特殊撮影
特撮とは、特殊撮影の略。
又はそれをメインに据えた映像作品のジャンル。
概要
着ぐるみや模型のセット、映像合成等を使い、現実には撮影困難な映像を作り出す。
古くはトリック撮影と呼ばれていた。
特撮の大家として知られる円谷英二は、太平洋戦争中、戦争映画の制作に携わり、戦況を特撮技術で再現している。
"特撮"と言う呼び名は、1958年頃からメディアの間で使われ始めたもの。
1966年からの第一次怪獣ブームには、市民に定着してしばらくはウルトラマン等、巨大なキャラクターが活躍する作品が人気を博していった。
そして、1971年に仮面ライダーが放送開始、子供達の間で『変身』が流行すると、等身大ヒーローが怪人と戦う方式も定着していった。
日本語で"特撮"と言う場合、その前後から発祥し、日本の文化として根付いた
と言ったサブカルチャーのジャンルを指す事が多い。ロボコンやビーロボカブタックのように、非日常の存在が日常に溶け込むコメディ作品や、美少女仮面ポワトリンといった魔法少女もの、怪奇大作戦のようなヒーローやモンスターの類が全くと言って良い程登場しない作品や妖怪ものも存在する。
同じ特殊撮影でも、ハリウッドを始めとする大衆映画で使われるものは、SFXと呼ばれる事が多く、"特撮"という言葉からは連想されづらい。
「怪獣」「ヒーロー」等の単語から連想される日本の"特撮"は、独自に発展したジャンルとして扱われ、英語でも"Tokusatsu"と言う言葉が生まれている(英語版Wikipedia参照)。
日本の有名な特撮作品
など
制作会社
ゴジラシリーズの製作で知られる映画会社。
TV番組としては流星人間ゾーン、行け!ゴッドマン、メガロマン、七星闘神ガイファード、超星神シリーズなどが有名。
特撮の神様、円谷英二(元東宝勤務)門下の撮影プロ。現在は松竹系の会社。
代表作はウルトラシリーズの他、近年ウルティメイトフォースゼロとしてリメイクされているミラーマン、ファイヤーマン、ジャンボーグAなど枚挙に暇がない。
実験的作品を排出し続けていた事で有名で、アニメと実写を組み合わせるという大胆な所業をやってのけた時代も存在していた。
巨大ヒーローものといえばこの会社を連想する人が多い。(等身大ヒーローものを制作していた時期もあるのだが。)
石森プロの作品で有名な特撮の王様。1970年代末からのアニメブームによる特撮不況に耐えた唯一の会社。現在もスーパー戦隊シリーズと仮面ライダーシリーズの二枚看板の他、メタルヒーローシリーズやキカイダーなど様々な作品に関わっている。おそらく単純な番組数ならぶっちぎりの1位。それ以前にも七色仮面や仮面の忍者赤影を製作している。
円谷プロと比べ等身大ヒーローや巨大ロボが登場する作品が多い。長らく低予算だったゆえに脚本で勝負するという手段を生み出した。
なお、東映ビデオからは円谷作品がソフト化される事も。
- 大映(角川大英)
ガメラシリーズ、大魔神、妖怪大戦争などの制作で知られる老舗の映画会社。
1960年代は東宝、松竹に並ぶ三大怪獣映画会社として覇権を争っていたが、1971年に倒産。
しかし映画制作業務は徳間書店に引き継がれた後に角川書店が大映の営業権を取得し株式会社角川大映映画を新規設立。
現在でも角川映画で大映ブランドの特撮映画が制作され続けている。
漫画家うしおそうじによって旗揚げされた特撮会社。
日本初のカラー特撮番組『マグマ大使』を始め、スペクトルマン、鉄人タイガーセブン、ライオン丸シリーズ、電人ザボーガーなどに関わる。
月光仮面やシルバー仮面、アイアンキングなどを制作。変身ヒーローものでは最古参。
過去には特撮作品などの映画を制作していたが、現在の活動は自社制作作品の版権管理を事業としている。
日本の映像会社。かつては怪獣ブームに乗ろうと『宇宙大怪獣ギララ』を製作していた。その後も魔弾戦記リュウケンドーやトミカヒーローレスキューフォースなどにかかわる。
ウルトラシリーズの劇場版の配給も行っているが、まともに宣伝してくれないとファンからたびたび批判されている。
ロマンポルノで知られる映像会社。こちらも怪獣ブームに乗ろうと『大怪獣ガッパ』を製作。松竹からトミカヒーローの製作を引き継ぎ、レスキューファイアーを製作した。
映画監督の雨宮慶太原作の『牙狼』を製作。また『ウルトラマンパワード』の日本語吹き替え版を製作していた。
アメリカにかつて存在していたマネジメント会社で、パワーレンジャーシリーズなどの日本の東映特撮作品をローカライズしていた事で有名。パワーレンジャー・ワイルド・フォース以降の作品はディズニー制作となったが、パワーレンジャー・サムライで再び制作に復帰、2018年以降はハズブロがパワーレンジャーシリーズを制作する事となる。
パワーレンジャーの大ヒットを得て仮面ライダーBLACKRXやメタルヒーローシリーズをローカライズしたことでも有名。東映作品以外だと他社が電光超人グリッドマンをローカライズしている。
映像業界における特撮
このように日本の特撮は世界に誇れる立派なカルチャー・ジャンルの1つであるのだが、国内の一般層や芸能プロダクションに於いては未だに『子供騙し』や『低俗な作品』と言う過小評価が蔓延しているのも否めない。その為アニメゲーム漫画と異なり、特撮は幅広く浸透していない現状にある。昭和では特撮をジャリ番と称し、放送業界関係者から侮蔑されていた。
また、業界では「特撮に出演することは俳優のキャリアにとってよくない」とされる一応の理屈がある。それは、特撮でヒーロー役を演じると、どうしてもその役のイメージが俳優自身につきまとってしまうということだ。
ただこれは俳優のせいではなく、視聴者である我々の問題である。
特撮ドラマは子供の視聴者をメインにするが、ぶっちゃけ子供の頃に見たヒーローのイメージは大人になっても残る。なので、大人になった時代に、子供の頃に見たヒーローの役者が情けない役や悪役を演じるのを見てしまうと、理屈抜きに嫌悪感を覚えるという人は意外に多いのだ。
つまりヒーロー役を演じることは、10年以上の長期的スパンで見ると、役の幅を狭めるリスクを背負っているところもあるのだ。
2010年代あたりからは特撮に出ている俳優が話題になりその線でマスメディアで好意的に取り上げられる機会が増えたが、やはり俳優への注目が主流であり、専門外のメディアが「作品」そのものを取り上げてくれることは、アニメやゲーム漫画に比べるとまだ少ない状況である。そのため「子供とオタクにしかわからない世界になってしまっている」と言う指摘もある。
実際、『ウルトラマンティガ』でマドカ・ダイゴを演じたV6の長野博氏は、「『ティガ』は自分の大切な代表作」と語っているが、ジャニーズは公式ホームページで彼の出演作品欄でそれを削除しようとしたと言われている(無論、長野本人の強い希望で削除されていない)。
『ウルトラマンタロウ』で東光太郎を演じた篠田三郎氏もまた本放送終了後、『ウルトラマンメビウス』を含めたタロウが出てくる作品で、東光太郎として演じる事は残念ながら一度もないが、氏は嫌っている訳ではなく、イベントでもタロウに関するエピソードを話したり、変身ポーズを取ったりしてくれている。本人曰く「『タロウ』は自分にとって財産」であり、最近ではタロウの息子であるタイガが活躍する『ウルトラマンタイガ』のBlu-ray BOXの発売決定に際し、応援コメントを寄せている他、Blu-rayBOX2巻では主演の井上佑貴との対談も果たしている。
『仮面ライダーW』にて主人公の師匠・鳴海荘吉/仮面ライダースカルを演じた吉川晃司氏も「自身の俳優の代表作は?と尋ねられたら、仮面ライダースカルと言う」と誇示しているが、数人の関係者から「君のキャリアだったら出なくても良いのでは?」と出演の辞退を進言されたらしい。
似たような事例として『キカイダー01』のイチロー役の池田駿介も『帰ってきたウルトラマン』出演時には、周囲から「所詮子供番組」「そんなものに出たら将来仕事に困るぞ」と出演自体に苦言を呈されていた事実を生前語っていた。
平成仮面ライダーの第1作『仮面ライダークウガ』の主人公の五代雄介を演じたオダギリジョーも当初は「内容次第では蹴ろう」と考えていたが、監督の「大人でも真剣に見れる作品を作る」と言う熱意に絆されて参加したとされる。
後年に発売されたクウガのBlu-ray ボックスの発売イベントでは主人公を務めながらも不参加だった為、ファンからは「やはり彼はクウガには思い入れがないのでは?」と思われていた。一応フォローしておくと本人の記事を読んで見て貰えば分かるように、この説に関しては本人自身が出演したラジオ番組で否定している(しかし、以後もクウガ関連のイベントにほとんど参加していない事、ジオウで本人を含めてオリキャスが1人も出演していない事もあって、未だにこの説を信じている人達も多い)。
ちなみに、氏は現在お蔵入りとなってしまったクウガの劇場版に関しても、脚本次第では出演に前向きだった事と、東映を去った高寺プロデューサーが製作に関わった「大魔神カノン」の最終話においても、特別出演したり等かつて共演した『クウガ』キャストとも交流を続けている(更に2008年8月に行われた『クウガ』同窓会等にも出席している)。
また、ヒーロー役を演じたことで役者人生が狂わされたという残念な実例も存在する。
有名な例としては、かつてスーパー戦隊シリーズの第1作『秘密戦隊ゴレンジャー』で、2代目キレンジャー/熊野大五郎を演じただるま二郎氏がある。キレンジャーとしてのイメージが定着したて以降、仕事が来なくなってしまい、終いには障害を患って芸能界を引退せざるを得なくなった。
俳優の奥田瑛二氏のデビュー作は映画『もっとしなやかに、もっとしたたかに』となっているが、実際は東宝が制作した『円盤戦争バンキッド』である。上記のだるま氏と同じくバンキッド以降イメージが定着してしばらく仕事がなくホームレス生活をしていた事もあった。デビュー作が変わったのは事務所の意向であり、奥田氏はバンキッドについては「人気番組にできなかったのは自分の実力不足だ」と語るほど深い思い入れがある模様。近年ではとある番組で変身ポーズを披露したり、長年発売されなかったDVDが出たりと、それなりに知られるようにはなっている。
更に悲惨な例として『ジャンボーグA』の立花ナオキ役・立花直樹氏があり、ジャンボーグの後はどこにっても「ジャリ番出身者」と罵られてまともに仕事にありつけず、『ザ・カゲスター』で再度主演したもののそのまま引退し、ついには薬物所持で逮捕されてしまった。
大の特撮ファンとして知られる庵野秀明はこうした事情を顧みて、書籍『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』で監督作である『シン・ゴジラ』の販売戦略について次のようにコメントしている。
「世間一般から見れば、『シン・ゴジラ』は陳腐な子供騙しのニッチな怪獣映画のイメージなんですよ。これは怪獣映画の悪口ではなく、客観的に現状ではそういう認識下にあるという事です。怪獣映画を観た事がない、観る気がない人が世間の大半なんですよ。初代『ゴジラ』も当時はゲテモノ映画と揶揄されたと聞きます。そのイメージを事前に払拭して初日に観に来てもらう事は容易ではないんです。「ゴジラは長年認知されているから大丈夫だろう」という声も聞きますが、僕は逆なんですよ。一般観客は「ゴジラだから観に行かない」んです。(中略)怪獣映画はアニメよりも一般向けへのハードルが高いので、初日に来てくれるファン、コアユーザーのSNSやネットの口コミに頼るしかないと考えています。コアな観客を信じるしかないんですね。本作は怪獣が出てくる映画である以上、万人向けではないんですよ。怪獣が特撮が好きなコアなファンから、子供の頃怪獣映画を観ていた記憶がある大人へ、何処まで広がるか、その拡大要素をどこまで作品に盛り込み、宣伝で拡散できるか、なんです。(後略)」
俳優からの評価
しかし、実際に特撮番組に出演した俳優の殆どは、「出演して良かった」と思っている方々も多い。
初代仮面ライダーで1号/本郷猛を演じた藤岡弘、氏は、撮影中の事故により大怪我を負った事で「もし、あの事故と怪我が無ければ、自分はアクションもできる俳優と鼻にかけた、嫌な人間になっていたかもしれない」「仮面ライダーは僕の青春です」と言わしめる程に、その後の俳優人生への戒めと糧になった事を語っている。
他には仮面ライダーBLACKRXでマリバロンを演じた高畑淳子女史は、「この作品がなければ役者として食べていけなかった」と証言した。
更に快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャーにて、ゴーシュ・ル・メドゥの吹き替えを担当した竹達彩奈女史は、「自分の引き出しになかった演技が出来るようになった」と発言している。
仮面ライダーWで園咲琉兵衛役で出演した寺田農氏は、同作の公式スピンオフの風都探偵10巻の巻末インタビューにて、『もともとこういう作品が好きなんですよ。「花も実もある嘘」を堂々とつけられるところが面白いというか…(中略)』と、特撮の出演自体に好意的な俳優も居る。
更に周知の通り、現在の特撮は若手俳優の登竜門とされており、仮面ライダーアギトの賀集利樹と要潤、仮面ライダーWの菅田将暉、仮面ライダーOOOの渡部秀が、スーパー戦隊シリーズでは天装戦隊ゴセイジャーの千葉雄大、侍戦隊シンケンジャーの松坂桃李等、現在も第一線で活躍している俳優を数多く輩出している(特に渡部氏は仮面ライダー愛が極めて強く、自身が出演する仮面ライダー映画には、脚本制作段階から参加する程)。
主役以外の俳優に目を向けると、仮面ライダー555にて澤田亜希/スパイダーオルフェノクを演じた綾野剛も著名であろう。
国内外の影響
仮面ライダー電王の主要キャラクターの1人・キンタロスのモチーフはハリウッド映画のロボコップであるのは比較的有名な話だ。
しかし、このロボコップが生まれた切っ掛けになったのは、特撮の宇宙刑事ギャバンである。
又、同じくハリウッド映画のプレデターの外見は、電撃戦隊チェンジマンに登場した怪人・副官ブーバがモチーフである。
他にもギレルモ・デル・トロ、ジェームズ・ガン、マイケル・ドハティ、J・J・エイブラムスなど日本の特撮に影響を受けた海外のクリエイターも少なくはない。
このように、日本の特撮が海外の有名映画に影響を与えている例があり、この事実からも日本の特撮は決して低俗ではない事を示している。
海外における特撮人気
国によって人気の作品が異なり、以下の特撮作品が人気の模様である。日本ではマイナーになってしまった作品が、他国では大人気だったなんて話も存在する。
これらを踏まえると、欧州やアメリカではスーパー戦隊が、アジアでは仮面ライダーやウルトラマンが人気を博す傾向にある様子。
悩ましい特撮性別問題
特撮はヒーローやメカが多く登場したり、難解な設定が導入されたり、玩具の販促の都合上、女児向けアニメの存在と言った諸々の理由から『男性向けコンテンツ』と言うイメージを持たれる事が多いが、確かにそう言う傾向こそあるものの、女性向けの特撮が無かったかと聞かれればこれはNOである。
90年代には東映から『東映不思議コメディーシリーズ』と称して、女児でも楽しめる内容の特撮作品が放送されていたし、21世紀に入ると美少女戦士セーラームーンが実写化されたり、2010年代後半期から『ガールズ×ヒロイン!シリーズ』と題して東映以外の企業が参入した事は記憶に新しい。但し、男が見ると内容上ロリコン扱いは避けられず、下手すると昭和末期の某重大事件の再現になる危険性を秘めている。
平成ライダーシリーズ等のイケメンヒーローブーム以降、一般に男児向けとされるコンテンツでも、女性ファンの参入による影響はかなり大きくなっている。だが、これも「腐女子ウケを狙って展開が歪められている」と言う非難を招き易い。
また、昨今は性別論が炎上し易い傾向から、公式側は「〇〇向け」と言うキャッチフレーズの扱いに慎重になっている節がある。(『仮面ライダーゼロワン』プロデューサー井上千尋氏の発言より。)
また、現在はトランスジェンダー等に代表されるLGBTの事を考慮する必要もある。2021年放送のザ・ハイスクールヒーローズでは(主演俳優陣が美_少年と言うのもあるが)、モモヒーローを『トランスジェンダーの青年』に変身させる事で、トランスジェンダーを真っ正面から取り組みつつ、従来の『「ピンク=女性」の図式』に一石を投じた上、サンバルカン以来の『男性だけの戦隊ヒーロー』の復活にも繋がる事態を起こした。