概要
2024年3月20~21日、韓国・ソウルでドジャースvsパドレスのMLB開幕戦が行われた。
しかし、その最中の3月21日早朝、アメリカのスポーツメディア:ESPNが、ドジャースのエース:大谷翔平選手の専属通訳を務めていた水原一平氏がドジャースを解雇されたというニュースを報じた。この衝撃的な一報は世界中を駆け巡り、野球ファンに衝撃を与えた。
解雇の理由は大谷選手の一部資産の着服並びに横領という明らかな犯罪行為であり、大谷選手の代理人弁護士からも、窃盗の疑いで告訴されることになった。
経緯
その後、メディアの取材や水原氏を含む関係者の証言から、以下のような事情が明らかになる。
2021年、水原氏は遠征先のカジノで、違法賭博のブックメーカー(胴元)であるマシュー・ボウヤーという男性と知り合った。水原氏はボウヤー氏に勧められるままにスポーツ賭博を始めてしまい、負けが込み続けて同年の年末までに100万ドル(日本円でおよそ1億5千万円)の借金を背負うことになった。
水原氏は家族や知人から借金をしながらもなんとか返済を試みたものの、賭博そのものをやめることはできず、負債は2023年には450万ドル(日本円でおよそ6億8千万円)にまで膨れ上がり、最早自力での返済は不可能な領域にまで到達していた。
このため、水原氏は大谷の資金を使って賭博の継続と借金の返済を試みた…というのが大まかなシナリオのようだ。
なお、ボウヤー氏は水原氏が大谷選手の関係者であることを知っており、端っから大谷選手の多額の資産を当てに水原氏から金を毟り取る算段であったと言われている。
その後、FBIが違法賭博の捜査ならびに摘発を進める中で、ボウヤー氏の口座に大谷名義の金の振り込みがあることを突き止め、ほぼ同時期に別ルートでこのことに気づいたESPNが真相を確かめようと水原氏に取材をしたところ、この一件が発覚した(一説には、FBIがメディアに情報を流したのではないかとも言われている)。
疑念
ところが、この一件は、当初からいくつか不可解な点が見受けられ、それがこの事件の謎や疑念を深めてしまうことにもなった。
- 大谷選手はこのことを知っていたのか?
当初、水原氏はESPNの取材に対して、「二度とギャンブルに手を出さないという条件で、大谷選手に借金を肩代わりしてもらった」と証言していた。しかし、何故かその翌日にはこの証言を撤回し、「大谷選手は今までこのことを一切知らなかった。すべて自分がやった」と主張。困惑した記者に「いったいどういうことですか?我々に噓を付いていたのですか?」と問い詰められた際にも「そうです」と即答したという。
後日、大谷選手自身も声明発表の中で、「水原氏が白状するまで、自分の金が横領されていたことは知らなかった」と主張している。
このため、この声明発表以降、「大谷選手は自分の金が使われていることはおろか、そもそも水原氏が借金を抱えていることすら知らなかった」という主張が有力視されるようになった。
その場合、最初の水原氏の証言はいったい何だったのかという新たな疑問が生じることになるが、これについては、水原氏はギャンブル依存症に陥っていたことを告白していることや、その後の捜査で明らかになった事実(後述)から、ギャンブル依存症の患者にしばしばみられる、自分の実態をごまかすための虚言癖によるもので、ESPNの取材に対して最初に行った水原氏の証言はすべてでっち上げだった可能性が高まった。
- 誰がどうやって送金したのか?
こちらも当初、水原氏は「自分が見ている前で、大谷選手自身がパソコンを操作し、指定された口座に複数回に渡って送金を行った」と証言したが、翌日に撤回している。
しかし、電子送金には、セキュリティのために本人確認やパスワードの二段階認証等の複雑な手順があるはずで、水原氏が本当に単独で送金を行えたのかは疑わしいという意見も多い。
水原氏も大谷選手も具体的な送金方法については一切明かしておらず、これが本事件に対して大きな疑念が向けられた一因となっている。
加えて、「信用のおける人物だからといって、側近1人だけに金の管理を任せたりするだろうか」「いくら金を稼いでいるからといって、450万ドルもの大金が手元から無くなっていたのならばさすがに気付くのではないか?」という点も事件の不可解さに拍車をかけている。
これらの疑問点や、水原氏の一番最初の証言から、「実際に違法賭博に手を出していたのは大谷選手(あるいは両方)で、水原氏はスケープゴートにされたのではないのか?」と大谷選手に対して疑念を向けたり、謂れのないバッシングを浴びせたりする動きが一部で加熱することにもなった。
- なぜ開幕戦のタイミングで報道されたのか?
これもしばしばファンの間からは疑問視されることが多い。
シーズン開幕という選手にとっては一番大事な時期にこんなスキャンダルが発覚すれば、当然シーズン本番に向けた調整に大きな影響が出ることは避けられない。大谷選手やドジャースへの当てつけや嫌がらせと取られても不思議ではなく、一部では「大谷選手が活躍したり注目されたりすることを快く思わない勢力が裏で糸を引いており、大谷選手と水原氏はハメられたのではないのか?」という見方もある。
もちろん、何の根拠もないただの陰謀論ではあるのだが、アメリカ国内では未だに東洋人への差別が根強く残っている(※1)こと、どこの国でも国技で外国から来た選手が自国の選手を凌ぐ活躍をすれば一定数それに対するやっかみが生じるであろうこと(※2)を考えればまったく考えられない話ではない。
また、ドジャースはオフシーズンに大谷選手をはじめ、山本由伸投手、タイラー・グラスノー投手、テオスカー・ヘルナンデス選手といった大物選手を次々に獲得したことで多くのファンから札束攻勢だと非難されたため、大谷選手に限らずドジャースそのものがメジャーリーグファンから相当なヘイトを買っていたことも事実である。
大谷選手のドジャースとの後払い契約にも税逃れへ悪用される可能性があるとの懸念の声があり、これがきっかけで当局から目をつけられてしまったのではないかとする見方もある。
※1 実際、アメリカ国内ではコロナ禍にウイルスの発生源が中国であるとする報道が広まったことから、東洋人へのヘイトクライムが増加したとされる。また、この問題が発覚する直前に行われたアカデミー賞の授賞式でも、受賞俳優がプレゼンターを務めた東洋系の俳優に対して失礼極まりない行動を取って国際的な批判を浴びるという事件が起きたばかりであり、アメリカ国内で(特に白人による)東洋人に対する差別意識が未だに根強く残っている現実が浮き彫りになっている。
※2 日本でも、大相撲で外国人力士の横綱に対して人種差別的な野次が飛ばされ、角界で問題視されたことがある。
真相解明へ
現地時間4月11日、アメリカの司法省が水原氏を銀行詐欺容疑で訴追したと発表した。
調査によると、水原氏は賭博で当初の証言をはるかに上回る総額62億円近くの損失を出しており、その損失を埋め合わせるために大谷選手の貯金を盗んで利用していたとされる。
大谷選手の被害総額は最低でも24億円に上るという。
また、これまで謎に包まれていた大谷選手の口座のセキュリティ突破の方法や会計士等が気付けなかった原因についても判明。
そのやり口とは、
- 大谷選手の口座についての連絡先を水原氏のものへと勝手に変更していた
- 電話応対が必要な時は水原氏が大谷選手を騙って返答をしたり、直接面談する時も大谷選手側の都合で同席できないことにして彼1人で対応していた
- 大谷選手の財務管理や担当会計士に日本語を使えるスタッフがいなかったことを利用して、その口座について触れないよう伝えて金銭関係の情報が大谷選手側に一切入らないように工作していた。一方、大谷選手に対しては、逆に口座の管理は財務管理者や担当会計士が行っていると伝え、大谷選手の方からも口座を調べることがないようにしていた。これにより、水谷氏だけしかその口座からは金を引き出すことができなくなってしまった。
- これにより、大谷選手の代理人を務めていたネズ・バレロ氏にも「大谷選手の口座の定期的な確認を怠った」として、その職務怠慢振りを厳しく批判する意見が向けられている。
という極めて計画的かつ悪質なものであった。
さらに、その後、
- 歯の治療を名目に6万ドル(約930万円)の小切手を切らせ、その分は自身の口座に預け、治療費の分は大谷のデビットカードを使用して支払いをしていたこと(おそらく、この金もギャンブルに使ったと見られている)
- 既婚者でありながら、結婚後も独身であると偽って脱税を行っていたこと(アメリカでは独身者の方が税の控除額が多くなるため、それを利用したとされる)。賭博問題とは関係がないとはいえ、これも相当悪質な行為である。
といったことも明らかとなっている。
また、最悪の場合、大谷選手が人質に取られたり、命の危険にさらされる可能性があったことまで浮上。
提出された訴状の中には、とあるブックメイカー(恐らくボウヤー氏だと思われる)が連絡を拒絶しようとしている水原氏に対し、「(水原氏の自宅近くに来ていることや、大谷選手の動向を監視していることを仄めかしながら)大谷選手に直接問い合わせられたくなかったらさっさと連絡をよこせ」といった脅迫に近いメール内容も記載されていたという(一方で、このやりとりからも大谷選手が一連の出来事を一切知らなかったことが示されており、大谷選手が無実であるとする裏付けの1つとなったと思われる)。
このやり取りがなされたのは大谷選手が自身2度目となる満票でのMVPに輝く直前だったとのことで、大谷選手が愛犬とじゃれ合う微笑ましい光景の裏で、緊迫した事態が起きていたことが明らかとなった。
更には水原氏は仮想通貨にも手を出していたが、こちらも上手く行かずに多額の損失を出していた。さらに、大谷選手のドジャース移籍後に「ジェイ・ミン」という偽名を用いて、同じ口座の金を使って現地のベースボールカード(※3)を購入していたという情報もあり、自身のコネを使って有名選手にサインを書かせた後に転売するつもりだったと考えられる。恐らく、これらの手段で負債の補填額を捻出するつもりだったのだろう。
往生際の悪いことに水原氏はESPNの取材で付いていた嘘の証言の辻褄合わせをするため、ドジャースで行われたミーティングの後、大谷から別室に呼び出された際に、取材内容の話(肩代わりした件)を事実として発表してもらうよう懇願したが、大谷選手は当然断り、代理人のネズ・バレロ氏や弁護士、別の通訳、さらには水原氏に同行する形で訪韓していた彼の妻とも連絡を取って直ちに問題解決のために動き出した。
水原氏が翌日に自身の証言をあっさり撤回したのは、大谷選手に口裏を合わせてもらう目論見が崩れたためだと考えられる。
公式の発表が行われる約1~2週間の間、大谷選手にも疑惑の目が向けられ続ける予断を許さない状態が続いたが、辛抱強く明確な情報が整理されるまで待ったことで、少なくとも大谷選手が賭博に関わっていた可能性は連邦政府機関によって完全に否定される形となり、大谷選手は潔白を無事証明された。そして同時に水原氏の行動の悪質さも明らかになることとなり、実刑、それも非常に重い罪(連邦法)に問われる可能性が高まった。
水原氏は事件発覚後、一時期行方不明扱いとなっていたが、実際にはドジャースとは別の便でアメリカに戻っており、到着後に警察当局に呼び止められていた(携帯電話など一部所持品を押収されたが、この時点ではまだ逮捕はされなかった)ことも判明している。
※3 アメリカ国内で販売されている、プロ野球選手を題材としたトレーディングカードゲーム。有名選手のレアカードなどは億単位で取引されることも珍しくなく、直筆サイン入りの場合はさらにその価値が跳ね上がる。
裁判
現地時間4月12日に、水原氏は弁護士を伴いロサンゼルス連邦地裁に出廷。カルフォルニア州中央地区を離れないこと、大谷選手へ接触しないこと、ギャンブル依存症の更生プログラムを受けること等を条件に、25000ドル(日本円で383万円)の保釈金を支払い、保釈された。
その後、水原氏は検察当局との司法取引に応じ、自身の罪を全面的に認めることとなった。
銀行詐欺で訴追され、連邦法で有罪判決を受けた場合は最大で30年の収監が課せられることになるが、これにより、刑期が大幅に軽減される可能性が高まった。
ただ、収監先は米国か、或いは強制送還されて日本になるかはまだ分かっていない)。
現地時間5月14日に罪状認否が行われた。
今後の影響
大谷翔平選手
仮に大谷選手が送金に関して何らかの関わりを持っていた場合、コミッショナー判断により、MLBから何かしらの処罰が下される可能性があった。実際、過去にはピート・ローズ氏が自身が監督していたチームを対象とした違法賭博へ関与したがためにMLBから永久追放されるという厳罰を下されたこともある(なお、ローズ氏は今回の一件に関して、「1970~80年代の自分にも通訳がいれば良かった。そうすれば無罪放免だった」と皮肉を述べた上に、後日行われたサイン会でも大谷選手を揶揄するような内容のサインを書いたことが明らかとなり、日本の野球ファンから激しい反発を受けた)。
ただ、今のところ大谷選手自身が賭博を行った形跡はなく、むしろ被害者の立場であることが捜査機関からも証明されたため、処分される可能性はないだろうという見方が有力である。
また、事件発覚後当初こそ表に出ない姿勢に様々な憶測と批判があったものの、真相判明後は的確かつ誠実に対応していたと評価する声が増えている。
とはいえ、大谷選手は、これまで「不祥事やスキャンダルとは良くも悪くも全く無縁で清廉潔白な野球青年」「二刀流を含めて他の選手とは一線を明らかに画している稀代且つ不世出なユニコーン」というイメージがなまじっか強かっただけに、今回の一件で「野球以外に関しては脇が余りにも甘く、資産管理が杜撰でルーズな大人」「アスリートとしては間違いなく超一流でありスーパースターであることに疑いの余地は全くないが、一社会人としてはまだ青いと言わざるを得ない」というマイナスなイメージが付き、評判が大きく下がってしまったことは正直否めない(ただ、大谷選手が自分の金が使いこまれていたことを把握できなかったのは、水原氏の巧妙な隠蔽工作に拠るところも大きく、捜査結果が明るみに出た後は、大谷選手を責めることはできないのではないかという擁護論も増えてきている)。
加えて、無罪だとしても賭博事件の解決やその背後で暗躍する賭博シンジケートの摘発がなされるまでは、FBI・IRS(アメリカ内国歳入庁。日本の国税庁に相当する連邦政府機関)・NSA(アメリカ国家安全保障局)・MLB機構等からの執拗な調査や事情聴取がシーズン中に複数回行われることが予想されており、それらが原因で彼のメンタルとパフォーマンスに悪影響が出るのではないのかと危惧されている。また、水原氏がアンダーグラウンドな人物・組織と関係を持っていたことが明るみに出た事で、今度は大谷選手自身も報復等の危害を加えられないのかどうかも不安視されている。
ただし不幸中の幸いなのは、ドジャースのフロント幹部達やデイヴ・ロバーツ監督を筆頭に、ムーキー・ベッツ選手、フレディ・フリーマン選手、マックス・マンシー選手、エンリケ・ヘルナンデス選手、テオスカー・ヘルナンデス選手、タイラー・グラスノー投手、ジョー・ケリー投手等の彼のチームメイト達、さらには水原氏に代わって臨時通訳を務めることになったウィル・アイアトン氏をはじめとするチームスタッフ達が、皆揃って大谷選手の主張を信じ、擁護してくれることを約束してくれたことだろう。おまけに、ドジャース側が雇っている弁護団も大谷選手を絶対に弁護してくれるはずである。
加えて、彼の伴侶でもある真美子夫人と愛犬のデコピンが傍にいてくれることが彼の何よりの心の拠り所となるに違いない。
なお、気になる試合への影響だが、成績は5月までに打率3割台を維持しており、疲労を考慮した交代以外にレギュラーを外れることは少ない。
本人は一時期睡眠時間に支障は出ていたと語っているが、その証言すら疑いたくなるような好成績である。
アメリカ野球殿堂入りのハードル
また、今回の一件により、彼の人生最大な夢でもある「マリアーノ・リヴェラ氏以来の2人目の得票率100%でのアメリカ野球殿堂入り」にも影を落とす可能性が高まったと囁かれている。
実力・実績共に申し分が全くない上記のローズ氏やバリー・ボンズ氏、マーク・マグワイア氏、アレックス・ロドリゲス氏、サミー・ソーサ氏、カート・シリング氏、ロジャー・クレメンス氏ではあるものの………
- ローズ氏は上記の違法賭博事件と脱税事件
- ボンズ氏、マグワイア氏、ロドリゲス氏はステロイドなどの禁止薬物使用違反
- ソーサ氏は禁止薬物の他にコルクバット使用違反
- シリング氏はソーシャルメディア上での度重なる過激な人種差別発言や舌禍事件
- クレメンス氏は禁止薬物の他に不倫騒動や気に入らない選手へのビーンボール(危険球)常習犯
など、素行や人間性に難が有りすぎて殿堂入りに必要な75%以上の得票率を最後まで得られず、殿堂入りは夢のまた夢に終わってしまった。
ヤンキースの歴代生え抜きキャプテンのなかでも人格者と謳われており、野手としてメジャー史上初の満票による殿堂入りが期待されていたデレク・ジーター氏ですら最終的に得票率99.7%に留まり、反対票を投じたたった一人の記者の犯人捜しがアメリカ中で躍起になって行われたほどの社会現象となってしまった(もっとも、当の本人は殿堂入りできたことにすっかり満足しており、むしろ彼の満票当選を一日千秋な想いで待ち焦がれていたニューヨークメディアやヤンキースファンが必要以上に激昂し暴れまくっていただけという面が強い)。
2025年には日本人選手初の殿堂入りが確実視されているイチロー氏も、現役を退いた今でこそ随分と丸くなったが、現役時代には………
- 第1回WBCの韓国代表戦の前に「向こう30年は日本に手は出せないな、という感じで勝ちたいと思う」といった、好戦的・挑発的且つ敵を作りやすい物言いを意図的にブチかましたことがあったこと
- ちなみに、この発言のせいで、韓国では一時期イチロー氏だけでなく、日本の野球選手に対して反感や嫌悪感を抱いている野球ファンが多かったと言われている。しかし、最近では時間の経過や大谷選手の活躍、さらには韓国野球界でもイ・ジョンフ選手(現サンフランシスコ・ジャイアンツ)のようにイチローを尊敬する選手も現れるなど、日本野球に対する見方は依然と比べるとかなり改善されていると言われている。
- 気に入らない記者やインタヴュアーに対する不遜且つ傲慢な態度が批判されたこと(彼はもともとマスコミと馴れ合うことを良しとしておらず、NPB時代からマスコミに対しては厳しい姿勢で臨んでいたが、渡米後はそれがさらに顕著になったと言われている)
- 実績面でも安打こそ量産しまくったものの、キャリア通算OPSが.757とお世辞にも決して高くなかった(殿堂入りに必要な野手のキャリア通算OPSは最低でも.900以上を必須条件としている)
………などの理由から、得票率100%での殿堂入りはまず不可能と言われている(もっとも、こちらもジーター氏と同様、殿堂入りさえできれば、満票にはさほど拘っていない節が感じられるが)。
上記のジーター氏やイチロー氏の例も相まって、(2024年シーズンを含めて最低でもあと4シーズン、またはこのまま現役引退までMLBでプレイし続ければ)大谷選手の殿堂入りもほぼ既定路線ではあるものの、(無実であることが一応証明されたとはいえ)今回のスキャンダルで得票率100%での殿堂入りにケチが付いたり、彼に対する捻くれたアンチの数少ない格好の誹謗中傷材料となってしまい、そのハードルがさらに分厚く高くなってしまった可能性は残念ながら否めなくなってしまった。
風評被害
老舗雑誌「NEW YORKER」の表紙にイラストレーターUlriksen氏により「尻ポケットに札束を入れてバットスイングをする大谷翔平選手」の風刺画が描かれ、ファンからは顰蹙を買う事態が起こっている(参考)
水原一平氏
ドジャースが本拠地を置くカリフォルニア州はスポーツ賭博が法律により禁止されている他、MLBの規約においてもスポーツ賭博自体は禁止されていないものの、選手・スタッフ共に違法なルールの賭博に手を出すことは固く禁止されている。たとえ十分な貯えと勝負勘があり、大谷選手の金に一切手を出さずに自腹で賭博を行っていたとしても、遅かれ早かれ彼の解雇は避けられなかったことだろう。
加えて、捜査により通訳兼マネージャーとしての立場を悪用して、極めて計画的かつ狡猾な方法で大谷選手から金を盗んでいたことも明らかとなっている。
特に、通訳としての立場を最大限悪用していたことは断じて見過ごすことができない点であろう。
言葉が通じない者同士の橋渡しとなる職業に就いていながら、互いに言葉が通じない状況を自分の都合の良いように最大限利用するという犯罪行為は水原氏個人の問題だけではなく、通訳という職業に対する信用そのものが失われかねない。
また、今回の一件が引き金となり、水原氏は学歴や経歴を詐称していた疑惑まで持ち上がっている。
最早、通訳者としては勿論、社会的な信用そのものを完全に失ってしまったと言って過言ではないだろう。
彼にとって幸いなのは、アメリカはギャンブル依存症への社会的理解や治療法が日本と比べてはるかに進んでいることだろう。保釈中に更生プログラムを受けることが義務付けられたこともあり、今後はアメリカ国内で治療プログラムを受けつつ、社会復帰を目指していくことになると思われる。
また、ネット上では、事件のインパクトが大きかったためか、水原一平のネットミームがたくさん投稿されてしまっている。
山本由伸投手
今年から大谷選手と同じくドジャースへ移籍した山本由伸投手だったが、MLB公式戦初登板を前にこの事件が発生するというとんでもないとばっちりを受ける羽目になり(通訳は専属で別のスタッフ(園田芳大氏)がいるため、活動面での支障は少ない)、慣れない環境に加えて騒動の動揺もあったのか、試合本番ではコースがなかなか定まらず、初陣の成績は1回も持たずに5失点降板で敗戦投手になるという散々な出来だった。
それでも2戦目以降は日本で敵なしのピッチングスキルを取り戻しつつあり、少しずつ勝利を重ねている。
心配があるとするならば、彼の登板する試合は大谷選手の成績があまり良くないことで、山本投手もあるインタビューの中で「僕の投げる日にも打って欲しい」と大谷選手のことをイジっている。
ロサンゼルス・エンゼルス関係者・MLB選手に対する疑惑
警察当局の関係者への聞き取り調査によって、大谷選手と水原氏が以前所属していたロサンゼルス・エンゼルスで同僚だったデビッド・フレッチャー(現アトランタ・ブレーブス傘下AAA所属)選手にも水原氏と同じくボウヤー氏を介して賭博を行っていたという疑惑が深まっている。
フレッチャー選手は第5回WBCでイタリア代表(母がイタリア出身のため)として来日した時には大谷とツーショットで映ったり、ラーメン屋を紹介してもらったりと大谷・水原両氏と仲が良いことは知られており、水原氏の賭博スキャンダルが発生した直後から僅かながら関与していないか不安視されていたが、数か月後のESPNの取材では証言なども出てきており、いよいよ疑惑が深まったことでMLBも調査を予定していると発表した。
これが事実であれば、更に賭博の問題がエンゼルスに所属していた複数の選手にも関わってくる恐れがある。
エンゼルス以外でもMLBは水面下で他の選手の賭博問題について調査を進めているようで、6月にはサンディエゴ・パドレスのトゥクピタ・マルカノ選手が以前所属していたチームで自チームを対象に賭博を行っていたとしてMLBを永久追放されたという報道があり、同時にマイナーリーグ所属の複数の選手にも野球賭博に関わったとして1年出場停止処分が下った。
このように賭博問題は下手するとMLB全体に波及している可能性が出てきている。
日本国内における影響
この問題に関しては、国を代表する有名アスリートに関するスキャンダルということもあり、日本国内にも多少のダメージが想定されている。
資料面における問題
通訳として長らく同伴していたことから水原氏が大谷選手と映っている映像は非常に多く、今後メディアが大谷選手の特集などで使う映像(特にエンゼルス時代)では何かしらの加工処理や水原氏の映っていない場面に限定して使用せざるを得ないという状況も想定される。
日本中を熱狂させたWBC2023においても栗山英樹監督のサポートを行っており、ラーズ・ヌートバー選手の代表入りやMLBの侍ジャパン候補選手との交渉でも尽力した影の功労者として話題となっていた。その功績から選手でないにも拘らず、優勝メダルを渡された程であり、この大会を語る上では欠かせない存在だったことを否定することはできない。しかし、今回の事件で公の場を使ってこの辺りの話題に触れることはほぼ不可能になったといってもよく、大会屈指の名言の背景や栗山監督のWBC準備期間の裏話など、多くのエピソードがお蔵入りになってしまう事だろう。
絵本『野球しようぜ!大谷翔平ものがたり』の修正
絵本『野球しようぜ!大谷翔平ものがたり』(世界文化社)が、何ともタイミングの悪いことに韓国での開幕戦初戦を行った3月20日に初版が発売されていた。
大谷選手のドジャース入団会見を描いたページには、デイブ・ロバーツ監督と思われる人物と共に長年通訳を務めてきた水原容疑者とみられる人物が載っていたが、絵本の発売後に水原容疑者の賭博スキャンダルや銀行詐欺容疑が発覚。
4月中旬には、絵本の最新版では水原容疑者らしき人物が消えているとSNS上で話題を呼び、出版社側が第3版以降、内容の修正を行ったことが複数媒体で伝えられた。
これについてネットでは「粛清されたか…」「映す価値なし」「やむを得ない」という水原氏の自業自得とする意見がある一方、「歴史が修正された」「今スターリンの時代だっけ?」「怖い」「子ども達に人は裏切るって社会の現実も教えろ」と事実の隠蔽に走ったかのような出版社側の対応を批判する意見もあり、賛否両論となっている。
また、水原容疑者の載っていた版がメルカリで高額転売されていることも伝えられ、問題視されている(参考)。
北海道日本ハムファイターズの対応
大谷選手の出元であり、水原氏を球団通訳として雇用していた球団だが、水原氏の経歴詐称疑惑が真実ならば、球団の調査不足による社会的信用の低下や管理体制の問題を指摘される可能性がある(もっとも、アメリカでは経歴の確認や記載が日本と比べて杜撰であると言われており、一概に日ハムだけを責めることはできないだろうという意見もある)。
ちなみに、ファイターズの現監督である新庄剛志氏も資金管理を任せていた人物に約22億円を横領されていた過去があり、事件後大谷選手に対して「俺の方が何倍も被害に遭ってる、大丈夫」と自虐的にエールを送り、「この件がなかったらきっとプロ野球に戻っていなかったと思う」とポディシブに受け止めている姿勢を示した(ただし、この段階ではまだ被害額が6億8000万と報道されていた時で、実際には大谷選手の被害額の方が新庄監督より2億円以上大きかった)。
大阪府のIR構想
現在、大阪府では吉村洋文知事および彼の所属する大阪維新の会の肝入りで、カジノを含むIR(統合型リゾート施設)の開発計画が進められている。
しかし、カジノを誘致することに対しては元々地元民から反対の声も多く、そこへ今回の水原氏の一件でギャンブル依存症の恐ろしさが詳らかとなったことで、大阪のIR構想の推進にも少なからず影響が出るのではないかという指摘が出ている。
フィクションにおける借金や損失額の現実味
億単位の金額と言えば長らくフィクションで「通常の手段ではどうあがいても返済不能な借金」や「人を禁断の道へ進ませるための動機」、「お金持ちキャラの金銭感覚の異常さ」を示す為のアクセントとして使われてきたが、この事件の被害・損失額があまりにも桁外れな為、「水原氏の窃盗金額より少ない」「お金にほとんど興味のない一流野球選手の信頼を得てからバレないように工作して盗めば手に届く位の金額」と、半ばジョーク的な意味を含みつつも、今回の事件で「1億円」という数字の重みが薄らいでしまったという声がある。
- 例として、『FX戦士くるみちゃん』で主人公(女子大学生)がスイスフランショックで有り金溶かすどころか1億円超えのマイナスを叩き出してしまったという絶望展開に「が、がんばれ!まだ24分の1一平だぞ!」「メジャーリーガーのお友達の収入を掠めとれば返済出来る!」というコメントが付くなど。
また、水原氏の窃盗額(24億)を一つの単位として扱う(例えば9億→0.37平)者もおり、アメリカでも「ePay(海外オークションサイト「eBay」の捩り)」など不謹慎ながら新たなスラングが生まれている。
ギャンブル依存症への差別・偏見の助長
水原氏の行為があまりに悪質極まりないものであったことから、真相判明後は水原氏の人格そのものを否定するかのようなバッシングの声や、そう受け止められても仕方のない中傷的な記事も多数見られるようになった。
しかし、ギャンブル依存症の支援団体は「水原氏の行った行動自体は断じて許されるものではない」としながらも、「ギャンブル依存症はれっきとした精神疾患であり、苦しんでいる患者が大勢いる。こういったバッシングの声が大きくなると、ギャンブル依存症への差別や偏見を助長することへと繋がり、依存症の患者たちを社会的・精神的にさらに追い詰めることになりかねない」と警鐘を鳴らしている。上記にもある通り、日本は欧米圏と比べると依存症への理解や支援の手がまだまだ不十分という事情もある。
なお、実際に、登山家の野口健氏が自身のSNS上で水原氏の行動を「万死に値する」とコメントしたため、依存症の支援団体や依存症の当事者等を中心に厳しい批判の声を受け、コメントを削除する事態になっている。
PayPayドームの名称変更に関する問題
福岡ソフトバンクホークスの拠点であるPayPayドームは本年度からみずほ銀行もネーミングライツに加わり、みずほPayPayドーム福岡という名称になったが、これを略すと「みずペイドーム」と水原一平氏を思わせるようなネーミングになってしまい、水原一平ドームなどと揶揄するユーザーも現れている(なお、現時点では施設側は略称は未定とし、公のメディアでは「みずペイドーム」の略称は一切使われていない)。
ホークスは昨年度から金に糸目をつけない大幅な戦力強化やWBC2023のメンバーでもあり、不祥事を起こしていた山川穂高選手を獲得し、更にそこから関連する移籍事情のごたごた騒動によってプロ野球ファンから悪の帝国のような扱いを受けており、そこにドームの風評被害も加わってダーティなイメージがより深まってしまったことを心配するホークスファンもいる。
関連項目
関連人物
ショーンK:今回の一件がきっかけとなり、過去に侵した学歴詐称が再注目され、SNS上でもトレンド入りしてしまった。ちなみに、こちらは騒動終結後に無事に社会復帰を果たしており、現在は反省して新たな人生を歩み始めている。また、水原氏が訴追される直前には別の人物にも学歴詐称疑惑が持ち上がったが、こちらは以前から疑念を抱かれていたためかそこまで大きな騒ぎにはならなかった。
粗品:お笑いコンビ「霜降り明星」のツッコミ担当。大のギャンブル好きで、生涯収支マイナス1億円君なる持ちネタがあったことから、彼に準えて水原氏を「生涯収支マイナス62億円君」とネタにする者も(実際ギャンブルにハマり過ぎて離婚した過去がある)。粗品もこのことを把握しており、自身のSNSやオールスター後夜祭に出演した際には「水原お兄ちゃん」と呼ぶ等、色々ネタにしたことがあった(参考①、参考②)。しかし、その後真相が明らかになると、自身のYouTubeチャンネルにおいて、「おちゃらけれてたけど今までは。真偽があれやったから。結構バシッと決まってしまった感じがあって、擁護できないのかなと言う感じですね」と、水原氏の詐欺・窃盗行為を厳しく批判した。なお、水原氏はInstagram上でなぜか粗品氏のアカウントをフォローしていたことが明らかとなっている。同じギャンブルに身を投じた者として、色々思うところがあったのだろうか?
レイザーラモンRG:ドジャースのシーズン開幕直前、水原一平氏のモノマネを披露したが、その直後にこのスキャンダルが発覚した為、敢え無く封印となってしまった。しかし、オールスター後夜祭にて「ドジャースファンの一般人」と称して一夜限りのモノマネを復活させた。
高橋健一:相棒の知らない所で連続犯罪を繰り返していた実在人物(こちらは制服泥棒)。その事件によりコンビは解散となり、その相棒はバイプレイヤー系俳優として活動している。
頂き女子りりちゃん:SNS上で彼女と水原一平氏及び当事件を合体させて、頂きギャンブラーりり平なるネタが生み出されてしまった(両者は共に他者に対して億単位の金銭被害を与えていたという共通点がある)。その凶悪過ぎるパワーワードが一躍話題となり、一時トレンド入りしてしまった。
リル・ヨッティ:アメリカのミュージシャン(ラッパー)。海外で、生成AIを使って、彼のライブ映像を水原氏に置き換えたコラ動画が作られてバズるという事態が起き、これを受けて、水原氏以外にも様々な人物やキャラクターを合成させるミームが国内外で大量発生した(→Lil_Yachty_walk_outを参照)。
関連キャラクター
スリの銀次:『桃太郎電鉄』シリーズの登場キャラクター。平気で相手から数十億(場合によっては数兆)単位の金を掠めていくため、その鮮やかな(?)手口から彼を思い出した者も多く、ショーンK同様にトレンド入りしてしまった。ただ、こちらは盗んだ金を慈善事業や自然保護目的で寄付しているため、私利私欲で金を使っていない分、水原氏よりはまだまともだという意見も。
甲斐享:相棒の信頼を裏切り、悪事に手を染めていた人物繋がり(こちらは私刑行為)。一度は名声を手に入れたが、その事件により容疑者として転落してしまった点も共通する。また、その相棒も彼が犯罪を繰り返していた事は知らなかった。
その他
大谷ハラスメント:日本国内の連日供給過多とも思われる大谷選手報道に対して疲れや苛立ちを感じている日本人も多い(もっとも、これは日本のメディアの報道の在り方に問題があるのであって、大谷選手自身に落ち度があるわけではない)。中には大谷選手に対してヘイト的感情、誹謗中傷を行うような者も出現するようになり、今回の事件は彼らにとって大谷選手と日本メディアの報道姿勢を叩く絶好の機会になってしまった(しかし、捜査の結果、大谷選手の潔白が証明されることとなり、大谷選手を嬉々として叩いていた者たちの大半は、根拠のない憶測や一方的な言いがかりで大谷選手をバッシングしていたとして逆に大きく非難される羽目になってしまった)。