ここでは食中毒の原因となる細菌・ウイルス・原虫・植物・動物を紹介していく。
細菌による食中毒
食品内で増殖した細菌を取り込むことによって発症する。また、O157・赤痢・コレラ・チフスは人から人に伝染することもあるため、経口感染症として扱うことがある。
病原性大腸菌
大腸菌は通常、ヒトや哺乳動物に生息する無害な細菌だが、なかには下痢を起こすものもあり、「病原性大腸菌(びょうげんせいだいちょうきん)」と呼ぶ。生水や井戸水を飲むことで感染することが多い。
腸管出血性大腸菌
病原性大腸菌のなかで特に危険な種類の細菌。O157、O111、O104などの菌種があり、特にO157は漫画『もやしもん』で擬人化されるほど有名。
赤痢菌と同じくらいの毒性・感染力を持ち、ベロ毒素という猛毒を産生する(これはフグ毒やサリン、青酸カリよりも毒性が強かったりする)。
この菌は牛が保有していることが多く、そのため牛の糞に汚染された水や食品(特に牛肉)を食べることで感染する。
主な症状は腹痛と下痢で、虫垂炎に匹敵する激しい腹痛や血便を伴う激しい下痢となることがある。ときに溶血性尿毒症症候群(HUS)という重い合併症を起こし、腎臓や血液に深刻なダメージを与え、最悪の場合は死亡することもある。重症化しやすく、入院して治療を受けることも少なくない。
予防方法としては、食品を十分に加熱すること、十分に手を洗うことが大切である。
サルモネラ菌
主に爬虫類や鳥が保有していることが多い菌。主な原因食品は生卵や生肉。また、犬やネコなどのペットから感染した事例もある。
主な症状は発熱(40℃近い高熱になることが多い)、頭痛、腹痛、激しい下痢、嘔吐。通常、1週間程度で回復する。
予防のためには卵や肉は十分に加熱し、また、動物に触った後はきちんと手を洗うこと。
腸炎ビブリオ
主に海に生息する魚や魚介類が保有している菌。そのため海産物を生で食べることで感染する。
主な症状は激しい腹痛、下痢、嘔吐。通常、3日程度で回復する。
予防方法は海産物の生食を避け、加熱調理すること。
ナグビブリオ/NAGビブリオ
コレラ菌や腸炎ビブリオの生物学的な親戚であり、生の魚介類(カニ・エビ・貝など)が原因食品となることが多い。
下痢・嘔吐・発熱などの症状がみられるが、多くの場合、数日程度で回復する。
予防のためには腸炎ビブリオ同様、魚介類の生食を避けることが大切である(特に夏は注意)。
ビブリオ・バルニフィカス
主に暖かい海に生息する細菌。別名、人食いバクテリア。コレラ菌や腸炎ビブリオの生物学的な親戚。
感染しても多くの場合は無症状または軽い下痢のみで自然に治ることが多い。
しかし、重い肝臓病(肝硬変など)・糖尿病・アルコール中毒などで免疫力が低下している人がこの菌に感染すると敗血症など全身への感染を起こしやすく、非常に危険である。
この菌は食中毒だけでなく、傷口から感染することもある。
予防のためには「肝臓病の患者は夏場に魚介類を生食せず、十分に加熱調理してから食べる」「怪我をしているときは海で泳がない」ことが大切である。
カンピロバクター
最近急速に患者が増えている食中毒菌。主に鶏や牛が保有しており、生の鶏肉や牛肉が原因となることが多い。また、まな板や包丁を介して野菜に付着することがある。
主な症状は発熱、腹痛、下痢。鶏肉を生で食べた後に下痢になった場合、ほとんどこの菌が原因。比較的軽症で、3日程度で回復することが多い。
予防方法は肉類の加熱調理。また、肉を調理した後のまな板や包丁はよく洗ってから再利用すること。
ウェルシュ菌
ヒトや動物の腸内、土壌、水中など、自然界に幅広く分布する細菌。嫌気性菌であり、空気や酸素を嫌う。
この菌は熱に強く、100℃程度で加熱しても死なない。そのため、食品を大釜などで大量に加熱調理すると、他の細菌やウイルスは死滅してもウェルシュ菌だけは生き残ったりする。また、食品の中心部は酸素の少ない状態となるため、ウェルシュ菌の増殖に最適な環境となってしまう。
学校給食での発生が多く、カレー・シチュー・スープなど、食べる日の前日に大量に調理され、大きな器のまま室温で放冷された食品が原因となることが多い。そのためこの菌による食中毒は「給食病」の異名を持つ。
主な症状は腹痛と下痢だが、軽症であることが多く、通常は1~2日で回復する。
予防のためには「前日調理を避け、加熱調理したものはなるべく早く食べること」「やむを得ず保管する場合は、小分けしてから急速に冷却すること」を心がけよう。
エルシニア菌
肉類(特に豚肉)や牛乳(乳製品を含む)が原因となることが多い。この菌は低温に強く、冷蔵庫でも増殖することができる。
発熱・頭痛・激しい腹痛・下痢・関節の痛みなどの症状があらわれる。
エロモナス菌
川・湖・沼などに生息する細菌。主な原因食品は淡水魚・貝類・飲み水など。
水のような下痢がみられるが、軽症であることが多く、通常は1~3日程度で回復に向かう。
プレシオモナス
淡水中に生息する細菌で、淡水魚・貝・両生類・爬虫類等に広く分布し、淡水魚や飲料水を介して食中毒を起こす。
主な症状は下痢・嘔吐・発熱など。
リステリア菌
主に赤ちゃん・妊婦・高齢者・エイズ患者など、免疫力が低下している人に食中毒を起こす細菌。乳製品(特にチーズ)や肉類が原因となることが多い。
高熱や咳など、インフルエンザに似た症状があらわれる。下痢はあまりみられない。健康な人であれば数日程度で回復することが多いが、免疫力が低下した人が感染すると敗血症や髄膜炎などを起こしやすく危険。
赤痢菌
細菌性赤痢の病原体。発展途上国へ海外旅行した人に多く、日本国内での発生はまれ。
主な症状は発熱・腹痛・下痢で、重症の場合は40℃近い高熱・激しい腹痛・真っ赤な血便がみられる。赤痢という名前は、この血便に由来する。
重症化しやすく、また、人から人へ伝染することもあるため、場合によっては隔離入院が必要。
コレラ菌
コレラの病原体。生物学的には腸炎ビブリオの親戚。赤痢菌同様、海外での発生が多い。
主な症状は下痢と嘔吐。重症の場合は米のとぎ汁のような真っ白い下痢便が出て、急速に脱水症状に陥る。
赤痢菌同様、重症の場合は隔離入院が必要。
チフス菌
腸チフスの病原体。生物学的にはサルモネラ菌の親戚。赤痢菌やコレラ菌と同様、海外で多発している。
この菌は腸に入った後、血液中に侵入する(敗血症)。食中毒ではあるが下痢はあまりみられず、高熱・頭痛・発疹といった症状が中心。腸に穴があくと非常に危険。
パラチフス菌
パラチフスの病原体。腸チフスと似たような症状があらわれるが、腸チフスよりは軽症であることが多い。
細菌の毒素による食中毒
細菌が食品内で産生した毒素を体内に取り込むことで発症する。毒素が主体なので、細菌が死んでいても毒素が残っていれば発症することがある。
黄色ブドウ球菌およびその毒素
この菌はヒトの皮膚や粘膜に広く生息している、通常は無害な菌だが、傷口があるとショックを起こして病原性を有するようになる。
手に傷がある人が調理したおにぎりやサンドイッチなどが原因となることが多い。
主な症状は激しい嘔吐だが、24時間以内に回復することが多い。手に傷がある人(特に化膿している場合)は調理に関わらないことが重要な予防方法である。
ボツリヌス菌およびその毒素
土や泥に広く生息する細菌。この菌が産生する毒素(ボツリヌストキシン)は極めて毒性が高く、細菌が産生する猛毒の中で最も危険なものである(ベロ毒素以上の毒性)。
この菌は空気・酸素を嫌うため、空気のない密閉された空間で増殖する。発生件数こそ少ないが、致死率はかなり高い(10%以上)ので注意。缶詰などの加工食品や蜂蜜が原因となることが多い。
主な症状は嘔吐、ものが見えにくくなる、ものが飲み込めなくなる、ろれつが回らない、めまい、筋肉麻痺などの神経症状。最終的には呼吸ができなくなる。
セレウス菌およびその毒素
土・水・埃等、自然界に広く分布し、農作物を汚染している細菌。
この菌は米や小麦などの農作物を汚染するため、チャーハンやパスタなどが原因となることが多い。
症状は「下痢型」と「嘔吐型」に大別され、前者はウェルシュ菌による食中毒、後者は黄色ブドウ球菌毒素による食中毒と似ている。
予防方法は「一度に大量に調理しないこと」「穀物等が原料の食品は、小分けして速やかに低温保存(10℃以下)すること」。
ウイルスによる食中毒
食品中で増殖したウイルスを取り込むことで発症する。人から人へ伝染する例もあり、経口感染症としての側面も持つ。
ノロウイルス
食中毒を起こすウイルスの代表格。牡蠣などの貝を生で食べることで発症することが多いが、便や吐物を介して人から人へ伝染することもある。
主な症状は嘔吐と下痢。比較的軽症で、3日以内に回復する。
十分な加熱調理と手洗いで予防しよう。
サポウイルス/サッポロウイルス
ノロウイルスの仲間で、ノロウイルス同様、生牡蠣からの感染が多い。ウイルスの名前は北海道札幌市で発見されたことに由来する。
症状はノロウイルスとほぼ同じ。
ロタウイルス
主に赤ちゃんに下痢を起こすウイルス。ノロウイルスに比べて重症化しやすく、赤ちゃんがいる家庭にとっては危険なウイルス。
主な症状は下痢・嘔吐・発熱。下痢は激しく、真っ白い便が出ることがある。急速に水分が失われるため脱水症状に陥りやすく、脳や心臓、腎臓などに合併症を起こすこともある。
ワクチンで予防できる。
A型肝炎ウイルス
A型肝炎の病原体。生の魚介類が原因となることが多い。海外での発生が多く、日本では稀。
肝臓に炎症を起こし、発熱・肌が黄色っぽくなる(黄疸)・食欲低下・嘔吐・下痢などの症状があらわれる。ワクチンで予防可能。
E型肝炎ウイルス
E型肝炎の病原体。野生動物の肉を生で食べることで感染する。海外での発生が多い。
A型肝炎と同じような症状があらわれるが、「妊婦がかかると重症化しやすい」「ワクチンで予防できない」といった違いがある。
ポリオウイルス
ポリオ(急性灰白髄炎)の病原体。夏風邪の原因となるエンテロウイルスの仲間。
患者の排泄物に汚染された水や食べ物から感染する。現在、日本などの先進国では根絶されており、アフリカや中東の一部の途上国でのみ発生している。
感染しても多くの人は無症状のまま回復する。しかし、一部の人は風邪のような症状の後、手足が麻痺し、その麻痺が後遺症として一生残ることがある。
ワクチンで予防できる。
原虫による食中毒
赤痢アメーバ
感染しても多くの人は無症状だが、一部の人は激しい腹痛や血便を起こす。稀に肝臓に重い合併症を起こす場合がある。
クリプトスポリジウム
発熱、嘔吐、下痢などの症状があらわれる。通常は1週間程度で自然に治っていくが、AIDS患者など免疫が低下している場合は重篤になりやすく、激しい下痢や脱水によって死亡することがある。
予防のためには生水は絶対に飲まず、水道水・ミネラルウォーター・スポーツドリンクなどを飲むことが大切である。
ランブル鞭毛虫
人や動物の大便に汚染された水や食品を食べたり、不衛生な場所で水泳することによりうつる。また、性行為で肛門を舐めてしまったときに感染することもある。
クリプトスポリジウム症と似たような症状があらわれる。AIDS患者は重篤化しやすいので注意。
予防のためには「生水を飲まない」「汚い川や沼などで泳がない」「食事前の手洗い」「性行為の際に肛門を舐めないように注意する」ことが大切である。
サイクロスポラ
クリプトスポリジウムとともに下痢を起こす原虫として知られる。
水のような下痢・嘔吐・発熱といった症状があらわれる。
エキノコックス
主にイヌ科の動物(犬、キツネ、狼など)が保有している寄生虫。日本ではキタキツネが生息する北海道での発生が多い。
寄生虫の卵で汚染された水や食品を食べることで感染する。寄生虫卵はエキノコックスに感染したイヌ科の動物の糞に含まれている。
感染しても初期は無症状であることが多いが、進行すると寄生虫が肝臓や脳に寄生(かなりグロいので興味本位に画像検索しないこと)し、死亡することもある。
予防のためには「北海道や海外ではイヌ科の野生動物に近づかない」「川などで採ってきた生水は絶対に飲まず、どうしても飲みたいなら十分に沸かしてから飲むこと」が大切である。
有毒植物による食中毒
トリカブト
毒草の代表格。アコニチンという毒素を含む。嘔吐、唇や舌のしびれ、呼吸困難などの症状があらわれ、最終的には心臓が停止し死亡する。
毒キノコ
毒を含むきのこを食べて中毒を起こす。症状はきのこの種類や食べた量により異なるが、重症の場合はコレラのような激しい下痢・肝臓や腎臓の深刻な障害から死に至ることもある。
毒キノコによる中毒のほとんどは、自己流で鑑定して食べた結果発生したものである。素人判断はやめて、食用と確実に判断できないキノコは絶対に食べてはいけない。
ジャガイモの表皮や芽
ジャガイモは表皮や芽にソラニンという毒素を含む。頭痛、腹痛、嘔吐、下痢などの症状があらわれる。ジャガイモは表皮や芽を取り除いてから食べよう。
有毒動物による食中毒
フグの内臓(特に肝臓と卵巣)
高級食材として知られるフグは、内臓にテトロドトキシンという毒素を含む。唇や舌のしびれ、嘔吐、歩行困難などの症状があらわれ、最終的には呼吸ができなくなり死に至る。
フグの調理には専用の免許である都道府県が発行するふぐ調理師免許が必要となる。素人の調理は非常に危険なので絶対にしないこと。
外部リンク
- 食品衛生の窓(東京都の食品安全情報サイト):食中毒を起こす微生物
- 厚生労働省検疫所 海外で健康に過ごすために:食べものからうつる病気
- 花王:食中毒の種類