被災地のため、総力を結集
被災地の最前線で
私たちは"テックフォース"です。
一般の方向け紹介動画「国土交通省TEC-FORCEの活動内容」
概要
TEC-FORCEは、国土交通省の災害対策部隊である。
Technical Emergency Control Forceの頭文字をとってTEC-FORCE『テック・フォース』と通称される。
正式には緊急災害対策派遣隊と呼ばれ、その名の通り、地震や台風、豪雨・豪雪、火山の噴火災害など、風水害が発生した場合、被災地に展開し、応急復旧活動や、被害状況の調査、被害の拡大防止、早期復旧に関する地方公共団体等の支援(緊急災害対策活動)を行なう。
このほか、大規模な災害が予期される場合、事前に災害対策現地情報連絡員(リエゾン)を自治体に派遣し調整にあたることもある。
部隊のシンボルマークは、鮮やかな青色が特徴である。日章旗(日の丸)と、アルファベットのTFを組み合わせた盾型の意匠となっている。このシンボルマークは、災害現場において活動するTEC隊員のベスト(盛夏シャツの上に着用)にもあしらわれている。
TEC隊員として登録されているのは、国交省職員(多くは技官)のほか、内閣府沖縄総合事務局の職員、さらに『委託職員』という形で、ショベルカーやブルドーザーなど重機を操作する各地方の建設業界・土木業界の社員らで構成される。
TEC隊員を務める国交省職員は、主として下記の部局に所属している。
この国交省本省の職員(常勤・非常勤)が総勢、15,074名(令和4年4月時点)にのぼり、およそ8割が地方整備局に所属する国交省職員となっている。
このほか、気象庁や国土地理院に所属する職員からも構成されるが、国交省本省の職員と異なり、TEC隊員として事前登録される形ではないため、この人数内には含まれていない。
TEC-FORCEは、
- 先遣班
- 現地支援班
- 情報通信班
- 高度技術指導班
- 被災状況調査班
- 応急対策班
- 輸送支援班
- 地理情報支援班
- 気象・地象情報提供班
都合、9つの班で構成されている。
この9つの班の構成は、主に下記のものとなる。
- 先遣班、現地支援班、情報通信班、高度技術指導班、被災状況調査班、応急対策班は、国土技術政策総合研究所および地方整備局の職員。
- 輸送支援班は地方運輸局の職員。
- 地理情報支援班は国土地理院の職員。
- 気象・地象情報提供班は気象庁の職員。
このうち、国土交通省の外局である気象庁職員で構成される、気象・地象情報提供班には『気象庁防災対応支援チーム』という別名がついている
気象庁防災対応支援チーム『JETT』
気象庁は、国土交通省に複数ある外局のひとつである。
気象庁職員のうち、登録された職員はTEC-FORCEの気象・地象情報提供班の一員として活動にあたるのだが、とりわけ、この班には『気象庁防災対応支援チーム』という別名がつけられている。
英称の、JMA Emergency Task Teamの頭文字を取ってJETT『ジェット』と通称される。
このほか、TEC-FORCEの構成員でこそないが、気象庁には『機動調査班・JMA-MOT』が編成されており、大規模災害の現場等で調査活動に当たっている。
防災服
TEC-FORCE隊員が着用する防災服は、国土交通省で用いられるものと同じものを着用する。
ブルゾン
紺色を基調とし、襟の折り返し部分やサイドプリーツ部に赤色、両胸部に二重ポケット(チャック部には赤色)、裾部にゴムを配したものとなっている。左胸部には赤地に白抜きで所属を記したワッペンを装着する。
両肩部には、反射材が縫い付けられている。また背部には、所属する部局が白字で記され、赤地白抜きで『国土交通省』の文字が目立つようになっている。
(国土技術政策総合研究所は、黄文字で『国総研』と記される)
左上腕部にはペン挿し、右上腕部には国土交通省のシンボルマークがプリントされ、これに加え、国土交通大臣の防災服は左上腕部に日章旗を配する。
カッターシャツ
水色を基調とし、両胸部には二重ポケット(意匠はブルゾンと同一)、左胸部には所属ワッペン、肩部には反射材を配したものとなっている。背部には、白字で所属する部局、赤地に白抜きで『国土交通省』と記される。
左上腕部にペン挿し、右上腕部に国土交通省シンボルマークがプリントされ、大臣防災服には日章旗ワッペンが装着される。
ベスト
主に、夏季の災害出動の際に用いられる。水色を基調とし、白い反射材を二条配した意匠である。ポケットは右胸部にペン用小ポケット、左胸部と両腰部に大ポケットを配置する。
背部には白地に赤字で『国土交通省 TEC-FORCE』などと表記される。
内閣府沖縄総合事務局(沖縄総事局・沖総局)
国土交通省ではなく、内閣府所管であるため、防災服の意匠が大きく異なる。外観としては、消防団の活動服にも似通ったもので、青色を基調とし、両胸ポケット部にオレンジ色の色差しが入っている。
余談
シン・ゴジラでは、巨災対メンバーの竹尾保審議官(演・小松利昌さん)が登場から終始、防災服ブルゾンを着用しているのが見られた。
創設まで
国土交通省の災害初動対応について 〜TEC-FORCEの取り組み〜
TEC-FORCEは、国交省河川局防災課や総合制作局技術課が音頭をとり、2008年(平成20年)5月に創設された。とかく、自治体の規模や予算により差異がみられる、災害発生後の復旧活動の迅速化・広域化・高度化を政府主導で取り組むことが目的であった。
当然のことながら、TEC-FORCE創設以前から、東海地震や首都直下地震への備えとして、国土交通省はもとより、各省庁でも災害対策や危機管理にまつわる政策や取り組みは行われ、都度、改善がなされていた。
だが皮肉にも、こうした改善がなされるのは実際に災害が起こった後であることがほとんどであった。幾つかの実例をもとに、紹介する。
三原山噴火
1986年(昭和61年)に発生した、三原山噴火では、『全島避難』の成功もあって、人的被害ゼロという奇跡的な結果とともに、避難活動は終結した。
のちにこの模様はNHKが制作したドキュメンタリー番組であるプロジェクトXでも描かれることとなった。
だが、縦割り行政の弊害により、危うく人的被害が出かねない状況が背景にあった。
この当時、中曽根内閣では、『カミソリ後藤田』の異名をもつ、後藤田正晴内閣官房長官を中心に行政改革がなされていた。この行政改革では、三公社五現業(日本専売公社・電電公社・国鉄)の民営化が進められたほか、それまでの部局を改編する形で『内閣五室』が設置された。
【注・昭和61年7月当時】
これら五つの室長(内閣五室長)には、専門知識や経験を有するベテランの国家公務員(キャリア官僚)が着任し、内閣を補佐することを目的としていた。(ただし、佐々室長は再任用)だが、年度半ばの中途半端な時期(7月1日付)に発足したため、予算や人員、装備面などが不足した状況での船出。特に、通信機器の不備に対しては、中曽根首相も懸念を抱くほどであった。
安全保障室が発足した数ヶ月後、昭和61年11月には、安保室・佐々室長が安保室の置かれた状況について、このような答弁をしている。
(前略)各省庁が実際におやりになるのを内閣官房の調整機能としてお手伝いをするわけでございますので、各省庁の御協力、御理解が何よりも大事であると考えておりまして、この面では大変各省庁ともこの重要性を御理解いただいて御協力をいただいておる、こういう現状でございます。
現在、ドライバーまで入れまして二十六名という体制でございまして、御指摘の当直体制はちょっと組めない現状にございます。(中略)あるいは二十四時間勤務をしておる警察庁、防衛庁等の第一報をちょうだいする、こういう体制を組んでおるところでございます。
第107回国会 参議院 内閣委員会 第3号 昭和61年11月27日
(発言番号107番および109番 堀江正夫議員に対する答弁)
また、縦割り行政の弊害ともいうべきか…。各省庁の反発もあって、権限移譲はなされず、より複雑なものとなってしまった。
一例として、この五室長のうち、災害対応の権限を持つのは内閣安全保障室長(安保室長)のようでもあるが、然にあらず。災害対応の所管官庁は国土庁。当然、非常災害対策本部も国土庁に置かれ、対策本部長は国土庁長官(国務大臣)が務めることとなっていた。
(つまり安保室長は、テロやハイジャック、災害などが起こったとして、指揮をするのではなく、各省庁間と官邸との情報連絡が主な役目だった)
だが、この非常災害対策本部は国土政務次官を中心に、国土庁、経済企画庁、警察庁、建設省、自治省消防庁、防衛庁、運輸省海上保安庁……と各省庁で構成される一方、各省庁ごとの方針が決まるまでに時間がかかるほか、非常災害対策本部設置には閣議決定が必要とされていた。
フェリー『さるびあ丸』と、当時出動した巡視船『かとり』
三原山噴火では、官房長官担当平沢勝栄秘書官ら事務方や、橋本龍太郎運輸大臣をはじめとする各大臣、地方自治体(東京都や大島町、静岡県)首長らの機転や奔走もあって、辛くも全島避難に成功したが、災害時における縦割り行政の弊害が浮き彫りとなったのはいうまでもない。
このとき、伊豆大島の岡田港や元町港からは、フェリーや海上保安庁の巡視船による住民の緊急輸送がひっきりなしに行われていた。だが、どうしても限界があり、自衛艦の応援が不可欠だった。
一方で、横須賀基地の自衛艦は出動命令をジリジリと待っている状況だった。『出動命令さえあれば、いつでも行けます!』と現場からは痛切な声が上がってくる。
このため、東京都・鈴木俊一知事による正式な災害派遣要請を待たずして、官邸主導により海自護衛艦の見切り発車が行われ、自衛隊の災害派遣がなされることとなった。
(正確には、都庁では、災害対応に忙殺されるあまり、官邸からの連絡を受けるまで、自衛隊への要請を失念していた───というのが顛末である)
この官邸主導による、自衛隊出動に関しても数々の非難や指摘の声が上がることとなった。
阪神・淡路大震災
情報、官邸に達せず
自衛隊が見切り発車した三原山噴火と対照的であるのが、1995年(平成7年)発生の阪神・淡路大震災である。
この阪神・淡路大震災では、自衛隊の災害派遣まで、相当の時間を要し、もう少し早ければ、多くの人命を救えたのに……と落胆する声が多く上がった。
しかし、当時の首相官邸には、情報収集能力自体が満足に備わっていなかったため、誰が首相であろうとも、対応に遅れが出かねなかったと指摘の声もあった。
固定電話機自体の絶対数が不足していたり、あったとしても複数台を各省庁で共有する形であったり、そもそも首相官邸自体に24時間体制で詰める当直の危機管理担当の職員が存在しなかったことも挙げられる。
この当時、夜間や祝日に発生した緊急事態の場合、首相官邸では独自の情報網を備えておらず、防衛庁や警察庁などから出向した職員が一旦、出向元省庁に駆け戻り、情報を得てくる形となっていた。当然、出向元省庁も災害対応に手一杯であるため、情報が後回しになることもしばしばだった。
(なお、先述の三原山噴火の際は、火山性地震など前兆がみられたことや大噴火が夕方であったため、後藤田長官や佐々安保室長らが心算しており、即応できる態勢にあった。
それでも通信機器の不備には苦労したようだが…)
また、被害がとりわけ大きかった兵庫県でも、震災以前から『衛星通信システム』を備えていたが、地震による停電と倒壊、さらに専門知識・技術を有する技官と連絡がつかず、登庁するまでに時間を要したためまったく使い物にならなかったという結果に終わっている。
ときの首相は村山富市。自社さ連立政権の首班を担う老政治家であった。それまで自衛隊は違憲とし続けた社会党の見解を覆し、一転、自衛隊容認へと舵を切ったこともあった。
なお、時折、村山首相は自衛隊が嫌いであるがゆえ、自衛隊を出さなかったのではないか?との疑念の声もみられるが、上記の経緯からすると、村山首相だけを責めるのは酷ともいえるだろう。
(発災直後、NHKニュースのみでしか情報を得られず、何度となく官邸を往復したそうだが…。一方、震災対応より経済会議を優先する必要があったのか否かについては、論争が分かれるところでもある)
自衛隊をめぐる、法体系の不備
阪神・淡路大震災の教訓を踏まえた自衛隊の災害派遣に係る各種の措置について
先述した三原山噴火の際、災害対応の所管官庁は国土庁と記したが、この国土庁ですら、独自の情報収集能力を備えていなかった。
災害派遣のため、自衛隊を出動させようにも、当時の法体系では『要請主義』が厳格なものとされていたため、兵庫県・貝原俊民知事からの要請がない限り動くことはできなかった。
(なお、貝原知事は後年、阪神・淡路大震災で自衛隊の要請が遅れたという批判に対し、反省点はあるとした一方「交信しようとしなかった『自衛隊の責任』である」といった趣旨の発言をしている)
自衛隊の名誉のために記すが───。
兵庫県庁と連絡を取った、千僧駐屯地(兵庫県伊丹市)所在の陸上自衛隊第3師団・第3特科大隊では、回線が不通となる前より、LO(連絡要員"リエゾン・オフィサー")を自動車にて急派したほか、不通となった直後も幾度となく電話をかけ直すなど、交信を試みている。結局、陸自への派遣要請は午前10時に出されることとなった。
一方、海上自衛隊呉地方隊では、阪神基地隊から被害報告を受けたのち、県知事の要請を待たず、発災当日(1月17日)の午前9時35分、呉地方総監の指揮の下、輸送艦『ゆら』や、護衛艦『とかち』『みねぐも』『なつぐも』などを派出。
護衛艦乗員にて、海上自衛隊では事実上、初となる陸上での活動を主目的とした『陸上救援隊』を編成し、上陸後、同日、午後7時50分より活動を開始、8名の生存者を救出している。
(兵庫県知事からの要請は、実に出動の10時間後、午後7時50分のことであった)
この際、陸・海・空、三自衛隊では史上初となる、呉地方総監を指揮官とする統合運用がなされることとなった。
呉地方隊でも、陸自第3特科大隊と同じく、発災直後から兵庫県庁との間で幾度となく電話連絡を試みたものの、災害直後の輻輳や混乱により、直接連絡を取ることができず、要請を待たずして出動することとなった。また、阪神基地隊でも電話連絡を試みたものの、不通であったため、直接、LOを派遣するなどしている。
いうまでもなく、人命を尊重した最善の策であるが、悲しいかな、法理的には文民統制・シビリアンコントロールに抵触するおそれもあったのだ。
(にもかかわらず『自衛隊が遅れたせいで』という、見当違い、言いがかりに近しい批判まで浴びる始末となった)
のちに自衛隊法が改正され、現在では自衛隊法第83条2項但し書きに基づき自主派遣として、被災地の首長と連絡が取れない、あるいは自治体機能が壊滅した場合などでは、自主的に災害派遣が可能となった。
阪神・淡路大震災の教訓から、情報収集機能の強化として、首相官邸に危機管理センターが開設されたのは、震災の翌年、橋本龍太郎内閣時代の1996年(平成8年)のことである。
【なお、同年。阪神・淡路大震災における、政府の混乱ぶりを記したノンフィクション小説『情報、官邸に達せず』を麻生幾が出版している。
のち、『宣戦布告』へとオマージュされ古谷一行さん主演で映画化された】
道路啓開の重要性
初動の遅れについて、要請が遅れたことも原因である一方、交通集中による渋滞も看過できず、遅れの一員ともなった。
橋脚が倒壊し薙ぎ倒しになった阪神高速や、高架橋ごと崩落したJR神戸線六甲道駅の写真や映像は、多くの人の目に留まったことであろう。
大動脈である国道2号が塞がったため、交通網が完全に麻痺し、緊急支援物資の輸送や、緊急車両も渋滞に阻まれ身動きが取れない事態となる始末。
このため、警察庁では『緊急交通路』を指定し、大規模災害時などには交通を遮断することとしているが、万が一の際、道路啓開などを自力で行なうことも考慮しなくてはならない。
(筆者注)警視庁ではナマズのイラストが描かれた標識が目印である。大きな街道や高速道路、バイパスなどが指定されていることも多いので、住まわれている地域について、確認してみるのも良いやもしれない。
横浜市消防局に配備されていた『排除工作車』(退役済)
阪神大震災以降、一部の消防本部で上のイラストのような道路啓開を目的とした車両や、走破性の高さを期待しラリーカー・ウニモグをベースとした消防車両が導入されたのも、これが遠因である。
配備本部 | 名称 | 車両の特徴 | 備考 |
---|---|---|---|
静岡市消防防災局。現・静岡市消防局 | 震災工作車 | 三菱重工製・クローラ式 | 退役後、御殿場市内の民間自動車整備工場『カマド』に払下げられた。 |
松戸市消防局 | 災害特殊工作車 | 三菱重工製・クローラ式 | 個人からの寄贈。『さいぞう君』の愛称有。 |
横浜市消防局 | 排除工作車 | メルセデス・ベンツ製ウニモグ | 阪神大震災以前、昭和59年度に浅間町出張所へ配備。 |
大阪市消防局 | 震災工作車 | メルセデス・ベンツ製ウニモグ | |
川崎市消防局 | 震災工作車 | 三菱ふそう製 | 震災前年度に予算計上。配備は震災後の5月。 |
川崎市消防局に配備されていた『震災工作車』(退役済)
警察庁でも、国費で警視庁と大阪府警に、メルセデス・ベンツ製ウニモグをベースとした『クレーン車』(多目的災害対策車)や、アイチコーポ製のトラックバックホーをベースとした『バケット車』を配備するなど、道路啓開を重視していることが窺える。
(警視庁では、昭和の頃より、ウニモグをベースに、ドーザを装備した『多目的災害対策車』を配備していた)
なお、現在は、総務省消防庁により、各都道府県の主要市や政令指定都市を管轄する消防本部に重機搬送車が無償貸与されているほか、警察でもユンボが国費で配備されつつある。また、一部消防本部では、機動力の高いタイヤ式レッカー車をベースとした『震災工作車』が導入されている。
道路啓開に関しては、後年、東日本大震災の際、国土交通省TEC-FORCEを中心とする『くしの歯作戦』で最大限発揮されることとなった。
国土交通省の発足
中央省庁再編
阪神・淡路大震災での教訓として、数々の物資や装備・資器材が調達され、法体系の整備も進められた。新たに導入された装備としては、小型で運用しやすい衛星通信車の導入や、機動力に富んだ災害対策用ヘリコプターの配備などが挙げられる。
法体系の整備と並行し、橋本龍太郎内閣、小渕恵三内閣、森喜朗内閣と三人の総理に跨がって実施された中央省庁再編の際、防災面での行政一元化も行われた。こうして2001年(平成13年)に新たに発足したのが現在の国土交通省である。
(初代大臣・扇千景)
国土交通省は、中央省庁再編でもとりわけ規模が大きく、運輸省・建設省・北海道開発庁・国土庁の2省2庁が合併して発足した省である。災害対応は国土庁が、災害復旧は建設省、北海道内での災害対応は北海道開発庁、そして海上災害は運輸省(海上保安庁)が担うなど、バラバラであった権限を一つの省のもとに統合。三原山噴火の際にも課題となった、縦割り行政の改善が図られている。
防災行政の痛切な声
国土交通省発足と前後して、災害発生後の復旧活動の迅速化・広域化・高度化が叫ばれつつあった。特に、政府主導で防災行政を取り組んでほしいという声も根強くなっていた。(詳細後記)
防衛・防犯・防災・防疫を総称し、四つの防とされる危機管理行政のうち、とりわけ防災面では政府主導よりも、地方自治体が主導を握ることの方が多い。
消防本部を例に挙げると───。
東京消防庁や奈良県広域消防本部など一部例外を除き、消防本部は警察のような都道府県単位ではなく、市町村単位で構成されることが多い。消防広域化を目的に設置される組合消防でも、複数の市町村単位であるのがほとんどだ。
これは、消防組織法に基づき、消防本部は原則として市町村単位で構成されることと定められていることが遠因として挙げられる。
〈参照〉消防組織法
- 第6条(市町村の消防に関する責任)
- 第7条(市町村の消防の管理)
- 第8条(市町村の消防に要する費用)
- 第9条(消防機関)
- 第26条(特別区の消防に関する責任)
- 第27条(特別区の消防の管理及び消防長の任命)
- 第28条(特別区の消防への準用)
- 第29条(都道府県の消防に関する所掌事務)
- 第36条(市町村の消防と消防庁長官等の管理との関係)
- 第38条(都道府県知事の勧告、指導及び助言)
規模にもよるが、普通、一般的な消防署には、
といった消防自動車が配置されることが多い。しかし、費用面で見ると、ポンプ車や救急車はおよそ1千万〜2千万円、はしご車に至っては1億5千万円前後するのが相場である。
(あくまでベース価格。加えて装備品なども必要となるため、実際にはこれ以上の予算が必要となる)
いうまでもなく、予算や人員・装備面など、小規模自治体には負担が大きく、限界があるうえ、規模によって差異が如実に現れやすい。
当時の石原慎太郎・東京都知事らが提唱した首都圏FEMA構想も、東京都や神奈川県、千葉県、埼玉県などの、大規模自治体が音頭をとって、広域的な防災活動を行うことを目的としたものであった。
(のちにこの構想は、ビッグレスキュー東京や、九都県市合同防災訓練などに発展することとなる)
また、茨城県東海村で発生したJCO臨界事故や、先述した東京都大島町の『三原山噴火』や、同じく東京都三宅村の『三宅島噴火』などのように、一つの村・町規模では対応できない災害が発生することもある。
だが、いわゆる『地方自治の本旨』や、災害対策基本法第5条に基づき、自治体面積の広狭や規模の大小、住民の数とに関係なく、首長が負う防災に関する責務は同様とされている。
〈参照〉災害対策基本法第5条
市町村は、基本理念にのつとり、基礎的な地方公共団体として、当該市町村の地域並びに当該市町村の住民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、関係機関及び他の地方公共団体の協力を得て、当該市町村の地域に係る防災に関する計画を作成し、及び法令に基づきこれを実施する責務を有する。
また、同法では、前項の責務を果たすべく、市町村長に様々な権限が与えられている。
第59条 | 事前措置の指示 |
第60条 | 避難の指示等 |
第63条 | 警戒区域の設定 |
第64条 | 物的応急公用負担 |
第65条 | 人的応急公用負担 |
都道府県知事は、同法第4条に基づき、市町村長や指定地方公共機関の事務を助ける責務を有すると定められている。同様に、都道府県知事にも一部の権限や規定がなされている。
第71条 | 従事命令等 |
第72条 | 市町村長への指示 |
第60条6項および第73条 | 市町村長の事務の代行 |
第68条 | 市町村長の応援 |
しかし、災害対策基本法第73条では、都道府県知事による市町村長事務の代行は『当該災害の発生により市町村がその全部又は大部分の事務を行なうことができなくなつたときに行える』と定められているのみで、原則として、責任は市町村長が負うこととなっている。
東海村事故の際、住民の避難等、防災行政の責任を東海村村長のみが負うことに対し、橋本昌・茨城県知事からは痛切な声もあがった。
「日本には国家というものは無いんですか。この大規模な原子力発電所の事故というのは当然国家がやるべきではないか。東海村のみで対処できない」
第185回国会 衆議院 災害対策特別委員会 第7号 平成25年11月14日 発言番号006号
列記したように、広域・迅速・高度かつ、政府主導による防災行政の必要性が浮き彫りとなっていた。また、災害発生後の人命救助活動や、救出活動などが重視される一方、ともすれば減災や復旧活動などは地方自治体任せであることも多く、復旧に時間がかかりがちな傾向もあった。
このほか、応急復旧活動にあたる部署も臨時編成であるため、平素から訓練に当たっておらず、技術的なノウハウが不足しているという指摘もあった。
TEC-FORCE創設 実災害での活動
こうした懸念を受け、国交省河川局防災課、総合制作局技術課が主導となって発足したのが、TEC-FORCEである。
主な活動内容
災害発生が予測され、自治体からの要請に基づき、各地にある地方整備局や河川国道事務所、維持出張所などから『リエゾン』(連絡要員)を派遣し、自治体ごとの災害対策本部などに詰める形となる。
万が一、実際に被害が出た場合、このリエゾンが自治体と国交省との間を取り持つ橋渡し役を担う。自治体ごとに状況を把握し集約。国交省側では、TEC-FORCEの派遣はもとより、受け入れ先の選定などが行われる。
受け入れ先となるのは、地方整備局や河川国道事務所、維持出張所等が主ではあるが、状況に応じ、各自治体の庁舎や道の駅、災害現場で野営することもある。また、電気や水道等のライフラインが不通であることもしばしば見受けられる。
このため、TEC-FORCEには、災害現場での長時間待機に耐えうるような車両も配備されている。
実災害における活動
岩手・宮城内陸地震
創設から1ヶ月後、同年6月14日、岩手県や宮城県を中心に被害をもたらした岩手・宮城内陸地震が発生。この地震では、震源が内陸部であったこともあり、土砂崩れや道路崩落などの被害が多発した。
このため、創設間もないTEC-FORCEが出動。主として、復旧工法の指導、二次災害予防を目的とした法面・道路等の被災状況の調査や診断活動、通信支援など、技術面での活動が挙げられる。
(日本工業経済新聞社)
国土交通省緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)の 発足と岩手・宮城内陸地震への対応
岩手・宮城内陸地震では、第一に先遣班として、災害対策用ヘリコプター(詳細後記)が離陸。東北地方整備局所属『みちのく』の離陸は発災から1時間17分後のことであった。
こうして飛来したヘリコプターでは、機体搭載のヘリテレやスチルカメラ、高感度画像伝送装置などを用い、上空から被災状況を伝送し、状況把握の一助となった。
時刻 | 機体名 | 所属 |
---|---|---|
10:00 | みちのく | 東北地方整備局 |
10:26 | ほくりく | 北陸地方整備局 |
12:46 | あおぞら | 関東地方整備局 |
次いで、被災状況調査班として、中部地方整備局『まんなか』および北海道開発局『ほっかい』が飛来。地上からの接近が困難であった山間部における、被災状況の調査がなされた。
翌日には、出動したTEC隊員が岩手河川国道事務所一関出張所に集合。現地視察中であった、冬柴鐵三国土交通大臣から激励を受けたのち、土砂災害危険箇所の診断、道路状況調査、上下水道復旧などを行った。
東日本大震災
平成23年(2011年)3月11日金曜日に発生した、東日本大震災では、東北3県(岩手・宮城・福島)を中心に、津波による甚大な被害が出ることとなった。
特に、発災が夕方であったことや、東北3県では雪やみぞれ、雨が降ったこともあり、停電や余震、恐怖が襲う中、暖房もなく厳冬の夜を迎えることとなった。
この未曾有の災害でも、東北地方整備局を中心とするTEC-FORCEの部隊が全国から派遣され、『くしの歯作戦』(詳細後述)に代表される、応急物資を運ぶための道路啓開など、インフラ復旧活動を担った。
東日本大震災における 地方整備局の復旧活動についての 物語描写研究 〜TEC-FORCEの役割〜
15時4分(発災18分後)には、近畿地方整備局所属の災害対策用ヘリコプター『きんき』が離陸、一旦東京に向かったのち、翌朝には東北へと到着した。一方、未曾有の、想定外の大津波であったため、近畿地方整備局管内の和歌山県や兵庫県などの沿岸部にも津波が押し寄せる危険があった。
津波関連の警報・注意報について、時系列順に追うと───
〈3月11日〉
- 15時14分
- 津波注意報:和歌山県・兵庫県淡路島南部。
- 15時30分
- 津波警報:和歌山県・兵庫県淡路島南部。
- 16時08分
〈3月12日〉
- 03時20分
- 13時50分
- 大津波警報:解除。
- 津波警報:和歌山県。
- 津波注意報:兵庫県瀬戸内海沿岸部、兵庫県淡路島南部、大阪府。
- 20時20分
- 津波警報:解除。
- 津波注意報:和歌山県。
〈3月13日〉
- 17時58分
- 津波注意報:解除。
(これにて、全ての予報区で解除とされた)
津波の押し寄せる危険性がある中、各地方整備局より飛び立った災害対策用ヘリコプターは、翌朝(12日)に東北地方に到着。
上空から、ヘリコプターテレビシステムや、スチルカメラ等を用い、被災状況の調査にあたった。
「東日本大震災」の対応について 〜初動対応〜復旧・復興に向けて〜
東日本大震災の対応(1) 〜東北地方整備局の初動対応から復興〜
一方、震災対応の中心を担う東北地方整備局(宮城県仙台市所在)では、築50年近くになる庁舎が損傷、梁が折れたり、壁が崩落したりするなどの被害が出ていた。
だが、人的被害が少なかったことや、平成17年(2005年)に増築されて間もない『災害対策室』の損傷が軽微であったことが幸いし、非常態勢がとられることとなった。以後、この災害対策室が、東北地方整備局、ひいては東北復興の拠点となった。
災害対策用ヘリコプター『みちのく』は、15時23分(発災37分後)に、仙台空港より緊急離陸した。この緊急離陸は、東北地整に務める女傑、熊谷順子防災課長(当時)の意見具申がもととなった。
警察航空隊や自衛隊ヘリと異なり、国交省災対ヘリの操縦士や整備士、撮影技師らクルーは、運航を委託された民間の航空会社(東北地整では『東邦航空』)の社員が勤めている。災対ヘリを運用する場合、一旦は離陸した後、最終的には民間の社員だけではなく、各地整や国交省本省等に詰める職員が同乗することが原則であった。
だが、熊谷課長は、震度7という激震であったことから、『津波が押し寄せてくるやもしれない』と判断した。例外を承知で「東北地整局員の同乗を待つ時間がもったいない。(ヘリは待機しているのだから)すぐにでもヘリを上げましょう」と徳山局長に進言した。対し、徳山局長の判断も早く、ヘリの緊急離陸を許可した。
時間は前後するが、『みちのく』の搭乗要員らは官用車に飛び乗り、仙台空港に向かっていた。だが、各所で起こる渋滞に阻まれ、仙台空港には辿り着けなかった。
マイクロ回線にも接続可能である、国土交通省国土交通省移動通信システム『K-COSMOS』により連絡を取る傍ら、津波による負傷者の搬送に奔走していた。
命懸け空撮 支えたヘリ操縦士が… 飛行歴39年の北川一郎さん
一方、仙台空港では、『みちのく』離陸を前にして、闘いが繰り広げられていた。ベテランの北川一郎操縦士、保科正尚整備士らは、発災5分後、東北地整からの電話連絡が来るか来ないかのうちにヘリの離陸準備に取り掛かった。
東日本大震災に遡ること2カ月。平成23年(2011年)1月には、新たに取り決めが締結され、震度5クラス以上の地震があった場合、直ちに離陸準備に入ることとされていた。
だが、震度7もの揺れは想定外であった───。
震度7の揺れにより、仙台空港の管制塔は機能を消失。また、格納庫のシャッターが損傷し、シャッターが開かなくなった。エンジンカッターなどを用い、シャッターをこじ開け、辛くも機体を格納庫外へと運び出すことに成功した。
15時23分(発災37分後)東北地整『みちのく』が仙台空港より離陸。
その数分後、仙台空港に津波が到達ほんの少し前まで機体があった、仙台空港や仙台市内を津波が飲み込む中、上空より映像を災害対策室へと中継し続けた。
この『みちのく』は、福島第一原発の被害状況も中継するなど、自衛隊や警察、消防のヘリコプター同様、重大な役割を果たしている。
仙台空港の復旧も急務であった。
津波により滑走路等が浸水したため、自衛隊機や米軍機、防災ヘリ・災害対策用ヘリ等が着陸できない事態となった。このため、排水ポンプ車を集中投入。総排水量が630万㎥にも達する中、発災から1ヶ月後、4月13日には仙台空港を復旧させている。
発災当日、62名のTEC隊員を派遣して以後、翌12日には397名、13日には511名の隊員を派遣している。発災後1ヶ月間の間に、述べ9,749名のTEC隊員を派遣し、同年11月までに、述べ18,115名(日)の隊員が派遣された。
現在では
『平成27年9月 関東・東北豪雨対応ダイジェスト 国土交通省 北陸地方整備局 TEC-FORCEの活動(茨城県常総市排水作業支援』
『【九州北部豪雨から1ヶ月】 九州地方整備局 TEC-FORCEの取組』
その後、平成27年関東・東北地方豪雨災害、九州北部豪雨や西日本豪雨、熊本地震など、全国各地で猛威を振るう災害現場に出動し、現地にて活動にあたっている。
TEC-FORCEの特長『現場力』
TEC-FORCEの特長として、一般的な地方自治体と異なり、災害時に職員を臨時編成して対応にあたるのではなく、平素から職員をTEC隊員として指定し訓練や実業務で経験を積み、即応可能であることが挙げられる。
TEC隊員のおよそ8割は国土交通省の各地方整備局に所属する職員で構成されているが、技官など技術系職員が多く含まれている。
平素より、河川やダム、橋梁、道路、港湾・空港施設等、国土交通省が管轄するインフラ施設の補修・維持・管理に携わっているため、それぞれが特定分野に関する経験を多く有している。
たとえば、豪雨災害ののち、河川敷や土手の点検、排水作業を行うのは、各河川国道事務所やダムの管理事務所等に勤務し、平素から河川パトロールなどに従事する職員である。
地震などの際、橋梁や道路の診断を行うのは、平素から道路パトロールや橋梁の設計・施工・点検などを専門とする職員である。
土砂崩れの危険があって、人が近づけない場合、UAV(無人航空機・ドローン)を用い、調査活動を行なうが、このドローンの操縦者もまた、平素から操縦している職員であることが多い。
ちなみに、佐賀県吉野ヶ里町にある吉野ヶ里遺跡が所在する『国営吉野ヶ里歴史公園』、実は国土交通省の管轄だったりする。
それもそのはず、全国に点在する国営公園の管理は国土交通省の所掌業務である。
(このほか、九州では『海の中道海浜公園』がある)
吉野ヶ里遺跡では、上空からドローンで撮影した画像を3Dデータ化するなど、可能な限り人が立ち入らず、遺跡を損傷しない方式で調査を行なっているのだが、このノウハウが奇しくも熊本地震で発生した斜面崩壊の現場で役立てられることとなった。
また、除雪車や各種重機の操作を担当する委託職員も、地方整備局や各河川国道事務所毎に委託された、地元の建築業界の社員で構成されている。常日頃から、建築現場で活躍する経験豊富な人材が出動するため、各々が持つノウハウも大きなものとなる。いわば現場力が強みとなる。
課題
【ソフト面での課題】
テック・フォース?なにそれおいしいの?
一般市民はもとより、自治体職員、果ては政治家に至るまで、TEC-FORCEの活動はおろか、存在すら知られていないという課題がある。
たとえば、被災地に到着した際、「水道局の方ですか?」「電話会社の方ですか?」などと、警察や消防、自衛隊、ライフライン関係者と勘違いされた例もしばしば聞かれる。
勘違いだけならまだしも、活動実態があまり知られていないため…
「国土交通省?ここは国道じゃないはず…」
「国土地理院?地図でも作るんですか?」
などと首をかしげられたこともあったそうだ。
(注・上記の発言は、水防訓練や防災訓練等の際、技官氏の口から聞いたものであるため、一例に過ぎないことも追記する)
上記の発言を補完するほどではないが、TEC-FORCEの活動について、後方支援(ロジスティック)の面から分析した報告書には、次のような記載が見られた。
東日本大震災に関する報道において、自衛隊や消防、警察等の救援活動は数多く報じられていたが、人命救助や救援物資の輸送に欠かせない道路の啓開「くしの歯作戦」など、応急復旧に貢献してきた地方整備局の職員や地元建設業者などの存在(報道)が希薄であったことは否めない。
この報告書では、作業や打合せなど活動の支障にならないことや地域住民、被災者やその関係者の感情に十分配慮する必要があると明記したうえで、記録活動における心構えが明記されている。
その上で『自衛隊に学んだ広報活動』として、実際に自衛隊の記録活動を参考として記載しているなど、国土交通省も、TEC-FORCEの広報に力を入れていることが窺える。
先述したように、TEC-FORCEは、災害が予期された場合、各自治体にリエゾンとして派遣されたり、実際に災害が起これば、各自治体毎の被害状況や特性に応じた復旧支援活動を担うのが主な役目である。
各自治体に勤める自治体職員に、その活動内容を把握してもらうことが急務であるため、とりわけ『自治体職員への知名度の低さ』は、あまり軽視できない問題でもある。
また、『コンクリートから人へ』や、事業仕分けに代表されるように、公共事業や土木事業に対する世間からの視点が厳しいこともあり、災害対策事業予算は年々削減され続けていたこともあった。
東日本大震災における 地方整備局の復旧活動についての 物語描写研究 〜TEC-FORCEの役割〜
この附属資料33項には『年度別防災関係予算額』として、防災関係予算の推移がグラフ化されている。阪神・淡路大震災を頂点に一旦は増えた予算も、その後減少を続け、再び東日本大震災で増えたのち、横ばいながらもやや減少しつつある。
Twitter上などでも、災害対策に対し、『政府は、国は何もやっていない』との手厳しい指弾の声を見かけることも多い。
活動内容を実態として理解してもらうためにも、『広報活動』は疎かにできない事柄である。
(なお、自衛隊が広報活動に力を入れるのも、発足以来、実に50年近くもの長い間『無駄だ』と謗られ、日陰者にされ続けたため…という切実な背景がある)
防災庁設置論
余談であるが…
時折、消防や自衛隊とは別の『災害救助隊』や防災庁を設置し、国を挙げて防災行政に取り組む姿勢を見せ、応急復旧や復興活動を一面的に担うべきだとの主張がみられる。
(一例として、全国知事会や、自由民主党の石破茂議員、れいわ新選組の山本太郎議員など)
だが、件の主張には、国交省TEC-FORCEの活動と似通う点も多い。
特に、道路啓開や架設橋、土砂除去などの応急復旧は国交省TEC-FORCEに参加する建築業界を中心としてなされるため、『言葉を換えているだけでほぼ同じ』こともお気付き頂けるだろう。
このことから、新組織発足に伴う、新たな縦割り行政の弊害を懸念する声や、実働部隊であるTEC-FORCE隊員の増員、予算や訓練機会を増やすべきとハード面での装備拡充を訴える声。
必要なのは、情報一元化の枠組みや法体系の整備であるとするソフト面の主張もある。
現状、わが国において、消防や警察、自衛隊、国交省などとは別の、防災専従省庁が存在しない理由としては、上記の点が挙げられる。
いずれにせよ、災害発生時には、国の各省庁や地方自治体、ライフライン、建築業界、物流業界などが連携をとる形となっている。
【ハード面での課題】
先述した二点に関しては、主にソフト面での課題であるが、ハード面での課題も挙げられている。
物資・人員の不足
TEC-FORCE前進基地の役割と今後の課題〜「平成30年7月豪雨」の経験から〜
TEC-FORCEでは、『対策本部車』や『待機支援車』に代表されるような、数々の災害対策用機械を配置している一方、隊員の補給に必要となる物資が不足する事態もあった。
特に西日本豪雨のような、夏場の災害であれば、スポーツドリンクや塩飴、タオルや冷却シート、汗拭きシートなどが必要となるが…満足な分量が配備されておらず、調達しようにも現地では品切れ、あるいは店舗自体が休業状態で、調達に苦慮することも多い。
また、物資の調達や、各地整に残り、後方で通常と変わらない業務や事務手続きに対応する一般職員も不足しがちとなり、業務に支障をきたすことも多い。
国土交通省のみならず、自衛隊、警察、消防など、どこの官庁にも共通していえる課題であるが、人手不足は重くのしかかっている。そのような中でも、とりわけ後者3つに比べて知名度が低い国交省は、人材の取り合いで後塵を拝することも多かったりする…。
兵站の課題・食ウ寝ル所ニ住ム所
落語『寿限無』には、このような一節がある。───食う寝るところに住むところ───。時折、災害時となると『不眠不休で全力を尽くすべし』といった考えを発揮する人もいるが、TEC隊員も人間である以上、休養は不可欠である。
食うものがあれば、出るもの、つまり『排泄』も充分に考慮しなくてはならない。対策本部車には車載トイレもあるにはあるが、大人数で活躍する以上、どうしても不足しがちとなる。上下水道が復旧していない以上、現地のトイレを用いることは不可能である。
排泄を気兼ねして水分補給を控えたため、体調不良を訴える事態も散見される。TEC隊員の場合、携帯トイレを調達し、排泄の問題は解決することとなったが、水に流せない重要な事柄でもある。
なお、警察では機動隊に『トイレカー』が配備されているほか、消防でも東京消防庁神田消防署に同様の車両が配備されている。
昭和47年(1972年)に発生した、あさま山荘事件において、登場間もない日清食品のカップヌードルが、靴までも凍るほどの極寒の地・軽井沢にて機動隊員やマスコミ関係者らの身体を温めたことは有名であろう。
一方、警備の現場にキャラメルが持ち込まれたことに関しては、あまり知られていない。適度な糖分はストレス緩和に威力を発揮する。キャンデーやボンタンアメなど、持ち運べるサイズの副食として準備しておくのが吉であろう。
燃料補給の課題
緊急燃料輸送列車
また、重要な問題となるのが、燃料となるガソリンや軽油の調達や、現地に向かうまでの宿泊施設の確保である。
TEC-FORCEが現地に向かう場合、数十台の大型車両に分乗して向かうため、それだけのスペースを確保できる駐車場が必要となる。
同様に、燃料補給を行う場合、被災地ではガソリンスタンド自体の復旧や被害状況の診断が間に合わず、タンクローリーで燃料が届いても、給油する方法がないといった事態にもなりかねない。
東日本大震災の場合、灯油配達などに用いられる計量器のついた4kl小型タンクローリーを燃料分配車とすることで事なきを得たものの、あくまで緊急避難的な運用である。
警視庁では、都費で独自に『災害用給油車』を導入したほか、総務省消防庁でも全国47都道府県の消防本部や、政令指定都市を管轄する消防本部に『燃料補給車』を配備している。
このほか、災害時には、タンクローリーから直接給油可能な可搬式の計量器『どこでもスタンド』が開発され、一部の自治体では導入がされている。
災害対策用機械の小型化・即応
TEC-FORCEには、後述するように、さまざまな災害対策用機械が配備されている。だが、その多くが大型車両で、狭隘な現場では活動できないという課題がある。
岩手・宮城内陸地震の際、創設間もないTEC-FORCEが現地で活躍することとなったが、もっとも重宝したのは軽トラであったそうだ。ちなみに、警視庁機動救助隊では、軽トラ型レスキュー車『チョロ救』を配備したほどである。
また、第7機動隊山岳救助レンジャー部隊や東京消防庁青梅消防署では、山岳地での活動を目的とするため、大型のレスキュー車ではなく、トヨタハイエースや日産キャラバンの『山岳救助車』を配備している。
このため、近年では衛星通信車や待機支援車などを更新する際、トラック型からワンボックス型へとサイズダウンすることが見られる。
即応という観点でみると、緊急自動車や緊急通行車両扱いも見過ごせない課題である。各地の事務所で用いられる官用車や連絡車には、赤色警光灯やサイレンを装備しておらず、緊急自動車登録をされていない車両も多い。また、緊急交通路を通過する際、国交省関係車両は災害対策法に基づく『指定行政機関』であるため、『緊急通行車両』の扱いとなるが、事前届出をしておらず、通行に手間取る事態も散見された。
道路啓開 東日本大震災・決死の『くしの歯作戦』
「建設業界は自衛隊に学べ」、くしの歯作戦指揮官の自戒と苦言(日経クロステック)
『くしの歯作戦』とは、東日本大震災に際して行われた、道路啓開活動の作戦名である。東日本大震災では、沿岸部を中心に津波による甚大な被害が出ることとなったが、これは住宅のみならず道路とて例外ではなかった。
地図を広げると分かりやすいと思われるが…。沿岸部の国道6号および国道45号の被害が大きいため、山間部を走る東北自動車道や国道4号から、各道路を沿岸部に向け『くしの歯』のように啓開する形を取ることとなった。
『くしの歯作戦』はこの3ステップを踏んで行われた。作戦では、国土交通省・東北地方整備局TEC-FORCEがルートの選定・作戦立案・調整を行ない、地元の建築業者や自衛隊が啓開活動にあたった。
【第1ステップ】
〈3月11日・金曜日〉
発災直後、東北自動車道は浦和インター(埼玉県さいたま市)〜碇ヶ関インター(青森県平川市)にかけてが『緊急交通路』に指定され、緊急自動車以外の通行が規制された。
パトカーや消防車、自衛隊自動車などの『緊急通行車両』や、被災地に向け応急物資を運ぶ緊急物資輸送車(トラック協会)などの『規制除外車両』のみ通行が許可され、迅速に急行することが可能となった。
一方、第1波、第2波、第3波…と幾度となく集中的に襲来した津波により、沿岸部は壊滅的な被害を受けた。東京都から宮城県仙台市へと至る国道6号、宮城県仙台市から青森県青森市に至る国道45号は寸断され、物資の輸送どころではなくなった。
津波到達の寸前、間一髪で飛び立った災害対策用ヘリ『みちのく』から伝送される断片的な(仙台市以北へは天候不順のため飛来できなかった)中継映像より、東北地方整備局・徳山日出男局長(当時)は、『沿岸部が最大の被災地となる』と直感した。
発災直後から、東北の空には、数々のヘリコプターが飛び交っていた。陸自東北方面隊、仙台市消防局ヘリ『けやき』、宮城県警察航空隊ヘリ『まつしま』などが挙げられる。
また、NEXCO東日本や各地の河川国道事務所、維持出張所、宮城県庁など各機関から寄せられる情報から、『沿岸部の道路に甚大な被害が出ている一方、内陸部の道路の被害は比較的小さい』と把握した。
(特に、沿岸部各地の事務所・出張所からは情報が上がって来ず、音信不通の拠点もあったことから『情報が伝達できない=甚大な被害が出ている』とも推察した)
これらの点より、太平洋側の縦軸ではなく、内陸側の縦軸から『くしの歯状』に道路を啓開することができるのではないかとの考えが浮かびつつあった。
大畠章宏・国土交通大臣とのテレビ会議にて、徳山局長は、宮城県・村井嘉浩知事から道路啓開の要請があったこと、くしの歯状に道路の啓開ができると考えていること、『道路の啓開が第一ではないか』と具申した。
これに対し、大畠大臣は『人命を第一に行動せよ。やるべきと思うことを、大臣や事務次官に相談せず、事後報告で構わないからやってくれ』と、事実上の全権委任を受けることとなる。
これを受け、徳山局長は具体的な作戦計画を立てるべく、職員らと行動を開始した。
長年、東北地整に勤め、河川国道事務所や維持出張所、事務所などに勤務する部下たちを知り尽くした東北地整・澤田和宏副局長が隊員を選出するなど、着任して間もない徳山局長を補佐し、大きな役割を担った。
作戦指揮官には、林崎吉克道路調査官が任命された。林崎調査官は地元・岩手県久慈市出身。山間部の抜け道など、現地の状況に精通していたことから、道路状況の把握に努めた。
こうして、作戦計画が具体化されつつあった。
また、日付が変わる前後から、東北地方整備局では、災害協定を締結している建築業者との調整を開始した。しかし、マイクロ無線やNTT回線が停電・輻輳によりつながりにくく、手間取る事態ともなった。
また、大津波警報が依然、継続中である中、民間人でしかない建築業者が「果たして協力してくれるだろうか…」という懸念もあった。
だが、この懸念は杞憂に終わった───。
大津波警報が継続して発表され、余震が襲う中でも、多くの建築業者が『使命感』から、国交省からの連絡を待たずして、続々と協力を申し出たのである。
ある整備局職員は、死線をかいくぐる、いわば戦友となる地元の建築業者に『もし、また警報が出たら、一緒に逃げよう』と約束しあった。
こうして、発災当夜、それも一晩のうちに『くしの歯作戦』に従事する52チームが編成されることとなる。
【第2ステップ】
〈3月12日・土曜日〉
徳山局長以下、地方整備局の職員、そして地元建築業者の尽力もあって編成された52チーム。
夜が明ける前より、内陸部から沿岸部へと向かう横軸の道路が検討され、16のルートが選定された。深夜帯であったため、正確な被災状況は掴めず、橋梁の落橋状況や、土砂崩れの地点など、全て手探りでの把握が続けられていた。
路線 | 出発都市〜目的都市 | 経由地・備考 | |
---|---|---|---|
1 | 国道45号 | 八戸〜久慈 | |
2 | 国道395号 | 軽米〜久慈 | 八戸道『軽米』インター経由 |
3 | 国道281号 | 岩手町〜久慈 | |
4 | 国道455号 | 盛岡〜岩泉(小本) | |
5 | 国道106号 | 盛岡〜宮古 | |
6 | 国道283号 | 花巻〜釜石 | 仙人峠道路経由 |
7 | 国道107号 | 北上〜大船渡 | |
8 | 岩手県道19号 | 一関〜陸前高田 | 国道340号、国道343号、陸前高田市道『高畑相川線』経由 |
9 | 国道284号 | 一関〜気仙沼 | |
10 | 国道398号 | 栗原(築館)〜南三陸 | |
11 | 国道108号 | 大崎〜南三陸 | 三陸道『石巻河南』〜『登米東和』、国道398号経由 |
12 | 国道115号 | 福島〜相馬 | |
13 | 国道459号 | 二本松〜浪江町 | 国道114号経由。ただし、原発避難区域のため通行不可 |
14 | 国道49号 | 郡山〜いわき | |
15 | 国道289号 | 白河〜いわき(勿来) | |
16 | 国道288号 | 郡山〜双葉 | 原発避難区域のため通行不可 |
12日中には、11のルートが確保・啓開されることとなった。阪神・淡路大震災の教訓から、道路橋の震災基準が強化され、耐震補強工事を進めていたことが奏功する形となり、ほとんどの橋梁が通行可能であったのだ。
〈3月12日時点での啓開状況〉
路線 | 出発都市〜目的都市 | |
---|---|---|
1 | 国道45号 | 八戸〜久慈 |
2 | 国道395号 | 軽米〜久慈 |
3 | 国道281号 | 岩手町〜久慈 |
6 | 国道283号 | 花巻〜釜石 |
7 | 国道107号 | 北上〜大船渡 |
9 | 国道284号 | 一関〜気仙沼 |
11 | 国道108号 | 大崎〜南三陸 |
12 | 国道115号 | 福島〜相馬 |
13 | 国道459号 | 二本松〜浪江 |
14 | 国道49号 | 郡山〜いわき |
15 | 国道289号 | 白河〜いわき(勿来) |
14日中には、14のルートが確保され、15日までに15のルートが確保されることとなった。先述のルートのうち、16系統・国道288号線にあっては、福島第一原発の直近であることから、そもそも緊急交通路としては使われないため、啓開を中止することとなった。
こうして、第2ステップは、3月15日火曜日までに完遂された。
【第3ステップ】
『くしの歯』を構成する、15本の横軸と、2本の縦軸。最後に残ったのは、太平洋沿岸を走る縦軸の国道6号、国道45号であった。
特に、国道45号では、路面崩壊、道路流出、瓦礫堆積、法面崩落、路盤沈下、路面冠水などが各所で発生していたほか、複数箇所で橋梁の落橋、流出などが起こり、復旧を阻んでいた。
だが、日を追うごとに地元の建築業者のほか、全国各所からTEC-FORCEの隊員らが東北地方へと集結。このほか、災害派遣で到着した自衛隊も、復旧活動に当たり、先述した第2ステップと並行する形で作業が進められていた。
津波による冠水箇所では、各地方整備局から派遣された排水ポンプ車が威力を発揮したほか、投光車を用い、日没後の夜間作業も継続して行われた。
この甲斐あって、発災から1週間後の18日には、国道45号の97%が通行可能となるなど、驚異的な早さでの啓開活動が行われた。
〈3月18日時点での、国道45号の橋梁支障状況〉
橋梁名 | 被害状況 | 地点 | |
---|---|---|---|
1 | 浪板橋 | 交互通行にて通行可 | 大槌町 |
2 | 沼田跨線橋 | 落橋 | 陸前高田市 |
3 | 川原川橋 | 橋台背面流出 | 陸前高田市 |
4 | 気仙大橋 | 落橋 | 陸前高田市 |
5 | 小泉大橋 | 落橋 | 気仙沼市 |
6 | 外尾川大橋 | 歩道部流出 | 気仙沼市 |
7 | 二十一浜橋 | 橋台背面流出 | 気仙沼市 |
8 | 歌津大橋 | 落橋 | 南三陸町 |
9 | 水尻橋 | 落橋 | 南三陸町 |
翌19日以降、水尻橋は夜間通行止であるものの、片側交互通行にて通行可能となり、浪板橋は規制が解除された。
その他の橋梁にあっても、国土交通省TEC-FORCEが保有する『応急組立橋』を仮設することにより、通行可能となり、応急復旧の段階へと移行したことにより、『くしの歯作戦』は無事、集結した。
以後、この『くしの歯作戦』によって啓開された道路を用い、様々な応急物資や、人員が移動することとなり、人命救助や震災復旧に大きな役割を果たすこととなったのである。
その後の『くしの歯作戦』
『くしの歯作戦』の成功要因としては、主に下記の点が挙げられる。
- 熊谷防災課長の進言により、災害対策用ヘリ『みちのく』が、津波到達の寸前に離陸し、上空からの状況把握が可能であったこと。
- 徳山東北地整局長が、阪神淡路大震災の教訓より『最も被害の大きな箇所から状況は上がって来ない』と、沿岸部側の被害が大きいことを即座に推察したこと
- 横軸ルート選定にあたり、多数を選定するのではなく、16本に絞り、戦力を集中しやすかったこと。
- 地元の建築業者との間で、平素から調整を重ね、人間関係を構築していたため、未曾有の災害に際しても『連帯感』や『仲間意識』にも似た強い意志で結ばれていたこと。
- 大畠章宏・国土交通大臣から『予算を気にせず、自分が大臣のつもりで、いいと思うことは全てやって良い』と、事後報告を認め、現場判断を尊重したこと。
これらの点から『くしの歯作戦』を評価する声も多く、今後、高い確率での発生が予測される南海トラフ巨大地震や首都直下地震に備え、東北以外の地域でも、くしの歯作戦と同様の道路啓開策が策定されつつある。
この道路啓開策は、国だけではなく、都道府県や市町村など、各地域の自治体ごとでも策定されている。この策定の際、多くの自治体で、現地の状況を知り尽くしたTEC-FORCEが技術的立場などから助言を行なうほか、支援にもあたっている。
『くしの歯作戦』最大の立役者ともいえる、東北地方整備局・徳山局長は後年、道路局長や技監(技術系職員のトップ)を務めたのち、国土交通省事務次官に就任。退官後、現在は国土技術研究センター理事長を務める傍ら、各地で防災関連の講話等々に携わっている。
災害派遣用ヘリコプター『みちのく』の緊急離陸を具申した、東北地方整備局・熊谷順子防災課長は平成23年(2011年)7月、東北地整・郡山国道事務所長に就いたのを最後に震災翌年の平成24年(2012年)、退官。退官後、徳山局長同様、防災関連の伝承を行なっている。
当時、国土交通大臣を務めた大畠章宏議員は、その後、民主党から民進党を経たのち国民民主党に移籍。平成29年(2017年)の衆院選で政界から引退。現在は国民民主党顧問を務めている。
災害復旧の要 災害対策用機械
地震や台風、水害などの災害現場にて活動するTEC-FORCEの武器となるのが、数々の特殊車両や通信機器である。これらを国土交通省では、災害対策用機械と総称している。
TEC-FORCEは、国土交通省や北海道開発局、内閣府沖縄総合事務局の地方整備局(地整)や開発建設部(開建)毎に編成され、大規模災害が起こった場合、全国各地から集う形となっている。
車体の表記
『R○○-○○○○』
車両の場合、車体両方の側面下部(多くは運転席のドア部分)に、上記のようなハイフンで区切られた6桁の数字とアルファベットが記載されている。この数字が、災害対策用機械に振られた、一連の管理番号となる。
この通し番号のうち、ハイフンで区切った前半の2桁およびアルファベット(S:昭和、R:令和)が導入年度、後半の4桁が車両の種類および配備先を表している。
(なお、平成期に導入された車両には、原則、このアルファベットが記されていない)
車両の塗色は、かつては、各地方整備局(地整)毎に異なった意匠が採用され、地方毎の特色がみられたが、近年では、白を基調に国交省カラーと同じくピンクと水色(正式には、MLITピンク・MLITブルー)の帯を纏い、屋根上部は青色。『国土交通省』あるいは『国 交 省』と大書きされたものが主流となっている。
変更の理由は、「災害現場に赴いた際、デザインがバラバラであると、どこの機関の車なのか一般の方が把握しづらいですから、統一することとなりました」(技官氏談。
という、実務的なものであった。
排水ポンプ車のように、平荷台のトラック型で、車体後部にアオリがある場合、アオリの表・裏両面に『排水ポンプ車 ○○地方整備局 ○○河川国道事務所』などと表記される。これも、現地で活動する際に所属を明確なものとするためである。
国土交通省ないし国交省の表記については、原則として国土交通省の表記が用いられる。ただし、車体のスペース上、この5文字を均等割り付けで配置することができない場合には"国交省"の略称が用いられる。
対策本部車には『対空表示』として拡幅部上部に所属する地方整備局名、車体上部に赤地・白抜きで『国土交通省』の文字が表記される。ヘリコプターからの視認性向上を目的としたものである。
各地方整備局毎に意匠の差異はややあったものの、原則として白を基調としたものが多かった。
これは緊急車両の要件を定めた、道路運送車両の保安基準の細目を定める告示第231条3号に基づき、緊急自動車は消防自動車を除き、白色を基調とする必要があるためである。
道路運送車両の保安基準の細目を定める告示第231条3号
3 緊急自動車の車体の塗色は、消防自動車にあっては朱色とし、その他の緊急自動車にあっては白色とする。
一方、除雪車や橋梁点検車、道路パトロールカーなどは、『道路維持作業用自動車』に該当するため、黄色を基調とし白色の帯を纏った意匠。
河川パトロールカーは、オレンジ色を基調に白色の帯を纏った意匠となっている。
【各地方毎の意匠】
北海道開発局
○管轄:北海道。
白を基調とし、車体下部は濃い青色、明るさに差がある二条の水色帯を配す。また車両後部では波のような形を描く。
ただし、札幌開発建設部(札幌開建)に配備された衛星通信車『札幌1』に関してはこの限りではない。
除雪車に関しては、他の地方整備局と大きく異なり、やや黄緑色に近い、蛍光味を帯びた、かなり鮮やかな黄色となっている。
東北地方整備局
○管轄:東北地方一円。
昭和の頃より、独特な車両を多く配備していた東北地整。クリーム色を基調とし、やや濃いめの水色3条の帯を配し、車体後部で上向きに上がる意匠。
(かつての都営バスで採用されていた、ナックルカラーのような上がり方である)
車体の基調色がクリーム色から、白色に変更となり、近年では帯のデザインも変化した。
関東地方整備局
(群馬県、栃木県、茨城県、埼玉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県)
車体上部は、ラベンダー色に近い、白味の強い紫色、中央部にエメラルドグリーンやミントグリーンのような線が一条入る。
なお、照明車には、中央線が黄色のものもあった。
一方、衛星通信車や待機支援車は、意匠が大きく異なり、白を基調とし、上記の色のピンストライプ模様が入ったものとなっている。
北陸地方整備局
○管轄:北陸地方一円および福島県・福井県・岐阜県・長野県の一部。
このブロックは、北陸地方整備局が管轄する、新潟県、富山県、石川県を中心に、佐渡島や能登半島を描いたような形となっている。
中部地方整備局
○管轄:中部地方南部。ただし山梨県は関東地整の管轄。
白色を基調とした車体に、浅葱色と水色のブロック状の模様が入る。このブロック模様は、中部の"中"や、英語にした場合(Central, Chubu)の"C"を図案化したような形である。
衛星通信車は、青緑色、朱色味がかった赤色、青色の三色からなる帯を配し、車両後部は、地震の波形のような、波打つ模様となっている。
このうち、沼津河川国道事務所の車両には『沼津号』の愛称がついている。
近畿地方整備局
○管轄:近畿地方一円。
白色を基調とした車体に、緑色と水色の帯が入る。近年では、帯のデザインが少し変更された。
衛星通信車は、ランドクルーザーをベースとした車両は、同様の意匠だが、三菱ふそうファイターをベースとした車両は、ラベンダー色の太い帯と赤色の線を配した意匠である。
中国地方整備局
○管轄:中国地方一円。
排水ポンプ車などは白色を基調とした車体、下半分が[黄緑色]]と水色に塗られる。
衛星通信車は、車体下半分がグレーに塗られ、山吹色、水色、青色、深緑色の四色を楕円状に組み合わせたものが上半分に描かれる。
四国地方整備局
○管轄:中国地方一円。
照明車はこの塗装のほか、山吹色、濃い青色、レモン色を配したものもある。
衛星通信車は、車体下半分が濃い青色、朱色の線を一条、配したものである。
九州地方整備局
○管轄:九州地方一円および、山口県下関市。沖縄県は内閣府沖縄総合事務局の所管。
(福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、熊本県、宮崎県、鹿児島県)
車両は、下半分を藍色・ラベンダー色2色で塗り分け、上半分が白色。車体後部に水色のピンストライプ模様が入る。
そして何よりの特徴となるのが、ラベンダー色とエメラルドグリーンを九州の"九"の字状に組み合わせていることである。
内閣府沖縄総合事務局
○管轄:沖縄県。沖縄県だけは、国交省ではなく、内閣府の所管となるが、TEC-FORCEを構成し、災害対策に従事する一員である。
車両は、白色を基調とし、内閣府カラーと同一の青色と緑色の帯を配したものとなっている。
主な災害対策用機械
地方整備局毎に差異は見られるが、およそ、次のような構成であることが多い。
名称 | 使用する班 |
---|---|
災害対策用ヘリコプター | 先遣班 |
衛星通信車 | 情報通信班 |
Ku-SAT | 情報通信班 |
待機支援車 | 応急対策班 |
対策本部車 | 応急対策班 |
排水ポンプ車 | 応急対策班 |
照明車 | 応急対策班 |
災害対策用ヘリコプター
概況
九州地方整備局『はるかぜ』(2代目)
主に先遣班が用いる、国土交通省が保有する『防災ヘリ』の一種。東日本大震災時の『みちのく』(東北地整)の活躍は先述の通り。
災対ヘリは空路から向かうため、たとえば土砂崩れや土石流、道路崩壊、山体崩壊などにより、地上から部隊が陸路で向かうことができない場合に機動力を活かし、現場に急行することが可能である。特に、地震や洪水、火山噴火などの災害に対し、上空から早急に被害状況の調査を行い、被害状況の早期把握が任務のひとつである。
このほか、山間部の被害状況確認など、人が踏査して情報を収集することが困難である場合、上空から状況を撮影し、本部へと伝送することができる。
また、TEC-FORCEの隊員以外にも物資が搬送可能であるほか、平時においては、とりわけ災害が発生した場合、甚大な被害が出ることが予測される地点を上空から踏査し、防災計画の策定に役立てることもある。
【災対ヘリ配備状況】
配備先 | 機体名 | 機種 | 委託先 |
---|---|---|---|
北海道開発局 | ほっかい | ベル412EP | 朝日航洋 |
東北地整 | みちのく | AS332 | 東邦航空 |
関東地整 | あおぞら | AW139 | 朝日航洋 |
北陸地整 | ほくりく | ベル412EP | 中日本航空 |
中部地整 | まんなか | ベル412EP | 中日本航空 |
近畿地整 | きんき | AW139 | 中日本航空 |
中国地整 | おりづる | AW189 | 中日本航空 |
四国地整 | 愛らんど | ベル412EP | 四国航空 |
九州地整 | はるかぜ | AW139 | 西日本空輸 |
沖縄総事局 | (愛称なし) | AS350 | 中日本航空 |
性能
機体のクルーとして『操縦士・整備士・撮影技師』の3名が必須となり、この3名にプラスする形でTEC隊員が同乗する形となる。
ベル412EP型やAW139・189型の場合、搭乗人員は最大11名(TEC隊員8名)である。吊下重量はおよそ800kgほど。
搭乗人員や、吊下重量にもよるが、航続距離は最大500km前後、航続時間は最大3時間前後となる。
(このため、東日本大震災にて、各地から飛び立った災対ヘリは、一旦東京の本省に向かい、補給をしたのち、再び東北へ向かった)
一方、東北地整『みちのく』には、海上保安庁や警視庁『おおぞら』、陸上自衛隊特別輸送ヘリコプター隊などが運用している、大型ヘリAS332『通称:スーパーピューマ』が採用されている。
搭乗人員は最大20名(TEC隊員17名)と、国内最大級の性能を誇る。吊下重量はおよそ3,800kgとなっている。
(参考値として、千葉県警に配備されていた同型機『かとり』は、トヨタ・マークⅡ警らパトロールカーを吊下して空輸したことがある)
搭乗人員や重量により変動するが、航続距離は最大900km前後、航続時間は最大3時間30分程度となる。
(東日本大震災では、緊急離陸をし、各地の被害状況を伝送したのち、福島空港に着陸することとなった)
撮影機器・通信設備
機体には、機外スピーカーやサーチライト、積み荷フックなどのほか撮影機器が装備されている。
主として下記のものが挙げられる。
- 衛星通信設備映像撮影装置(最大ズーム48倍)
- 赤外線熱画像撮影装置
- 垂直写真撮影装置
- 可視カメラ
通信機器としては、
- 画像伝送システム
- FAX(1局)
- 準動画設備(1局)
- CS放送機器(1局)
- マイクロ電話(4局)
- VHF無線機(1局)
などが装備される。
通常、ヘリコプターからのヘリテレ映像は、地上の固定(受信)基地局に地上波(マイクロ回線)で送られるが、山間部や固定基地局が被害を受けて伝送困難な場合、別の受信基地局(可搬型『Ku-SAT』・衛星通信車)を介して衛星回線による伝送も可能となっている。
空中線(アンテナ)も、指向性・無指向性両方が装備されている。通常は、基地局を自動で探索し指向性アンテナが活躍するが、仮に基地局が発見できなかった場合、無指向性アンテナより映像を伝送する形である。
その他
沖縄総合事務局の機体は、内閣府所管のため、国交者の災対ヘリと装備面が大きく異なるほか、塗装も白を基調とし、内閣府ロゴが描かれただけのシンプルなものとなっている。
一方、国交省所管の災対ヘリは、白色を基調とし、赤色と青色の三色塗り分けがなされている。
中国地方整備局『おりづる』は、令和4年(2022年)に新たに配備された新鋭機である。これまで中国地整では、四国地整と共同でヘリコプターを運用する形であったが、近年、多発する災害への備えとして、新たに増強された。
九州地方整備局の『はるかぜ』は、配備当初はベル412EP型が用いられていた。
衛星通信車・Ku-SAT
『【迅速】災害現場の情報をより速く、より多く送信する!「衛星通信車」紹介PV』
どちらも、情報通信班が用いる通信機器である。人工衛星を介し、被災地の状況(映像や写真など)を国交省本省や各地の地方整備局、災害対策本部などへ伝送する。
Ku-SATは、正式には『衛星小型画像伝送装置』と呼ばれる。衛星通信車が入ることのできない場合、TEC隊員が担いで運ぶことができるよう、分割式になっている。
衛星通信車は主に3タイプあり、下記のような構成となっている。
配備年度としては、上の4WD型車からはじまり、近年ではワンボックス型車に更新される流れになっている。トラック型は高床4WD車、ワンボックス型車でも4WD車が採用されている。
北海道開発局では、走破性能を重視しハマーを用いていたこともあった。
比較的整備が行き届いている車両は、経年が経ってもなお、衛星通信車未配備の事務所へと回されることもある。
(通信機器はともかく、車体は20年、25年程度使い倒すこともザラ。通信機器は載せ替える(更新される)ため、減価償却期間が伸びるという理由もあったりする。そのため、外観や年式の割に、中身はハイテクということもありがちだ)
旧式のトラック型車両では、衛星通信機器のほか、ファクシミリ装置、NTT回線接続型の固定電話装置や大型発動発電機、さらに収納スペースや高感度カメラなど、ありとあらゆるものが備えられているが、近年ではファクシミリ装置を省き、車体を小型化し、狭隘地での活動を考慮した形となっている。
なお、光ファイバーやWi-Fi機器も積んでいるため、高速データ通信にも対応していたりする。
(被災地でも高速通信ができるとは限らないが、衛星通信車には、電話会社の委託職員が乗り込むこともある)
通信機器としては、主に下記の構成である。
- アンテナ装置:オフセットパラボラ型、衛星自動補足機能付(1基)
- ファクシミリ装置(1局)
- 固定電話機(1基)
- 送受信装置:送信・14GHz帯、受信・12GHz帯
- 端局装置:IPデータ伝送方式。回線速度は32〜2,048kbps(ビット毎秒)
- IP画像符号・復号化装置:H.264方式。NTSC入力。回線速度は128〜2,048kbps(ビット毎秒)
- 車載型衛星携帯電話(1基)
周辺機器類は次のようなものが搭載されている。
- 高感度カメラ:夜間撮影可能。最低被写体照度・0.001ルクス。最大・光学16倍ズーム可能。(1基)
- 電源装置:単相100V・17KVA発電機(1基)
- 燃料満タンでおよそ60時間程度は運用可能。オイルは累計運転200時間、連続運転1週間程度での交換が推奨される。
- 映像記録装置:ブルーレイレコーダー(1基)
- 高感度カメラにて撮影した映像を記録(録画)する。設定により音声を付けることも可能。操作釦の『入力ソース』から設定する必要がある。カメラにマイクがないため、デフォルトでは無音声。
- 記録媒体:DVDディスク(十数枚)
待機支援車・対策本部車
『はたらく車・とくしゅな機械シリーズ 第8弾 対策本部車』
主に応急対策班が用い、TEC活動の前線基地となるほか、被災した自治体の機能を移し、臨時の『災害対策本部』ともなる車両である。
待機支援車
待機支援車は、災害現場での待機支援をする車両である。車内には横向きのベンチシートが向かい合わせに配置されており、手作業の組み立てにより2段式の寝台へと変化する。これにより、TEC隊員が現地で休息をとることが可能となった。
(座面の部分が下段寝台、背ズリの部分が上段寝台となる。座席はビニールレザー製で、汚損や水濡に強い)
マイクロバス型車両の車内にはカーテン区切りの乾燥室が設けられており、水に濡れた防災服を乾かすことも可能である。給湯器やコンロ、シンク、車載トイレも設けられている。
かつてはトヨタ・コースターや日産・シビリアンなどのマイクロバスが主流であったが、発電機の小型化により、トヨタ・ハイエース(ハイルーフ仕様)などが使われるようになった。
関東地整・東京国道事務所にはトラックをベースとした車両が配備されているほか、九州地整・大分河川国道事務所には、キャンピングカーをベースとした車両も配備されている。
(宮崎河川国道事務所から配置換えされた)
なお、同型車両を、熊本県警では『移動交番車』としても導入している。
対策本部車
対策本部車は、拡幅車体を有するトラック型の車両である。通常のトラック同様、車体を格納した状態で現地に向かい、現着後は10分ないし20分程度で車体を油圧ないし電動により拡幅させることが可能となっている。
スペースとしては、およそ10m×10mを要する。車内には空調設備や造水設備を備えるほか、トイレやテレビ装置、衛星通信機器(NTT-docomo)を搭載している。
後年になり、消防の『支援車I型』や『拠点機能形成車』、警察・機動隊の『災害活動用拠点車』として同様の車両が導入されるようになった。
両車とも、情報収集車や調査車(後述)などから、衛星通信車を介して伝送される現地の情報を集約し、災害対策のいわば『司令塔』的な立場を担う車両である。
- 『待機支援車』:小型で休息機能を重視したもの
- 『対策本部車』:大型で指揮機能を重視したもの
上記のような分類であるが、内部では、どちらもほぼ同じような形で運用されている。
排水ポンプ車
『【速効】浸水箇所へ出張排水します!「排水ポンプ車」紹介PV』
排水ポンプ車は、大雨や集中豪雨、近年頻発するゲリラ豪雨によって発生した洪水や河川の氾濫・内水被害など、水害現場で活動する車両である。ポンプを複数台搭載しており、陸地に溜まった水を排水ポンプで汲み上げ、大口径ホースで河川や海へと排水する。
かつては、150㎥(毎分)の車両が用いられていたが、ポンプが大型であることもあって、現在は60㎥ないし30㎥(毎分)程度の車両が主流となっている。
排水ポンプの重量は、およそ37kgで、少人数でも持ち運びが可能。フロートを取り付け、浸水害を受けた箇所に放り込み、排水を行なう形である。
『排水ポンプ車の設営方法』
60㎥排水可能な排水ポンプ車は、一般的な25メートルプール(450㎥として換算)を7分半で排水可能である。積載された排水ポンプは6台。
30㎥排水可能な排水ポンプ車は、25メートルプールを15分程度で排水可能である。積載された排水ポンプは4台である。
(なお、150㎥級排水ポンプ車では、2分半程度で排水可能である)
排水ホースの口径は200mm。排水ポンプ車1台あたり、およそ200メートル分のホースが積載されている。
近年、豪雨災害が多発することから、国交省の排水ポンプ車とほぼ同型の車両を導入する自治体も存在する。また、北海道では、北海道開発局の排水ポンプ車を更新する際、道内の自治体へ払い下げることもみられた。
農林水産省でも、各地の農政局で災害用応急ポンプの貸し出しを行なっているが、国交省の排水ポンプ車とほぼ同型の車両が配備されている。
『【防災・減災】排水ポンプ車の活用について』
照明車
『【照らせ!】夜間も明るく災害復旧を手助け!「照明車」紹介PV』
照明車はその名の通り、夜間の災害現場で活動する車両である。
- 伸縮ポール式
- 屈折ブーム式
この2種類が配備される。
伸縮ポール式
伸縮ポール式はいすゞエルフなどの小型トラックをベースにした車両となっている。後述する屈折ブーム式と異なり、照明塔が上下(垂直)に伸縮する形であるため、車両長(ホイールベース)を短くすることが可能である。
(ただし、最大高は低くなる)
伸縮ポール式照明車には、伸縮ポールが1本ないし2本の車両があるが、どちらも照明灯は6灯となっている。
(1本式の場合6灯、2本式の場合3灯×2本)
照明塔は10メートルまで伸ばすことができ、360度回転可能である。
屈折ブーム式
屈折ブーム式は、4WD高床トラックをベースとした車両が主流である。照明塔を屈折し、横倒しにした状態で移動する。屈折ブーム式の場合、照明塔の照明灯部分に高感度3CCDカメラ(最大、17倍ズーム可能)を装備しているため、夜間でも状況を確認することが可能となる。
照明塔は-3.8メートルから20.3メートルまで伸ばすことができ、360度回転可能である。照射角度は上向き10度〜下向き140度。
また、変わったところでは、中部地整・高山国道事務所に配備されている屈折ブーム式照明車は、トミカにて製品化され、発売されている。なお、この照明車は令和4年現在、まもなく引退する予定とのことである。
共通の性能等
照明車には、赤色警光灯およびサイレンが装備された緊急車両であるため、緊急走行することができる。
照明は1灯あたり、20万ルーメンの光束を持ち、最大120万ルーメンの照度となり、600メートル先でも50ルクス(一般家庭の浴室や玄関程度の明るさ)の照度で照射することができる。
照明灯はかつて、メタルハライドランプが主流であったが、近年ではLEDランプも使われつつある。
燃料満タンで6灯全てを点灯した場合、連続27時間運転することが可能となっている。
Car-SAT(調査車)・情報収集車・多目的支援車
『【爆走】走りながら映像を配信できる!「Car-SAT」紹介PV』
Car-SAT(調査車)
正式には『移動型衛星通信設備』といい、車載型の衛星通信機器により、道路を走りながら被災状況を撮影し、同時に伝送するシステムである。
車体上部に平面アンテナを搭載し、衛星を介し、映像を伝送する。
前方・後方にカメラを接続し、走りながら映像を撮影することができる。映像のほか、音声も同時に伝送できるようスピーカ・マイクも運転席・助手席に備えている。
衛星通信車やKu-SATと異なり、現地においての組み立て作業などを必要とせず、走りながら、現地へ向かいながら撮影した映像を本部に伝送できるのが特徴である。
踏破性を重視しており、車両はトヨタランドクルーザーやRAV4などのSUV車がベースとなっている。
情報収集車(九州地整)
情報収集車は、九州地方整備局にて導入された車両である。
その名の通り、災害時の情報収集を目的とした車両で、車体には4.2メートルまで伸縮可能な高感度3CCDカメラ(最大17倍ズーム可能)を備えている。
特筆されるのは、高い走破性である。ベースとなっているのは、トヨタメガクルーザー。陸上自衛隊が高機動車として採用した自動車の民生版である。
4WDはもとより、4WS(後輪もステアリング可能)、空気圧可変機能も備えている。車載通信機器としてはK- COSMOS、衛星携帯電話機を搭載している。
登坂能力47度、渡河は水深80センチまで、くぼみ幅85センチ、段差50センチまでなら走破することが可能である。
情報収集車(北海道開発局)
北海道開発局では、災害対策用ヘリ『ほっかい』からのヘリテレ映像を受信するための基地局を搬送する車両を『情報収集車』と呼称している。
災害対策用ヘリコプターにて撮影された映像は、機体の空中線(アンテナ)から電波として発射されるが、これを受信するためには固定・移動基地局が必要となる。広大な北海道においては、固定基地局から遠く離れ、圏外や不感地帯となることも考えられる。
そのような場合、移動基地局となるのが、この『情報収集車』である。北海道開発局管内に3台が配置され、威力を発揮している。
多目的支援車
多目的支援車は、北海道開発局に配備されている災害対策用機械である。救助工作車などを数多く手がける帝国繊維『テイセン』が艤装を手がけている。
車体は、日野デュトロをベースにゴム製クローラを備えた、雪上車のような外観となっている。このため、積雪状態の路面や沼地、多少の浸水被害を受けた箇所でも走破することが可能である。特に、履帯(クローラ)がゴム製であるため、路面を傷つける心配がないのが特長となっている。
舗装道路での最高速度は40km/h、最大渡河水深は40センチ。定員は10名、最小回転半径は4.0メートル。
旧型車両は、九州地整の『情報収集車』とほぼ同様の車両であったが、メガクルーザーではなく、本家本元のハマーが用いられていた。
また、近年では、新たに水陸両用の米国・Hydratrek社の車両が『多目的支援車』として導入されている。Hydratrek社の車両は、日本ではトーハツ(消防ポンプや消防車艤装メーカー)が輸入代理店となり、総務省消防庁が無償貸与を進めている『中型水陸両用車』のベースともなっている。
水陸両用車
- アンフィレンジャー2800SR
- ヘグランドBV.206
- HydratrekD2488(先述)
これら3種類が導入されている。
アンフィレンジャー2800SR
東北地整や九州地整で導入・運用されていた、水陸両用車である。クローラ式の他の2種類と異なり、タイヤ式であることから、機動力を持って現地へ展開することが可能であった。
国土交通省のほか、警視庁第9機動隊や市川市消防局、東京電力が水力発電用ダムの管理用車両として同型車両を導入していた。
ヘグランドBV.206
関東地整・利根川上流国道事務所や、近畿地整・福井河川国道事務所、北海道開発局などで導入されたのが、このヘグランドBV.206である。
ヘグランドBV.206はスウェーデン陸軍向けに開発され、こちらもカタピラはゴム製。世界37カ国において運用され、国交省でも旧・建設省時代に導入された。
車体は軽量で水に浮き、浸水地域での活動が可能なほか、雪上走行も難なくこなす。水上では2.5ノット(4.7km/h)での航行が可能である。
令和3年(2021年)には、総務省消防庁が同型車両を『大型水陸両用車』として大阪市消防局に無償貸与している。愛称は『レッドヒッポ』と命名された。
(余談だが、岡崎市消防局の『レッドサラマンダー』と違って知名度が低かったりする…)
また、先述のアンフィレンジャー2800SR同様、東京電力が、水力発電用ダムの管理用車両としても導入したこともあった。
元々が、北欧の雪国・瑞典陸軍向けの車両として開発されたため、接地圧を低くし、柔らかくフカフカの新雪でも沈まないような車体やカタピラとなっており、雪上車としても使えるような性能を誇る。
航空自衛隊でも佐渡分屯基地で『大型雪上輸送車』として長年、運用されていた。
UAV・小型無人ヘリコプター
いずれも、人が近づくことができない場合などに用いる、情報収集用の機械である。
被災状況を上空から調査したり、あるいは人が近付くことが危険な場合などに用いるのが、この無人航空機UAV、つまりドローンである。
元々は、北海道開発局にて、農薬散布用ヘリコプターを改造した『小型無人ヘリコプター』として運用されていたのがきっかけである。この小型無人ヘリコプターは、高規格救急車(三菱ふそう・ディアメディック)を改造した、専用の移動操作車に載せて移動し、移動基地局を用いることで、最大5km程度まで離れて操縦することが可能で、高度は150メートルまで上昇可能であった。
現在では、ドローンへと小型化され、遠隔操縦は制限されるものの、人の手によって運ぶことができるなど、機動力が飛躍的に向上したのはいうまでもない。
各種重機・土のう造成機
各種重機
国土交通省TEC-FORCEでは、基本的に重機を配備せず、各地方ごとの建設業者が、それぞれ持ち前の重機を用いることが主である。一方、TEC-FORCE創設の目的のひとつにあった、災害対応の高度化という観点から、各種重機の改良などにも取り組んでいる。
簡易遠隔操縦装置(ロボQS)
この装置は、ワンボックスカーでも搬送可能な、小型の遠隔操縦装置であり、バックホウ用とブルドーザー用の2種類が存在。土石流や地すべりの現場など、人が近付いて作業するのが危険な場合に活躍する。
ロボQSでは、運転台のハンドルに機器を取り付け、機械的に操作する必要があったが、近年では電気的に信号を送ることで操作することが可能となり、装置が小型化されている。
分解組立型バックホウ(遠隔操縦式)
遠隔操縦も可能であるほか、バックホウ(ショベルカー)を12のブロックに分割し、現地にて組み立てることが可能となっている。現場が山間部や狭隘地である場合、現場まで重機を搬送することが困難であることも予想される。
この分解組立型バックホウのパーツは、災対ヘリでも搬送可能なため、狭隘な場面でも活動が可能である。
土のう造成機
とりわけ、水防工法や、法面の応急復旧などの際、大量に必要となる土のう。近年では、土のうに代わる工法も開発され、導入されつつあるが費用面などから、依然、多くの現場で土のうが用いられている。
土のうを作成する場合、袋を広げ、土砂を20kg程度詰める単純作業の繰り返しであるが、相当の労力と時間を要する。
この作業の簡略化を狙って開発されたのが『土のう造成機』であった。
土のう造成機は10秒で1袋、1時間に最大360袋の土のうを造成することができる。土のうの重量はひと袋あたり、15kgないし25kgの間で調整することができる。大型土のう造成機では、土砂をショベルカーで投入し、小型土のう造成機では、スコップでも投入が可能となる。
大型・小型とも、設営まで30分程度、人員は3人程度を要する。
その他の災害対策用機械
除雪車・凍結防止剤散布車
国土交通省では、除雪車など冬季の道路維持にあたる車両を『除雪機械』と総称している。冬季には、各地整に『雪害対策本部』を設け、国道事務所や維持出張所、除雪基地などを拠点とし道路の除雪活動にあたる。
一方、大寒波が襲来した場合には、豪雪となることも多く、自治体からの要請により緊急災害対策派遣隊"TEC-FORCE"として各種除雪機械が出動することもある。
除雪車
- 除雪トラック
- 除雪グレーダ
- 除雪ドーザ
- ロータリー除雪車
- 歩道除雪車
除雪車は、おもにこの5種類に分けられる。
【除雪トラック】
『初期除雪』の段階に出動する。降雪が始まって間もなく、路面上に積もった雪が交通障害になる前に、路側又は路外に除雪する。外観は、通常のトラックにスノープラウを取り付けたものである。また、凍結防止剤散布車や標識車などにスノープラウを取り付け、除雪トラックとすることもある。
【除雪グレーダ】
『圧雪除雪』の段階に出動する。降雪から時間が経つと、雪は路面上の踏み固められる。こうなると、通行車両(特にタイヤ部分)によって凸凹(わだちぼれ)が生じやすい。また、陽が登ることで溶解した積雪が、夜間になると凍結し、スケートリンク状の薄い氷床(ブラックアイスバーン)を構成することもある。
こうして出来上がる圧雪や、氷雪を取り除くために用いるのが『除雪グレーダ』である。車両はモーターグレーダーを改造したものである。
【除雪ドーザ】
『拡幅除雪』の段階に出動する。除雪を繰り返すことにより、路側に寄せられた雪で車道の幅が狭くなる。こうして寄せられた雪を排除し、交通の流れを円滑なものとしたり、ダンプカーに積み込んだりする際に用いられる。車両はホイールローダーを改造したものである。
【ロータリー除雪車】
『拡幅除雪』や最終段階に出動する。除雪を繰り返すことで雪の壁が出来上がることは前述のとおり。場合によると、雪壁は数メートルもの高さにのぼり、道幅が狭くなるのみならず、崩落の危険性も高まる。また、一度に大量の降雪があり、通常の除雪車での除雪が困難な場合もある。
こうした時に出動するのが『ロータリー除雪車』である。車体前方にはかき寄せ翼を装備しており、かき込んだ雪をかき寄せ翼の遠心力により遠方へと飛ばす仕組みである。
【歩道除雪車】
『歩道除雪』に出動する、小型の除雪ドーザである。また、事務所によっては小型の除雪機を用いる例もある。
凍結防止剤散布車
凍結防止剤散布車は、降雪や路面の凍結が予想される場合に出動し、凍結防止剤(塩化ナトリウム、塩化カルシウム)を散布して、凍結を防止する。
橋梁点検車・応急組立橋
橋梁点検車
地震や台風などの後、各地に設けられた橋梁の橋桁や橋脚部分が損傷を受ける可能性もある。熊本地震の後、九州道や大分道の各所では、高架橋に損傷が見受けられた。
このような場合、橋梁の点検を行うのが、この『橋梁点検車』である。走りながら点検ができるよう、アウトリガーにはコロが取り付けられている。大きく『バケット式』と『歩廊式』の2種類に分けることができる。
バケット式の場合、操作員は数名しか乗り込めず、歩きながらの点検はできない一方、小回りが利き、作業の自由性が高いことが利点としてあげられる。
歩廊式の場合、ブームが大型となり、小回りが利きにくく、作業の自由度は低くなるが、歩きながら点検することが可能なため、バケット式と比べこまめに操作しなくて良いという利点がある。
応急組立橋
橋梁点検車によって、各地の橋梁が点検される一方、落橋や損傷などが起こり、橋梁が通行不能となる例も多い。このような場合、被災した橋梁に代わるのが『応急組立橋』である。
応急組立橋を架設する場合、作業スペースの確保もさることながら、既存の橋台・橋脚、現地の地盤が重量に耐え得る強度を有しているか、ボーリング調査等による確認が絶対条件となる。
地盤が軟弱である場合、橋もろとも崩落し、二次災害を引き起こす可能性が高いため、この点は特に留意しなくてはならない。
仮に橋台・橋脚および地盤が軟弱であった場合、コンクリート製ないし鋼製の基礎を仮設する必要がある。
【応急組立橋の特長】
橋長は、最低18メートルから4メートルピッチで最長50メートルまで伸ばすことができる。各部材に互換性を持たせているため、組立・解体が容易であるほか、長さも柔軟に変更できるのもこのためである。
部材もすべて、軽量化・小型化しているため、10tトラックで現地まで搬送することが可能となっている。
(無論、現地まで、10トントラック及び25トンクレーンが入れる経路を確保する必要もある)
組立から設置まで、最大、5日程度の日数を要する。なお、近年では、1日程度で架橋可能な『緊急仮設橋』も配備されている。
気球空撮装置
先述したUAV(ドローン)や小型無人ヘリコプターが登場する以前。
平成10年前後に開発されたのが『気球空撮装置』である。一般的な気球の方式としてよくみられる熱気球と異なり、ヘリウムで膨らませて使用された。
また、形状もバルーン型のそれと異なり、飛行船そっくりな形状であった。気球底部にはCCDカメラが設けられ、地上からは光ファイバーケーブルで操作可能。見た目からするとアドバルーンに近しい運用方法だった。
(それもそのはず。無人であるため、係留しておかなければ風に乗って流されてしまいかねない)
表面は山吹色、尾翼は赤色の生地が使われており、どことなくパトレイバー2に登場した飛行船を彷彿とさせる外観である。
気球であるため、折り畳むことが可能で、尾翼も現地にて組み立てることによって取り付けられていた。サイズとしてはワンボックス車に積み込まれる程度で移動にも容易いのが特徴であった。
また、組み立て10分、ガス充填15分、浮揚時間15分と、活動開始まで40分程度を要した。
ちなみに、余談であるが、かつて警視庁航空隊も、飛行船『はるかぜ』を配備していたことがあった。大型ヘリコプター(警視庁では『おおぞら』と命名)に比べ、滞空時間や搭載人員のアドバンテージがあることから、大規模警備や災害警備時の上空警戒・臨時指揮用としての導入だった。
この飛行船型『気球空撮装置』も、一度、浮揚させてしまえば、他のUAV(ドローン)や小型無人ヘリコプターと比較し、滞空時間が長いことを期待されての導入であったとされる。
また、最大高度は250メートルまで浮揚可能と、高度面でも小型無人ヘリコプターより優れていた。
路面清掃車・散水車・トンネル清掃車・ガードレール清掃車
路面清掃車
路面清掃車は別名『ロードスイーパー』とも呼ばれる車両である。かき寄せブラシで路上の砂やガラス片、落ち葉等をかき集め、一旦ホッパに集めたのち、梯団を組むダンプカーに積載することで道路清掃を行なう。
九州地整・鹿児島国道事務所には路面清掃車が複数台配置され、桜島の降灰対策にあたっている。
散水車
水を運ぶタンクローリーの一種である。水道局の給水車と似たような形───といってもわかりやすいかもしれない。散水車の車体、前部・後部のバンパーにはスプリンクラーのノズルが取り付けられており、走行しながら散水することが可能であるほか、一部の車両にはタンク上部に放水銃が装備されている。
トンネル清掃車
その名の通り、トンネルの壁面を清掃する車両である。多種多様なアタッチメントを装着可能なうえ、低速ギア段数が多いことから、メルセデス・ベンツ製ウニモグが用いられることも多い。
外見的な特徴として、トンネル壁面清掃用の、巨大ブラシが縦型に設置されていることが挙げられる。
ガードレール清掃車
道路に設置されるガードレールの清掃を行なう車両である。トンネルにせよ、ガードレールにせよ、タイヤ片や排気ガスの煤がこびりつき、あっという間に黒ずんでしまう。こうした場合、損傷が早まったり、取り付けられた視線誘導標や反射板の効果が低下したりすることがある。
これを防ぐため、定期的に清掃が行なわれる。
オマケ・標識清掃車
かつて、建設省時代に開発されたのが、標識清掃車である。ハイリフト車(高所作業車)の作業台(デッキ)に大型の回転ブラシを取り付け、オーバーハング型標識の清掃を行なう車両であった。
ブラシは地上からリモコン操作可能と、登場当時(昭和50年代)では画期的な仕様であったが、特殊用途ゆえ、1台しか配備されず、すでに引退している。
【清掃車・TEC-FORCEでの活動】
水害により、氾濫や越流が起こったり、堤防が決壊したり、水門が破損したりすると、決壊箇所から河川の濁流が陸地へと流れ込むこととなる。(これを『外水氾濫』という)
また、大雨が継続し、氾濫にまでは至らずとも、河川の水位が上昇した場合、逆流を防ぐために水門を閉鎖することがある。これにより、流れ込む中小河川や下水道・雨水排水が行き場を失い、氾濫することがある。
(これを『内水氾濫』という)
こうして被災自治体からTEC-FORCEへと出動が要請されると、排水ポンプ車を筆頭とする各種災害対策用機械が出動するが、その梯団の中に清掃車が加わることもしばしばある。
というのも…流れ込む水は、ただの流水ではなく泥や土砂、ゴミ、さらには逆流した下水などが混じるため、相当の異臭を放つうえ、大量の雑菌が潜んでいる。
(当然、飲用には適さないどころか、健康被害の危険性も極めて高い)
このため、道路上に堆積した汚泥を早急に排除する必要がある。こうした場合に出動するのが路面清掃車や散水車である。強力なブラシにより、乾燥・固着した汚泥を削ぎ取るほか、高圧放水により吹き飛ばすことも可能である。
また、トンネル清掃車やガードレール清掃車は、横向きに放水できる利点を活かし、コンクリート擁壁や土手、ガードレールなどに付着した汚泥を除去する役目を担う。
流出油回収車
油脂が河川や湖、海などに流出した場合、回収するために出動する車両である。関東地整・関東技術事務所にたった1台だけ配備されていた、ある種『幻の車両』ともいえる。
(現役時代は、同所に所在する『建設技術展示館』の隅で、来場者を出迎えていた)
三菱ふそうキャンターをベースに、ユニッククレーンと流出油回収装置を装備。外観はシルバーを基調とし、赤橙黄緑青藍紫の虹模様が描かれていた。
車体後部の流出油回収装置には四つの区分けされた水槽が設けられており、流出した油脂を、車載ポンプで水ごと汲み上げ、水槽内で油脂と水とに分解していた。この分解は、グリース・トラップと同じような方式であった。回収した油脂はドラム缶へ、分解された水はホースを介し、再び河川へと戻される仕組みである。
(平成21年3月 東北地方整備局 東北技術事務所)
流出油回収車について、触れられたこの資料には、以下のような記述がみられる。
関東技術事務所で開発した流出油回収車は、ポンプにより吸引した油水を車内の処理装置で分離し、油を回収するものである。車には、機動性や作業性を考慮したクレーン付3t級4輪駆動車を用いており、500Lの流出油に対して回収時間30分、 分離時間30分程度で95%以上の回収率が得られるのが特徴である。
現在では、油脂が流出した場合、オイルフェンスやオイルマットで吸着する方式が主流となったため、新たに配備はされていない。
降雨体験車・自然災害体験車
降雨体験車
トラック型で、車内に人工的に雨を降らせることにより、擬似的に降雨を体験することができる車両。
なお、NHKプロジェクトXのスタジオに持ち込まれたこともある。鷹揚とした声や柔和な表情が特徴の、国井雅比古アナウンサーがレインコートに長靴という完全防備で乗り込んだが、あまりの威力に気圧され、息を呑む一幕もあった。
(平成13年・2001年9月18日放送 絶体絶命 650人決死の脱出劇〜土石流と闘った8時間〜)
自然災害体験車
同じくトラック型で、車内では土石流の様子を3Dで体験することができる車両。定員14名で、映画館のような作りとなっている。
近年では『降雨体験装置』へと小型化され、各地の防災訓練などに出向き、防災訓練や水防訓練などに出向き、来場者に水害の怖さや、防災への意識を持ってもらうことにひと役買っている。
関連イラスト
参考文献・資料
東日本大震災における 地方整備局の復旧活動についての 物語描写研究 〜TEC-FORCEの役割〜
「東日本大震災における「くしの歯作戦」についての物語描写研究
東日本大震災」の対応について 〜初動対応〜復旧・復興に向けて〜
東日本大震災の対応(1) 〜東北地方整備局の初動対応から復興〜
被災市町村への広範な資機材等の緊急支援 -地方整備局災害対策本部による臨機の対応
TEC-FORCE前進基地の役割と今後の課題〜「平成30年7月豪雨」の経験から〜
国土交通省の災害初動対応について 〜TEC-FORCEの取り組み〜
阪神・淡路大震災の教訓を踏まえた自衛隊の災害派遣に係る各種の措置について
国土交通省緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)の 発足と岩手・宮城内陸地震への対応
「建設業界は自衛隊に学べ」、くしの歯作戦指揮官の自戒と苦言(日経クロステック)
命懸け空撮 支えたヘリ操縦士が… 飛行歴39年の北川一郎さん(産經新聞社)
(プレジデントオンライン)
(日本工業経済新聞社)
『連合赤軍「あさま山荘」事件』
『わが上司後藤田正晴 決断するペシミスト』佐々淳行著
『前へ! 東日本大震災と戦った無名戦士たちの記録』
『情報、官邸に達せず』麻生幾著
『防災白書』内閣府刊
関連動画
自治体職員向け紹介動画「国土交通省TEC-FORCEの支援内容」