のセレブサロン『清風会』に勧誘されていたが、交遊をメンバー間に限るといった閉鎖的な雰囲気からこれを断り小梅らとの友情を選んだ。
実家の閨閥作りの一環でのお見合い相手から見下し発言をうけたことで「男の人を見返して差し上げましょう(大意)」と奮起し、お見合い相手の岩崎がしている野球で逆襲をしてやろうと親友である小梅を巻き込んで騒動を引き起こす。
名前の字面と男に不信を抱いている点から、ユーザーからはこの人と比肩されることが多い。
呉服屋の跡取り娘。小梅たちの組の級長で、野球においてもチームのまとめ役。ポジションは二塁手。
実は腹違いの兄がいる。実家の権力者である母親があくまで跡取りは実子の雪としていることで表向きその存在は無かったことになっている。ただし本人同士は普通に兄妹として仲が良い。
こんな環境で育ったためか、普段の委員長的なペルソナの裏に寂しがりで甘えたがりでどこか歪んだ内面を隠している。幼なじみの環に対して「それで物事が解決するならたまちゃんを買いたいわ(要約)」と口走ったことも。 ……このようにたまちゃんへのエス願望も見え隠れしている。本当にありがとうございました
伊藤マンガ版では完全な腹黒キャラになっている。
小説家志望の変わり者。表向きはつっけんどんだが、意外と可愛い一面が多いツンデレキャラ。孤高を貫こうとしていたが、途中で雪から「たまちゃん」呼ばわりされているのが周囲にばれた。ポジションは中堅手。
吉屋信子よりも平塚らいてうになりたいと考える意識高めのお年頃。でも百合小説は書いていて、それを仲間たちに見せている。作家の父と新聞記者の母親をもつ共働き家庭に育ったため、自炊を得意としている。「お雪」こと宗谷雪には頭が上がらない。
両親は離婚している。家庭面で壊滅的だった母親は実家へと帰り、父親は年末年始でも研究室に籠りきりなため、家ではねえや(=女中)と2人だけで生活している。
伊藤版のコミカライズではマッドサイエンティスト的なキャラ付けになっている。原作でも自身の発明品を野球練習のために提供しているが、それは読者視点では思わずニヤリとするようなパロディ臭に満ちたものばかり。
静の双子の姉。薙刀(アニメ版では剣術)での達人。実は小梅の隠れファン。ポジションは三塁手。
父親は名の知れた人形師で、この影響で姉妹そろって『人形師が産んだ生き人形』と言われてきた。男勝りな巴は男雛と評される。桜花会に参加したことで交遊に恋愛にと徐々に積極的になっていくが、今まで人形として生きてきた自分が人間らしくしていてよいのかとも考えている。
巴の双子の妹。控えめな性格でいつも巴の世話を焼いている。姉が小梅にご執心なので、彼女に隔意を抱く。ポジションは遊撃手。
『人形師が産んだ生き人形』の女雛役。今まで姉妹そろって周囲から人形扱いされてきたが、最近は姉のほうが交遊に恋愛にと生き生きしはじめてきたことから自身も徐々に心境に変化を感じはじめている。
しかし実は父親やその周辺までもが未だに2人を「人形扱い」している事実に変わりがなく、このことが原作4巻の悲劇に繋がっていく……
小梅たちの後輩で1つ下の13歳。先輩の巴の熱狂的なシンパで、巴のために野球を始める。原作では同期の胡蝶に関するエピソードが多いせいか、アニメ版ではミーハーキャラとして活躍する描写が多い。
原作では影が薄い分、アニメ版では巴のためチームのためと不器用ながら生き生きと動き回っている。
鏡子と同じく小梅たちの後輩で1つ下の13歳。芸者の娘であるため心の底に劣等感を抱えている。鏡子と同じく巴・静姉妹のシンパではあるが、じつは庶民の小梅の朗らかな人格に淡い憧れを抱いている。
原作ではサイドストーリーや内面の掘り下げ場面が多く優遇されている節があった。このためかアニメ版では元・陸上部所属に変更された以外は多くを鏡子に譲ることになった。
- アンナ・カートランド(CV:新井里美/たかはし智秋)
アメリカ人の英語教師。アグレッシブな性格で、桜花会顧問を買って出る。
日本文化を尊重しているものの、その言動は当時の文化経済先進国である母国の影響が強い。そのため、小梅とは別視点での自由の国出身≒現代人であるユーザーに近い感性の持ち主として描かれる。
ネットラジオ版では、ネタではあるが後々に『アメリカ女子野球代表チームの監督』として桜花会メンバーの前に立ちふさがる可能性が示唆されていたりする。
アニメのオリジナルキャラクター。
月映姉妹の親友の新聞部員。姉妹の誘い(実は巴に借金したため)に野球部に助っ人として協力する。最初は中堅手として練習や試合に参加するが、後に新聞部との両立が難しくなり前線離脱。この影響で陸上部でスランプに悩んでいた胡蝶が招集される流れになる。
以降は朝香中の試合のスコアを取るなど主に情報収集役としてのサポートに回る。
後に小説版やマンガ版にも逆輸入され登場する。
洋食屋「すず川」
麻布で評判の洋食屋であり、小梅の実家。店には偏奇館先生や北大路魯山人などの著名人も出入りしており、ひょんなことで小梅たちに助け舟を出すこともある。
小梅の両親が営む洋食屋で働いている青年であり、小梅の許婚。20歳。真面目で実直な性格。
小説版では終始落ち着いた雰囲気であったが、アニメ版では小梅が男子中学生との交流する様子にやきもきし、あまつさえ高原の小梅へのプロポーズ攻勢(※後述)を見聞きして勘違いしてしまい「小梅さん、お幸せに」と涙さえ流す場面があったことから一部視聴者からは真のヒロインと評されることになった。
- 鈴川洋一郎(CV:高岡瓶々)
「すず川」店主にして、小梅の父。厳格で頑固だが、妻を愛し娘思いでもある。三郎を気に入っていて小梅の許婚にしようとする。もっとも、お年頃の娘の微妙な心理やお転婆には内心で冷や冷やしている。
小梅の母。夫をサポートするため洋食屋の経理や近所づきあい等を切り盛りする。娘をして華族のようと評せられるほどの器量。忙しい中にも娘を温かく見守り、同時に女として、妻としての心意気を伝授する。
男子中学校のライバルたち
原作では朝香中学と浅黄中学の野球部員が登場する。補足すると、当時の中等・高等教育は男子校と女子校で完全に分かれており、さらに風紀面での時代的感覚から下手に両者間で交流があると途端に不良扱いされかねないような世相であった。そんな時代感を踏まえての両者の微妙な距離感も作中で描かれる。
小笠原晶子の許婚。朝香中学の野球部員で投手。
誠実な性格だが、見合いの席で晶子を前に見栄を切って「女性は家庭に入るべき」とぶち上げてしまったことで怒らせ、彼女たちが野球を始めるきっかけを作ってしまう。
結果として、桜花会の当座の目標が打倒・朝香中学となる原因となる。
女性は家庭うんぬんは、あくまで見栄と緊張から口走ったものであることが伊藤マンガ版等で明かされている。晶子のことは未来のパートナーとして尊重しようと思っており、野球の試合後に行き違いを正して関係修復している。
- 高原伴睦(CV:川田紳司)
浅黄中学(漫画では志葉中学)野球部員。岩崎とは幼馴染で好敵手。
ある時に小梅が偶然落としたハンカチを拾うが、当時の風習では『意中の男性の前で女性がハンカチを落とす➡男性が女性のハンカチを拾う』という行為は女性からの交際申し込みの所作であったので、小梅が告白してきたと勘違いしてしまう。後に誤解は解けるが、高原のほうがマジになってしまい小梅のストーカー状態になってしまう。
こいつが白昼に東邦星華の校門前に当時の高級外車ルノーDJ(参考)で乗り付けて赤い花束を抱えながら「すずかわこうめさーん、おつきあいしてくださーい!」と叫ぶシーンは作中屈指の迷(?)場面。 これのせいで危うく小梅の社会的生命と許嫁である三郎との信頼が崩壊しかけた。
- 柳一馬(CV:西健亮)
小説では浅黄中学(漫画(伊藤伸平版)では志葉中学)の、アニメでは朝香中学の野球部員。
相手を思いやれるナイスガイで、途中から月映巴といい雰囲気になる。
- 北見弘一(CV:相馬幸人)
朝香中学野球部員。守備位置は捕手。
体付きはがっしりしている。小説・漫画(伊藤伸平版)では、情報収集のためランデブー(=デート)を仕掛けてきた乃枝と何だかんだでいい雰囲気になる。アニメ版では周囲の奮闘や右往左往をそよにこの綺麗なドカベン(大変失敬!)を彼氏にした乃枝のチャッカリさに視聴者間で物議が醸された。
アーミナ女学院
東邦星華のライバル校。明治期に最初は大阪に展開する予定であった東邦星華を東京へ事実上押し出して自身がその地に居を構えて以来の因縁の関係。登場は小説第3巻以降より。よって他メディアミックスではマンガ『帝都たこ焼き娘。大正野球娘。番外編』以外ではまともに登場しない。アニメ版・伊藤マンガ版・ゲーム版には未登場で、ネットラジオ版で名前だけが少し仄めかされるのみ。
元ネタは大阪女学院(旧・ウヰルミナ女学校)と思われる。
原作執筆が放棄されているため、判明しているメンバーは以下の3名のみ。
乃枝とはほとんど双子と見まがうほど似通った容貌だが、こちらのほうが少々嫌味な性格をしている。アーミナ三人娘(仮称)の中では唯一標準語を話す。
桜花会の朝香中学戦後のある時期に桜と涼子を伴って上京し、屋台対決を経て桜花会へ野球の試合を申し込む。どうもアーミナ女学院の東京進出のための先鋒の役目を請け負っているようであり、野球試合に勝利することで東邦星華側にダメージを与えるのが目的な様子。さらに乃枝への歪んだ対抗心を隠そうともしない。
なにげに、桜花会が初めて対決する女子チームである。
一銭洋食屋(=お好み焼きやたこ焼きの祖先)の一人娘。テンプレートな大阪弁をしゃべる。
作中では、ひょんなことから桜花会と麻布地域の祭りを舞台にした屋台対決を行うことになる。野球でのポジションは投手で、いくつかの魔球(=変化球)を隠し持つ。
東京の(急速な富国強兵政策ゆえの)無味乾燥とした風俗には内心で辟易している一方で、主人公・小梅がもつ作中で永井荷風でさえ愛おしんだ節があるその庶民的な愛嬌を気に入っており、本人に「一緒にお風呂に入ろう」とセクハラ発言をし、さらに「連れて帰りたい」と考えるにいたる。このような妙な積極性から小梅からはエス疑惑が持たれている。
こんな感じなので、桜花会内で小梅にエス願望を持つ晶子や巴らからは警戒を強められている。対して、桜自身は投手としてのプライドもあり桜花会の主砲である巴へライバル意識を持つに至っている。
京都の呉服屋の娘。
京女のテンプレよろしく、その言動からは東京はもとより他地方の風俗・人種をナチュラルに見下ししている節が強い。桜いわく「少々意地が悪い」。しゃべる言葉はもちろん京都弁。
作中での活躍描写は少ないが、桜の言によると他メンバーとも「野球のとき以外では協調性というものがまるでない。いや野球のときだって協調性があるわけではない。」そのくせ「不思議と人望もある」と感想する、捉えどころのない性格をしている模様。
アニメ版
2009年7月から10月にかけて、原作1・2巻の内容を元にしたアニメ版全12話がTBS系にて放送された。
原作よりも野球のプレー描写が多めの内容になっている。また、偏奇館先生が登場しない代わりにその役回りが小倉矢八郎に変わっている、胡蝶が元・陸上部所属という設定になっているなどの大小の改変や、原作ではあまりされていなかった鏡子や三郎らの内面の掘り下げがされている。
主題歌
オープニングテーマ
「浪漫ちっくストライク。」
作詞 - rino、作曲 - 服部隆之、編曲 - 大久保薫
歌 - 鈴川小梅(伊藤かな恵)・小笠原晶子(中原麻衣)・川島乃枝(植田佳奈)・宗谷雪(能登麻美子)
エンディングテーマ
「ユメ・ミル・ココロ」
作詞 - 畑亜貴、作編曲 - 渡辺拓也
歌 - 伊藤かな恵
各話リスト
話数 | サブタイトル |
---|---|
第1話 | 男子がすなるという、あれ |
第2話 | 春の長日を恋ひ暮らし |
第3話 | 娘九つの場を占めては |
第4話 | これから |
第5話 | 花や蝶やと駆ける日々 |
第6話 | 球は広野を飛び回る |
第7話 | 麻布八景娘戯 |
第8話 | 麻布の星 |
第9話 | 誤解の多い料理店 |
第10話 | 私は何をする人ぞ |
第11話 | そゞろに胸の打ち騒ぐ |
第12話 | 土と埃にまみれます |
また、アニメ声優によるインターネットラジオ『大正野球娘。浪漫ちっくラジオ』もアニメの放映に先行して、2009年(平成21年)5月27日よりランティスウェブラジオおよび音泉にて配信をスタート。2009年10月28日までいずれも隔週水曜日に更新されていた。全12回。
アニメ版の評価
原作では普段でも洋服を着こなしている主人公・鈴川小梅であったが、アニメ化に際しては「もっと庶民的にしたい」という監督の意向で一部をのぞき着物が常服なキャラに変更されている。
そしてこの「庶民指向」というマインドが暴走したためか、初回放送の初っぱなから小梅が当時の流行歌であった東京節を朗々と歌い出すという迷(?)場面が繰り広げられたことが物議をかもした。
この歌にあわせて当時の都内の様相を紹介するというものだった。
だが、なにせ出てくる歌詞が「ラメチャンタラ、ギッチョンチョンデ、パイノパイノパイ」である。一応は補足するが「ぽいぽいぽいぽぽいぽいぽぴー」ではない。この東京節が戦前の東京府(当時)の郷土愛歌にして府政の不満を風刺したジョージア行進曲の替え歌という予備知識を持たないユーザーはさぞ面食らったことだろう。
後に『鬼滅の刃』や『わたしの幸せな結婚』といった大正モチーフの作品が多く発表されるようにはなったものの、当時は同時代をテーマにした作品はまだまだ少なく多くのユーザーにはなじみの薄いものであった。そのために「大正という時代」を認識してもらうための演出だったのだろうが、これが裏目に出てしまいその突拍子のない展開に多くの視聴者が啞然となってしまった。 ただし、一部の歴史ファンからは好意的な意見も見られた。
そして、よりによってこれの前番組が同じソフト百合系にしてアニソンをヒットチャートのトップに押し上げる伝説を残したアニメ『けいおん!』第1期だったことが明暗をわけた。早い話が『けいおん』ユーザーの過激派が「なにが大正野球娘だ!オレたちのけいおんを返せ!」とネット上でアンチ行為を繰り返したのである。また、当時は「女子野球もの」という内容自体が珍しく半ばイロモノ視された感もある。
しかし、先述の東京節の件を除けば作品の描写や考証に特段に問題は無く、ぶっちゃけ言えば過激派の八つ当たりでしかなかったので、紳士的な行動をとったユーザーが多かった事もあり、日を追うごとに誹謗中傷は減少していったという。
pixiv内でも両者のクロスオーバー風の作品が散見されている。
その後、ネット上の野球ファンからも支持が集まり出したこともあり一定の評価を得ることができた。その結果、2010年6月1日の野球ch板の仕様変更によりなんでも実況J板の野球ファンは古巣の野球chへと流れたことで、『大正野球娘。』は「最初で最後のなんJ公認アニメ」と評せられることになる。
なんと、2010年7月7日発売のan・an誌上にて「いま、深夜アニメが熱いんです。」というコーナーにおいて多くの深夜アニメが紹介される中、「女子萌え系」ジャンルで本作が紹介された。
もう一度言う、an・anに、である。
「本来は男性向けの萌えアニメといえるけど、キラキラとかわいく描かれた女の子には女性視聴者も胸キュン!」(本文抜粋)
また、2010年3月頃に本作品がケーブルテレビチャンネルのディズニー・チャンネル(?!)にて再放送がされた。
「何を隠そう、制作サイド一同が一番不思議に思っています!!(爆)」(徳間書店関係者)
編集現在では日本アニメのラインナップも充実したのもになっているが、当時は異例のことであった。
以上のようにまずまずの評判を得ることができたアニメ版であった。
このため、ユーザーから定期的に求む!アニメ第二期の嘆願が叫ばれているが原作が放棄状態なことも影響してか現在まで音沙汰はない。
マンガ版
- 大正野球娘。
小説版1・2巻を再編してサイドストーリーを追加した伊藤伸平作画によるマンガ版が月刊COMICリュウにて2008年9月号~2011年4月号まで連載された。
80~90年代SF業界に身を置き続けた作画担当の画風も影響してか、各キャラのデザインは小説版やアニメ版とは異なる部分が多い。
伊藤版の小梅(左)と雪(右)。原作・アニメ版とはだいぶイメージがずれているのが分かろう。
性格もマンガ的な表現を優先してか大小の改変がされている。
内容もギャグテイストのコメディ色が強めになっている。
原作を大まかになぞってはいるが
『乃枝が自立移動するピッチングマシーン(というかロボ)を造る』
『乃枝が科学者として第二次世界大戦に参加、Uボートに乗り込み大暴れ。』
『時は流れて現代、超科学で不老の身となった乃枝は親友である晶子の墓に花を供える』
……といった具合にけっこう自由奔放な展開が多い。ぶっちゃけ言えば読む人を選ぶといえるだろう。ていうか乃枝さんイジられまくりである。
大正モチーフな作品なので煽情的な描写を控えめにした可能性もないではないが()
ともすればアニメ版のお風呂回やパジャマ回のほうがエロい。(偏見)
また、伊藤は自費出版で同作の設定集『「娘。」本 ~大正野球娘。設定集』を発行している。
- 帝都たこ焼き娘。 大正野球娘。番外編
こちらは小説第3巻『帝都たこ焼き娘。』のコミカライズ版。
よねやませつこの作画でトクマ・ノベルズedge公式サイト「エッジdeデュアル王立図書館」において、2009年11月から公開された。全5話でコミックスは全1巻。
アニメ版から逆輸入された尾張記子が登場しないなど一部シナリオのカット部はあるが、内容をほぼ忠実にコミカライズしている。キャラクターデザインも小説版やアニメ版に寄せたものになっている。
また、前述のように岸和田桜らアーミナ女学院関係者がマトモに登場している唯一のメディアミックス作品でもある。
ゲーム版
ゲームソフト『大正野球娘。〜乙女達乃青春日記〜』が2009年10月29日に5pb.より発売されている。
本作では、原作者が監修したオリジナルストーリーを収録し、選択肢によってさまざまな分岐が楽しめるようになっている。登場人物は、すべてアニメ版と同じ声優陣によるフルボイス仕様となっており、リアルな会話シーンを再現。テーマソングやBGMは、ゲームオリジナルのものを新録している。
(Amazonの紹介文より)
ただし、現在では製造中止になっている。
GREEにてソシャゲ版が2011年12月1日より配信開始。Mobageでも2011年12月16日から配信されている。なお、フィーチャフォン(=ガラケー)専用である。
基本プレイ無料のアイテム課金制。内容は「大正野球娘。」を題材にしたソーシャルカードゲーム。女子野球チームの監督になったプレイヤーは、練習を積み重ねてレベルを上げたり、小梅や晶子、環、巴など原作に登場するお馴染みのキャラクターカードの収集や合成を行なってゲームを進めていく。合成は、強化合成・進化合成が用意されている。 ソーシャルゲーム要素として、気の合うプレイヤーとチームを組むこともできる。他のプレイヤーとの対戦や練習を重ねていくと、チームの経験値が貯まり、チームレベルが上がる。チームレベルが上がると、チーム内での称号が増えていき、チームのメンバーを任命することが可能。称号は付与されると特殊効果が発生する。
(「gamebiz」での紹介記事より)
当時の多くのユーザーの評価は「……なんで『今』??」というものだった。
すでにアニメ版は放送終了して久しく、ネット上のコミュニティもかつての勢いはなく過疎化していたのが実情であったのある。ぶっちゃけライバル(?)であった『けいおん!』ほど後々まで影響を及ぼすほどの爆発力は発揮することはできず、ブームも頭打ち状態であったのである。
(『けいおん!』は2010年4月から第2期シリーズが早々に開始しており流れが途切れることがなかったが、本作は原作そのものが停滞していたのは既述の通りでとうぜんこちらのアニメ版2期のはなしは現在までなし。)
あげくに携帯端末じたいがガラケーからスマートフォンへの移行期でもあったというダブルパンチである。ゲーム開発が遅れてブーム最盛期に間に合わなかったという可能性もあるが、定かではない。
一応は編集現在でもページ自体は残っている(参考l)が、実態としては放置されているとみてよいだろう。現状では、前述の小学館による文庫版発売以前の最後のメディア展開といえる。
なお、『プレイヤーが監督』という仕様上、原作の監督ポジションであるアンナ先生がオミットされている。まさかのアンナ先生のリストラという事態に生き残りのファン達は騒然となった。
関連イラスト
大正浪漫で百合で学園ものというインパクトは現在までのこっており、他作品とのパロディもちらほら。
関連タグ
プリンセスナイン、八月のシンデレラナイン、球詠、セーラーエース…女子野球を題材にした作品。
余談
◎当時の野球は、現実でも正岡子規や天狗倶楽部といった面々の活動によって徐々に国内の競技人口を増やしていたが、他方では新渡戸稲造らが明治44年に野球害毒論と評して「野球は賤技なり剛勇の氣なし」とぶち上げるなど、謂れのない偏見にも晒されていた。
新渡戸といえば、著書『武士道』とかつての五千円札の肖像として有名である。そんな著名人でさえトンデモ学説を述べるような空気感であったのだ。
男子間でさえこれなのに、作中ではそれを女学生がやろうというのである。当時の価値観で破天荒ですらあったと思われる。
◎大正14年時点では既に阪急系の宝塚運動協会というプロ球団が存在した。この球団は一旦解散するものの、その後阪急は新たに阪急軍(現オリックス・バファローズ)を結成している。また、ノンプロでは阪神タイガースの母体である阪神電鉄野球部や後に関係者が毎日オリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)運営に関わる大毎野球団が存在した。
◎当時のユーザー間で取り交わされた議論の一つが「この時代ってけっこう『激動の時代』だろ、この後の小梅たち大丈夫か⁉」というもの。
作中の設定年は大正15年のため、同12年に起きた関東大震災後のある程度は復興した東京での物語ではあるが、後年に究極のビッグイベントである第二次世界大戦が控えていたりする。伊藤マンガ版では既述のように一部にその点を踏まえたであろうサイドストーリーが追加されている。
なお、同じく大正時代をテーマにした作品の先達である『はいからさんが通る』では、同7年に第一次世界大戦の影響で引き起こされたシベリア出兵のために登場人物が戦死し、後発であるNATSUMIの小説『大正ロマンス』や朝ドラ『らんまん』でも主人公やヒロインが関東大震災に巻き込まれる鬱展開がある。