概要
昆虫とは、六脚亜門のうち昆虫綱に属する節足動物のこと。昆虫類、外顎類ともいう。
いわゆる「虫」として最も一般に知られる動物である。トンボやバッタ、セミ、ハチ、カブトムシ、テントウムシ、チョウなどが含まれる。
学名は「Insecta」(インセクタ)、英語名は「insect」(インセクト)。これらは「節に別れた体」ないし「切り分ける」を意味するラテン語「insectum」に由来で、後述の体の特徴に因んでいる。
全世界でおよそ100万種が知られ、これは地球上全動物の実に四分の三、全生物の半分以上を占める。それでもまだ未発見の種が多数存在すると言われる。地中から地上や淡水、空中まで、様々な陸上生態系に圧倒的な種数と個体数で栄えている。
ただ不思議なことに、海に進出する昆虫はウミアメンボなど僅かでしかなく、この分布具合は近縁(後述)である甲殻類とはまるで正反対である。これについては「海に甲殻類が栄えてニッチを占められた」・「海の環境は甲殻類より昆虫の外骨格の作りに不利」などの説があるが、どれも議論の余地があり、未だに決着が付いていない。
体の特徴
昆虫の体は関節した外骨格に覆われ、基本的に頭部・胸部・腹部の3つに分かれていて、3対6本の脚を胸部に持つのが特徴。また、多くの種類は胸部に2対4本の翅を持つ。
この点により、一般に「虫」と呼ばれる動物の中で、カタツムリやナメクジなどの陸棲巻貝(体節と関節を持たない)、ミミズなどの環形動物(外骨格と体の区分を持たない)、そして昆虫と同じ節足動物であるクモやサソリ(体が二つに分かれて8本の脚を頭に持つ)、ダンゴムシやムカデ(脚を数十本以上持つ)などが昆虫でないことが分かる。
頭部は原則として肢が1対の触角と3セットの顎(大顎・小顎・下唇)、眼は1対の複眼と3つの単眼を併せ持つ。胸部は3節(前・中・後胸)で1節につき脚を1対有し、翅は中胸と後胸のみに持つ。腹部は見かけ上10節以下で、末端には生殖器や尾角などの器官が見える場合がある。呼吸器は原則として全身を行き渡る気管で、胸部と腹部の両筋に気門が開く。
ただし昆虫は非常に多様で、一見上記の特徴から逸脱した種類も多くいる。例えば甲虫とカメムシは胸部と腹部の境目が密着して分かりにくく、ハエの幼虫は脚を持たず、イモムシは胸部の他に腹部にも脚として機能する器官を持つ。チョウは大顎が退化し、完全変態の幼虫は複眼を持たず、一部の水生昆虫は気管ではなく鰓呼吸である。翅は成長段階(後述)や種類により持たない場合があり、古生代の一部の昆虫は前胸に更に1対の翅らしき構造を持つ。
また、上記の特徴に当たる節足動物の中でも、現在では昆虫扱いされないものがいる(後述の「系統分類」を参照)。
他の節足動物と同様、脱皮を介して段階的に成長する。昆虫の未成年個体は「幼虫」、成年個体は「成虫」、その間に起こる明らかな姿の変化は「変態」と呼ばれる。変態を行う昆虫のうち成虫になる瞬間の脱皮は「羽化」という。
系統分類
節足動物の中では六脚類(六脚亜門)に所属し、これは昆虫と内顎類(トビムシ、カマアシムシ、コムシ)をまとめたグループである。かつて、内顎類は昆虫に所属(つまり六脚類=昆虫)とされた。どれも頭・胸・腹に分かれる体と6本の脚を胸部に持つが、昆虫は別名「外顎類」の通り顎が外に露出し、触角が付け根のみ筋肉を有するのに対して、内顎類は名前の通り顎を頭の内部に格納され、触角が全ての節に筋肉を有するなど根本的な違いによって、両者が後に区別されるようになった。
この六脚類の位置付けについて、かつては似た頭部構造(1対の触角+3対の顎)と呼吸器(気管)を持つ多足類(多足亜門、ムカデ・ヤスデなどのグループ)が近縁と考えられた。しかし遺伝子解析により、むしろ甲殻類(甲殻亜門)の方が近縁で、しかも六脚類は甲殻類の間から進化したグループであると判明した(詳細については汎甲殻類を参照)。
一般に昆虫と共に「虫」として認知度が高いクモやムカデ、ダンゴムシなどだが、下記の系統図の通り、どれも昆虫とは大して近縁ではない。
┗┳━甲殻類:ムカデエビ
┗━六脚類(内顎類、昆虫)
今の系統関係から見ると、昆虫などの六脚類は多足類とは別の海洋生物、しかも甲殻類であった祖先から上陸した可能性が高いが、未だに明確な化石証拠は見つからないため、起源は謎に包まれている(六脚類に最も近縁な甲殻類であるムカデエビも六脚類との共通点が少なく、手掛かりにならない)。知られる最古の昆虫化石はデボン紀(約4億年前)までだが、遺伝子解析によるとシルル紀(4億4,000万年前)で既に内顎類と分けて進化したと示される。
内部系統
古典的な分類では変態と翅の有無を基に、昆虫を下記の2群に分かれている:
無翅類
元から翅がなく、変態しない(無変態・不変態)。イシノミとシミが属する。
有翅類
祖先的に翅があり(退化したケースも該当)、変態する。大部分の昆虫を含む。この有翅類は変態の仕様を基に、更に下記の2群に分かれている。
不完全変態(外翅類)
トンボやバッタのように、幼虫から成虫と同じ基本体制を保ちつつ、蛹を経ずに変態をして成虫になる。翅は幼虫から齢期を重ねて表皮で段々と発達する。
完全変態(内翅類)
チョウやカブトムシのように、幼虫が成虫と根本的に異なる基本体制で、蛹を経て劇的な変態をして成虫になる。翅は幼虫に現れず、蛹から一気に雛形が発達する。
同様遺伝子分析によると、これらの具体的な系統関係は下記の系統図の通りになる。イシノミやシミなどの無翅類が原始的で、約4億年前のデボン紀でその間から不完全変態の有翅類の祖先(〇)が進化、更に約3億4,500万年前の石炭紀で不完全変態昆虫の間から完全変態昆虫の祖先(◎)が進化したと示される。
昆虫
┗┳━イシノミ(無翅類)
┗┳━シミ(無翅類)
┗┳┳━ハサミムシ
┃┣━ジュズヒゲムシ
┃┗┳━カワゲラ
┃ ┗┳━カカトアルキ、ガロアムシ、ナナフシ、シロアリモドキ
┃ ┗━カマキリ
主なグループ
昆虫は主に次の30ほどのグループ(主に目)が知られ、ここで簡潔に述べる。(特記しない限り成虫基準。それぞれの詳細や省略された種類と表記揺れは、リンクのある各記事および後述の昆虫名タグを参照)
無翅類
イシノミ(古顎目/イシノミ目)
ノミではない。現在生きている昆虫の中で最も起源が古い。後述のシミと似ているが、ゴーグルのような複眼が背に向けて、口元の顎髭が脚のように発達。腹部の下が節ごとに痕跡的な肢を持つ。500種ほど知られている。
シミ(総尾目/房尾目/シミ目)
イシノミの次に起源が古い。体は銀色のしずく型で、末端から3本の長い尾毛が伸びる。550種ほど知られている。
有翅類:不完全変態
ムカシアミバネムシ(ムカシアミバネムシ目)
(イラスト左上の奥の羽虫)
石炭紀~ペルム紀の古生物。原始的な有翅類で、2対の大きな翅の他に前胸にも短い翅っぽい構造を持ち、翅6本に見える。口元は細長い。メゾサイロスやステノディクティアなどが属する。300種ほど知られている。
カゲロウ(蜉蝣目/カゲロウ目)
成虫が数日しか生きれない小さな羽虫。シミと似た3本の長い尾毛を持ち、前脚は長いが触角は目立たない。幼虫は水生昆虫。3,000種ほど知られている。
トンボ(蜻蛉目/トンボ目)
大きな複眼、長大な翅と細長い腹部を持ち、触角は目立たない。水辺を飛び回り他の羽虫を捕食する。幼虫(ヤゴ)は水生昆虫。5,000種ほど知られている。
オオトンボ(原トンボ目/オオトンボ目)
トンボに近い石炭紀~ペルム紀の古生物。トンボと比べて翅はやや単調で、触角は長い。翅を広げて50cmほどの巨大種が多い。メガネウラなどが属する。50種ほど知られている。
ハサミムシ(革翅目/ハサミムシ目)
末端の強大なハサミが特徴。後翅のみで飛行し、それを細かく折り畳んで小さな前翅に収納する。2,000種ほど知られている。
ジュズヒゲムシ(絶翅目/ジュズヒゲムシ目)
数珠状の触角を持つ微小な虫。翅のある種類はごく一部。シロアリと似ているが全く別。日本にはいない。60種ほど知られている。
カワゲラ(襀翅目/カワゲラ目)
(イラストは幼虫)
ケラではない。縦長い寸胴で末端2本の尾毛が目立つ。幼虫は水生昆虫。3,500種ほど知られている。
直翅類(直翅目/バッタ目)
翅を真っ直ぐに畳み、後脚が発達したものが多い。2万種ほど知られている。バッタやコオロギ、キリギリスなどが属する。
カカトアルキ/マントファスマ(踵行目/カカトアルキ目/マントファスマ目)
(イラストは擬人化表現)
カマキリとナナフシを足して二で割ったかような見た目。日本にはいない。21種ほど知られている。
ガロアムシ/コオロギモドキ(非翅目/ガロアムシ目)
茶色でスレンダー体型、末端の尾毛が目立つ。現生種は複眼が退化的で翅を持たず、低温環境に適している。34種ほど知られている。
ナナフシ(ナナフシ目)
枝や葉にそっくりで植物擬態の達者。コノハムシも属する。3,000種ほど知られている。
シロアリモドキ(紡脚目/シロアリモドキ目)
(イラストは擬人化表現)
シロアリではない。細長い体型の小さな虫で、前脚の爪先の膨らみから糸を繰り出し、樹皮などで巣を作る。400種ほど知られている。
ゴキブリ(ゴキブリ目:シロアリ以外、旧ゴキブリ目)
平たい楕円形の体にトゲトゲな脚と長い糸状の触角を持つ。4,400種ほど知られている。
シロアリ(ゴキブリ目:シロアリ下目、旧シロアリ目)
アリではない。寸胴で白っぽい体の社会性昆虫。3,000種ほど知られている。
カマキリ(蟷螂目/カマキリ目)
逆三角形の頭部に大きな複眼を有し、前脚は捕食用の鎌。2,400種ほど知られている。
アザミウマ(総翅目/アザミウマ目)
葉を食害する微小な虫で、細長い体型と羽毛状の翅を持つ。6,000種ほど知られている。
半翅類(半翅目/カメムシ目)
針状の口吻と節の少ない触角を持つ。カメムシやセミ、アブラムシなどが属する。8万種ほど知られている。
チャタテムシ(咀顎目:シラミ以外、旧噛虫目/チャタテムシ目)
長い糸状の触角を持つ微小な虫。翅を持つ種類は背中が盛り上がる。5,500種ほど知られている。
シラミ(咀顎目:シラミ上科、旧裸尾目/シラミ目)
哺乳類や鳥類の毛で暮らす微小な寄生虫。翅を持たず、足元に大きな鉤爪を持つ。5,000種ほど知られている。
有翅類:完全変態
膜翅類(膜翅目/ハチ目)
膜質で脈の少ない翅を持つ。腰がくびれたものが多い。ハチとアリからなる。15万種ほど知られている。
脈翅類(脈翅上目、広義の脈翅目/アミメカゲロウ目)
網目状の脈の大きな翅を持つ。ヘビトンボやラクダムシ、ウスバカゲロウなどが属する。6,000種ほど知られている。
ネジレバネ(撚翅目/ネジレバネ目)
メスと2齢以降の幼虫はハチの腹部の寄生虫。オスはねじれた後翅のみで飛行し、枝分かれた触角と偽平均棍に変化した前翅を持つ。600種ほど知られている。
甲虫(鞘翅目/甲虫目/コウチュウ目)
後翅のみで飛行し、前翅とほぼ全身の外骨格が硬い外皮に変化。カブトムシやクワガタムシ、テントウムシなどが属する。36万種ほど知られている。
トビケラ(毛翅目/トビケラ目)
ケラではない。毛に覆われた大きな翅と長い触角を持つ。幼虫は水生昆虫。1万4,500種ほど知られている。
鱗翅類(鱗翅目/ガ目/チョウ目)
鱗粉に覆われた大きな翅を持つ。幼虫はいわゆるイモムシやケムシ。ガとチョウからなる。17万5,000種ほど知られている。
シリアゲムシ(長翅目/シリアゲムシ目)
縦長い頭部と細長い脚を持つ。オスの交尾器はハサミ状、多くがサソリの尻尾のように反る。ガガンボモドキも属する。600種ほど知られている。
ノミ(隠翅目/ノミ目)
哺乳類や鳥類の表皮で吸血する微小な寄生虫。体は左右に平たく、翅を持たず、後脚が高いジャンプ力を持つ。2,500種ほど知られている。
双翅類(双翅目/ハエ目)
前翅のみで飛行し、後翅は平均棍に変化。カやガガンボ、ハエなどが属する。12万種ほど知られている。
フィクションでの扱い
- 『仮面ライダー』シリーズでは登場ヒーローの代表的なモチーフとされるが、モチーフの多様化した平成ライダーや令和ライダーでは少数派になりつつある(特に『仮面ライダー龍騎』以降)。
- 採用されたモチーフはフォームチェンジを除くと昭和時点ではバッタ、トンボ、イナゴ、カブトムシ、ハチとオーソドックスなものが揃っており、平成に入るとクワガタ、カミキリムシ、カマキリ、ヘラクレスオオカブト、ショウリョウバッタ、コーカサスオオカブト、ケンタウルスオオカブト、サバクトビバッタ、ロッキートビバッタと多様化していった。特に外国産の昆虫モチーフが増えたのは大きな特徴と言ってもいい。
- 『仮面ライダーセイバー』では昆虫の特徴を総括した仮面ライダーサーベラが登場している。
- 『スーパー戦隊シリーズ』では追加戦士を除き、避けられがちなモチーフであったが、2023年に放映開始の『王様戦隊キングオージャー』ではようやくメインモチーフとなった。
- フィクションでキャラクターのカテゴライズを行う際、昆虫でない虫モチーフも同じ括りと見なす例がある。例えば『デジタルモンスター』ではクモなどの昆虫以外の節足動物がモチーフでも「昆虫型」としてカウントしている(あちらはサンゴが"軟体型"だったり、貝が"甲殻類型"だったりとアテにならないが)。前述した『王様戦隊キングオージャー』でも、サソリやダンゴムシ、カタツムリまで内包する虫モチーフのキャラクターを「昆虫型」とされる。
- 『甲虫王者ムシキング』はカブトムシやクワガタムシを戦わせるゲームとして人気を博したが、シリーズを追う毎にカマキリやバッタ、トンボ、チョウといった甲虫以外のメジャー昆虫が多数参戦している。
- 欧米圏の場合、昆虫(insect)や虫(bug)は総じてネガティブなイメージが一般的であり、爬虫類などと並んでパニック映画のモンスターや、他の動物モチーフ(特に哺乳類と鳥類)に対してヴィランや小物としてモチーフに採用されることが多い。なお、少数派ではあるが、『バグズ・ライフ』や『アントマン』など、昆虫モチーフのキャラクターが主役として活躍する有名な例も存在する。
関連タグ
甲殻類:近縁。
多足類(ムカデ、ヤスデなど)、クモガタ類(クモ、サソリなど)、等脚類(ダンゴムシ、フナムシなど):昆虫と同じ「虫」と呼ばれる節足動物。よく昆虫と誤解される。
幼虫:芋虫/いもむし/イモムシ 毛虫/ケムシ 蛆/蛆虫 孵化 脱皮
昆虫名タグ
▲付きは他の意味にも使われる。
無翅類
古顎目/イシノミ目:
総尾目/房尾目/シミ目:
不完全変態
蜉蝣目/カゲロウ目:
蜻蛉目/トンボ目:
トンボ/蜻蛉/とんぼ/ヤゴ:ヤンマ▲ ・・・その他まとめあり
革翅目/ハサミムシ目:
絶翅目/ジュズヒゲムシ目:
襀翅目/カワゲラ目:
直翅目/バッタ目:
コオロギ/蟋蟀 キリギリス スズムシ/鈴虫 ケラ▲/オケラ/螻蛄 カマドウマ クツワムシ マツムシ ウェタ リオック
踵行目/カカトアルキ目/マントファスマ目:
非翅目/ガロアムシ目:
ナナフシ目:
紡脚目/シロアリモドキ目:
ゴキブリ目:
蟷螂目/カマキリ目:
総翅目/アザミウマ目:
半翅目/カメムシ目:
カメムシ:サシガメ・トコジラミ/ナンキンムシ/南京虫・グンバイムシ ・・・タガメ、アメンボなどは水生カメムシにまとめ有り
セミ/せみ/蝉▲:ツクツクボウシ・ヒグラシ▲ ・・・その他まとめあり
ツノゼミ ヨコバイ ウンカ/雲霞 ハゴロモ▲ カイガラムシ コナジラミ
咀顎目:
完全変態
膜翅目/ハチ目:
広義の脈翅目/アミメカゲロウ目:
ヘビトンボ アリジゴク/蟻地獄 ウスバカゲロウ ツノトンボ クサカゲロウ カマキリモドキ ・・・その他まとめあり
撚翅目//ネジレバネ目:
鞘翅目/甲虫目/コウチュウ目:
甲虫:カミキリムシ、テントウムシ、コガネムシ、カブトムシ、クワガタムシ ・・・その他および各項目にまとめ有り
毛翅目//トビケラ目:
鱗翅目/ガ目/チョウ目:
長翅目/シリアゲムシ目:
隠翅目/ノミ目:
双翅目/ハエ目: