イノシシ
いのしし
🐗概説
原始的な偶蹄類の形質をとどめ、雑食性(現生の偶蹄類は殆どが植物食)で反芻も行わない。子供の鹿を捕食することもある。
剛毛と発達した背筋、ずんぐりとした胴体に短い四肢、小さな目、円盤状の鼻鏡に大きく開いた鼻の穴が特徴的。犬と同じくらい嗅覚が敏感。
雄は犬歯がナイフのような牙になっており、下からしゃくり上げるように攻撃する。
幼獣は体に瓜に似た縞模様があり、「ウリボウ」(瓜坊)と呼ばれる。
泥浴びを好み、その泥浴びの姿(古い日本語で“ぬたを打つ”と呼ぶ)から、七転八倒して苦しみもがく様を「のた打つ」と呼ぶようになった。濃い赤を呈する肉はその色から「牡丹肉」、食感から「山鯨」と呼ばれる。ちなみに意外と泳ぎが達者で香川県ではの離島のイノシシが四国へ上陸したというニュースもある。
家畜の豚の原種。中国では「猪」という漢字は豚の事で、イノシシは「野猪」と呼ぶ。
日本では、ユーラシアイノシシの亜種ニホンイノシシが本州と九州・四国に、リュウキュウイノシシが南西諸島に分布する。リュウキュウイノシシは、頭部の形状から、ブタが古代に野生化した存在だと推測されることもある。
北海道には本来は分布していないと考えられているが、縄文時代の遺跡からはイノシシの骨や牙、イノシシをかたどった土製品が出土している。縄文時代には北海道にもイノシシが分布していたのか、本州から(家畜として)移入されたのかは不明。またこれとは別にイノブタが十勝の足寄町付近で野生化しており、現在の北海道でも生息自体は可能とみられる。また秋田・岩手・青森の北東北地方でも長らく絶滅状態だったが、近年は目撃・捕獲例が増加しており、分布域の北上が著しい。
人間とのかかわり
近年では人里に現れたイノシシによる傷害事故・死亡事故が問題になっている。見た目とは裏腹に臆病かつ神経質な性格であり、文字通りの猪突猛進をするのは外部の刺激で興奮したときくらいである。また、日本産の小型のイノシシでも70kgの重さの石を鼻で持ち上げられる。
雄の場合、そこに前述した大きく発達した犬歯による攻撃が加わる。日々噛み合わせることで研がれたその切れ味は比喩でもなんでもなく刃物そのもので、雄同士で争った際には相手に深さ数センチもの裂傷を追わせる事も。間の悪いことにちょうど平均的な成人男性の太腿あたりに備わっているため、前述のしゃくり上げによって大腿動脈を切断され失血死に至る例が多発している。古代では「山で猪に跳ね飛ばされる」ことは、現代で言う「自動車事故に遭う」レベルの災難でもあり、たとえ英雄であろうとひとたまりもないという認識だった。
代表的な農業害獣でもあり、作物の食害の他、果樹等の樹木を折る、畑をほじくり返す等やりたい放題やってくれるため農家は頭を悩ませている。
また、イノシシは年平均4.5頭出産し、その半数は成獣まで育ち、さらにそれが子供を生めるようになるまで1年半ほどと短く、親もまた続いて子供を生むためにねずみ算式に数が増えていく、このため捕獲だけでは数を抑えることができないのが現状である。
その捕獲も肝心のイノシシが上記の性格のために罠を設置した所ですぐ引っかかるワケもなく、罠への警戒心を解くのに早くても十数日はかかり、エサが変わるとまたそこで警戒しだすために忍耐力との戦いになる。おまけにせっかく引っかかっても警戒心の薄い子供の場合が多く、雌の親を捕まえない限りはイノシシの増殖に歯止めをかけることはできない。
更にタチの悪いことに、人間の育てた作物を食べる個体は「子供の生存率が高い」「グルメ化するので山に戻らない」という傾向と性質を持つようになる。人間が食べれずに廃棄する規格外品もイノシシにとってはご馳走であり、虫が沸いてたりドロドロに腐敗したものまで食べる。この食性の広さも厄介な点であり、農家は作物の廃棄場所にまで気を使う必要が出てくる。
実は人里にやってくるのはブタとの雑種であるイノブタが多いとされ、野生のイノシシは警戒心が強いがこのイノブタは家畜化改良されたブタの人をあまり恐れない特徴が悪い意味で遺伝しているらしく、好戦的なのはむしろイノブタの方だという。
イノシシにまつわる伝承
神話では神々の騎乗獣となることがあり、突進力の強さから「俊足」であるとされる。
仏教の摩利支天、北欧神話のフレイ神のグリンブルスティ、同じくフレイヤ女神のヒルディスヴィーニなどがその代表だろう。
妖怪には奈良県に伝わる「猪笹王」があり、猟師に討ち取られた熊笹の生えた大イノシシが一本足の鬼神となって峰を旅する通行人を襲って食べていたという話がある。
主な亜種
- ニホンイノシシ(メイン画像)
- リュウキュウイノシシ
- ユーラシアイノシシ(ヨーロッパイノシシとも)