戦争
せんそう
概要
戦争(せんそう、英語:War)とは、主に独立主権国などが政治的な目標を達成する為、自らの軍事力・武力を用いて他の集団に対し、組織的に実行する軍事活動・戦闘行為である。国家が戦争で許される事と許されない事については、戦時国際法という法律で規定されており、例えば「捕虜や民間人を殺害してはならない。」・「兵士は軍服に類するものを着用して所属を示すものを身に付ける。」といった規定がある。
ただし実際の戦争では民兵・民間軍事企業などに資金・武器を提供し、国軍以外の武装勢力が介在する事も多く、国内において対立した勢力が武力を用いて衝突する内戦・テロリストやゲリラと国家の間で展開される非対称戦争もある。近年では独立主権国同士の正規戦よりも、むしろこういった非正規戦争の方が多発している。
例えばエルサルバドルとホンジュラスのサッカー戦の遺恨がもとで始まった。ただし元々両国は緊張関係にあり、サッカーのみが原因では無い。このサッカー戦争は両国にもたらした損失が莫大で最悪の結果となった。ホンジュラス人は数千人が死亡し、エルサルバドルも戦後は没落した。
この例に限らず勝敗を問わず戦争によって国土は荒廃し、莫大な戦費の負担で経済は疲弊して戦闘で前途有為な若者を多く失い、国の没落を招くという悲惨な結果となった事例は、歴史上枚挙に暇がない。例えば第一次世界大戦後のフランス(戦勝国)とドイツ(敗戦国)・第二次世界大戦後のイギリス(戦勝国)とハンガリー(敗戦国)などである。
戦争では相手方に多くの損害を与えた方が勝利という認識を持っている人がいるが誤りであり、戦争によって政治的目標を達成した方が勝ちである。その為戦闘では終始優勢を保っていた側が敗戦する事もあるし、大損害を出した側が有利な条件で講和にこぎつける事もザラにある。
戦争は有史以前から存在してきたが、1861年4月の南北戦争からは最新の近代兵器が次々と開発・投入され、国民と経済力を根こそぎ動員する総力戦となった。1914年7月と1939年9月の両大戦は民間人を巻き込んだ大惨禍となり、核兵器の出現で世界を滅ぼしかねない事態になった為、各国とも戦争という武力を背景にした外交手段に訴えるのには慎重となった。
1945年9月に第2次世界大戦が終結した後は、アメリカ・ソ連を中心とした自由主義(西側)と共産主義(東側)の対立で冷戦が先鋭化するに従い、両陣営は世界の破滅に繋がる核抑止力を強化して先進国同士が直接衝突する戦争は避けるようになった。それでも発展途上国同士の戦争・発展途上国を戦場とした代理戦争・テロリストやゲリラを巻き込んだ非対称戦争は21世紀の現代でも絶えておらず、多くの悲劇が繰り返されている。
戦争非合法化の流れ
近代的な平和主義の源流は哲学者イマヌエル・カントで、1795年9月に執筆された『永遠平和のために』において、各国が共和制(君主がいない体制という意味では無く、民主主義体制という意味)を採用し、さらに常備軍を全廃し、国際法によって内政干渉と侵略戦争を禁止する事で、永遠の平和を実現できるのでは無いかという構想を示した。
1920年1月に国際連盟・1945年10月に国際連合が創設された事は様々な問題をはらみつつもカントの理想に沿ったもので、日本国憲法の第9条もこの思想を源流としている。国際連合では長い間の議論の末、1974年12月に総会で侵略行為が定義された。
ただし侵略の違法化は、テロ・内戦と言った独立主権国が当事者とならない戦闘状態を抑止するものでは無い。これについては各国が協調してテロリストを取り締まると共に、貧困対策・薬物の取り締まり・環境問題といった取り組みを通じて、戦争の原因を無くす事が目指されている。
なお過去に世界平和を構想した人物の中には、その考えからかえって戦争を煽った者もおり、SF作家のH・G・ウェルズは「世界戦争で列強各国が滅び、一握りのエリートが統治する世界政府がとって変わる(新世界秩序)」ことで戦争を廃止するという考えを構想し、「戦争を終わらせるための戦争」として第一次世界大戦を賛美した。日本でも石原莞爾が「ただ1人の人物を頂く国家(大日本帝国)が世界を征服すれば戦争は無くなる」という構想を描き、満州事変を引き起こした。
現在ではこうした考え(「平和のための戦争」「世界規模での中央集権体制の樹立」)は平和主義者から厳しく批判され、各国の国際協調による世界平和の樹立が主張されている。
戦争に対する意識の変遷
戦争は第一次世界大戦までは、古代ギリシャをはじめむしろ英雄叙事詩を生み出し、一種のロマンの源となっていた。 戦争の現場は悲惨だが、その悲惨な運命を弱い立場の者の代わりに引き受ける人々、すなわち戦士や貴族といった戦争を戦うための身分が存在していたためであった。彼らを勇者と讃えて人間の理想像とする物語は古来より枚挙に暇がない。
そうした残虐さとは区別された勇者の戦いとしての戦争は、男性性の本質の発露であるとされ、その男性性のロマン化によって、日本の武士道や西洋の騎士道に代表されるような精神哲学・道徳・思想や、文学や芸術が生まれたことも、歴史的事実である(『平家物語』『アーサー王と円卓の騎士』『アルプス越えのナポレオン』など)。
また、前近世の王権社会においては戦争に参加することは参政権を得ることに必要なことであり、特に西洋における特権階級は、命を懸けて戦争で戦うことを「高貴な義務」として、率先して引き受けること(ノブレス・オブリージュ)によって、自らの支配を正当化させる目的もあった。
同一文化圏内における戦争では、戦時国際法の成立以前はその文化ごとの『ルール』があり、戦争の「止め時」があったことも大きい。逆に言えば、異なる文化・宗教・民族がぶつかるタイプの戦争はそういったルールが通用せず、虐殺や殲滅戦争に陥りやすかった。中世ヨーロッパにおける十字軍などが良い例だろう。
当時の戦争による被害は、近代以降における戦闘に巻き込まれることによる損耗よりも、作戦部隊の兵站の概念がまだ未発達または不在であったため、規律が不十分な兵士たちが勝手に現地民間人に対して略奪を行うことによるものの方が多かった。
ところが先述した通り、フランス革命やアメリカ独立戦争といった出来事を経て、国民国家の成立に伴う国民皆兵という意識から大国が徴兵制が採用して大量の兵員を戦場に送り出せるようになったことと、兵器の劇的な発達、鉄道などの運送技術の発達による兵站の進化がかち合ったことによって、戦争の様相は一変することになる。
とくに中世から近世への過渡期に火薬を用いた鉄砲や大砲が出現。剣や弓矢、甲冑を使うにはそれを使える筋力と訓練が必要だったが、比較的手軽でかつ殺傷力の強い銃火器の存在により、戦争でより多くの戦力と人員を増やし、より多くの犠牲者を増やすこととなった。
近世から近代に入り、アメリカ南北戦争では、ガトリング砲などの新兵器、鉄道と電信の発達を背景に国民総動員による総力戦が戦われ、北軍のウィリアム・シャーマン将軍は「海への進軍」によりアメリカ南部の広い範囲に破滅的な被害をもたらした。
そして「国家総力戦」と呼ばれる戦時体制が出現した第一次大戦では塹壕戦が長期化し、空中戦が初めて行われ、ロンドンやパリなどの大都市が爆撃に遭い、東部戦線では毒ガス兵器が使用され、参戦国の若者の人口が大きく減少するような大きな被害が出た(死者数:約1600万人)。
ノブレス・オブリージュを率先して引き受けた若い貴族たちは第一次大戦でその多くが戦死し、ヨーロッパにおいて長く続いた貴族社会は崩壊してゆく。
英雄的な戦いではなく、武装した一般市民兵が戦場を駆け巡って塹壕戦を強いられ、もはや英雄が出現することはなくなったのである。これ以降、英雄叙事詩の代わりに、大量殺戮と戦場の悲惨さだけが際立つ、現代の戦争となっていく。
これが決定打となり、19世紀の国民国家形成と近代戦争に伴って緩やかに成立、共有されつつあった「戦争は関係国家・国民を疲弊させ荒廃させるもの」という認識は、より明確な『反戦意識』へと変化。第一次大戦で特にズタボロとなった欧州では厭戦気分から平和主義が台頭し、これに日米も加わって侵略戦争を違法とする「パリ不戦条約」が結ばれて初めて戦争の違法化が明確に定められた。そしてナチス・ドイツへの宥和政策が支持を集めるなど、もう戦争は起きないであろうという願望にも似た予測が唱えられた(いわゆる「戦争の終わり」)。
しかし、「侵略か自衛か」「どこが重要な地域であるのか」に関しては当事国が決めてよいとされていたため不戦条約はついに実効性をもつことはなく、日本の満洲侵略、ソ連のフィンランド侵略などが相次いで起こり、第二次世界大戦の勃発を許してしまう。国民の反戦意識や厭戦気分は、国家総力戦においては邪魔になってしまうため、特に枢軸国では当局による取り締まりや主戦派による戦意鼓舞、反戦派へのテロが横行し、全体主義化が進んでいった。
第二次世界大戦では独ソ戦、ホロコーストなど、第一次世界大戦に数倍する災厄が欧州を襲った。最終的に核兵器が登場し、それがもたらす致命的な被害が広島・長崎で明らかになると、人類文明は自らを滅ぼすことができる手段を手に入れたというコンセンサスが広く共有されるようになった。
第二次世界大戦後、列強の帝国主義政策の崩壊とともに国際連合による集団安全保障体制が築かれ、また核抑止体制の確立により大国同士の戦争は姿を消した。冷戦期のベトナム戦争では戦場での報道の自由が開放され、政府ではなく民間報道によって戦場の有様を即日各国の一般人が知るようになり、世界各地で同時多発的に反戦抗議運動が起きるようになった。
発言集
- 「戦争とは他の手段を用いて行う外交の延長線上にあるもの。」:カール・フォン・クラウゼヴィッツ
- "Never think that war, no matter how necessary, nor how justified, is not a crime." ── Ernest Hemingway:どんなに必要であろうとも、いかに正当化されようとも、戦争が犯罪ではないと考えてはならない。 ── アーネスト・ヘミングウェイ
- "War does not determine who is right - only who is left." ──Bertrand Russell:戦争は誰が正しいかを決定するのではなく、残されるものを決めるのみである。 ── バートランド・ラッセル
- 戦争から煌きと魔術的な美がついに奪い取られてしまった。アレキサンダーやシーザーやナポレオンが兵士達と共に危険を分かち合い、馬で戦場を駆け巡り、帝国の運命を決する。そんなことは、もうなくなった。これからの英雄は、安全で静かで、物憂い事務室にいて、書記官達に取り囲まれて座る。一方何千という兵士達が、電話一本で機械の力によって殺され、息の根を止められる。これから先に起こる戦争は、女性や子供や一般市民全体を殺すことになるだろう。やがてそれぞれの国には、大規模で、限界のない、一度発動されたら制御不可能となるような破壊の為のシステムを生み出すことになる。人類は初めて自分達を絶滅させることのできる道具を手に入れた。これこそが、人類の栄光と苦労の全てが最後の到達した運命である。: ── ウィンストン・チャーチル
- "Mankind must put an end to war, or war will put an end to mankind." ── John F. Kennedy:我々が戦争を終わらせなければ、戦争が我々を終わらせるだろう。 ── ジョン・F・ケネディ
- "War is delightful to those who have had no experience of it." ── Erasmus:戦争は、経験していない者には魅力的である。 ── エラスムス
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"We must be prepared to make heroic sacrifices for the cause of peace that we make ungrudgingly for the cause of war. There is no task that is more important or closer to my ." ── Albert Einstein
我々は平和のためには、英雄的な犠牲を払って戦争に備えなければならない。それ以上に重要で大事な任務はない。 ── アルバート・アインシュタイン